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映画『高慢と偏見とゾンビ』GAGA公式サイトより

意外と優しい!? 織田信長さん

イギリス 書籍・映画

荒唐無稽すぎる!けど面白い!映画『高慢と偏見とゾンビ』は意外と勉強になる?

更新日:

19世紀、イギリス——結婚が淑女最大の関心事であった時代。
素直になれない男と女が出会い、そしてすれ違う。
緑と光あふれる風景、ドレスの裾をひるがえして優雅に踊る紳士淑女。

その秩序を破壊するのは、次から次へとあふれ出すゾンビだった――って、おいぃいいいいいいい!

 

世の中には混ぜたらいけないものがあります。
なぜ混ぜるのか? ほとほと理解できないものもあります。
2009年、英米の読書家たちを「どうしてそうなった!」と困惑させた作品『高慢と偏見とゾンビ』も、まさにこの不可解な混在作品でしょう。

上等な料理のような作品にハチミツどころか腐肉と鮮血と脳漿をブチまけた、比喩でもなく本当に原作の合間にゾンビ襲来を挟んだだけの本作は(なので原作者表記もオースティンとグレアム=スミス併記)、世間から完全無視で黙殺――されるどころか、むしろ予想外の大ヒット。奇妙な社会現象をも巻き起こしました。
女優のナタリー・ポートマンもこの作品にハマった一人です。

映画化まで長い年月と紆余曲折がありましたが公開され、そして2017年4月4日ソフトがリリースされました。
18世紀イギリスにゾンビを突然ブチこんだ怪作に、歴史的背景を考察してみるなんて、そんな「野暮なことはやめなはれや~」という気もしますが、公式サイトが間違っていますので、ちょっと解説したいと思います。

 

ヴィクトリア朝じゃないってば、「リージェンシー」です

公式サイトの記載が間違っており、それに釣られたいくつかのサイトでも同じミスをしているので修正しておきます。
本作の舞台は、摂政皇太子時代(リージェンシー、1811-1837)です。
ヴィクトリア朝ではありません。

この時代は、ジョージ4世が精神を病んだ父・ジョージ3世にかわって摂政をつとめた頃から、彼とその弟ウィリアム4世の在位期間を含めた時代をさします。
ナポレオン戦争に勝利した昂揚もつかの間、戦火から復興したヨーロッパ各地で産業革命が進行し、イギリスの経済的優位にかげりが見え始めた時代にあたります。

ちなみにヴィクトリア朝は、ヴィクトリア女王が在位した1837–1901を指します。
日本では摂政皇太子時代からヴィクトリア朝の子であるエドワード7世の時代(エドワーディアン、1901-1914)あたりまでをゆるく「なんとなくヴィクトリア朝」と呼んでしまうことがあるようで、本作公式サイトも同じミスをしてしまったようです。
原作文庫本だとちゃんと「リージェンシー」と記載されているのですが。

このリージェンシー舞台というのがミソです。
ヨーロッパのドレスといえば見るからに動きにくいのですが、この期間はその前後の時代と比べて自由なのです。

フランス革命の流行あたりからヨーロッパ全土に古代ローマ・ギリシャ風をお手本にしたゆるやかなドレスが流行します。
現在でも胸の下に切り替えのあるドレスを「エンパイアライン」と呼びますが、第一帝政の頃流行したスタイルが元になっているからです。きついコルセットからも高く結い上げた髪とも無縁のこの時代は、コスプレイヤーも喜ぶ楽な服装です。
そうでなければゾンビを斬り倒したり、男を豪快に蹴り飛ばしたりできません。

さらにナポレオン戦争のせいで政情不安定であることも活かされています。
元ネタの『高慢と偏見』で赤い軍服を着た兵士がうろついていて、青年仕官のウィカムとヒロイン姉妹が知り合う機会があるのもこうした背景があるのですが、本作では「対ゾンビ軍」に変更してあります。
さらには遺伝病で精神を病んだジョージ3世が「ゾンビとの戦いにショックを受けて精神を病んだ」という設定に変更されております。ただ大ざっぱにゾンビをぶち込んだのではなく、時代設定を活かしてゾンビまみれにするのです。

それでもなお思ってしまいます。
なんでゾンビなんスか!!
いや聞くだけ野暮なんです。だって、原作者によると「タイトルが思い浮かんだ」と仰られておりますので(´・ω・`)

 

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イギリス級社会がややこしい? んじゃ、サムライソードと少林寺拳法を出しときなはれ

残念なことに公式サイトのミスはこれだけではありません。厳密にいえば本作の舞台は「貴族社会」でもありません。
「郷紳(ジェントリ)」。
つまり貴族としての称号を持たない下級地主層の物語です。

主要登場人物の階級も異なっていて、ヒロインであるエリザベスのベネット家と、ダーシーやビングリーの間には差があります。

バカ映画かと思ったら結構ややこしい、身分社会なんて面倒臭いと思い始めたあなたに朗報です。
本作ではこのややこしい階級社会を、貴族・郷紳でも上の階層は「京都で武術を習う」、それよりやや下の階層は「少林寺で武術を学ぶ」という区別をつけて判別しやすくしました。

日本刀を持って夜中に植え込みをバサバサ切り裂き、広間に赤備えの甲冑を飾っていたら上流です。
姉妹でガールズトークしながらカンフーの動きで殴り合い、『孫子』を原書で読めばそれより下の階級です。

オタクが夢見る永遠不滅の対決カード「少林寺VS忍者」は、本作により復活しました。

宮本武蔵のように二刀流を操り、敵を殺戮する貴婦人と、少林寺三十六房を突破したヒロインという設定を盛りすぎた人物が、楽しげにゾンビを倒します。
レディ・キャサリンの道場で、忍者の心臓を抉り出し「日本人の心臓って柔らかいのね」と言い放ちながら食べるエリザベスという原作の名場面は残念ながら改変され、イギリス人の大男をぶちのめすだけになっており、個人的には不満です。
それを補うにゲテモノカンフーシーンが大量追加されていたのは好印象なのですが。

せっかく夢のカード少林寺VS侍剣法が実現したのですから、もっとじっくりと立ち会ってもよかった気がします。
そもそもなぜ、ゾンビと戦うためにイギリスの紳士淑女が東洋の武術を習うのかは不明です。

ただのノリ……なのでしょう。

 

ゾンビと決着つきません

本作について受ける第一印象は一発ネタのバカ映画――。
そんな印象でしょうし、実際その通りなのですが、それでも「19世紀イギリスの優雅な社会」が堪能できるのがある意味困りものです。

この時代を舞台とした作品が好きな方、歴史系ドラマ好きにも一応おすすめです。こういう悪ノリが許される時代になったと確認するのも面白いことですし、リリー・ジェームズはじめとする出演者の演技や衣装、アクションも見応えがなかなかあります。

さらに本作はあくまで「女性にとっては結婚が大事な時代だし、ゾンビはいるけど原典もそれがネタ」であるため、ゾンビ映画でありながら大量発生したゾンビを征圧もしなければ、人類滅亡もしないという、投げやりな展開です。
ある意味新しい展開とは言えますけれども賛否両論でしょう。

本作を見て歴史は学べないかもしれません。
が、歴史をネタにしてこんな悪ノリ、投げやりなものができるのだということは学べます。

歴史サイトとしてはそれはどうかと思いますが、21世紀の歴史エンタメはここまで暴走したという作品として、本作はおすすめできます。
ゆる~い気持ちで見てはいかがでしょうか。

小檜山青/記

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【参考】『高慢と偏見とゾンビ』公式サイト

 



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