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西郷どん特集 書籍・映画

リアルな西郷隆盛を知りたいならこの一冊!『西郷隆盛(ミネルヴァ日本評伝選) 』著:家近良樹

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大河ドラマ『西郷どん』の描写について、多くの歴史ファンが戸惑いを覚えている様子です。

西郷隆盛3人目の妻である岩山糸が、幼き頃から西郷の郷中仲間に入っていたり。
篤姫が西郷に恋心――なんて設定が囁かれたり(公式ガイドブックにもそれらしき記載)。
牢に入れられた西郷が、そこでジョン万次郎と出会ったり。

別に、史実改変が悪いと申し上げているのではありません。

むしろ物語が楽しくなるなら大歓迎――。
それが当サイトのスタンスでもありますが、物事には限度があります。

史実改変があまりにも荒唐無稽で、歴史のベースとなる舞台そのものを壊してしまったら、それはもう、西郷を題材とした大河ドラマにする意味はないわけで。

少しでも歴史に興味をお持ちの視聴者様は、薩摩のイメージ、ひいては西郷さんについて
『本当にこういう地域、本当にこういう方だったのか?』
なんて疑問が湧くと思います。

それについては、よろしければ本サイトの西郷隆盛生涯マトメ記事をご覧いただければと存じますが
【関連記事】西郷隆盛
市販の書籍で「一冊選べ!」と言われたら、オススメしたいのがコチラです。

『西郷隆盛:人を相手にせず、天を相手にせよ (ミネルヴァ日本評伝選) 』著:家近良樹

 

読み応えがあり、充実した内容

本書の価格は4千円と決して安くはありません。

が、500ページを越えるボリュームは圧巻。
筆者がこれを最後の著書としてもよいと思えるほどの内容であり、ともかく読み応えがあります。

最新の研究をふまえた筆者の見解はわかりやすく、うなずけるものであり、本書は新たな西郷伝記のスタンダードとなるにふさわしい価値を備えています。

しかし、それは必ずしも【西郷がいかなる人物か?】という永遠のテーマについての、わかりやすさには結びついていません。

西郷の行動は不可解なものが多く、しばしばその心身は不安定で、波が大きい人生でした。
生前から毀誉褒貶がつきまとい、彼を敬愛する仲間も多い一方で、毛嫌いする敵も数多く存在しました。

本書は過度に美化せず、西郷のそうした矛盾に満ちた人間性もそのまま描写しています。

西郷は寛大な英雄でも、謀略を思うままに操った悪人でもありません。
深刻な体調不良と人間関係の軋轢に悩まされ、思うようにならない人生に対して絶望するひとりの男です。

 

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西郷は神経質である

本書を読んで気がついたのは、西郷がしばしば体調不良に悩まされていることでした。

離島に流されたらストレスで食べ過ぎて太り、鬱病のようになってしまう。
激動の政局にあっても下血や下痢に悩まされ、そうした体調不良が判断力を低下させ、行動に影響を与えていることもあります。

浮かび上がってくるのは、豪傑肌のイメージとは正反対。
かなり神経質で、ストレスに弱い人間性です。

どっしりとして動じない西郷像とはまるで違う、素顔の「西郷さん」を見た気がします。
現代に生きていたら、通勤ラッシュ時に体調を崩してしまうのでは?と心配にすらなってしまいます。

そしてこうした神経の繊細さが、彼の転落へとつながったのではないかと思わされました。

明治維新という大事を成し遂げたにも関わらず、彼の繊細な神経は「宮仕え」には向いておりません。
しかし、あれだけの大事を成し遂げ、かつカリスマ性のある人間というのは、「宮仕え」でもして型にはまっていなければ、なりません。

中央政府からしてみれば、不穏な存在というわけです。

 

人間関係の軋轢

本作は西郷周辺の人間関係についてもよくわかります。

主君である島津久光と西郷の関係は悪いことは指摘されてきたことですが、彼らの関係性も丁寧に描いています。
小康状態を保ったときもあるとはいえ、彼らの関係はすれ違いの多い不幸なものでした。

筆者は必ずしも西郷側の立場に立たず、久光の心情にも理解を示しています。
一方だけが悪いのではなく、相性の悪さとすれ違いが彼らの対立を決定的なものにしたと、本書からはわかります。

こうした不幸な人間関係も、西郷のストレスを増やすものでした。
明治になってからの西郷の精神的な苦しみは、人間関係に悩む人々にとって共感をおぼえるものではないでしょうか。

西郷が誰からも愛し愛される大河ドラマではおそらく描かれないであろう、複雑な人間関係がそこにはあります。

 

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恰幅のいいハムレット

本書を読んで生まれた西郷のイメージは、
【恰幅のいいハムレットのような男】
でした。

神経質で、目的を遂げるためならばどんな手でも使って成し遂げようとするものの、その過程で傷つき最後は倒れてしまう――シェークスピア悲劇に登場する王子です。

「生きるべきか、死ぬべきか。それが問題だ」
このハムレットの独白が、明治以降の西郷にはぴったりとあてはまります。

目的のためならばどんな手を使っても構わないし、うまい汁や権力にありつきたいならばそうすればいいのに、それができずに滅びてしまう。
従来の西郷像像とは違い、かなり複雑な一人の人間が浮かび上がってきます。

西郷はハムレットと同じく、死の影に取り憑かれているようにも思えます。
特に明治の世になると、その長い暗い影が彼の心を蝕んでいるように見えてなりません。

彼の破滅にもつながった行動は「死」。しかも戦場での死に取り憑かれていたのではないかとさえ思えます。

それを小説やドラマではなく、あくまで伝記で説得力のある裏付けをしていることに、本書の持つ強い力を感じます。
シェークスピアの悲劇のような、沈鬱な読み応えがある伝記です。

前半は複雑な政治劇。
後半は謎の多い悲劇。
前半後半を通してつきまとう、心身が傷つけられた西郷の姿。

本書を読み終えて浮かび上がってくる西郷の像は、決して明るい英雄像ではありません。

だからこそ読む価値があるとも言えます。

謎めいて陰影に富んだ、彼の人生をたどる一冊として、本書は現時点で最も価値のある西郷伝記といえるでしょう。

文:小檜山青




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【参考】





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