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紋章のことは当事者もわからないほど複雑
いかがでしょうか、西洋紋章。
ここまで複雑だと、そりゃあ『GoT』も比較的シンプルな日本式を採用するよ。
って、理由がわかったかと思います。
こんなもの、無理です。
理解できない。そう思いますよね?
ご安心ください。
イギリス人だろうと、理解できていませんから。
そのため、イギリスには紋章院という法人と、紋章官という役職があります。

紋章を記した書物
なんせ歴史マニアのイギリス人ですら、時折、間違えるほどですからね。
あのコナン・ドイルも、紋章マニアに突っ込まれて苦闘したそうです。
イギリス人作家の歴史作品は、巻末にどこが脚色されたのか解説されていて『大変だなぁ』と思わされます。
同国の歴史マニアは容赦なくズバズバ斬りまくりです。
あれは防衛のためか、と納得した次第です。
特に紋章は、ものすごく詳しいマニアがおりますので、迂闊に触ると大やけどをします。
そんな歴史マニアや紋章マニアは、こんなことを言うものです。
「BBCのドラマはいいですね。あれは考証がしっかりしていて、紋章も正しい」
これはどういうことか?
「BBCが紋章ミスをしたら、恥として袋だたきにするけど、覚悟はできているな?」
というプレッシャーでもあるわけです。
NHK大河レベルのミスをすると、BBCなら、もうえらいこっちゃだと思います。
BBC制作の『ホロウ・クラウン』のようなドラマでは、絶対に紋章を間違ってはいけません
『TUDORS』というドラマでは、ヘンリー八世時代であるのに、娘であるエリザベス一世の紋章を使っていて、見ていてひやりとしたものです。
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あれは制作局のショウタイム等が中心となったカナダ資本だからよかった。
BBCならばどこまで燃え上がったことでしょう。
日本にもある! 西洋式紋章
西洋紋章はおそろしい。
迂闊に触ると火傷をする。
しかし、果敢にも日本にも、この様式をしっかりと踏まえた紋章が存在することをご存じでしょうか?
西洋紋章の形式については、こちらにも説明があります。
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紋章 中央部にあるシンボル
クレスト(冠部) 王冠の部分
サポーター 左右両側で支えるシンボル。紋章の対象に関係している動物や霊獣であることが多い
モットー 中央のリボンに書かれているもの。モットーや目指す目標を示す
この形式を満たさなければ、認められません。
ただし、形式を満たしていれば、自由にその国のシンボルを使うことができます。
サポーターにシマウマやカンガルーを使っている紋章もあるのです。

ボツワナの紋章/photo by Sodacan wikipediaより引用
これをもし、日本のモチーフで表現できたら、最高にカッコイイと思いません?
えぇ、あるんです。
そういった過去の例はありますよって!
まずはこちら。
ニッカウヰスキーです。

ニッカ(
サポーターは狛犬、兜は山中鹿之助!
和洋折衷、瑞祥、そして不屈の意志をこめております。
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スコットランド留学を果たした竹鶴政孝らしい紋章です。
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ウイスキーのポットスチルにしめ縄をつけていた竹鶴らしい発想です。
そしてこちら。
大阪港です。
みおつくし、古代日本船、鵺(ぬえ)。
これだけ和風のモチーフが揃いながら、形式を満たしております。
この紋章の産みの親は、紋章研究における第一人者・森護(もりまもる)氏です。
大阪市の気合いを感じますね。
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さて、ちょっと『GoT』に話を戻しましょう。
あの世界の紋章は、日本に近いと書きましたが、西洋紋章の要素が残っております。
それはモットーです。
リボンに書かれたモットーはないものの、標語が各家にあるわけです。
スターク家ならば、「冬来たる」。
ターガリエン家ならば、「炎と血」ですね。

紋章+標語タイプのターガリエン家/photo by Fernando Estel wikipediaより引用
西洋紋章の要素を残しつつ、わかりやすく整理した、原作者G・R・R・マーティンのセンスを感じます。
いかがでしょうか。
複雑な設定が特徴の『GoT』すら避けて通る、複雑な西洋紋章の世界。
奥が深くてなかなか興味深いもの。是非触れてみてください!
文:小檜山青
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【参考文献】
『ヨーロッパの紋章・日本の紋章 (シリーズ 紋章の世界)』森護(→amazon link)