『おんな城主 直虎 完全版 第壱集 [Blu-ray]』/amazonより引用

おんな城主直虎感想あらすじ

『おんな城主 直虎』感想レビュー第35回「蘇えりし者たち」

「大名は蹴鞠で雌雄を決すればいいと思うのじゃ!」

掛川城では、家康と氏真の対話が実現しました。
なぜ和睦するのかと尋ねる氏真に、家康は自分たちもすり減っているから、好きで戦をしているわけではないから、と語ります。

この家康像は、昨年真田信繁相手にしみじみと「戦は嫌いじゃ」と語っていた家康像と連続性があります。
戦は嫌い。それでも戦は得意。
そんな家康だからこそ泰平の世をのちにもたらすこととなるのでしょう。彼の人格形成の一端が見てとれます。

戦が嫌いだ。
それは氏真も同じ気持ちでした。
「大名は蹴鞠で雌雄を決すればいいと思うのじゃ! よいと思わぬか? 揉め事があれば戦のかわりに蹴鞠で勝負を決するのじゃ。それならば人は死なぬ、馬も死なぬ、兵糧もいらぬ。人も銭もかからん」
と、突拍子もないことを言い出す氏真。

笑いを取るつもりかと思っていると、なかなか深い言葉が続きます。
「ところがそれでも戦になる。蹴鞠のうまい者をめぐり争いが起こり……また同じことが起こる」

いやあ、シビれますね。この台詞。自分の得意分野なら一番になれるという強がりかと思ったら、「何故人類は戦争をやめられないのか?」というような根源的な話に流れてゆきます。

素晴らしい。森下氏のセンスに脱帽しかありません。
それに現在のワールドカップのようなスポーツイベントには国威発揚という代理戦争のような部分もあるわけです。本質を突いた台詞をボディブローのようにかます森下氏。素晴らしいと何度言っても足りません。

そして氏真は感激し、家康に感謝の意を示します。
「和睦はありがたいぞ、三河守殿!」
「はい、太守様」

幼なじみならではのヤリトリですよね。いやぁ、本当に、掛川城まで氏真を追い詰めたのが家康で本当によかったですね。
これが武田信玄だったらどうなっていたか……。
こういう家康の姿勢は、昨年の『真田丸』で「武田が滅びたというのに、ちっとも嬉しくないのは何故じゃ」とぼやく家康とも連続性を感じさせるのでした。

 

子供たちが囲碁をスタート! その打ち筋は政次であった

そのころ、龍潭寺では昊天が薬作りに励んでいました。癒やし系僧侶ですね。
昊天は西国で薬学を学んだのだと、傑山が方久に説明します。

薬研で薬を作る昊天を見て、方久は何かひらめいたようです。
「カーン……」
製薬ビジネスに活路を見いだしたのでしょうか。

龍雲丸は直虎に体を洗ってもらいながら、実はさして井伊は負けてはいないのではないかと語ります。家名と土地は失ったものの、皆は生きているし、民百姓は戦に動員されていない、と。

「しかし、但馬を失うてしまった」
そうつぶやく直虎。

そこへ中野直之が顔を出します。隠し里の皆から手紙を預かってきたという直之です。
なんだか今では彼の顔を見るとホッとしますね。

井伊の皆は節約しつつもなんとか暮らしていました。
祐椿尼は薪割り、なつは台所仕事に励んでいるとのこと。
小野政次の甥・亥之助と中野直之の弟・直久は小石を拾い、囲碁をしだしたそうです。二人とも手筋が政次と同じため、勝負がなかなかつかないのです。

囲碁を通じて政次がそこにいるようで、なつたちは泣き出しました。悲しくて、嬉しい。そんな復活です。

 

政次のモノマネブーム到来 少しずつ回復していく井伊家の人々

それからは井伊の人々の間で政次ブームが起こります。
不謹慎ながらモノマネが流行しているとのこと。悲しみを笑えるようになった、たくましい姿がそこにありました。

まあ、ネタにされている小野政次はちょっと可哀相な気がしますが、おまえら秘かにどんだけ政次をガン見してたのよ……真似できるほどかよ、好き過ぎるだろ、という突っ込みが。

これも高橋一生さんの特徴的な演技あってのことですね。
こんな形で政次ロスを癒す本作、凄すぎませんかね。

「なんだ、但馬は生きておったのか」
涙をはらはらとこぼし、微笑む直虎。

「残念ながら、皆の中にも、虎松殿の中にも、しぶとく生き続けましょう」
ツンツンしながらデレデレとそうフォローする直之です。

「そうか……そうか……」
これは視聴者もそう言いたいところでしょう。政次が遺した生きた軌跡を見る楽しみが私たちには遺されました。

 

なぜ自分が生き残ってしまうのだろう……と共感しあう直虎と龍雲丸

方久と辰はいつの間にか剃髪しており、龍雲丸を驚かせます。

戦道具を売る「死の商人」ではなく、薬を売る「生の商人」になると宣言する方久。ないところにはバラ撒き、あるところからはふんだくる。そして巨万の富を得るという方久。こういう復活の形もあるわけです。

「頭はこのあとどうするのですか?」
と、方久らから尋ねられ、「そうでさあねえ」と遠くを見る龍雲丸。

その姿が見えなくなったと聞いた直虎は、慌てて探し歩きます。そして気賀の龍雲党アジトにたどり着くのでした。

病み上がりの龍雲丸は倒れ込んでおりました。

「誰か戻って来てるかと思ったんですがね……悪運が強いというか、どうしていつも、俺だけ生き残っちまうんですかね」

珍しく弱音を吐く龍雲丸。
ふてぶてしさだけではなく、弱さも表現できる柳楽優弥さんの演技力が光ります。

直虎はこう返します。
「吾もじゃ。吾ばかりが生き残る。此度もなぜ但馬ではなく、役立たずの吾が生き残ってしまったのじゃと思う。なれど、そなたを助けることだけはできてよかった。そなたが生きておってくれてよかった」

涙ながらにそう語る直虎。思えば似た境遇同士の二人なのでした。

 

文才や風雅等の長所を生かして長寿をまっとうする氏真

掛川城では、晴れやかな顔をした氏真が酒を飲んでいます。彼は、妻の春にこう語ります。
「肩の荷が下りた気がする。桶狭間から十年。わしは身の丈にあわぬ鎧をつけられておったような気がするのじゃ。これからはわしのやり方でも、梶が取れるような気がするのじゃ」

よかったなあ、氏真。愚将だの何だの言われる氏真ですが、十年間もよくぞ頑張ったと思います。
凡庸な器量なのに、「大今川」という大きな荷を背負わされて、よくぞここまでしのぎました。その顔は本当に晴れ晴れとしていて、見ているこちらもお疲れ様と肩を叩きたくなるくらいです。

「頼りにしております」
春はそう返します。

氏真は彼本来の才能である文才や風雅に長けた長所を生かして長く生きることになります。その傍らには春がいました。
敗者かもしれませんが、幸せで充実した人生を送ったのが今川氏真です。

勝者が幸せなのでしょうか。
そう問いかけた直虎。氏真の生き方は、その問いに対する「敗者でも幸せである」というひとつの答えです。

こうして掛川城には徳川家康が入り、遠江は徳川領となりました。満足げな家康ですが、忠次はこう言います。
「これで済むと思いますか? 武田は怒り狂いましょう」
「なんとなるであろう。きっとなんとかなる」
楽観的な家康。しかし、場面が切り替わると信玄が登場するわけです。

「徳川が遠江を?」
激怒し書状をくしゃくしゃに丸める信玄。
「おのれぇ!」
そう叫び、刀を抜くと竹を切ります。

怖いって! 怖いよ信玄! コミカルなのに恐ろしさも出す松平健さんの武田信玄、最高ではないですか。
今週のラストシーンは龍雲党のアジトです。

そこには「井伊にて待つ」と書いた旗がはためいているのでした。

 

MVP:井伊直虎

本作の出演者は磨き上げるように演技が素晴らしくなっていくと思います。今週もどの役者さんも輝いていました。

柴咲さんの眼力やたたずまいの素晴らしさ。
治療しているときの凛とした佇まい。
そして近藤相手に小刀を握りしめた時の迫力!

刃物を握っただけでこの人は殺すつもりかもしれない、という殺気を出せるのは流石だと思います。
タランティーノが『バトル・ロワイアル』での柴咲さんを見てその目力にほれぼれしたという話がありますが、それも納得です。猫のような目力を最大限生かしています。

謡い経の美しい響きも魅力的です。まさに直虎は柴咲さんのための役で、彼女の魅力を最大限に引き出すように脚本と演出が組み立てられていると思います。

龍雲丸も素晴らしい。
今までの飄々としたところやふてぶてしさだけではなく、傷つきトラウマに悩まされる弱さや脆さが描かれました。

ホッと肩の重たい荷がおりた氏真夫妻の笑顔。
迷いつつも進む家康。
短い出番で凶暴性をあらわにする信玄。
まだあどけない鈴木重好の健気さ。
脂汗を流しながら焦る近藤康用。
そっと皆を包み込み癒す龍潭寺の面々。
隠し里で政次を偲ぶ井伊の人々。

ここ数回、あるべきものがぴったりと位置におさまるような、そんな素晴らしさがあります。

 

総評

政次ロスの前々回、堀川城での惨劇を描いた前回。その衝撃的な展開から、今回はやっと一息つけます。
すべてが燃えてしまった森の中に若芽が顔を出すような安らぎがありました。

直虎、龍雲丸、瀬戸方久、龍潭寺や川名で暮らす井伊の人々、今川氏真。
彼らだけではなく小野政次すらこの「蘇えりし者たち」に入っているとは。
どこが「嫌われ政次」だ、「愛され政次」じゃないか。

あれほどの非業の死を遂げておきながら、それなりに彼は幸せではなかったかと思わせるようなこの描写。感服します。
政次はもう出てこないのに、確かにそこにいると感じました。

それぞれが復活するかたちにも理由がきっちりあるのも丁寧な仕事ぶりです。
直虎が龍雲丸を癒す過程で自らも癒してゆく描写もよいし、氏真が「大今川」という荷をおろすことでつきものが落ちたような顔になるのもグッときましたよ。近藤も憐れみを感じさせました。政次を死に追いやった近藤康用や、傍観した鈴木重時にすら、憐れみを感じさせる。それが本作の凄さですね。

乱世を生きる人々の愚かさや器の小ささまで、愛おしさや生命のぬくもりに変えてしまう、そんな魔法も宿っているのです。

そして今週は、戦国の争いはむなしい、と喝破したのも凄かった。
蹴鞠で勝敗を決めればいいから、という氏真の台詞の奥深さときたらありません。

ここのところ毎週、魔法がかかったような展開を見せてくれる本作。
むろん、細部をつつけば粗があるかもしれません。
ただ私は、その粗を上回る魔法にクラクラしてしまいます。

とんでもない、そして素晴らしい。本作には魔力が宿っています。

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【参考】
おんな城主直虎感想あらすじ
NHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』公式サイト(→link

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