名島城

名島城

城とオッチャン~名島城の場合~なぜ城郭巡りをしてると遭遇するのか

私の場合、お城巡りは基本的に一人です(と、と、友だちいないわけじゃないんだから!)。

何もない城跡を訪れては気分良く妄想に浸り、あっちで写真をパシャパシャ♪ こっちでパシャリ♪

と、楽しく過ごしていると、どこからともなく忍び寄って来ることがあります。

「兄ちゃん、どこから来た? なんだよ、お城好きなの?」

地元のオッチャンです。

まぁ、そこまではいいのですが、問題はその先。

「この城は……」などとコチラの意向を無視した城のウンチク語りが始まると非常に厄介であり、廃城となった「城趾公園」や地元の散歩コースと化した「城山」では、なかなか高い頻度で遭遇します。

『オッチャン、ごめん。俺、ド素人っぽく見えるけど、お城はそこそこ回ってるんですよ……』

なんて言いたくても言えない辛さで、ビジネススマイルを浮かべる私。

結果、オッチャンのウンチク話も更にヒートアップし、たたみかけるように「この地域は昔から~」と、今度は城を飛び越え、地域ウンチクまで始まる――。

陽も暖かくなり、いよいよ外へ出掛けたくなる春の到来。

今回は、過去に最も強烈だった一人、福岡県・名島城のオッチャン(地元出身・元消防隊員55歳)とのヤリトリをこの場をお借りして再現しましょう。

 


「名島城は小早川隆景っていう武将が築城したんよ」

その日も私は、一人で妄想を膨らませながら名島城の本丸跡を見学しておりました。

すると、背後から突然「こんにちはー!!」の声。

かなりの遠距離から大筒を打ち込んで来るオッチャンが現れたのです。

お城野郎ワンダーキャッスルジャパン3-2

『オレじゃない! 絶対オレじゃない><;』

願いむなしく、何度も「こんにちはー!」の声を轟かせながら、徐々に間合いを詰められていく。

もう「こんにちはー!」が「ちぇすとー!」にしか聞こえないくらい追い詰められた私は遂に観念して「こ、こんにちは」と答えてしまいました。

「名島は初めて?」

「は、はい」

「ここね、小早川隆景っていう武将が築城したんよ」

※以下は小早川隆景の関連記事となります

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「はぁ……(知ってます……というか、ソレ見に来たんデス……)」

お城野郎ワンダーキャッスルジャパン3-3

黒田長政がここ潰して石垣全部、福岡城に持ってったんよ」

「はぁ……(知ってます)」

黒田長政
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「今はここ何も無かけどね、昔は製糖会社の社長さんの家があったとよ」

「はぁ……(……え?なぬっ!)」

「ここね。この本丸跡。ここに住んどったとよ」

お城野郎ワンダーキャッスルジャパン3-4

「ちょっ、マジっすか?!」

聞いたこともない地元情報に思わず興奮する私。

「そうよ。子供の頃この辺は何もなかったし、見晴らしも良かけん。社長が住んどったとよ」

「そうですか。城に住むなんてうらやましいですね。いつ頃、城跡として名島城を整備したんでしょうね」

「知らん」

興味ないことは容赦なく切り捨てる。それも全国城オッチャンの共通項です。

 


曖昧で地元民しかわからない貴重な情報

そしてオッチャンは続けがちです。城にはカンケーない地元ネタをゴリゴリと……。

「子供の頃はさ、そこの川の向こうが森で自殺の名所だったったい」

「ほぅ……」

「向こうに見えるあの倉庫。あれ◯◯組の倉庫たい」

「ぬぬっ!」

「下の公園はセアカコケグモが日本で始めて見つかった公園たい。ニュースになっとったやろ」

お城野郎ワンダーキャッスルジャパン3-5

気がつけばもう圧倒的な地元情報!

しかし、その中に【既に宅地と化してしまった名島城の二の丸、三の丸の位置も教えてくれる】といったお宝情報も混ざっていたりするので、無闇にスルーもできなくなってしまうのです。

ただ、オッチャンの指差す方角が曖昧かつ、地元の人しか分からない番地名で言うので、結局、名島城の二の丸、三の丸の場所はサッパリわからなかったんですけどね。

キャラが強烈過ぎて、私も「もう一度わかりやすく説明してください」とは言えませんでした、はぁ……。

 


一通り話し終えたら「別の用事があるので」

全国どこ行っても終始こんな調子の地元オッチャンたち。

彼らは一通り話し終え、満足感を得たら「別の用事があるので」と、なんだか私がさらに求めているようなスタンスで立ち去ります。

都合のいい女ならぬ都合のいい城マニアな私。って、なんだ、コレ!

だけど……。

彼らとの出会いは、お城の本にも現地の案内板にもYahoo!知恵袋にも載っていないハイパーローカルな情報があるため、私としても非常に悩ましい存在だったりします。

お城野郎ワンダーキャッスルジャパン3-6

名島城のときも、その後、何事もなかったかのようにお城見物を再開しました。

妄想力を発揮して何もない道路に往年の名島城大手門を脳内に再現していると……。

『あのオッチャンも……私の妄想力が生み出した妖精なのかもしれないな……』

九州では珍しい織豊系城郭にして海城「名島城」全景

ふと、そんなことも思ったりしながら、今も私は城巡りを続けています。


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筆者:R.Fujise(お城野郎!

日本城郭保全協会 研究ユニットリーダー(メンバー1人)。

現存十二天守からフェイクな城までハイパーポジティブシンキングで日本各地のお城を紹介。

特技は妄想力を発動することにより現代に城郭を再現できること(ただし脳内に限る)。

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