塔の最上階に幽閉された美女・聖バルバラ 発熱や急死から守ってくれる救難聖人となる

 

「戦場で危機に陥った兵士は、どこの国の人であっても母を呼ぶ」という話がありますよね。
一人暮らしの人が体調を崩したとき、ホームシック気味になるのも、似たようなものかもしれません。人間、追い詰められると親のように庇護してくれる人を求めたくなるのでしょう。
本日はその一例……に含めてもいいかもしれない、とある人々のお話です。

12月4日は、キリスト教の中でも正教会系でよく知られている、「聖バルバラの祝日」です。

名前からも何となくわかる通り、女性の聖人の祝日ということになります。
「ワルワラ」と表記することもありますが、ウィキペディア先生でも「バルバラ」でページが立っていますので、ここは先生にならいましょう。
ついでにいうと、現在聖バルバラについては「実在が怪しい」という見方も強いようですが……まあ、そもそも大昔の人ですしね。
伝わっている彼女の生涯は、一言でいえば「悲惨」です。

 

娘がたぶらかされないよう幽閉って……

バルバラは、3世紀に現在のトルコ北西部の町・イズミットで生まれました。家はなかなかに裕福だったようで、両親の愛を一身に受けて育ったものと思われます。
そしてお年頃になると、バルバラはとても美しい娘になりました。資産家の娘でなおかつ美人とくると、いつの時代もモテまくるのが相場というもの。
トーチャンは「どこぞの馬の骨に娘がたぶらかされないか」と、苦心します。

ここで用心棒を雇うとか、外出時には必ずお供をたくさんつけたとか、そのくらいだったら話はマシなのですが……このトーチャン過保護っぷりがハンパないです。
なんと娘可愛さのあまり、バルバラを塔の最上階に幽閉してしまったといいます。ラプンツェルかよ。
いや、むしろこの話が伝わって、ラプンツェルが生まれた……と考えたほうがいいかもしれませんね。

トーチャンの思いやり()とはいえ、幽閉生活とは退屈なもの。しかもこの場合、バルバラ自身に非はないわけですから、バルバラは「なぜ私がこんな目に」と考えたことでしょう。
話し相手も楽しみもない生活の中で、彼女が神に救いを求めたのも、無理のないことでした。
しかし、当時はまだキリスト教が禁じられていましたので、バルバラはこっそり神への信仰を深めていったようです。

ヤン・ファン・エイク「聖女バルバラ」/wikipediaより引用

ヤン・ファン・エイク「聖女バルバラ」/wikipediaより引用

 

たしかに禁教信者は家族に害及ぶ危険性はあれど

しかし、秘密とは暴かれたからこそ「それは秘密だった」とわかるものです。
ある日、彼女の幽閉されている塔に、浴室が作られることになりました。当初の予定では窓が2つだったところを、バルバラは3つに増やすよう命じています。

これが「キリスト教の三位一体を表すためだった」ということがトーチャンにバレ、あろうことかバルバラをブッコロそうとしてしまいました。何のために幽閉してたの?(´・ω・`)
現代でも「自分の思い通りにならない子供なんていらない」という親はいますけどね……親になっちゃいけないタイプですが。

少々トーチャンを擁護しますと、当時の人々にとって宗教は生活の基盤となるものですから、「娘が禁教の信者である」だけで、家全体に害が及ぶおそれはありました。
そういう意味では、正しい判断といえなくもないですが……でも、せめて説得とかしようやトーチャン。
まぁ、バルバラが父を改宗させるべく、逆に説得を試みたからともいわれています。それにしてもねぇ。

こういうとき、どこからともなく突然現れるのが神様です。
バルバラは(おそらく)神の御業によって塔から連れ去られ、命をとりとめました。

ですが、バルバラを見かけたとある羊飼いがトーチャンに「あなたの娘さん、この辺にいましたよ」と知らせてしまい、バルバラは捕らえられてしまいます。
そして火責めなどの拷問にかけられます。

 

何度拷問しても完治→ついに首を落とす

しかし、既に神のお眼鏡に適った彼女には、次々と奇跡が訪れました。
焼かれた傷は翌朝には治り、体は白く薄い服で覆われ、人目に触れないようになっていたといいます。この「白く薄い服」は雪のことである、とする見方もあるようです。
トルコで雪というのもイメージが湧きませんが、イスタンブールの冬が東京とあまり変わらないようなので、3世紀ごろならば雪は珍しくなかったかもしれません。

でも神様、どうせなら火傷しないように守ってあげればよかったんじゃないですかね。わざわざ痛い思いをさせなくてもいいと思うんですが、「苦難に打ち勝つ」ことを経験させないとダメなんでしょうか。

そんな感じなので、何度拷問しても治ってしまうことに業を煮やした刑吏は、ついにバルバラの首を落としてしまいました。
これにより命を落としたバルバラでしたが、神はその原因となったトーチャンに天罰(物理)として雷を落とし、命を奪ったといわれています。
だから罰当てるの遅いって。

こうして絵に描いたような悲惨な生涯を送ったバルバラを、後世の人は哀れんだのでしょう。
バルバラは「発熱や急死から守ってくれる守護聖人」として崇められるようになります。
また、鉱山や火薬を扱う場所で働く人々を守ってくれるともされ、作業時に彼女の像を置いたり、弾薬庫を”聖バルバラ(サンタ・バルバラ)”と呼んだりしました。

何がどうなってそうなるのかよくわかりませんが、「悲惨な死に方をしたのに、赤の他人のために死後も働かせるのってちょっとかわいそうじゃね?」という気もしますね。
まあ、日本でも非業の死を遂げた人の祟りを抑えるために神として祀り始め、いつしかその御利益を請われるようになった……というのはよくありますが。

 

苦しいときの神頼みは救難聖人に

聖バルバラのように、「自分が悲惨な目に遭ったので、他の人が同じような思いをしないよう、守護してくれる」とされる聖人のことを「救難聖人」といいます。キリスト教圏における「苦しいときの神頼み」みたいなものです。「神」と言ってしまうと支障がありますけれども。
キリシタンではありませんが、島津歳久が切腹するとき「切腹がこれほど辛いものならば、子を産む女の苦しみはいかほどだろう。俺が死んだら、そういった女の苦しみを救ってやろう」と言ったのと似た感じでしょうか。

そんなわけで、聖バルバラ以外にも、救難聖人はたくさんいます。代表的な人だけで14人いるのですが……これ、「13」を避けるために決めた数なんでしょうね……というのはうがちすぎでしょうか。
それぞれに縁のある日が祝日になっています。日本でいえば神様ごとに縁日があるのと似たようなもんですかね。そう考えれば、一神教と多神教とはいえ、共通点があるものなのかもしれません。
聖人によって各職業の守護者だったり、特定の体の不調や病気から守ってくれたりします。

十四救難聖人/wikipediaより引用

十四救難聖人/wikipediaより引用

こんなに細かく分かれていたら、体の弱い人は大変そうですね。日本なら薬師如来(薬)にお祈りすれば済みますけれども。
救難聖人の有名どころでは、「ジョージ」などの人名の元になった聖ゲオルギウスがいます。
彼はドラゴンを退治して英雄になったのですが、やはりキリスト教が異端とされていた時代の人だったので、その信仰のために拷問の末、殺されてしまいました。
また、彼を象徴する「白地に赤い十字」は「聖ゲオルギウスの十字」として、イングランドの国旗にもなりました。今でもイギリス国旗の赤い十字として、意匠に取り上げられています。

救難聖人としては、兵士や旅行者、農民を守ってくれることになっています。こんなに幅広いと、当時の人口の半分くらいは彼の守護範囲になってしまいそうですね。

聖人といい神仏といい、聖人といい、崇められるほうも実はけっこう大変なのかもしれません。

長月 七紀・記

参考:聖バルバラ/wikipedia 救難聖人/wikipedia

 


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コメント

    • 匿名
    • 2016年 12月 04日

    現代の話ですけど、最近サウジ?で王族の40代の姉妹が若い頃からずっーと家で軟禁状態で、とうとう父親父親を訴えたって話がありましたから、大昔ならなおさら同じような話でもっと極端なことがあってもおかしくないなあと聖バルバラの話聞いてて思いました。
    イスラムとか関係なく、地域性なんですかね。

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