『おんな城主 直虎 完全版 第壱集 [Blu-ray]』/amazonより引用

おんな城主直虎感想あらすじ

『おんな城主 直虎』感想レビュー第13回「城主はつらいよ」 小さくチマチマ? だが、それがいい

 


シブくて激辛! 借金に振り回されるおんな城主

直虎は徳政令を承諾するのですが、直之は井伊屋敷に戻ると「独断で決めるとは!」と激怒。
そこへ六左衛門が血相を変えて飛び込んできます。
「これでは井伊は滅びてしまいまする!」

抱えていた書類は、井伊家の莫大な借用書でした。
戦支度、戦死者遺族への支払いで、井伊家は大量に借金していたのです。桶狭間ショックは金銭面でも甚大なものがありました。第9回の桶狭間があっさりしていたと感じた視聴者も多いでしょうが、ボディブローのようにじわじわ聞いてきて、今回で「借金でもう潰れます」とつきつけてくるわけです。
今年の大河はシブくて激辛です。

しかもどうやら金を借りているのがこれまた、瀬戸方久です。そこへ、その方久がちょうどやって来たとのことです。

領主代替わり之挨拶に来た、瀬戸方久。福々しい丸顔の男、これはどこかで……第2回で家出したおとわ(幼い頃の直虎)を助けたあばら屋の男(解死人)です。

 


あばら屋の男がわらしべ長者のように成り上がっていた

ここで方久は、今までのサクセスストーリーを語ります。

おとわを助けた御礼金を元手に、わらしべ長者のように成り上がった過程が、アニメで解説されます。彼はビジネスセンス抜群であったようで、儲けの臭いを嗅ぎつける嗅覚の持ち主でした。
昨年の千利休はビジネスチャンスのために豊臣秀吉に北条攻めをするように焚きつけ、そのことで戦を回避したかった石田三成と大谷吉継の怒りを買いました。

昨年に引き続き「合戦はビジネスチャンス」と今年も説明します。兵糧や武器を売り買いし、さらには井伊家のように戦支度等で金がかかる領主相手に金を貸すことで、どんどん金が儲かるわけです。ここでは省略されましたが、このビジネスには戦場で乱取りした人を売りさばく、人身売買も含まれています。
「死の商人」は昔からいるわけです。方久は「銭の犬」と自称し、直虎も笑ってはおりますが、彼は生き血をすする相当なワルですぞ。

直虎は、方久とは昔なじみであることでほだされ、さらには立派な硯をもらい喜んでいますが、領主として相当チョロいのでは? 昨年の石田三成大谷吉継ならば、確実に警戒心を抱いたことでしょう。

ここで直虎は、瀬戸村の借金棒引き=徳政令についていきなり方久に頼みこみます。方久はひきつった笑顔で「いいですよ。井伊家の借金を今ここで耳を揃えてお返しいただけるなら」と返します。そんなことは無理だと直虎が言うと、「無理じゃないですよ。井伊家の屋敷と村の一つ二つくれればできます」と返す方久。

そんなことをしたら井伊家は潰れると直虎が渋ると「だからそうなんだよ。徳政令なんて出したら井伊家潰れるよ」と返すわけです。

 


「徳政令を出すとしたら、三十年かけても返済は無理」

呆然とする直虎の一方で、新たなカモを見つけたと鼻をひくつかせる方久。主人公をここまではっきりと「コイツは甘ちゃんでどうしようもないド素人です」と描く大河、斬新だと思います。
主人公はここから成長するんです。

この夜、直虎らは井伊家の借金を洗い直し「徳政令を出すとしたら、三十年かけても返済は無理」という非情な結論に至ります。

さらには翌朝「うちの村にも徳政令を出してください」と祝田村の領民たちがやって来ます。
血が一滴も流れない、内政パートだけなのにこの胃が痛くなってくるような絶望感……直虎は、徳政令は出せないと言うしかありません。落胆する領民たち。この時代の領民は家のためなら仕方ないとあきらめたりしません。直虎にも容赦なく反論します。下手に徳政令なんて出さねばよかったのに、出だしから大きく失敗してしまいます。

そこへ政次がやって来て「これでもまだ領主を続けるつもりですか」と聞いてきます。
直虎は「お前を後見にだけはしないからな!」と言い張り、去ってゆきます。

直虎にここまで言われた政次は、井戸端で刀を抜き、型を披露しております。この場面の所作はかなり整っていて迫力もあり、刀を収める動作も綺麗です。高橋一生さんは殺陣もできるわけで、今後も大河や時代劇に是非とも出続けていただきたいものです。

 

今川家が勢いを盛り返し、ますます追い込まれる直虎の次の手は?

その頃、松平元康一向一揆によって勢力伸張ができなくなっておりました。

一方で今川は勢いを盛り返し、今川氏真も蹴鞠を楽しむ余裕まで出てきました。氏真の蹴鞠は今川家の勢いバロメーターになっています。政次から「直虎が領主だが、還俗ではなく名乗りを変えただけと井伊側は主張している井伊家の事情を聞いた今川家側は「また井伊がルール違反か」と呆れています。
寿桂尼から今川のために働くつもりだろうな、と釘を刺された政次は「一つ考えがあります」と答えるのでした。

とぼとぼと馬を曳いて領内を歩く直虎。領民から饅頭を差しだされた直虎は、その荒れた手に触れて「我等はこの手に支えられているのだ。捨て置いてはならん」と決意を新たにします。
直虎は方久の屋敷に向かうと、借金を棒引きにはせずとも、返済期限を延ばして欲しい、耕せない土地に価値はないはずだと頼みこみます。

しかし方久はそっけなく「土地が欲しい人はいますよ。今川とか、小野とか。そりゃ私も井伊家には恩義がありますけど、こちらもビジネスですから」と返すばかり。直虎は百姓のことを考えてくれと言いますが、方久は百姓などどうでもいいのだと言います。直虎は百姓あっての領主だから、と言うばかり。方久は「ならば百姓が儲かるように耕させてみたら? 米の収穫高を増やすとか、米だけではなく儲けが出る作物を育てるとか」と助け船を出します。

「それじゃ、方久!」
ピンときた直虎は、その考えを南渓に相談します。それだけの力があるのだからやってみろと背中を押す南渓に、「力を持つことは怖いことなのだ」としみじみ語る直虎。南渓は「自灯明」の教えで直虎を励まします。

 


解死人時代を切り抜け、銭の力で家臣に連なる商人の覚悟

力を持つ責任、恐ろしさ。それを自覚し決意を固める直虎。家臣たちと方久を呼び出すと、徳政令を出すかわりに、ある政策を打ち出します。
「瀬戸方久を家臣にし、瀬戸・祝田をその領地とする」
このことにより、方久はこの二村の年貢を収入とし、二村の借金返済はその間猶予とされるわけです。

方久だけではなく、村の領民にとっても美味しい話です。さらに方久の手腕でもって休耕地を利用した新たな作物生産も始めます。
これは素晴らしい策ですが、「こんな素性不明の奴を家臣にするなんて!」
と、直之が反発。直虎は「それを言うなら井伊家初代も素性不明の捨て子伝説の人だ」と返します。頼りなかったヒロインですが、元々聡明なのだとわかるやりとりです。

直之の反発はともかくとして「瀬戸は新野の娘たちの所領、祝田はしのの所領。それをいきなり譲るとは」と困惑する六左衛門の言い分はもっともです。しのには虎松誕生時に小野から戻された所領があると直虎は言いますが、六左衛門は「祝田はしのにとっては直親様と過ごした思い出の土地です」と食い下がります。
「でも最近は、しのたちも祝田に戻っていないわけだし。思い出の土地ってほどじゃあないでしょう」
直虎はそう言います。六左衛門は「そんな情のない言葉を(妹に)伝えられませぬ!」と立ち去ってしまいます。

確かにしのが聞いたら激怒するのは必至。六左衛門の戸惑いも理解できます。直虎は六左衛門を追いかけようとして、転んでしまいます。そこを助け起こそうと手を差しだすのが政次ですが、直虎はその手を執ろうとはしません。

直虎は方久に「酷いやりとりを聞かせてしまった」と謝ります。方久は「慣れております。人並みに扱われなかった自分が今ここにこうしているのは銭の力です。銭は力じゃ」と返します。ここの方久、目が笑っていません。
それは彼の解死人時代を思い出すと想像できます。さぞや酷い目にあい、そしてそれが銭のおかげでひっくりかえったことを、彼は生涯忘れないのでしょう。瀬戸村から銭が湧いてきたら皆掌を返すはずだ、石頭どもの鼻を明かしてあげましょう、と直虎に語る方久でした。

しかしことはそうはおさまりません。
なんと瀬戸村と祝田村の領主たちが、井伊を飛び越え今川に直接徳政令を出すように願い出たというのです。一体どうしてこうなったかと戸惑う直虎。ここで政次が六左衛門、直之に声を掛けます。
これはもしかすると、寿桂尼に語っていた政次の策なのでしょうか。

 

MVP:瀬戸方久

一見愉快な商人のようで、解死人時代に受けた仕打ちを忘れていない、そして「死の商人」としての暗さをのぞかせる方久。福々しい丸顔からちらりと見え隠れする黒さがたまりません。彼のこれまでの道のりはおもしろおかしくアニメで表現されていますが、その過程は血の臭いがすることでしょう。

 


総評

今年は小さな家の騒動をちまちまやっているだけ、戦も少ないという声も聞こえてきます。
「だがそれがいい!」
のではないでしょうか。
内政パート、しかも借金で首が回らない状況をここまで丁寧に描くことに、私は好感しか感じることができません。

鉄砲や槍で死ぬ人間より、銭で死ぬ人間の方が実のところ多いのですから。「徳政令」、「逃散」といった日本史用語がリアリティをもって迫って来ます。経理担当者が日曜夜八時にこんなものを見せたらば胃がキリキリと痛むことでしょうけれども。

主人公の有能さと駄目な部分をしっかりと逃げずに描くところも好感が増します。直虎の甘さ、いきなり徳政令を出してしまう「お調子もの」の部分をじっくりと描いてきて、最後に瀬戸方久登用で「一石三鳥」の策を出すあたり、とてもうまい構成だと思いました。
直虎はまだまだ城主一年生ですが、秘めた能力の持ち主です。

それにしても今年のスタッフは誠意にあふれています。
内政パートを渋く丁寧に描いたところで、杜撰な合戦場面の方が盛り上がったと言われてしまうものです。女性主人公の時点で「どうせスイーツだろう」と言われるハンデがあり、地方を描く時点で「ちまちましている」と言われるハンデがあります。
そういうマイナスの状況でも、きっちりと仕事をこなし、面白くてためになるドラマを作ろうと今年は奮闘しています。仕事人としての誇りを感じる作風です。

来週もこの誠実なドラマを楽しみに鑑賞したいと思います!!


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【参考】
おんな城主直虎感想あらすじ
NHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』公式サイト(→link

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