ちょっと前のことになりますが……2019年春、戦国史ファンの間で、あるザワザワが起きました。
「あの平山優先生が“薄い本”を出したらしい!」
「『真田丸』以来のコスプレ(※いや、歴史行事への参加ですので!)だけでは飽き足らず、薄い本だとおっ!」
「いや、薄いといっても同人誌でなくて!」
武田信玄の甲斐武田氏を始めとした戦国史研究において、当代きっての平山優氏が株式会社サンニチ印刷さんと共に「薄い本」を出したというのです。

『信虎・信玄・勝頼 武田三代』平山優(→amazon link)
これに対し、戦国史ファンは
【あっぱれ!これぞ平山先生である!】
と大絶賛した聞き及んだのですからやぶさかではない。
入手するしかなかろう――そんなわけで秘かに評判となっている『武田三代』を案内しましょう。
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「薄い本」にはいろいろありますな
薄い本――と、一口に言っても中身は色々。しつこいようですが、同人誌の話ではありません。
歴史系の本は、文庫、新書、単行本までいろいろなサイズがあります。
そんな中でも、比較的薄く、A4判ともなればちょっとライトな印象を受けます。
典型的なものが、大河関連ムックですね。
大河ドラマの時代背景を、複数の執筆陣が書いているもので、冒頭には手に取りやすく出演者グラビアなどを入れるのがお約束だったりします。
ぶっちゃけて言いましょう。
これはなかなか難しいものです。
その道の研究者というよりは、歴史作家の方が語るものもあります。大河ファン向けであれば、原作者や脚本家の声が聞きたいと願うのも、当然のことです。
ただし、それが歴史的な説として妥当かどうか。そこは話が別でしょう。
もちろん、大きな判型をフルに使った良書もあります。
例えば千田嘉博先生のものは、大きな写真とイラストを多用していて、一家に一冊置きたい、お城の魅力がぎゅっと詰まっています。
コストパフォーマンスは抜群。
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年末年始も必携!『一生に一度は行きたい日本の名城100選』千田 嘉博 (監修)
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さて、ここで疑念が湧いてきます。
その手の薄い本とゴリゴリの研究者・平山先生の相性ってどうなん? ありなの?
そこなんですよね。
やっぱり実際に買って見てみないと……。
ぬかりない……「地図」の時点でぬかりがない
そんな思いを抱きながら、広げた『武田三代』。
付録の地図だけで引っくり返りそうになったわーーーー!!
ぬかりがない。
すごいマップです。
よくこのクオリティでやりますよね。こんなん、正気を疑うレベルすわ。
「信虎・信玄・勝頼 武田三代広域歴史マップ」

『武田三代』凄まじき付録の地図(→amazon link)
ドンッ!と武田氏の所領が地図としてあり、細かく点が打ってあります。
この点の位置を見ているだけで、ワクワクしてきます。
こうやって領土が拡大していったんだな――そんな感慨にふけることができるのです。
そう思いつつ裏面を見て、またも腰が抜ける!
解説と現地写真、布陣図、それだけではない戦場を俯瞰する航空写真まで付いているのです。どういうことなんだよ!
これを作るために、どれだけ歩き、調べ、シャッターを切ったのでしょう。
普段からの積み重ねですよね。にしても、ものすごい労力です。
私もこういうものを見るのは好きですので、図書館で調べたりすることもあります。
ただ、どうしても図だけで終わりだったり、情報に偏りがある。それも仕方ない。取材には予算も時間も限りがあるものです。
と思っていたら、本書は限界突破していませんか?
もう、ちょっと、意味がわからないレベルでぬかりがなさすぎるのです。
全国の戦国大名で作って欲しい!!!
結論から言いましょう。この地図だけでも買う価値ありです。
むしろ、この価格で、この地図を入れている時点で、ちょっと理解ができなくなってきます。
年表と系図、写真にもぬかりがない!
次にチェックしたいもの。それが年表と系図です。
これもいいですねえ。新書でも、星海社はじめ、この点充実したものは多いですが、何が素晴らしいかってカラーなんですよ。
薄い本の可能性を引き出しています。
星海社新書は、フォントの使い方が素晴らしいと感じたものですが、本書に関してもそうです。ビジュアルがぐっと印象的になっているのです。
「武田三代年表」は、祖父・子・孫の人生がどう重なり合うかが一目瞭然で、まさに本書ならでは!
巻末の系図は詳細で、かつ三代の花押入りです。サービス精神にもほどがあるでしょう。
筆跡鑑定ができたくちではありませんけれども、花押にはその人となりや性格が出るのではないかと興味津々になってしまうものです。
家系図に花押をつける。そういうセンスがもうお腹いっぱいになってしまいます。
価格は900円ですからね。
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