『おんな城主 直虎 完全版 第壱集 [Blu-ray]』/amazonより引用

おんな城主直虎感想あらすじ

『おんな城主 直虎』感想レビュー第5回「亀之丞帰る」 凡人たちの“非風非幡”だからこそ

 


凛々しき若武者が井伊谷に帰ってきた!

そして稲穂が揺れる井伊谷の秋。馬にまたがった若武者がついにやって来ます。
幼いころの繊細さと爽やかさはそのまま残し、蒲柳の質を克服して精悍さを身につけたという、まさしく理想の青年となった亀之丞。これは次郎でなくとも、皆大喜びですね。これが次郎の待ち続けた理想の幼なじみであり、さらにあの井伊直政の父です。説得力があります。

希望の星が帰還したことにはしゃぐ井伊家の面々。気になる点は、もういい歳なのに前髪を残し、まだ元服していない点です。
これはわざとであり、元服は井伊谷ですると決めていたためなのでした。昨年末から気になっていたこの分厚い前髪が、イケメン演出ではなくてちゃんとした意味があってよかったと思います。安心しました。

今では弓術が得意という亀之丞は、龍潭寺で拳法の型を稽古しています。そこへ山ごもりから戻った次郎がそれと気づかず帰って来ます。
亀之丞に気づかず会話していた次郎は「動揺せずに会える気が」と言ったあと、相手の正体に気づきます。ズキュウウウウウン!
漫画ならそんな擬音が入りそうな場面です。ここで叫ぶでも、笑うのでもなく、次郎は緊張と感激のあまりぐたっと突っ伏して涙ぐんでしまいます。なかなかかわいいリアクションです。こちらが『かわいいな』と思って見ているとなぜかハードボイルドな雰囲気を漂わせた傑山宗俊が腕組みしながら監視しています。熱い血とハートを持つ二人の間に間違いがないよう、密かに見守る傑山。お役目ご苦労様です。

そのあと二人(と傑山)は、井伊家の井戸のそばへと移動。亀之丞はさわやかに、「おまえが俺の竜宮小僧になると言ってくれて嬉しい。這いつくばってでも井伊谷に帰ろうと思った。熱が出た時も、追っ手に斬られそうになった時も、必ず生きて帰っておとわに会うと思っていた……」と言います。
これは完全に少女漫画の世界! 勇敢な美丈夫である井伊直政の父であり、ヒロインのあこがれの幼なじみであり、井伊家の希望の星である亀之丞を、無理なく演じる三浦春馬さんの圧倒的な説得力を感じますね。これがイケメンの力か……。

次郎は自分は出家の身だから、妻を娶り立派な跡継ぎになって欲しいと答えます。しかし亀之丞は、還俗して妻になれと真剣なまなざしで、
「俺は、おとわと一緒になるつもりだ」
と語るのでした。
この一部始終を傑山は………見ていた!?

 


MVP:小野政直

井伊家を思い、苦渋の決断として佐名を差しだしたのだと苦悩する姿は演技だった、と見せかけて。そうして強がる姿こそ演技ではないだろうか、と思わせました。
この直前の次郎の台詞もあるため、彼が結局何を考えていたのか、どこまでが演技でどこからが本心なのか、わからないままなのです。それは彼自身もそうなのかもしれません。そんな父の辛い心のうちを、実の息子すら理解できないもどかしさ、同じ道を歩まねばならない息子への憐れみ。深読みすればどこまでも深く読める、魅力のある人物でした。

井伊家が今川の支配下にあるからには、誰かがその間を取り持たねばなりません。
しかしそうすればするほど、憎まれ役になります。その役回りに染まりきってしまったのか、割り切ってそう演じていたのか。板挟みの辛い立場は、息子・政次の代にも引き継がれてゆくのでしょう。

 


総評

本格的な本役交替を果たした今回ですが、本作の持つパワーとポテンシャルがいかんなく発揮されたすごい回だったと思います。
初回からじわじわと感じていた「珍味」が完全に軌道に乗り、もはや戸惑うことなく笑いましたね。瀬名の般若面、竹千代の早回し、次郎の妄想夢まではなんとかこらえたものの、チラチラとさりげなくヒロインと幼なじみのラブシーンを見守る傑山にこらえきれず、腹をかかえて爆笑してしまいました。

今年の大河はいろいろな意味でおそろしい作品だと思います。怒りを般若面で表現する、少女漫画風の妄想。ある意味こんなベタな演出を大真面目にやるのかという場面を、大河という枠で本当にやってしまうあたり、いい意味で突き抜けていると感じました。

そういうネタとしての部分だけではなく、ドラマそのもののポテンシャルの高さも感じました。
主人公の次郎は平均以上の聡明さや理性はあると思いますが、現時点ではその程度です。歴史を大転換するような革命児では決してありませんし、出家していてしかも女性です。彼女の見る範囲は限られていて、その視点から話を動かすとどうしても歴史の流れがわかりにくくなります。

ところが本作は、甲相駿三国同盟という歴史上のイベントが彼女の世界に与えてゆく影響までちゃんと自然にプロットに取り入れています。
同盟の結果として今川や武田の勢力図が変わり、結果として亀之丞が帰還できるようになり、そして主人公の運命をも左右する。この流れが自然でわかりやすいのです。昨年の天正壬午の乱のあたりで感じたのと同じ、ポテンシャルの高さを感じます。こういう歴史上のイベントを綺麗に自然に組み込めるのは、脚本家がきっちりと資料や史料を読み込み、年表を作り、計画的にプロットを組み立てている証拠です。

そういう歴史劇としての部分だけではなく、エンタメとしての力も発揮されていました。
私は一昨年「イケメン大河だのなんだの言って塾生にぞろぞろイケメンを揃えたところで、同時にフレームインできる顔は二つくらいなんだから、無意味だ」的なことを書いた記憶があります。制作側がそれを読んだとは思いませんが、今年はフレームインするメインの男性役を、個性が豊かでかつ性格が対称的な鶴亀コンビに絞ったことで、王道少女漫画的に仕上がってきています。
一昨年は流行の表面だけをなぞった少女漫画風味でした。しかし今年は、「少女漫画を何十年間も読み続けた、我こそはと胸を張る少女漫画好きが揃い、じっくりコトコト煮込んで作った」職人技のような風格すら感じます。
少女漫画風がダメなわけではなく、うわべだけを適当に真似をしたことがダメなのです。

そしてこれが、本作の一番の魅力となりうる要素なのですが、「非風非幡」の例え話に象徴されるゆらぎの感覚です。見る側の感覚によって同じ事実も違って見える、大胆でしょうもないギャグの一方で、そんな繊細な感覚を本作は突きつけてきます。昨年の主役である真田一族は、騙すことや策を用いることに程度の差はあれ、痛みを感じない「傑物」たちでした。今年は動くたびに痛みや抵抗を感じ、策を用いるたびに傷つき消耗してゆく、昨年とは違う「凡人」たちを描いているわけです。典型的な奸臣に見えた小野政直ですら、複雑で傷ついているように見えた今回の展開で、本作の魅力が見えてきました。

悩んで、恋して、迷って、苦しむ――。
そんな儚い人たちだからこそ、耐えぬく健気さや、踏まれてもたちあがる強さに感動できることもあるのでしょう。昨年よりも凡庸な人々を描くからこそ、生まれてくる魅力もあるのでしょう。本作の、野に咲く花のような健気な魅力が、だんだんとわかってきた気がします。


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著:武者震之助
絵:霜月けい

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【参考】
おんな城主直虎感想あらすじ
NHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』公式サイト(→link

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