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真田丸レビュー

『真田丸』感想レビュー第39回「歳月」 ただ崩されるためのジェンガを積む、切なくも幸せな日々だった

更新日:

こんばんは。先週の真田昌幸、本多忠勝、加藤清正の退場にはかなりの反響があったようです。
中でも「昌幸ロス」はまさに今作最大のもので、もう見る気をなくす人もいるのでは?なんて話もチラホラと。
いいえ、それは違います。昌幸の死は始まりに過ぎません。ここからが、偉大な父の影に隠れていた信繁が活躍するのです。父や兄、周囲のいろいろな人の影から、信繁が踊り出るのはこれからです。

◆大河ドラマ『真田丸』 特別インタビュー 真田昌幸役  草刈正雄さん

昌幸はここ数年の大河でも屈指の人気人物になったと思います。
ここで考えていただきたいのが、彼はまったく理想の父親とは言えないような、個性が強くてとんでもない危険人物だったということです。大河にせよ朝ドラにせよ、過剰なまでに聖人君子的な父親像を求める傾向を感じますが、そうした傾向へのアンチテーゼといえるのではないでしょうか。

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そしてまだ引っ張る50秒関ヶ原問題です。
三谷さん本人も、朝日新聞に連載中のコラムで丸一回この解説に費やしました。関ヶ原そのものはなくとも、前哨戦などで丁寧に登場人物の心理を描いてきたではないか、と。

◆「真田丸」の合戦シーンがあっけない…NHK籾井会長に政財界から苦情も

このニュースを見ると大変イライラするんですよね。かつて『八重の桜』でみっちり戦争シーンを描いたら、「残酷だ」「夜8時にやる内容じゃない」と文句つけている人がいたじゃないですか。昨年はPがドヤ顔で「大河ドラマは血を流した武者が出てきて怖いという女性もいますから、極力流血や暴力を減らしました」と、合戦シーンは悪と語っていたではないですか。結局どっちなんだよ、と。

もう合戦をやろうがやるまいが、誰かしら文句言うんなら、好きにすればいいじゃないですか。

それにこれが大事なのですが、来週からの「大坂の陣」ではみっちり戦闘をやるはずです。大がかりなセットを重機で作っていますよ、と既に公式サイトでは知らせていたわけです。そこに予算を使うならむしろよいことです。
以前も書いたのですが、一話あたり予算が大河の十倍とも言われているHBOの『ゲーム・オブ・スローンズ』でも、大がかりな合戦は1シーズン10話のうちで1話くらいでしかやりません。合戦一点豪華主義でもよいと思います。

 

真田信繁が理想の城が表現されたOPムービー

さて、今週です。
と、その前に、今更ながら本作のOPについて語りたいと思います。
私は好きです。ドローンを駆使した景色の美しさ、土のぬくもりがある壁、派手過ぎずそれでいて技術力を感じさせるCG、そして合間に今週のハイライトが挟み込まれるワクワク感。静かで渋く、とてもセンスがよいと思います。

しかし私がこのOPで最も気に入っている点はそこではありません。

生涯城持ちになれなかった真田信繁が、理想の城を持ったらどんな風なのか。そのコンセプトが素晴らしいと思います。
そしてその素晴らしさは、現在の展開だからこそ際立ちます。九度山で兄からの仕送りと、内職で細々と暮らす真田信繁。そんな彼が見果てぬ夢を追い求め、理想の城を考えた結果がこのOPである。
そう思うとなんとも切ないではありませんか。

霜月けい真田丸真田信繁

ともかく昌幸の名前が掲載されておらず物足りないOPが終わり、本編へ。
父の死後、信之は九度山の真田屋敷を訪れます。月代を剃り、髭をたくわえ、立派な着物に身を包みすっかり大名らしくなった兄。無精髭に日焼けした顔と、すっかり牢人暮らしが板に付いた弟。対称的な姿です。

信之は、信繁から渡された、昌幸が残した兵法書を読みます。が、
「凡人には全くわからん……」
中身は謎の記号だらけで到底解読できません。

「全部こんな感じか?」
「全部こんな感じです」

なんとも脱力するやりとりをする兄弟。作中で「ものすごいもの、でも後世に伝わっていない」アイテムが出てくると、消失する過程が描かれるものです。ところが今回ははなから使えないアイテムだったというオチでした。いや、さらにオチがあって誰かがこの暗号を解読するのかもしれませんが。

信之は話題を変え、赦免をこれからも願い続けると信繁に言います。しかし当の信繁は、今の暮らしにすっかり慣れてしまったので赦免しなくても良い、と断ってしまいます。梅と大助は九度山の暮らししか知らないわけです。もうここで一生を終えてもよいと、信繁と家族、そして佐助までもが思っているようです。

 

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昌幸は兄弟2人を愛し、そして立派に育てた

信之は大名として内政に力を注いでおり、多忙な生活を送っているようです。泰平の治世において、信之はその才能を十分に生かしています。

久々に兄弟で酒を酌み交わし、育児論について語り出す信之と信繁。父のいた場所はあいています。犬伏で誓った父子三人で酒を酌み交わすこと(第三十五回)は叶いませんでしたが、兄弟酒は実現したわけです。

育児がわからないとこぼす信繁に、信之は父上が手本になるはずだと言い出します。ここで兄弟の意見が食い違い、互いに「相手の方が父に愛されていた」と言い出します。

視聴者から見ても信繁の方が父と相性がよいように見えました。一方で織田信長への面会などには信之を随行させませんでした。そのことを信之は父が信繁を買っているからだと思っておりましたが、実のところは当主と後継者が同時に討たれないよう分散していたらしい、ということは第三十三回で示されていました。

三十郎が指摘するように、昌幸は兄弟二人を立派に育て上げ、愛していたというのが正解なのでしょう。ここで三十郎は口を滑らせ、立派な父親であったかはわからない、とまで言います。流石にこれは即座に信繁からたしなめられますが、それも確かにそうだと思わせるのが、真田昌幸という人間です。

真田丸真田昌幸霜月けい

 

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信之は小野お通に会うのが目的って!?

その酒の席で、信繁は兄に、実は借金まみれで首が回らないと打ち明けます。

昌幸の生前は、かなり背伸びした暮らしをしており、そのツケが回ってきたそうです。きりが寧の侍女時代に覚えた裁縫と、佐助が忍術を周囲に教えて足しにしているようですが、それでは到底足りない。信之は「決して飢えさせぬ」と約束します。

引き留める信繁を振り払い、信之は寧の侍女であった小野お通に会いに行きます。実は信之の目的は、赦免の口添えだけではありませんでした。信之は洗練された今日の女性である通と話していると、心が癒されるそうです。昌幸と偽吉野太夫の火遊びとは違い、一切色気のないプラトニックな思いを、信之は抱いているようです。薫や吉野太夫、そしてこの通のように洗練された知的な京都の女性に、昌幸と信之はあこがれを感じるようです。

霜月けい真田丸真田信幸

信繁は、昌幸の死後殉死しようとしていたほど気落ちしていた高梨内記に、大助の傅役を頼みます。内記は昌幸と楽しんでいた囲碁を、大助に教えることになります。昌幸より囲碁が強かった内記ですが、大助とはどうなるのでしょうか。

一方江戸では……徳川家康が各大名たちの妻子を江戸屋敷に住まわせ、人質にしていました。薫、稲、こうも江戸屋敷にいました。薫は江戸の懐紙は堅くてかなわないとこぼします。
小山田茂誠と松夫妻は江戸屋敷の薫を訪れ、歓談を楽しんでいる様子。薫は孫のすえに、京都時代に集めた扇コレクションを見せることにしていました。

思えばこの扇は、第一回や第二回で新府城から逃げ去る際にも薫が大事に持ち歩いていたものでした。薫は菊亭晴季の娘を自称しておりましたが、経歴詐称はまだやめておりません。顔の脂を気にして扇を広げる薫ですが、夫のことを語るときは寂しげです。
能天気に扇を広げているように見えますが、何もかも失い、華やかな青春時代の思い出にしか安寧はないのかもしれません。薫は夫の死から二年後、江戸で世を去りました。初登場から退場まで、京都の華やかな雰囲気を大切にし続けた人生でした。

 

時は流れて慶長19年 大坂の陣の年を迎え……

さらに時は流れ、慶長十九年(1614)。九度山の真田屋敷は穏やかな時間が流れていました。それなりに皆充実していて、帰りたくないと信繁が言うのも納得できます。信繁と春の間には、さらに次男・大八が誕生しています。三児を得たにも関わらず、厄介な性格の春はまだきりに嫉妬がある様子です。

信之が送ってくる荷は、なぜか蕎麦ばかりです。ひもじい思いはさせぬという約束だったはずですが、こうも蕎麦ばかりでは、と信繁たちはうんざりします。信之は彼なりに、故郷の味を届けたいのかもしれませんが、それにしたって限度はありますからね。

皆充実した生活を送るとはいえ、倦怠感もあるようで、佐助は「なんで源次郎様より、あんなくそおもしろくない兄貴が出世しているんでしょうかねえ! イライラする!」ときりにぶっちゃけトークをしたりします。信之個人が嫌いというよりも、太平の世が、徳川の天下が憎たらしいのかもしれませんが。

信繁はそばがきを大量に作り、村人にそば粉を売りつけるビジネスを思いつきます。

「あ〜じ〜よ〜しのそ〜ば〜 召され候え〜」

と、CMソングを歌いながら試食販売をする信繁、きり、佐助。まさかの瓜売ソング(第二十六回)のリバイバルです。

そんなふうに頑張ったセールも虚しく、そばがきは売れ残り、三人は肩を落として帰宅します。有働アナが親切に「そばがきを細く切った現代の形のそばが定着するのは、もう少し先の話である」と解説します。

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豊臣秀次の娘・たかが呂宋から戻ってハレーション

信繁の妻・春は、そば粉売りに連れて行ってもらえなかったことに嫉妬します。信繁はきりに暇を出そうか提案しますが、春は「私が追い出したことになるから嫌」と却下。困ったものです。

きりは信繁から話を聞いて、あきれかえります。出て行って欲しいなら出ていきますよ、と言い出すきり。父のため、信繁の話相手になるためにいるんだし、と本心を打ち明けるきり。菩薩の心でここにいるのよね、とまで言います。

真田屋敷に、派手な格好の女性が訪れます。豊臣秀次の娘・たかが呂宋から戻ってきたのです。呂宋出発前は蔭のある幸薄そうな女性でしたが、海外生活ですっかり明るく大胆になったきり。名目上でも側室は側室、とマハルキタ(お慕いしています)と言いながら突然信繁に抱きつきます。その様子を見て、春は殺気だって火箸を構えて今にも突き刺そうとします。春が突き刺すのは障子だけじゃないのかと思っていると、きりが止めます。今は商いをしているというたかは、呂宋土産を差しだします。

珍しい土産には、崑崙の珊瑚、暹羅の香炉、さらにはネパールのサナールという紐があります。サナールは無料でもいいとたかは言います。この紐に目を付け、上田の紡に似ていると言い出す信繁。信繁はサナールを見本にして、紐作りを始めます。 たかは京都の祖母の元に向かい、また呂宋に出立するとのこと。

きりと春は紐を紡ぎながら本音を語り出します。ここを去るつもりだと言うきりを、春は引き留めます。自分に正直になればいいと春に告げるきり。きりは周囲が春に気を遣っているのだと指摘。きりもかつて、遠い昔は信繁の子が欲しいと思っていた、と語ります。それをもうすっかりあきらめたきりにとって、春はうらやましくて仕方ないことでしょう。互いにないものを持っているという意味で、この二人は信之と信繁兄弟のような関係かもしれません。春はきりに「どこにもいかないでください、私のために」と告白するのでした。姉妹のように手を握り合う二人。彼女らも「ふたりでひとつ」です。

サナールを元にした真田紐がいよいよ完成しました。佐助のぶらさがりによる耐久テストは、見事合格! すっかりビジネスドラマのようになってきました。

信繁は村長の長兵衛相手に商談を開始。高い耐久性と装飾性を売り込みますが、相手はこんなものはいらないと言います。ところが信繁の狙いはそこではありません。作り方を教え、ブランドの使用権を譲り、とライセンス料一割を徴収したいと提案するのです。おお、ビジネスマンだ。『タイムスクープハンター』になっても違和感がない回です。

真田丸真田信繁2霜月けい

 

昌幸の兵法書の極意は、もしかして囲碁から読み取れる?

ライセンス料の前金が入った真田屋敷では、久々にごちそうを作り皆で食べることに。そんな中、内記に囲碁で連敗している大助は、一人で碁盤の前にいるのでした。
父ゆずりの毛皮を身につけた信繁はだんだんと父に似てきており、この場面もどこからか昌幸が見守っているのではないかと思わせるものがありました。昌幸は退場しましたが、彼の気配はドラマの中にまだ残っています。

信繁はそんな大助の元に向かい、囲碁を教えて欲しいと言い出します。囲碁で負け続けた大助は父に教えること、そして父に教え方がうまいと言われることで、自信を取り戻してゆきます。

ここで気になるのは、信繁は実のところ囲碁を知らないということです。これはおそらく信之も同じです。この兄弟は崩将棋で遊んではいても、囲碁はやりませんでした。そうなると思い出されるのが、昌幸の兵法書です。囲碁を知る人であれば解ける暗号が仕込んであるのに、囲碁を知らない兄弟にはわからなかった可能性があるかもしれません。

久々の豪勢な食事に浮かれ、歌い出す真田家の人々です。信繁は穏やかなまなざしを団らんに注ぎます。するとそこへ一陣の風が吹きつけます。見ればそこには一人の男。男は元宇喜多秀家の家臣・明石全登であると告げるのでした。彼は信繁を迎えに来たのです。

 

今週のMVP:きり

今週だけにはとどまらず、もうこの人は作品全体の裏MVPでもよいのではないか、と思ってしまうほど好きです。序盤は鬱陶しかったのに。幽閉生活でも縫い物を教えて生活費を稼ぎ、真田紐作りでも彼女が一番役に立っていたわけで、本当にこの人は大事な存在になっています。

春との和解、姉妹のようになる過程も、アナ雪大ブームも記憶に新しい昨今です。好評でしょう。昨年、一人の男を挟んであまり麗しくない姉妹愛を見せるヒロイン像を見せ付けられたことと比較すると、随分救いのある関係性でした。

序盤は「私が、私が」と自分のことばかりを押し出してきたきり。それが年齢とともに、周囲の人のために尽くして生きるようになり、ついには「菩薩の心」とまで言うようになりました。笑っておちゃらけてはいますが、信繁と結ばれたいと思う心が消えてゆく、その葛藤はどれほどのものだったか考えてしまうのです。かつては源次郎様の行く所ならどこまでもついて行く、と強引について来たあのきりが、自分から去ってもよいと言う、そこまでの心理を想像すると重たいです。
一方で信繁の顔を見ていると、もしかして彼はずっと自分の側にいたとても愛おしく、大切なものを、つかみ損ねたと薄々気づいているのではないか、と感じたりもして。なんだこのじれったい二人は!

思えば序盤から、どんな過程を得て信繁ときりが結ばれるのか、気になるところではありました。歴史ものはある意味最初からネタバレしていますが、この二人の関係は全く予想ができませんでした。それがこんな熾火が静かに燃えているのか、そうではないのか、曖昧なままになってしまうなんて。結ばれないけどそれなりに幸せな生活を手に入れたきりが、全てを失ってしまうなんて。

私はカップルの行方はあまり気にしない方だと思うんですが、敢えて言いたいと思います。源次郎! 大坂に向かう前にきりを熱く抱擁していいんだ、思いの丈をぶつけてもいいんだ。いや! むしろそうしてくれ、きりちゃんに一瞬でも夢を見させてやってくれよ〜!! こんなにきりが愛おしくて不憫に思える日が来るなんて、我ながら驚いております。

 

総評

今回は流れゆく「歳月」そのものが主役のような、穏やかな回でした。

大名として領地経営に苦労する信之。人質となりながら思い出の中に生きる薫。拾った命を生かし商売人として活躍するたか。九度山でそれぞれのささやかな幸せを見つけた面々。しかしこの回の44分間は、ただ崩されるために積まれたジェンガの如きものです。最後の一分間、この儚い幸せは崩れてゆくと暗示されます。

穏やかにおもしろおかしく、九度山の日々を描かれてきました。ここで視聴者は残酷な選択肢を見る羽目になります。この平穏な日々を見ていたいのではないか? それとも戦乱が見たいのか?

後者を、大坂の陣を、視聴者はずっと望んでいたはずです。

初回冒頭、赤い甲冑に身を包んだ真田幸村の姿を見たときから、そうだったはずです。

ところが今はどうでしょう。この平穏な暮らしもまた、ずっと眺めていたいあたたかさに満ちているとは思いませんか。運命は、そして信繁自身の選択は、このささやかな暮らしを突き崩します。そしてその崩壊を、私たちはずっと待ち受けてきたのです。

彼が何を捨て去ってまで得ようとしたもの。そして捨て去ったものが何なのか。あなたたちは真田信繁が戦陣に戻ることを望んできたでしょう、待ち受けていたでしょう、しかしその代償として彼はこのささやかな幸せを捨てたんですよ、と本作は突きつけます。

来週、私たちはその選択肢の先を見ることになるでしょう。その先にあるのは、とても残酷で、そして心躍る展開です。

 

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著:武者震之助
絵:霜月けい

 




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