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【書評】日本の米の故郷が絞り込まれた!『列島初期稲作の担い手は誰か』(すいれん舎)

更新日:

日本文化とはなにかと日本人に問えば、多くの人が「米」「稲作」と答えるのではないか。
弥生時代の始まりは普通、水田稲作が日本列島で始まったこととしている。弥生時代というと、末期の卑弥呼と邪馬台国のことばかり注目されるが、日本文化の源を探っていけば、この初めて列島に水田稲作を持ち込んできた人たちということになる。
本書ではその謎の人びとたちについての日本と韓国の考古学の最新の成果がまとめられ、問題点が整理されている好著である。

弥生人が縄文人を駆逐した?

弥生時代というのは、水田稲作だけでなく「金属器」の時代でもある。世界史的にみても「石器時代」と「鉄器時代」では文明度に大きく線がひかれるのが普通だ。
明治時代になると、欧米文化の流入により、日本にもあった石器人がなにものかの議論が巻き起こる。
その時点での石器人(縄文人)は、アイヌ人やコロボックルなど、すくなくとも現代の日本人とは違う人種という認識だった。
石器人=先住民や異民族ならば、日本民族の祖先は渡来民族ということになる。
古事記などでも天皇の祖先神アマテラスの弟のスサノオは朝鮮半島と日本列島を往来する神となっていることからも、それが裏付けられるとされた。

さらに、考古学でも、石器時代(縄文時代)と高塚時代(古墳時代)しかないと思われていたのだが、磨製石器の発見でその中間時代(弥生時代)が存在が明らかになった。磨製石器は主に石包丁とよばれる稲を刈る道具つまり稲作の存在が浮かび上がり、弥生時代に、稲作技術をもった渡来人がやってきたという認識が広まった。
これが、今でも割と一般的な弥生人=渡来人説の成り立ちである。

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弥生人=渡来人ではない!

宮城県出土の石包丁(文化財オンラインより)

宮城県出土の石包丁(文化財オンラインより)

ところが、近年の考古学の深化は、この渡来人説を大きく変えようとしている。
数年前に大きなニュースとして流れたが、弥生のはじまりが通説より500年さかのぼるとする国立歴史民俗博物館の説なども、その流れで出てきた”果実”だ。

もっとも本書のスタンスは、歴博の意見には明確に反対している。5、6ページと巻末の対談の最後の最後で1章の筆者田中良之氏が批判している。
自然、本文にも実年代の記載がないので、正直、用語(青銅器時代後期前半など)と時代観が一般人にはリンクしにくくて、頭の中での変換作業がいちいち面倒だ。ぶっちゃけていえば、紀元前6世紀ごろなどとずばり言ってもらえた方が読んでいてイメージしやすいが、かなり最新の専門的な研究の情報を盛り込んでいるために、そこは仕方がないのだろう。

話を戻して結論を言うと、

初期の弥生文化=列島最初の稲作の定着は、渡来人と縄文人が一緒になって創造していった

となる。「こんなイイ話でいいのだろうか」と思いたくなるくらいである。それで、いいようである。

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コメは弥生時代以前からあった

まず知っておきたいことは、米が弥生時代になって突然、列島に現れたものではないということである。
「縄文後期末、少なくとも晩期前半からは炭化米や籾の痕跡がついた土器が存在することから、コメとそれに関する情報は日本列島の外部からもたらされ、蓄積されていったものと考えられる。」(25p)(1章の筆者は「骨が語る古代の家族」の筆者で人骨の統計や科学的手法をつかう考古学で知られる田中良之・九州大教授)

縄文の頃は主に陸稲栽培だったのではないかと見られているが、ともかく穀物の一種として浸透していたところに、うまく運営できれば効率のいい水稲栽培が持ち込まれた。

これまでの考えだと、文明的、技術的にも縄文人をはるかにうわまわる渡来人が圧倒的な人口と技術の差で一気に日本列島を「弥生化」してきたとなる。しかし、最初期の段階の九州北部での考古学の遺物はそうは語らなかった。
一番の利器である土器が、韓国の同時期の無文土器のルールに従って作られていないからだ。

韓国出土の無文土器/wikipediaより引用

板付Ⅰ式土器(福岡市埋蔵文化財センターHPより)

 

100%渡来人の村が存在しない

100%渡来人の村というのが存在しないというのも、人類学が唱えてきた「圧倒的な大量移民」を否定する。

「渡来人たちの数は予想外に少なかったと考えられる。ところが、福岡平野を中心とした地域では、縄文人の人口密度も低く、結果として渡来人の人口比率が局所的に高くなり、この地域で混血した集団が「渡来的弥生人」として人口を増加させていった。
そして増加した彼らが四方に拡散していき、各地の在来集団との婚姻で結ばれることにより、各地の弥生人の形質をつくっていたと考えられるのである。
したがって、弥生文化を担っていった主体は渡来人でも縄文人でもなく、縄文人と渡来人との混血集団に縄文人の後裔を加えた「弥生人」たちであったということである」(43p)

コメの半島での故郷をずばり指摘!

さて、気になるのは、渡来人がどこから来たか、だ。
少し詳しい人ならばご存じだと思うが、半島の「松菊里(そんぐんに)文化」というのがその担い手となる。かつては、韓国エリアのすべてがひとくくりに松菊里文化というイメージだったが、21世紀に入り、韓国での考古学の調査と研究が加速的に進展しており、かなり地域ごとに細分化されていることが、本書の2章以降からわかる。

3章の筆者・端野晋平・徳島大准教授によると、ずばり”日本水田稲作の出港地”は韓国南部の南江流域・金海地域とのこととなる。そんな地名を言われても分からないと思うので、ざっくり言うと釜山のあたりだ。言われてみれば驚きのない結果ではあるが、ここまで絞り込んでいけるくらい、韓国での研究が進んでいるということは、まだあまり日本では知られていないので、これからもマークしていきたい。
日本稲作の原点
なおこの端野氏の研究については、巻末の対談で「朝鮮半島南部ということは、すでに梅原先生以来いわれてきたことなのですが、その中のどこかという詰めがなかなか進まなかった。今はそれがさらに絞られ、器種だけでなく形式の次元でも言えるようになってきましたから、それは一つの到達点ではないでしょうか」(291頁)とかなり高く評価されている。

水田作りを担ったのは在来人

5章は、磨製石器の研究から、だれが水田の開墾を担っていたかという研究。
結論は、縄文文化に根ざした在来人となる。渡来人主体ではなかったのだ。

朝鮮半島ではすでに開墾のために森を効率的に切り開く技術とシステムがでていたのだが、日本ではそれを取り入れずにゆっくりと開墾(伐採)をしていたことが石器から分かるという。
「列島の地であるがゆえか自然と協調的である在来人のスロー開発が優先された」(222頁)
ちょっと情緒的な表現ではあるが、これまでのコメ作りでは渡来人の技術ばかりが強調されてきたなかで、行動の主体は在来人という結果はなかなか興味深い。
この章の筆者は下條信行・愛媛大名誉教授。

残された大疑問 渡来人は勝手に来たのか?日本側が誘致したのか?

残された大きな課題は、半島から勝手に移住してきたのか、それとも日本列島側が稲作を誘致したのか、だ。
これについては、大陸が戦乱で、はじき出されるようにして半島の南部の人びとが海を渡ったとする前者が、割と一般的な理解だろう。

ただ、勝手に移住してきたのならば、あらゆる道具をすべて持ち込むはずだが、なぜか選択的にしか持ち込んでいない。なかでも、森林を伐採できる機能的な石斧がほとんど持ち込まれたいないというのは、日本列島側の縄文人が「森を勝手に切ることを許さず」という影響力を発揮したとも考えられて、非常に関心を呼ぶ問題だ。

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恵美嘉樹・記





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