すでに起きた過去のことゆえ、歴史は絶対、不変なり!
な~んて思われがちですが、実際はさにあらず。
新史料や新解釈を機に通説がひっくり返るというのはままあります。
かなり古い例になりますが、武田信玄の軍師的武将として知られる山本勘助は、昭和のある時期まで「物語だけの架空の人物だ」と考えられておりました。
それが1969年(昭和44年)の大河ドラマ『天と地と』の放映を機に「市川文書」という新史料が世に出て、「やっぱり勘助(表記は山本菅助)いたんじゃん!」と武田ファンを大いに喜ばせたり。
他にも「鉄砲の三段撃ちはなかった」とか「武田騎馬軍団はなかった……かと思いきや、やっぱりあったよね!」など、この手の通説は常に入れ替わる可能性を孕んでいます。
武田家に関することばかりでスミマセン。
こうした、今なお疑問の残りがちな諸説を一冊にマトメ、かつ論旨もスッキリ整えられているのが渡邊大門氏編集による『戦国史の俗説を覆す』(→amazon)です!
とにかくラインナップのセンスが良い
何がオススメか?
ともかくラインナップをご覧ください。
『戦国史の俗説』コンテンツ
◆本当の鉄砲伝来はいつだったのか
◆川中島の戦いは何回行われたのか
◆信長の「天下」は日本全国を指すのか
◆明智光秀の出自は土岐氏なのか
◆本能寺の変黒幕説は成り立つのか
◆「神君伊賀越え」の真相
◆中国大返し再考
◆城郭研究を揺るがした「杉山城問題」とは(持論)
◆老いた秀吉の誇大妄想が朝鮮出兵を引き起こしたのか
◆石田三成襲撃事件の真相とは
◆毛利輝元、吉川広家、安国寺恵瓊と関ヶ原の戦い
◆徳川家康の「問鉄炮」は真実なのか
◆家康は豊臣氏を、どのように追い詰めたのか
◆大坂冬の陣後、大坂城の堀は無理やり埋められたのか
◆忍者は実在するのか(持論)
ライトなファンもヘヴィなマニアも、戦国好きなら思わず手を出したくなるテーマばかり。
かなりセンスのよいチョイスでありません?
正直、1テーマで1冊になるような濃いエピソードばかりですが、それぞれ個別に書籍を買い求めるとなると、なかなか骨が折れます。
それが一冊で重要なポイントをほぼ押さえられる。
めちゃめちゃお買い得です。
しかも、執筆陣は全員が研究者で、信頼性もバッチリ。
読みやすさもあり、決してハードルが高い本ではありません。
そこで本稿では「興味はあるけど、ちょっと決心がつかない。中身がわからないし……」という方に向けて、いくつか中身をご紹介させていただきます。
鉄砲伝来「いつ」かハッキリわかります?
日本史の勉強の時間、こう覚えた記憶はありませんか?
「以後予算(1543)が増える鉄砲伝来!」
※ちなみにキリスト教の伝来は「以後よく(1549)広まるキリスト教」
そこからずっと疑わずにこの年号を覚えてきたわけですね。
しかし考えてみれば、種子島にやって来たポルトガル人以外のルートでの伝来もありうる、と。
この時代海は開けていて、日本人は倭寇等とも交流していたからです。
そこから鉄砲が伝来していたとしてもおかしくはないわけで、なるほど! となりますよね。
川中島の戦いって結局何回なのよ?
川中島の戦い――何度も何度も激突する龍虎の如き戦いは、まさしく戦国ロマンの華……。
とは言えるのですが、そんなに何度も激突していたら損耗も凄まじいことになるのでは、と気になりますよね。
戦国合戦の華であるということは、話が盛られてしまうものでして。
江戸から明治にかけて、どのように話として誇張されていたかの検討がなされます。
明治時代の場合、近代的な検討がなされたのですが、それが必ずしも正確とは言えなかったようです。
そもそも何をもってカウントするのか。
川中島の範囲はどこまでなのか。
こうした定義が変動するので、数そのものも変化してしまうのです。
「天下布武」って全国統一のこと?
「天下」=「全国統一」というイメージ。
織田信長となると、多くの人がそう思ってしまうのは名作『信長の野望』の影響が大きいのかもしれません。
-
史実の織田信長ってどんな人?生誕から本能寺まで49年の生涯まとめ
続きを見る
これについては「戦国大名が皆ノブヤボのクリアを目指すように、天下を目指していたわけではないよ」と言われるようになりました。
同章では、信長の意識にあった天下の範囲を、史料を通して検討してゆきます。
明智光秀の出自って土岐氏なの?
「本能寺の変」における明智光秀の動機は様々な説がありますが、その中に光秀の出自が「土岐氏」であったことが重大な動機であるというものが出てきました。
-
史実の明智光秀とは?麒麟がくるとは何が違ったか?55年の生涯まとめ
続きを見る
しかしここで立ち止まって、そもそも光秀は土岐氏の出自であるのか、検討をくわえたものが本章。
「土岐氏を知らねば本能寺の変は理解できない!」
なんてことも言われている現在、この部分を確認しておくのは戦国ファンのたしなみ、と言えるかもしれませんね。
そして光秀と言えば本能寺!
当然ながら突っ込んでいきます。
※続きは【次のページへ】をclick!