イラスト・富永商太

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殺伐とした戦乱にゾクゾクする一冊『戦国大名と国衆 (角川選書)』真田丸の興奮、再び!

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2016年大河ドラマ『真田丸』が面白かった一番の理由は何でしょう?

三谷幸喜氏のユニークな脚本が秀逸だった。
ユーモラスだった草刈正雄さんの真田昌幸はじめ、役者陣の好演も目立った。
演出も秀逸だった。
屋敷Pはじめ、スタッフも覚悟が出来ていた。

ともかく、ドラマとして出来がよい。

それは確かなことですが、最大の魅力は
【戦国時代とはこういうものだったのか!】
と、目を見開かされた部分もあったことじゃないでしょうか。

例えば鉄火起請など、禍々しい中世の風習が取り上げられたように、現代からは想像もつかない価値観に触れられたことです。

その理由を知るために読みたい本。

それは、あのドラマの時代考証を担当した
平山優氏
黒田基樹氏
丸島和洋氏
の著書『戦国大名と国衆 (角川選書)』に他なりません。

 

どうして真田信繁が主役になれなかったのか?

『真田丸』で考えたいこと。
それは、真田信繁がなぜ歴史ある大河ドラマにおいて、これまで一度も主役にならなかったのか?ということです。

知名度、人気ともに、戦国時代のみならず日本史上屈指の人物であることは間違いない。
それでも抜擢されなかった。

真田信繁という人物を描くためには、時代が追い付いてなかったのかもしれない――。

江戸時代から『真田太平記』まで、彼を主役に据えた傑作は多数あるにも関わらず『真田丸』を見終えたあと痛感したのは、そのことでした。

真田幸村ではなく、信繁が主役と抜擢された2016年。
平成も終わりつつあり、時代変わっておりました。

いっぱしの社会人の証となるマイホーム(城)やマイカー(名馬)はおろか、妻子すら持てない平成の世。
戦国時代ならば、天下人にも大名にもなれない、そんな武将や浪人のような世代が社会に溢れていた。
そんな時代だったからではないでしょうか。

かつての大河ドラマの戦国モノといえば、一国一城の主となり、優しい妻子に囲まれてハッピーエンドを迎えたもの。
そんな時代から見れば真田信繁は破滅型であり、受け入れがたかったのかもしれません。

 

そして研究がそこにはある

むろん要因は社会の変化だけではありません。
研究成果も、真田信繁を語る上で不足していた気がします。

平山氏の新刊を読んで感じたことは、まさにそこなのです。

『真田丸』を見ながら、『真田太平記』を思い出して、全然違うものだと驚かされました。
それに、真田一族というのも、こういうものだったのかと。

智謀に優れた一族であることくらい、もちろん知ってはおりました。
しかしそれだけではない、泥臭さがそこにあった。
生々しさ、と言い換えられましょうか。

戦国の武士って、こういうものだったんだっけ?
頭をひねってしまうこともある。

もっとカッコイイ、忠誠心が強くて、殿に必死になってついてゆく。
そういうイメージを抱く方が多かったでしょう。

しかし『真田丸』は違う。

真田昌幸は、武田勝頼の前で自分が武田家を支えると宣言したあと、もう「滅びる」とあっさり言い切るわけです。
それがあの真田昌幸の性格だと割り切ってよいものでしょうか?

あれ?
もしかして、私たちはクリーンアップした武士道の世界を見てきたのかな?
そう感じませんでしたか?

江戸時代以降、戦国時代のように謀叛を起こされたらばまずいという規範が強くなり、その教育が徹底されます。
そうなると、各大名家でも
「うちの家はこんなに君臣一丸となっておりました!」
という方向にクリーンアップしてゆくわけです。

『真田丸』は、こういう漂泊前の戦国武士の姿があった――それこそが魅力じゃないか、そう思うわけです。

 

今、時代が求める武士の像とは?

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亀田俊和氏の『観応の擾乱 - 室町幕府を二つに裂いた足利尊氏・直義兄弟の戦い』とか。

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こういうときの合言葉が、これです。

「『マッドマックス』感ある歴史の本で、なんかいいのない?」
「この間読んだアレ、火炎放射器を持ったモヒカン男が出てきそうな日本史本で熱かったで!」

なんで『マッドマックス』か?
というと、もう美しき武士道、整然とした歴史には飽き飽きなんですよね。

だからこそヒャッハー感に溢れたものを欲してしまう……禁断症状かもしれないんですな。

『真田丸』に熱狂的な目線を向けたファンの中にも、こういう考えの人は結構いると思いますね。
真田昌幸が裏切りを行うたびに、ガッツポーズをしてしまうタイプです。

 

リアル戦国は複雑な世界だった

そんな『真田丸』の世界を、歴史の裏付けをもって楽しめるようになるのが、本書です。

『武士の起源を解きあかす』を読んでいる時も痛感しましたが、こんな時代に生まれたくない……それに、戦国大名って大変なものだなと。

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あくまで本書は、平山氏の専門である武田氏を中心とした範囲です。

本書を読んでいくと、武田信玄や武田氏へのイメージが変貌してゆきます。

『信長の野望』ですと、武田氏の支配地域は、一色で塗りつぶされています。
ステータス画面でズラリと並んだ家臣たちは、命令をすれば素直に言うことを聞いてくれるはず。謀叛を起こすような家臣は、それこそ特別な松永久秀みたいな奴だけでしょ、という意識があるはずですが。

実際はそんなに、甘くない。
ゲームと比較すればそりゃそうだ、と言える話なのですけれども、ともかく複雑。
むしろパズルやモザイクのように、国衆がいる上に大名が存在する――そんな構図が見えて来ます。

そしてややこしいことに、「国衆とは、こういうものばかりなのです」とは言い切れない!色々なパターンがあるのです。

武田なんて認めないと抵抗しつつも、従うもの。
武田とがっちりと手を組み、むしろ後ろ盾にしつつ、勢力拡大を狙ったもの。
戦って抵抗しようとしたものの、うやむやになりつつ、結局従ったもの。

こうしたモザイクのような国衆の分析を見てゆくと、武田氏滅亡への過程も違ったものに見えて来るのです。

武田信玄は素晴らしいのに、勝頼には能力が足りなかったから?

そんな単純な話ではない。
戦国時代は複雑で、混沌としているのだ、と。

それがわかり、納得できる。
そんな歴史観の転換を噛みしめられるだけでも、本書は絶対に読むべきものだ、歴史書とはこうあるものだと勧めたくなるのです。

読み終えた後は、混沌たるモザイクが『真田丸』の世界観を構成していたのだとスッキリ!

視聴者から信頼できない『チャーミングだけどなんなんだコイツは?』と散々突っ込まれていた真田昌幸。
彼は別に異常性のある性格でも何でもなく、国衆としてはごく当たり前であったということが理解できるようになります。

むしろ、ああでなければ生き残れなかったのだと。

本書を読んで納得できたことは、東北戦国史後半部分でした。

本書は東北地方の戦国史には、まったく触れておりません。
それなのに、どうしてそこまで話が飛躍したかと言いますと、豊臣政権の台頭に対して東北大名が取った行動パターンが、武田氏に対する国衆のものと似通っている部分があると感じたからです。

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しかし、むしろ政宗は特異であり、秀吉の権力をうまく味方につけてこそ大きなチャンスだと思う大名もおりました。

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【国衆と大名】の関係性が、そのまま【大名と関白秀吉】になったかのようです。

どれが正解かなんて、見本も答えもない。
それを後世の人間が「プライドがない」だのなんだのと、批判することそのものが筋違いなんですね。

彼らは生き延びるため、自分の考えた最善の道を探っていたのだ――そう納得できます。

私は専門家でありません。
その理解が正しいかどうかは、そこはわかりません。あくまで私の感じたことに過ぎません。

それでもそう感じられたのは、本書を通じて戦国を生きた人々の思考ルーチンが理解できたからではないかと思います。

戦国時代を深く知りたい。
『真田丸』をもう一度、より深く丸かじりして味わいたい!

そんな人が本書を手に取らないことはありえないのではないか、そう薦めたい一冊です。

文:小檜山青

【参考】

 



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