麒麟がくる感想あらすじ

麒麟がくる第32回 感想あらすじ視聴率「反撃の二百挺(ちょう)」

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信長包囲網

信長は、狙いを宿敵・朝倉義景に定め、摂津から兵を退き、近江に向かいました。

それを受け、義昭が着替えながら不満を漏らす。

ここはどうして着替えているのかわかりませんが、とりあえず、当時の貴人らしさが出ていてよいと思うのです。貴人は着替えを人任せにするから、かえって裸体への羞恥心がなくなるとかなんとか言いますね。

「信長があれほど脆いとは思わなかった!」

本願寺の和議との文を書いて欲しいと頼んできたとか。自分の参陣の意味が何なのか。そう愚痴を言う義昭に、摂津晴門が「前代未聞のだらしなさ」とまで言い切ります。

これは義昭が悪いようで、晴門の術中にはまるようで、信長にも反省点はあるかもしれませんよ……。

考えがあるにせよ、もっとちゃんと説明しよう!

本願寺との和議どころじゃない。そういうめんどくさいことは公方様にやらせてしまおう。そういう手抜き発想をうっすらと感じるけれども、そこは空気を読まんといかんすね。

ともあれ、信長包囲網形成がなされてゆく。

朝倉、浅井、比叡山、武田信玄上杉謙信……そうやって信長を潰し、都の安寧をはかると晴門は言い出します。

今年は信長包囲網形成の説明がわかりやすくてよいですね。

そしてそこへ、駒がやってきます。

その駒に「駒様、駒様」と猫撫で声をあげる摂津晴門のいやらしさよ。

片岡鶴太郎さんが素晴らしいことは確かなのですが、彼はいわば【凡庸な悪】。取るに足らない戦災孤児だった駒でも、名声がついてしまったら持ち上げて擦り寄ってくる、そんな世間の嫌らしさが凝縮されています。

彼女は、自分は自分で何も変わらないと思いたい。そういう謙虚さの塊のような人。中身が変わらないのに、周囲の見る目が変わることに戸惑っています。

視聴者からもいろいろ言われますが、性格的に調子に乗るということとは無縁でしょう。駒に無事の帰還を喜ばれて、義昭は摂津からの土産だと小さな籠を取り出します。

珍しい小さな蜻蛉だそうです。

蛍の思い出があればこその虫かもしれませんが、この蜻蛉だけでもいろいろと残念な義昭が見えてきます。

虫だろうと、命あるものを土産にするようでは、仏門の教えをどこかに忘れてきたかのようではある。

あまりに幼い。虫ならば蜻蛉の模様入りの反物や工芸品ではいけないのか。

ピュアはピュアでも、信長とは別の意味で危ういものとなってきました。

 

叡山の坊主ども

近江・坂本城では、僧兵が引き上げてゆく姿が映ります。

その直後に、また何やら呻いている信長の形相が。

三白眼で荒い息遣いになりつつ、うめきながら床の座布団を蹴り飛ばす。背中には、何をくくりつけているんだ?

この信長は、物理的に何かにぶつけないとストレス発散できないのでしょう。

見守るしかありません。奇声も唸り声も、変な顔も、荒い息遣いも、彼の個性です。

と、ここで誰かが来ます。

光秀でした。信長は怒りをぶつけます。

「何故だ、何故叡山の坊主どもは朝倉どもを匿う! ここまで追い詰めたのじゃ、あと一息で討ち果たせたのじゃ!」

光秀が僧兵どもが参っていたことを指摘すると、信長は悔しそうに言います。

「叡山へ一歩でも近づけば、5万の僧兵が立ち向かうと脅かしおった! 延暦寺の僧兵は一人一人が仏を背負って戦うゆえ、開山以来負けたことがない」

この信長には、比喩が絶望的に通じない……雪を花にたとえた和歌の意味がわからず、帰蝶に尋ねて呆れられたことがありました。

読解力が低いわけでもないし、教養がないわけでもない。ただ、比喩のような回りくどい表現が通じないのです。そういうところがAIのようで。

前述の曹操も、その点で際立ったところがある。彼は詩人としても名高く、文学史を塗り替えました。

どういうことか?
というと、それまでの詩は比喩、ファンタジックな表現が多かったのです。

それを曹操は、自分の目に写った様子や心情を写実的にズバズバと詩にしたところが斬新でした。ストレート過ぎるという評価も受けていますが、それこそが彼の個性です。

なんて書くとカッコいいかもしれませんが、彼らみたいなタイプは「嫌いなもんは嫌いだ!」とハッキリ言い切るから、敵を作りやすくもあります。絶望的なまでに、空気が読めないんですね。

信長はムキになって、神仏を尊ぶ心はわしも一緒、叡山に攻め入る時は仏を背負っていくと言った。

だから背中に仏像をくくりつけていたわけです。

染谷将太さんが『聖☆おにいさん』でブッダを演じたことは関係ないと思います。

そういうギャグじゃない、リュック状態の仏像に笑っている場合じゃない!

信長は恐ろしいことをしています。比喩やお世辞、冗談が通じない相手って、怖いわけです。

よくわからない経緯で相手の怨恨をかってしまうとか。

信じ込んだ挙句惨劇を招くとか。

そうなったらどうするのか?

信長はよくわからない実験精神に目覚めました。

 

比叡山を焼いて検証してみるか!

光秀のトークスキルのところで【科学的思考】に触れましたが、その考え方は

【観察】
【仮説】形成
【検証】

が基本となります。

光秀は幕府を相手に使った。家康も姉川で【観察】し、朝倉が取るに足らないと【仮説】を形成している。

信長は勝手に【検証】する気満々になっている。

そんなに仏の功徳が強いなら、比叡山を焼いて検証してみるか!

仏がそんなに素晴らしいなら、勝手に炎が消えるだろ?

最悪の発想といえばそうです。

光秀はそんな不穏を察知したのか、よい笑顔でこう言い切ります。

「仏は重うござりませぬか?」

「重い!」

信長もこれには心を開きます。

光秀が呆れていたら、きっとこうはならない。信長は理解されなくて寂しいから、光秀のような理解者が必要なのです。

信長は悔しそうに、叡山が朝倉を匿うこと、浅井が関わることの理由を求めています。

光秀はここで、信長が叡山から奪うものが多いからと【仮説】を述べます。

「わしが叡山から多くを奪う? 何をだ?」

「つまるところ、金ではありませぬか」

光秀は、信長の疑問に対して実のある答えを出しました。仏の功徳なんてよくわからんフワフワしたものでは、信長は納得できません。

さて、比叡山・延暦寺では――。

朝倉義景が座主にと、金子を差し出しております。

朝倉義景
朝倉義景は二度も信長を包囲しながらなぜ逆に滅ぼされてしまったのか

続きを見る

織田信長を討つ力を貸すことを条件に、天下平定の後には、畿内にお好みの土地を領地として差し上げると囁くのです。

そのうえで、叡山の屋根を黄金色にふきかえてご覧にいれるとまで言う。

高僧はそれを受け取り、座主様に伝えることを請け負います。

この金の輝きと、高僧の袈裟の毒々しいまでのうつくしさは何なのか?

貧しい人を救うどころか、欲に溺れた仏教の浅ましさが、画面からひしひしと伝わってきて圧巻です。

 

MVP:筒井順慶

すごく不思議だ。

なぜこんなに筒井順慶……よりにもよって筒井順慶のことばかり考えてしまうのか?

実は放送前から、順慶のことばかり考えていました。

奈良県の史跡めぐりをしたときの空気まで思い出して、不思議なものを味わいました。

私たちはなまじ結果を知っているから、彼を「数ターンで滅びそうな弱小大名(『信長の野望』史観)」と思うけれども。筒井康隆の作品を思い出したりもするけれども。

彼だって肉と血を持って大和の地を生き、天下のことに関わっていた。そんなごく当たり前のことを思い出すのです。

歴史ってそういうものだった。

国衆の息吹を感じた古文書や石碑を見たことを思い出さなくちゃ。

このドラマで光秀と交渉する筒井順慶には、小さな大名のしたたかさが詰まっていました。

歴史とは、こういう息吹があるからこそおもしろい!

そう思える見事な像でした。

駿河太郎さんの僧形、目の動かし方、声音。何もかもが説得力に満ちていました。

 

総評

見どころ満載の本作。

信長が毎週奇行の最大値を更新していて、笑いそうになるけれど、同時に私は悲しい。

信長はきっとつらい人生だろう。染谷将太さんは、そういう哀しさまで見せてくれます。

◆大河「麒麟がくる」 染谷将太の“仏リュック”と長谷川博己の苦笑い(→link

こうした描き方に、本作らしさと、今時の歴史劇の流れが見えてきます。

Amazonプライムで見られる『三国志 Secret of Three Kingdoms』がめっぽう面白い。

同作品では、司馬懿が曹操のことを、役割に応じて目の前の課題に全力で取り組んだ結果、天下を狙えるほど強くなったと語る場面があります。

曹操は一生懸命頑張った過程でやたらと周囲を破壊する。

コントロール苦手でオーバーキル傾向があるがために、「あいつは最低最悪で極悪非道! 人間のクズ!」と罵倒されまくるわけですが……頑張り屋さんなんですよ。

◆残念イケメン曹操の時代へ……(→link

本作の信長も、そういうコントロール苦手かつオーバーキル傾向持ちの頑張り屋さん。

ゆえにピュアなのでしょう。

「天下人に、俺はなる!」と目標を立てたわけではない。

ただ、課題をこなし、目の前に立ち塞がる敵を倒し続けた結果、天下人になっていた。

その過程は、今回幼い光秀が遠くを見通したくて木に登ったようなものかもしれない。

それが本人にとってはものすごくつらい、ストレスまみれであるとも本作は描いていきます。

織田信長になりたいだと?

なってみろ、滅茶苦茶しんどいから!

気がつけば極悪非道、最低の輩呼ばわりされているし、失うものが多過ぎるし、何がなんだかわからん……そういう悲しき覇王になるのです。

しかも、こういうタイプは神に救いを求めない。

本作の道三も、仏に答えを聞いても返ってこないと語っておりました。彼らは根拠なく何かを信じてすがるようなことができないから、全部自分の責任である、誹謗中傷はその通りだと受け止めます。

自分は酷い奴だ、批判されても仕方ない、受け止めてやる!

そう思っていたって、人間の心は痛む。傷つく。心から流した血まみれになって、それでも進む。

【創業】の英雄、天下人であることは全然楽しくないんだぞ……やれるもんならやってみろ!

高い志を持てというから、持った。目標に向かっていけというから、真っ直ぐそこへ進んだ。そのためには強くあれというから、強くなった。勝てば喜ばれるから、勝ち続けようとした。

それなのに、嗚呼、それなのに、そうすればそうするほど、嫌われて、憎まれて、悪人だと言われてしまうのはなぜだろう?

どうしてこんなにつらいのだろう!

そういう業の深さを描いてこそ、今世紀の歴史劇なのでしょう。

人間は、物事を単純化したがります。

悪い奴は妊婦の腹を裂き、酒池肉林をやらかす――そういう露骨な悪人像ならば、まだしも納得がいきます。

だからこそ、しつこく何度も、この手の逸話が再利用される。

でも、ただ一生懸命なだけで、そのコントロールができないために、世の中を変えるために過激なことをしたとなれば、なかなか評価が難しくなります。

実力はたっぷりある。鍛え上げることも怠らない。

強くなりすぎて、目標に向かって邁進するだけで、周囲が傷つき倒れていき、恨みをかってしまう。

不器用で、空気が読めなくて、周囲を説得することもできない。

そういう英雄像に、最新の知見で人類は近づいてきた。

そんな手応えを感じる曹操なり、織田信長なりを見てしまい、考えることが多い現実です。

※関連noteはこちらから!(→link

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【参考】
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