麒麟がくる感想あらすじ

麒麟がくる第40回 感想あらすじ視聴率「松永久秀の平蜘蛛(ひらぐも)」

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ワシは本願寺につく!

久秀と同様の嘆きは、歴史上、他にもあります。

典型例がナポレオンでしょう。

フランス革命をして大騒ぎをして、身分なんてないと言いながら、皇帝になってどうするつもりじゃい! イギリス人あたりは当時からそう突っ込んでいました。

それでもフランスは、ナポレオンのカリスマに酔いしれてはいた。そこに亀裂が入って行ったのは、糟糠の妻たるジョゼフィーヌと別れたあたりからと指摘されます。

気配り上手なジョゼフィーヌ自身が、ナポレオンの精神安定によい作用を果たしたとはされています。

のみならず、ジョゼフィーヌは断頭台送りになりかけたこともある、革命が生んだ象徴的な皇后でした。

それが、マリー・アントワネットと同じオーストリアから皇后を迎えるって?

どういうことだ?

革命を忘れたのか?

そういう不満が鬱積してゆく。

かくして、ナポレオンは失墜へ向かってゆくのです。

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人間は改革を求めるようで、迷いがあるし、旧来の価値観との調整もはかる。なかなか踏み切れないものです。

その踊り場で迷うような情勢に、ついていけずに絶望する人々はいる。

人間の本質が詰まった怒りを久秀は炸裂させます。

光秀は久秀に、信長には信長の考えがあると言おうとするも、こうなったら通じない。

「もうよい、わしは決めたのじゃ! わしは寝返る。本願寺につくことにした。本願寺はわしに大和一国を任せると言うておる。それゆえ寝返るのじゃ!」

光秀は苦しい。

「松永様が寝返るとなれば、私は松永様と戦うことになります」

そう返すと、それ故呼んだと久秀は言う。

 


平蜘蛛を渡してもよい

久秀は光秀に見せておきたいものがあると続けます。

それは命の次に大事な平蜘蛛という茶道具、天下一の名物です。信長も欲しがっていて、これさえ持てば天下一の物持ちとなると考えているのだとか。

久秀は、意地でも信長へ渡す気にはならないと言い切る。

「もしやむなく渡すことがあるとすれば、十兵衛、そなたなら渡してもよい」

久秀は、光秀と戦うのは本意ではないと言う。光秀とだけは戦いたくない。初めて堺の鉄砲屋で会った時から今日まで、頼もしき武士と思ってきた。

戦えばそんな光秀を討つかもしれない。自分が討たれるかもしれない。

光秀は私も戦いたくはないと返します。そのうえで、陣を抜けたことを、信長に命を賭けてでも取りなすと言い切ります。

「それ故、どうか寝返ることだけはやめていただきたい! どうかこの通りだ!」

「そうはいかん、わしにも意地がある。見ろこの釜を、これはわしじゃ 天下一の名物なのじゃ! そなたに討たれたとしても釜は生き残る! そなたの手の中で生き続ける! それでよいと思うたのじゃ!」

光秀は叫ぶしかない。

げせぬ! げせぬ! げせぬ!

久秀は酒を飲めと言い、茶釜を太夫に預けておくと言います。

久秀が負ければ光秀のもの。久秀が勝てば、その手に戻る。いいな、わかったな。そう念押しする。

「平蜘蛛など欲しくない! 戦などしたくない!」

そう叫ぶ光秀には……道三のもとで戦っていた若侍時代のような、若い嘆きがある。金ヶ崎の退き口では「目指すもののためには戦わねばならぬ」と言っていたのに。

変わる世のために戦っていたのに、麒麟がくる世を信じていたのに、そんなことはなく親しい誰かの屍が積み上がってゆくばかり。

光秀の精神が壊れてゆきます。

そしてこの秋、松永久秀は信貴山城で挙兵しました。

本願寺、上杉謙信と連携し、反信長の戦いに身を投じたのです。大和を押さえ、謙信を京に迎えるために戦い始めます。

「信長、恐るるに足らず!」

そう叱咤する久秀。

けれども優れた観察眼を持つ彼が本気でそう思っているはずがない。己の美学のためだけに滅びようとする、おそろしい破滅がそこにはあります。

信長は嫡男・織田信忠を総大将として、大軍を大和に送り込みました。

佐久間信盛が、信長からの密命を光秀に伝えます。

この戦に勝ち、松永が命乞いをしてきたら許してやってもいい。

その引き換えに、松永の所有する茶道具を無傷で渡すこと。なかんずく平蜘蛛を。さもなくば裏切りの見せしめに、磔にして殺せ。

信盛は困惑したようにそう言います。

どうやら殿(信長)はこのころ、安土城の天守を作ること、茶道具を集めることにご執心の様子。この信盛の言葉から平蜘蛛の重要性がわかるのですが……。

そこへ細川藤孝が嫡男・忠興を連れてやってきました。

なんでも挨拶をしたがっているとか。片岡城攻めが見事であったと褒められ、望月歩さんの忠興はこう返します。

「明智様からお褒めいただくのは、無上の誉れにございます。是非是非参陣にお加えいただきとうございます」

これはよい貴公子ぶりではある。

宣教師から酷い伝え方をされ、最近ではインターネット経由での影響もあり、ともかく危険人物という印象が強い細川忠興ではありますが、本来は風流で智勇兼備な人物ではあるのです。

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本作のよいところとして、藤孝と忠興像も深みを増した点があると思えます。

今までは藤孝が育児失敗でもしたのかと思えますが、本作の藤孝を見ていると忠興がややこしい性格になる理由もわかるような気がします。

 


久秀「げに何ごとも一炊の夢……」

そして十月十日――。

松永はどこじゃ!

探せ!

そんな怒号が響く中、久秀は茶道具に油を掛けていました。そして家臣を前にこう宣言します。

「よいか、わしの首はあの箱に入れ、名物とともに焼き払え」

「はっ!」

「げに何ごとも一炊の夢……」

短刀の鞘を投げ、死装束に着替えることもなく、叫びながら腹を切る久秀。

「南無三宝!」

そう叫ぶ久秀に介錯の刃が振り下ろされ、彼は散るのでした。

演じる吉田鋼太郎さんは「爆死しないことが残念」とは言いますが、その死に様は、セリフ、所作、演出、何もかもが素晴らしく見応え十分でした。

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「一炊の夢」とは、まさしく松永久秀らしい言葉でしょう。

粟の粥が炊き上がるほど短い時間の夢ということ。

趙の時代、盧生(ろせい)という立身出世を願う青年が、邯鄲(かんたん)で夢をかなえる枕を借りて眠りました。

素晴らしい妻を娶り、ピンチに陥ることがあっても、最終的には立身出世を果たす夢――願いが叶ったと思って目覚めたところ、まだ炊いている粥すらできていない、そんな短時間であったという話です。

久秀の人生もまた、儚い夢のようではあった。そう振り返る圧巻の場面です。

同じく自分の信念に殉じた死ということでは、三淵藤英との対比も見事でした。

あちらが白い百合が落ちるような静かな切腹ならば、こちらは毒々しい色の赤黒い薔薇が散るような……最期まで、自分の生死を演出し切った、そんな松永久秀の死でした。

松永久秀は「戦国最大の梟雄」と呼ばれ、『信長の野望』由来の「ギリワン」という名前すらあります。

けれども、それはそれで久秀の才能かもしれないと思えるのです。

悪名は悪名でも、とびきり魅力的ではある。唯一無二の名を残し、ギラギラとした輝きを見せる人物になった。これはこれで、人の生き死にとしてはありだと思わせる。

ものすごいものを見せられました。

 

信長は安土城で泣いていた

信忠たちは勝鬨をあげた。

けれども、建築中の安土城では、信長が号泣しています。

悲しみ。

悔しさ。

情けなさ。

理解されないこと。

圧倒的な孤独。

いろいろな感情が入り混じった涙を信長は流しています。染谷将太さんだからこそ、そう思わせるあまりに幼い泣き顔です。

NHKのVFXもこなれてきました。

安土城の場面は、そのひとつの極みだと思えます。遠景、そして大広間。壮麗な広さと豪奢さがあって眼福そのもの。かつては、あまりにお粗末で立派な建物に見えない、せいぜい旅館に見えてしまうセットやVFXの使い方にさんざん文句を書きましたが、そういう過ちは克服したようです。

そんな壮麗な城を光秀が歩いていきます。

待っていたのは帰蝶でした。

「帰蝶様、お久しうございます」

「久しいのう」

帰蝶は光秀の噂は聞いていると語ります。戦が続いて難儀していると。

光秀が信長について尋ねると、向こうで泣いておられると言います。

近頃、時折泣いているようです。

此度の理由は何であろう?

松永殿の死を悼んでおられるのか?

松永殿の数多の名品があのこの様になったことを嘆いておられるのか?

そして、しみじみと言います。

「このごろ、殿のお気持ちが私にもようわからぬ……」

「帰蝶様がおわかりにならぬのなら、誰にもわかりませぬな」

帰蝶も、光秀も、信長を突き放してしまった。

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