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【ドラマ大奥感想レビュー第8回】
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念願の小石川養生所に、人が来ぬとな?
そして半年後、小石川養生所が完成しました。
立派な施設で、薬研や薬草を準備する手間もかかった場面です。普請奉行の大岡も、医者の小川も自信満々です。
小川は恩義に感謝し、身の朽ち果てるまで仕えると誓います。吉宗は、小川の言葉あってのことだ、将軍としてなすべきことができたと感謝します。
「喜んでくれるかのう。江戸の民も」
「きっと人であふれかえりますよ」
そう感動的なBGMをかけ、吉宗と久通が言葉を交わした後は、ギャグのような展開に。
「誰も来ぬ?」
そう、誰も来ません……悪い噂が立っていました。
なんでも江戸っ子たちは、話がうますぎる、薬草で人体実験でもするんじゃねえかと警戒していたのです。これは史実準拠でもあります。
吉宗は、思わず笑ってしまいました。人の心は不思議でわからないものだと。
こうしちゃいられない、と久通は上様の心を伝え直すと宣言し、逆に良い噂を流すこととします。お庭番を使って噂を操るくらい久通には容易いこと。やはりおそろしい人ですね。
小川も養生所の見学をさせることで、悪い噂を抑えることに成功しました。
かくして人手が足りぬほど病人が集まったのです。
小川笙船の姿が、仁愛に満ちていて素晴らしい。片桐はいりさんが素敵です。
本作は、男女双方が落ち着きのある低い声で自然に話しており、そのことでだいぶ救われる気持ちになります。
成功を確認し、満足げに酒を飲む吉宗。
杉下は上様のためにと、自ら銚子一本分多く酒を用意していました。それを満足げに飲む吉宗でした。
猟師の村で特効薬が見つかったのか?
田嶋屋の採薬使ツアーにスポットが当てられます。
太い大木のある村を、歩いて進んでゆく一行。太い木が鬱蒼とある森は、日本らしいの景色でしょう。
時代劇のロケ地にこうした森を選べるスタッフは、実に仕事ができる。
海外の日本紹介でも、山伏がこういう森にいる絵を撮りたいらしく、しばしば見かけます。
しかもこの場面で、道祖神が映るところも興味深い。色気がなく、種馬を連呼する今回らしい小道具といえる。
これぞジャパンという感もあります。日本の同祖神神輿は海外で人気なのです。
進吉たちの向かう先は、赤面を出していない猟師の村――秘密は猿の肝でした。
当時の日本で、自然に肉を口にするのは、マタギのような猟師です。なるほど、こういう設定できましたか。
干した猿の肝を見せられ、半信半疑の吉宗と久通。
信じられないかもしれないけれど、この目で見たと進吉。
するとそこへ大岡が駆け込んできました。
「市中で赤面が発生しました!」
吉宗の顔が一気に曇ります。
時代劇欲張りセット、豪華松花堂弁当のよう
今回は原作を変えてきているそうです。
村瀬が他殺されたこと。そしてメインキャラクターとして、大岡忠相と小川笙船がいます。
どうしてそうしたのか?
様々な理由は考えれます。コロナ禍を意識してのこともあるでしょう。
それのみならず、今回は時代劇欲張りセット、いわばアベンジャーズ状態です。
一人だけでも時代劇主役を張れる。そんな愛される人物が三人揃いました。
しかもこの三人を扱った時代劇は、映画、テレビでも民放の定番でした。
現在は、民放の時代劇が激減して、往年の定番をNHKが拾うことがあります。『大岡越前』も『赤ひげ』も、近年で放送されたのはNHKだけでした。
大岡忠相は早くからエンタメ化されていた人物で、元を辿りますと『大岡政談』にまでたどり着きます。
彼の町奉行時代の判断が江戸っ子に愛され、エンタメとして昇華されていったのです。むろんフィクションですから、誇張や他の奉行の逸話も混ざります。
こうした大岡忠相や“遠山の金さん”こと遠山景元をモチーフとした講談は、そのオマージュをたどると、漢籍を読んでいた江戸時代の教養も見えてきます。
狄仁傑(てきじんけつ)の『狄公案』、“包青天”の名で知られる包拯(ほうじょう)の『包公案』などを参考にし、自国版を作ればヒットすると見込んだのでしょう。
赤ひげは、1958年(昭和33年)に連載された山本周五郎『赤ひげ診療譚』が発端。
『暴れん坊将軍』は1978年(昭和53年)から2002年(平成14年)にかけて放送されました。
こうした人物を男女逆転させて、揃い踏みさせる。そんな狙いを感じます。
それほどまでに魅力的で有能な人物が出揃った【享保の改革】の意義をあらためて問い直す。そんな展開になりそうです。
そうそう、採薬使のどこかロマン溢れる全国行脚も、これまた往年の時代劇によくある設定でした。
忘れかけていたような時代劇のあるある設定を出してくる今回。
実に豪華です。
政治はできても、空気が読めない上様
徳川吉宗は颯爽としていて、かっこいい。私も大好きです。言うまでもなく、素晴らしい。
とはいえ、こういう人が上司や同僚にいたらどうでしょう?
吉宗は、情と理のうち、後者だけに特化していて前者に疎い。そりゃ藤波も苛立つわ。そう思えるところはしばしばありました。
藤波が説得している間も、納得いかぬように口を尖らせていたほどです。
これは綱吉ともよい対比です。
綱吉は聡明ながらも、情に流されてしまう。生類憐れみの令だって、父親の情に流されてしまった結果として描かれます。
そんな毒となる情は捨てろと右衛門佐は導いていました。そして打掛を脱ぎ捨てた場面は、からみつく情からの解放に思えたものです。
そんな綱吉が、どうすればあんな考え方になるのかとおもしろがった吉宗。
彼女はそもそも、何の感情すら絡みつかない。読み取れない。自分が最善だと思ったら、相手のことなんか考えずに押し切る。結果的に正しければよいだろう――そんな強引さがあります。
それだと流石にまずいから、藤波は苦言を呈する。久通や杉下が情緒面でのアシストをする。そんな関係がうまく生きています。
吉宗みたいなタイプは、他人の感情を理解するというより、攻略法として学んでいく方がよい。あるいは周囲がそれを察知してサポートに回るか。
この上様も、なかなか、凸凹しているのです。
この立場だからよいものの、現代社会にいたら「あいつ、空気読めないよね」と思われてしまうかも。
そんな個性の尊重まで考えさせてくれる、よいドラマです。
小川笙船と吉宗が日本に広めた医療改革~今こそ見直される東洋医学史
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文:武者震之助
※著者の関連noteはこちらから!(→link)
【参考】
ドラマ『大奥』/公式サイト(→link)