「越後屋お主も正義よの~」「お代官様ほどでは」…茶番過ぎる江戸時代の正しい「商人」像


消費税があがるとか、NISAとか、お金にまつわる問題がにぎやかになってきています。アベノミクスというわりにはまだ給料があがっていない、という状況が多くみられる中で、いかに生活に必要なお金を増やしていくか、というのは時代を超えたテーマなのかもしれません。

今日のテーマはずばり江戸時代の商人。中でも、幕府(権力者)がどんな商人を理想としていたのか、ということを少しのぞいてみましょう。

御用学者ならぬ、御用商人ですね。

「越後屋おぬしも悪よの~」「お代官ほどでも」が思い浮かびますが、現実はなんと180度違ったのです。

「士農工商」という言葉は知っていると思いますが、この中で「商」が一番下になっているのは、決して語呂合わせなどではありません。

「農」「工」は作物や製品を作り出す仕事ですが、「商」は人が作ったものを仕入れ、それを売ってお金を得る仕事である、ということで、当時の幕府には「品物を右から左に動かすだけでお金を得ている」と見られていました。

しかし、商品経済の発達により、実際には多くの藩や武士が商人から借金をして財政を成り立たせなければならない状態にありました。

その中で、次のような商人が「奇特者」として称賛されています。『官刻孝義録』という史料に載った、寛政三年(1791年)の事例です。

質屋よりもキリストになったらどうか?

 浅草三間町で質屋を営む伝六は3、4年前に妻を失い、残された娘と幼い男女二人の召使いとで営業をしていました。

伝六は「商人というのは利を重んずるものであるが、貧しいものから質を取り、金を貸して生計を立てるのはほか以上にそうである。が、自分は家業に似つかわしくない、篤実な者でいる」ということを基本の考えとしていました。そのため特に貧しいものには余分を添えて貸したり、物を乞う者がいれば施しをしたりするのが常でした。

凶作になったときは粥を炊いて食べさせたり、困窮した近隣の者たちに米味噌薪などを送ったりして、多くの人々を救済しました。しかもそれは昼の人目をはばかり、夜にこっそりとするのでした。月光仮面か?

また、伝六は日ごろから書を読むことを好み、学問所の講義に暇を見ては通って学び、周囲の者にもそれを勧めました。

ある時、伝六の故郷の名主親子が土地を質入れして30両を借金しました。

ところが家が衰え、返済ができなくなってしまいました。伝六は父がかつて世話になったことがあり、しかも故郷であるという理由から元利合わせて40両の債権を返しました。その上、名主が100両の金を必要としていることを知ると、その土地を120両で買い取り、後に菩提寺・鎮守の社人・親戚などに分かち与えたそうです。

 

質屋という商売をしているにもかかわらず、貧しい人に余計に貸したり、借金を帳消しにしたりと、これで商売が成り立つのだろうか?と不思議に思うことが多く書かれています。

この事例の称賛されたポイントは、

1)「利」を貪るのではなく、

2)貧しい者、困窮している者に施しをしたり、

3)名主に対して親の受けた恩返しをしたりする、

という行為にありました。

これらは従来の幕府が持っていた「商」に対する意識と大きく外れる行為であり、こういった行為をする人間を称賛することで、「商」の「正しい」あり方を示すという意味があったと考えられます。

現代でも、災害などが起こった時に大企業などがさまざまな支援事業を行うことがあります。多くの場合、それらはニュースになり、それを聞いた私たちはその企業へ高評価を持つようになります。支援をすることで企業の価値が高まる、ということは、近世だけではなく、今でもあるのかもしれません。

 

参考文献

菅野則子『江戸時代の孝行者 「孝義録」の世界』 歴史文化ライブラリー73 吉川弘文館 1999


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