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生死のかかった剣闘士やガレー船の漕手 ブラック労働というのはマジか!?

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ラッシュアワーの通勤電車に揺られながら、嫌な上司に怒鳴りつけられながら、残業代のつかない給与明細を眺めながら、あるいは大河ドラマが終わった日曜夜九時頃、明日は月曜日だと考えながら、こう思う人は日本中にいることでしょう。

「あーあ、俺、なんでここまでして働かなければいけないんだろう?」

これと同じ悩みを、人類は有史以来ぼやいてきたことでしょう。生まれながらの貴族でもなければ、社会を構成する人間とは労働から逃れられないものなのです。
労働者の権利という概念、労働基準法という法律がなかった昔。歴史の中で人類は、どんな部落労働、3K職場に耐えてきたのでしょうか。
古代ギリシア・ローマから、過酷な職種を五種類とりあげてみました。

 

剣闘士:元祖スーパースターか、猛獣の生き餌か

きつさ:★★★☆☆
汚さ:★☆☆☆☆
危険度:★★★★☆

鍛え抜かれた半裸の肉体に派手な兜をかぶり、グラディウス(古代ローマの剣)、盾を身につけた剣闘士。それを見守る観客は熱心に歓声を送り、冷酷な皇帝は負けた方を殺せと親指を下に向ける……剣闘士と聞けば、こんなイメージが浮かび上がってくることでしょう。

ハリウッドでも幾度となく映画化されてきた、古代ローマの残酷で華やかな職業の代表格です。
戦い負ければ残酷な死が待っているものの、うまく勝ち抜けば名声、賞金、そして「私を抱いて!」と熱視線を送ってくる貴婦人のファンが得られます。ただし、こうした血腥いイメージは誇張されている部分があります。

まず剣闘士という職種のマイナス面を見てみましょう。
成人男性として、ローマ市民としての権利は持てません。はじめからこうした権利のない奴隷、戦争捕虜、死刑囚が剣闘士にさせられていました。志願して剣闘士になる人もいましたが、そうなった時点で権利は失われます。

志願者の中には女性剣闘士もいました。彼女らはもともと女性ですからローマ市民としての権利はありません。考えようによっては、男性の志願剣闘士よりも失うものが少なかったと言えるでしょう。

市民の権利を失うことがマイナス面だとすれば、プラス面ももちろんあります。
剣闘士たちには訓練中は高水準高タンパクの特別な食事、寝泊まりできる宿舎が提供されました。衣食住を心配することなく、剣闘士訓練生たちは宿舎で練習用の木剣を手にして厳しいトレーニングに励むのです。生活を保障されている点が、この職種のプラス面です。福利厚生はバッチリです。

デビューを迎えた剣闘士たちは、試合が面白くなるようマッチメイクされます。負けた、あるいは卑劣な戦い方をした剣闘士がその場で殺されるというのは誤解です。
高い金をかけて鍛え上げた剣闘士をむざむざ殺してしまっては、剣闘士の教官にとっては損害です。興行主たちは剣闘士の体調を慎重に管理し、死傷者が出るような事態はなるべく避けようとしていました。試合中に剣闘士が死亡した場合、教官は剣闘士のランクごとに市場価格の100倍の金額を賠償金として興行主に請求しました。

また剣闘士が実際に戦いに出る日数は、人気があっても一年のうちせいぜい一週間から二数週間程度です。
大相撲にたとえるならば、一人の力士が一年につき一場所しか出場しないということです。

剣闘士は引退後の生活も、恵まれたものでした。教官となる道がありましたし、引退する際にはファンから賞金が贈られます。さらに幸運な者となると、市民権まで授けられる者もいました。奴隷から市民まで、サクセスストーリーを歩める者もいたわけです。

雇用側が住まいと食事を提供し、職業訓練を実施。体調管理も行われ、し合いに出るのは一年間で一週間か、二週間程度。引退後の生活も保障されている。思っているよりもホワイトかも、と思われる方も多いのではないでしょうか。
ただし、これはあくまで訓練についていけた剣闘士たちの話です。
訓練に脱落した者は「闘獣士」になるしかありません。訓練から脱落した者が罪人であった場合、闘技場で猛獣の前に投げられ、生きたまま食べられる役を割り振られることになるのでした。

 

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漕ぎ手:労働時間の上限は一日あたり17時間、食事完備

きつさ:★★★★☆
汚さ:★★★☆☆
危険度:★★★★☆

ブラック労働は、しばしば現代における「ガレー船の漕ぎ手」に譬えられます。重たい鎖に縛られ、狭い船底でひたすらオールを漕ぐその姿は、まさに悲惨な労働者そのものです。
ただし、ああしたフィクションの姿は実は正確ではありません。
実際のところ、古代ギリシアでは、都市国家の市民たちが漕ぎ、古代ローマの場合は属国から募集した人が漕いでいました。

彼らの身分は下級兵士です。彼らはボートを漕ぐだけではなく、ひとたび上陸したらば、剣と盾を手にして戦いました。つまり、兵士が移動するために漕いでいたわけです。

彼らがオールを漕ぐ時間は一日あたり17時間です。そうなるとコキを使うだけではなく、快適性も大切になってきます。尻の下には革製のクッションをしき、楽師たちがリズミカルな音楽を奏でていました。食事はパンやワインを時には座ったまま食べます。そのくらいの気遣いもなく、鎖でつないだままらなば、長時間漕ぎ続けることはできなかったでしょう。

労働時間の長さだけではなく、彼らには危険もつきまといます。
ひとたび軍船が沈めば、彼らが助かることはありません。激しい戦争の際には、数万人もの漕ぎ手が船ごと海に沈んでいきました。

ガレー船//wikipediaより引用(photo by Myriam Thyes

 

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重装歩兵付き奴隷:30キロの防具を持ち歩く

きつさ:★★★★★
汚さ:★★★☆☆
危険度:★★★☆☆

色鮮やかな甲冑に身を包んだ兵士たちが、土埃をあげながら戦地に向かう――。
まさに時代劇の花と言えるシーンですが、実はこの風景、正しくありません。

どの時代でも国でも、移動中は甲冑を着込んでいるわけではありません。そんなことをしていたらくたびれ果ててしまいます。戦地に着いて、戦う前に着替えるのです。

この行軍中、重たい甲冑を運んでいるのは着用する兵士自身ではありません。古代ギリシアでは、お付きの奴隷の仕事でした。当時は二輪車も輸送車もまだ発明されていません。人力で運ぶしかありませんでした。
ファランクス(密集方陣)で戦う重装歩兵の装備は、兜、盾、甲冑、臑当て、剣、2メートル半の槍等。総重量はおよそ30キロにもなります。
それだけの重さがある荷物を運んで歩くだけでも重労働ですが、彼らの仕事はそれだけでは終わりません。戦闘終了後は血と泥のこびりついた装備を綺麗にし、補修します。主人にワインをふるまい、彼のために食事を作らねばなりません。

主人と違って戦功を上げて名をあげられるわけでもない、地味なブラック労働でした。

 

生け贄儀式助手:危険はないが、血みどろの仕事

きつさ:★★★★☆
汚さ:★★★★☆
危険度:★☆☆☆☆

剣闘士や兵士のように危険は伴わないものの、生理的嫌悪感をもよおす仕事もあります。
神事のために家畜を殺す生け贄儀式助手はその一種でしょう。

この助手は、屈強な男三人組で構成されています。
第一の助手が牛を祭壇まで導き、抑えつけます。第二の助手が木槌や斧の背で気絶させます。それから第三の助手がナイフで生け贄の腹を割き、内臓占い師が腹の中を観察して吉凶を判断するわけです。
占いが終わると、助手三人は生け贄の血を青銅の器に集めて、祭壇にふりかけます。

こう書くとすんなりいくように思えますが、いつもこの通りうまくいくわけがありません。
牛が暴れる、見守る観衆が騒ぎ出したりしたら、不吉だとして内臓占いの結果自体が無効となります。そうなると最初からやり直しです。

ユニフォームに血がつくと、高いクリーニング代を払い、洗濯する羽目になります。生け贄となる動物を丁寧に扱い、さらにできることならばユニフォームに血をつけないで済ませることができる、慣れと技術が必要とされました。少しでも失敗すると一からやり直しという点もなかなか厳しそうです。

不器用な人、血とプレッシャーに弱い人には向かない職業でしょう。

 

ウェスタの巫女:恋愛絶対禁止! でも給与体系と福利厚生は最高

きつさ:★★☆☆☆
汚さ:★☆☆☆☆
危険度:★☆☆☆☆

昔、男性との交際疑惑が発覚したアイドルが涙ながらに謝罪し、頭を丸刈りにするという痛ましい事件がありました。
年頃の少女が男と交際して何が悪いのかという擁護の声があがりましたが、熱心なファンからはアイドルは純潔を求められ提供するのだから当然だという意見も聞かれました。

痛ましい事件ではありましたが、古代ローマにはもっと厳しい恋愛禁止の女性専用職がありました。
処女神・ウェスタの秘儀を行う巫女たちです。
彼女らは純潔を失うと、僅かな食料だけを持たされて、そのまま彼女自身の墓穴となる地下室に閉じ込められ、「生き埋め」にされてしまうのです。

何故そんなことになってしまうのか。
それは彼女らが竈の女神であり、ローマの象徴である処女神ウェスタにその身を捧げた巫女であったからです。神の力を信じていた当時の人々にとって、ローマの象徴たる処女神の巫女が、純潔を失うのは国防に損害すら与えかねない行為です。

なぜわざわざ生き埋めという面倒かつ残酷な手段で死刑としたかと言いますと、処罰を与えるにせよ聖なる巫女の血を流すことは禁忌であったからです。実質的には生き埋めですが、建前上は「誓いを破った巫女が地中に自発的に入っていった」ということにされました。
この恋をしたら生き埋めという強烈な処刑のためか、ウェスタの処女は気の毒な存在というイメージもあるようです。しかし実際のところ、処刑された者はごく一部でしたし、純潔厳守という一点をのぞけばかなり恵まれた立場にありました。

巫女は自主的に選べる職業ではありません。まず自由民の両親から生まれた少女たちから、二十人の候補者が選ばれます。そこからさらに六人にまで絞られた巫女たちは、家族から離れて広々とした屋敷で共同生活を送ります。彼女らは最初の十年で秘儀の手順を学び、次の十年で秘儀を行い、そして最後の十年は後輩を指導します。
引退後は結婚するもよし、昔をなつかしみながら悠々自適な老後を送ってもよし。ローマ人は、親や夫の支配下のもとで人生を送る女性がほとんどでしたが、彼女らは数少ない例外でした。

彼女らにはウェスタ神の聖なる秘儀以外に、俗世の大切な仕事がありました。
誓いを守るものとして遺言書を保管すること。また死刑判決に異議申し立てをすることもできました。
ユリウス・カエサルが政敵から処刑リストに載せられた時、ウェスタの巫女は助命嘆願をしました。カエサルの死後、甥のオクタヴィアヌスを後継者にすると書かれた遺言書が託された時も守り抜きました。カエサルとオクタヴィアヌスは巫女たちに感謝し、その礼として居住区の改装を行い、様々な特権を与えました。

巫女たちに感謝をしたのは皇帝だけではありません。遺言作成や保管の世話になった富豪たちも、しばしば彼女らに謝礼金を贈りました。頭の切れる巫女の中には、一財産築き上げる者もいました。こうした彼女らの特権を保証された生活は、四世紀のキリスト教徒による解散令まで続きます。
恋愛ペナルティはアイドルよりも厳しいとはいえ、給与や福利厚生面に関しては21世紀のアイドルより恵まれていると言えるかもしれません。

 

我々の労働環境は「ガレー船の漕ぎ手」よりマシなの?

悲惨な労働環境の譬えとして、
「これではまるで古代のガレー船の漕ぎ手じゃないか!」
というような言い回しを聞いたことがある、そんな方もいるかもしれません。

しかしこうして考えてみますと、実は「俺よりもガレー船の漕ぎ手の方がマシだ!」と言った方がよい人も少なくないのではないでしょうか。

先日の「働き方改革実現会議」で決められた一ヶ月あたり100時間残業の生活では、一日から労働時間と通勤時間を自由にできる時間を換算すると、7、8時間程度でした。漕ぎ手と大差ありません。そもそも漕ぎ手は兵士と兼業であり、さらに兵士といっても平時はギリシア市民として生活しているわけです。年間総労働時間を比較した結果は、現代日本人ブラック労働者の方が上回る可能性が高いでしょう。

労働基準法もあったものじゃない昔の人と比べたら、現代人はマシではないか。そう思って調べてみた結果、あまり幸せではない結果に達してしまった気がします。
もちろん現代人は猛獣の生き餌にされる、生き埋めにされるといったペナルティはありません。

それでもこう言いたくなります。
「何故こんなに働かなければいけないのだ!」
他の国、時代にもきっとそう嘆く労働者はいたはずです。

次回は日が沈まぬ大英帝国のためならば、ブラック労働も厭わなかった、イギリス編です。

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参考文献

 




1位 意外と優しい!? 織田信長さん


2位 伊達政宗さんは史実も最高!


3位 直虎の後を継ぐ井伊直政とは?


4位 毛利元就の中国制覇物語


5位 ホントは熱い!徳川家康



6位 最上義光 名将の証明


7位 最期は切ない豊臣秀吉


8位 史実の井伊直虎とは?



9位 もしも戦国武将がサッカー日本代表だったら?



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