源氏物語が男性にも受け入れられたのは、紫式部の洞察力がズバ抜けていたから?

 

何だか、いきなり冬になってしまったかのような天気。「◯◯の秋」を楽しむどころか、体調管理でいっぱいいっぱいという方も多いかもしれません。
心身を休めるのには横になるのが一番ですけれども、そのついでに読書はいかがですか?
本日は秋の夜長にぴったりの、有名な超長編小説にまつわるお話です。

寛弘五年(1008年)11月1日は、文献上に初めて源氏物語が登場したとされる日です。

この日、藤原公任が紫式部のいる局(部屋)の近くまで来て「このあたりに若紫はいらっしゃいませんか」と戯れたことが紫式部日記に書かれています。
「若紫」は源氏物語の主要ヒロイン・紫の上のことですので、紫式部は「光源氏もいないのに、紫の上がいるわけがない」と思ってスルーしたそうですが。
別にこれは、公任が「二次元と現実の区別がつかない」人だったというわけではなく、自分の教養を誇示するための言動でした。
が、公任という人はいろいろな方面の才能がある一方、口が軽すぎるという大きな欠点も持っていました。
その代表例がこの「若紫は~」と「三船の才」という話です。

土佐光起筆『源氏物語画帖』より「若紫」/wikipediaより引用

土佐光起筆『源氏物語画帖』より「若紫」/wikipediaより引用

 

数多ある恋愛小説の中で源氏物語が好まれたのはなぜだろう

「三船の才」とは、あるとき、藤原道長が主催した宴のエピソードからきています。
”池に三つの船を浮かべ、それぞれに和歌・漢詩・音楽に秀でた人を乗せ、作品を競う”という遊びを行い、公任は和歌の船に乗って、見事な歌を詠みました。

しかし公任は満足せず「漢詩の船にしておけばよかった。この歌と同じくらいの出来の漢詩を詠んでおけば、私の評判はもっと上がっただろうに」と言ったとか。
自信がありすぎて鼻につくというか呆れ返るというか。現代の知名度でいえば、公任は紀貫之などには遠く及びませんしね。

閑話休題。
そんな感じの人なので、公任はいつものノリで「今話題のあの小説の作者がこの辺にいると聞いて」とふざけたのでしょう。
残念ながらスベりましたが。
しかし、「あはれ」を尊ぶ時代とはいえ、源氏物語のように恋愛を主題とした小説が、”男性に”読まれた、というのは、少々不思議ですよね。
平安時代の恋愛小説は他にもありますが、どれも源氏物語ほどの知名度や人気はありません。
しかも、源氏物語は日本文学史上屈指の大長編です。新しい物語を知るには、自分で書き写すか、写本を手に入れるか、誰かから又聞きするくらいしか手段がない時代のことだと考えれば、異様ともいえるでしょう。

藤原公任・菊池容斎『前賢故実』より/wikipediaより引用

藤原公任・菊池容斎『前賢故実』より/wikipediaより引用

 

「身分も知力も真ん中くらいの女性が、恋の相手として一番面白い」

なぜ、源氏物語が男性にも好まれたのか?
それは、このお話が当時の男心をリアルに描いているからではないでしょうか。

源氏物語といえば、「主人公・光源氏と恋人となった女性達の話」と紹介されることが多いですよね。しかし、よくよく見てみると、政争や男同士の友情など、男性を中心としたシーンもかなりの数です。

その中で、現代の男性にも共感を得られそうなシーンが序盤にあります。
俗に「雨夜の品定め」と呼ばれる場面です。
帖(じょう・源氏物語における“章”のようなもの)の名前としては、「箒木(ははきぎ)」の一部。一般的に「光源氏を始めとした若い公卿たちの恋愛談義」として紹介され、サラっと流されることが多いでしょうか。
しかし、ここに出てくる公卿の発言を一つ一つ目に留めてみると、現代の男性もだいたい似たようなことを言うのではないかな、という気がします。
だいたいの雰囲気で訳してみると、こんな感じです。

「学がありすぎる女は、毎日顔を合わせていると息が詰まる」
「上流すぎるとこちらも気を使うが、かといって下賤の者では興醒めだ」
「身分も知力も真ん中くらいの女性が、恋の相手として一番面白い」

現代では男女どちら側からでも言えそうですけれども、これが当時の貴族男性の本音だったのでしょう。
これを紫式部という”女性”が書いたのだとしたら、とんでもない観察力と表現力ですよね。

まあ、源氏物語は紫式部以外の人間によって写された際、いろいろなエピソードが追加された可能性があるともいわれています。手書きで写していた時代は、原書に忠実なことよりも、「より面白くする」ことが目的とされることもあったからです。
ですので、「紫式部が現在知られているようなエピソードをすべて書いた」という可能性はフィフティ・フィフティといったところではあるのですが……。

 

男性心理を読み取る能力に長け、物語に反映させていた

ここでもう一つ、紫式部の内面のことを併せて考えてみましょう。
紫式部日記には、「漢学がある女性というのはウケが悪いから、普段は目立たないようにしている」「それなのに、私のことをどこかから聞いた男性がわざわざやってきて『もっと勝ち気な人だと思っていた』なんて勝手な思い込みを言ってくる。失礼だわ」といったことも書かれているのです。

紫式部にとっては主人である彰子の夫、一条天皇が源氏物語を読んだ際、「この作者はきっと、日本書紀をよく読んだ人なんだろうね」と評したそうですが、それについても紫式部自身は「畏れ多いこと」としています。

「五十日の祝い」の宴席場面/wikipediaより引用

「五十日の祝い」の宴席場面/wikipediaより引用

紫式部は、宮中で見聞きした男性の言動は元より、自分の中の男性的な部分や、「自分が男性だったら、同性と話してみたい話題」を、源氏物語における男性陣の行動として描いたのではないでしょうか。
そしてそれが多くの男性にとって共感を得られたからこそ、公任がいち早くネタにし、藤原定家が集約し、今に語り継がれているのでは……というと、少々大げさですかね。

まあそんなわけで、「源氏物語は恋愛だけを主軸にした小説ではなく、当時の貴族社会を描いた時代小説」として捉えると、少しはとっつきやすくなりそうな気がします。
立場や身分によってコロコロ名前が変わる人が多いのが玉に瑕ですが……同性・異性に一人ずつくらいは、好きになったり目標になる登場人物がいると思いますよ。

長月 七紀・記

参考:源氏物語/wikipedia 藤原公任/wikipedia 紫式部日記/wikipedia

 








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