オスマン帝国(オスマン朝)の版図/wikipediaより引用

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西洋でも東アジアでもなく~600年続いた『オスマン帝国 (中公新書)』書評

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連休中にオススメしたい歴史新書――知人からそう自信を持って推奨された一冊があります。

オスマン帝国-繁栄と衰亡の600年史 (中公新書)』です。

…………わかります。
皆さんの戸惑いが手に取るようにわかりますぞ。

戦国幕末史でもなく、西洋史でもなく、はたまた中国史でもない。

歴史好き日本人にとっても、かなりマイナー感のあるジャンル。
「オスマン帝国」関連本のドコがオススメなのか?
と、そんな偏見は今スグ捨てた方がよい!

兎にも角にも本書評を一読いただいてからご判断いただければ幸いです。

 

オスマン帝国? オスマントルコじゃなくって?

本書を手にして、まず皆さんが抱く疑問。
こうでしょう。

なぜ「オスマントルコ」ではないのか???
なぜ帝国なのか?

本書は、そのことをきっちりと説明します。

「オスマン帝国は、むしろ非トルコ系による支配である」

な、なんだってぇええええ!(✽ ゚д゚ ✽)

ここでハッとします。
私はどこまで、どの程度、オスマン帝国を知っていたのか。

実は何も知らなかったんでは?

考えてみれば、世界史で勉強してそれっきりかもしれず、本書の表紙を改めて見直してみました。

「繁栄と滅亡の600年史」

600年と来たもんです。
言われてみれば、とてつもなく長い。

実は私、以前、とある観光地で首をひねったことがありました。

【江戸幕府は世界屈指の長い政治体制】
と書かれていのです。

本当か?
本当に江戸時代は世界屈指なのか?

確かに鎌倉・室町と比べたらそうだろう。
しかし、範囲を【世界】に広げてしまったら、もっと安定した国もあったとあるはず。

と思ったらオスマン帝国は600年じゃん!
格が違うじゃん!

 

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他の国とは違って当然 まずは偏見を捨てて学んでみよう

本書を読んで痛感したことがあります。
オスマン帝国を語る上でのシステムを、我々がいかに誤解してきたか、ということです。

なぜ、そんな偏見が生まれてしまったのか?
それは、どうしたって西洋の目線を通して見てしまうからでしょう。

ざっと例を挙げてみましょう。

各項目 説明
イスラム教 キリスト教の目線を通して、一段低く、非合理なものとして見ていませんか?
宗教への寛容性 西洋諸国のように、夫婦で宗教が異なることがタブーとなりはしない。
キリスト教徒であるギリシャ系やウクライナ系の女性も、スルタンの子を産むことがありました。
ハレム 秩序はあったし、ルールもある。
それなのに、西洋の宮廷と比較して、安易に酒池肉林のようなものとして見ていませんか?
王子と母 母親が違っていても、王位継承順位に影響はさしてありません。
母親の身分もさして考慮されないため、奴隷が母親でも何ら障害はないのです
奴隷 マムルークはじめ、オスマン帝国の奴隷はローマ帝国や西洋諸国の奴隷とは異なります。
このことなくして、オスマン帝国を理解できません

偏見という厄介なフィルタを通してみると、野蛮とか、後進性のあらわれだとか、感じてしまうかもしれません。

まずは、その偏見を捨てること。
そこから始めなければ、何も得られるものはありません。

西洋史とも違う。
東アジア諸国とも違う。
このオスマン帝国ならではのルールを、本書を読みながら頭に叩き込みましょう!

 

東西がぶつかる国、魅力的なスルタンたち

オスマン帝国の魅力は、やはり東西がぶつかりあうことでしょう。

東からは「タタールのくびき」。
モンゴル、そして中国。

西にはロシアやコンスタンティノープル

戦士だって、キリスト教もいればトルコ系もいる。
敵だって、有名どころでは、ティムールや、ドラキュラ伯爵のモデルである「串刺し公」ことワラキア公ヴラド・ドラクルまで多種多様。

歴史の主役たるスルタンも魅力的で、文化政策に力を入れ、名君「聖者王」と称されるのがバヤズィト2世です。

バヤズィト2世/wikipediaより引用

そんな先代の宰相であれど容赦なく処刑し、「冷酷王」と呼ばれ畏怖されたセリム1世です。

セリム1世/wikipediaより引用

彼らを日本の戦国時代でたとえたら誰でしょう――。

織田信長
上杉謙信?

中国史であれば――。

曹操?
諸葛亮?

本書を読んでいると、自分が知っている歴史とスルタンたちを比較してどう評価するのか止まらなくなってきます。
歴史を学ぶ楽しみ。
そんな原点を思い出させてくれる、実に芳醇な一冊なのです。

いやぁ、新書でここまでマトめてくれるとは!

歴史はどこの国だからよいというものではないはず。
オスマン帝国だって、ものすごく魅力的。そんなごくごく当たり前のことが伝わって来ます。

なんとも豪華かつ壮麗な歴史なのです。

 

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冷静な筆力と歴史感が信頼できる

本書の魅力は、抑えていて冷静な語り口です。

残酷な事件や、衝撃的な展開もあります。
スルタンには、冷酷や壮麗といったあだ名もついています。

しかし、そのことを強調するわけではなく、冷静に書いていくのです。

極端な事件の意義、背景、最新の研究ではどう捉えているのか。
その辺をキッチリ説明してくれますので、偏見なく頭に入れることが可能です。

「600年を一冊でまとめること」の難しさを入れていることも、実に信頼感があります。

仕事や研究をしっかりこなす方こそ、【これ一冊でわかる】だの【すっきり網羅】だの、そういうイージーなことは書かないものです。

「悪妻」とされた妃への目線も、実に信頼感が持てます。
悪妻に罪をかぶせているのではないか、後世の誇張があるのではないか――そうワンクッションを置いているからこそ安心して読めるです。

物語と歴史研究は違う。
常にトーンダウンを考えねばならない。
そんな信頼感のあるスタンス。

この一冊は、間違いなく信頼できる。
これぞオスマン帝国を学ぶ上で、一冊目とするにふさわしい――そんな安心感があるんですね。

一人でも多くの方に読んでいただきたい。
自信をもって、そう勧めたい一冊です。

文:小檜山青

【参考】




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オスマン帝国-繁栄と衰亡の600年史 (中公新書)』小笠原弘幸

 



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