平山優『戦国の忍び』/amazonより引用

歴史書籍

史実から忍びの正体に迫る!大河考証・平山優氏『戦国の忍び』は必読

忍者とはいったい何なのか?

実在したのか?

実在したのなら、どこでどんな働きをしていたのか?

漫画やアニメではなく「史実に基づいた彼らの実像を知りたい!」という方にオススメの一冊があります。

平山優氏の著作『戦国の忍び』(→amazon)です。

武田家研究の第一人者として知られる山梨の歴史学者であり、最近は大河の考証としてもご活躍。

そもそも、氏の著作は骨太な武田本がズラリと並び、コアな戦国ファンに支持されていましたが、それが今度は忍者をクローズアップする、というのですから熱い。

早速『戦国の忍び』のレビューをお送りしましょう!

※ページの最後に目次をつけておきました(戦国ファン垂涎のラインナップだと思います)

 


忍者像の定義は江戸期以降

忍者はいたのか、いないのか。

ハットリくんやらNARUTO、あるいは『鬼滅の刃』宇髄天元など。

漫画やゲームを通じて、誰しも存在を認識していながら、史実でもきちんと存在したのかどうか?と問われると、「居た!」と強くは返せない、それが忍者でしょう。

大河ドラマ『どうする家康』では、服部正成が伊賀の軍団を引き連れ、家康の妻子を救い出すミッションを与えられていました。

『麒麟がくる』の菊丸とはかなり雰囲気の異なる忍者軍団でしたよね。

史実にはどちらが近いのか?

と、個々のケースも気になりますが、どうしても知っておきたいのが、これ。

「忍者はいつから存在していたのか?」でしょう。

スパイの類だとすると、特定できないと思われます。

武田信玄はじめ、多くの戦国大名が愛読した『孫子』には「用間篇」、間者すなわちスパイの使い方が記載されています。

比較として大河『鎌倉殿の13人』を思い出してください。

あの作品は、情報の確認が粗雑なため、誤解が生じることがしばしばありました。推測で何かをした結果、大失敗を招くことだらけだった。

例えば【石橋山の合戦】で源頼朝が大敗し、隠れ潜んでいた場面。

あそこで平家より先に頼朝を見つけたのが梶原景時であり、その景時の独断で頼朝の命は助けられました。

しかし、です。

あの景時の独断、ちょっと甘いと思いません?

もしも斥候(偵察部隊)を運用して頼朝を捜索していれば、景時の嘘が判明した可能性が高いと思えます。

水鳥の音に驚いて平氏が敗走する【富士川の戦い】も同様。

前もって少数部隊を送り込んで情報把握をさせていれば起きなかったミスと言えるのでは。

北条泰時が制定した『御成敗式目』には、彼の時代に「プロのスパイがいない」と本書『戦国の忍び』で解説。

強盗の類(竊盗、せっとう、窃の異体字)が「しのび」と呼ばれていたこともわかります。

それが徐々に洗練されてゆき、戦国時代が終わった江戸時代の初期にはカリキュラムがまとめられ『軍法侍用集』になったことが紐解かれてゆきます。

そもそも「忍者」と言う呼び名も後世に定義されたもので、当時はまちまちだったとか。

僧兵」や「一向一揆」等、そうした名称は多いものだと改めて思いました。

 


『甲陽軍鑑』にみる武田の忍び

武田信玄といえば、忍者を使いこなす――そんなイメージを持たれている方も多いのではないでしょうか。

戦国作品で武田信玄を扱いながら忍者を出さないなんてそりゃないよ。

そう言いたくなるのは私だけではないでしょう。

平山先生は武田が専門ですので、そこはぬかりなくしっかりと書かれております。

『孫子』マスターである武田信玄の忍者運用です。

『孫子』はじめ兵法書は時代の進歩や状況にあわせた更新が重要でして、信玄のそうした要素が把握されています。

こうした忍者の活躍が『どうする家康』の武田軍にも反映されるのかどうか。

どうも望月千代女がそれっぽい印象ですが……。

 

もちろん、伊賀と甲賀も、大名のあの一族も

忍者軍団で最も有名なグループと言えば、やはり伊賀と甲賀でしょう。

現在でも忍者の交流を続け、観光アピールにも余念がなく、2023年には伊賀と甲賀の忍者夫妻を描いたドラマ『忍者に結婚は難しい』が放映されるほど。

戦国大名と忍者の関係もロマンがありますよね。

武田信玄に始まり、北条の風魔や伊達の黒脛巾。

こうした人気の忍者は数多のフィクションで様々な脚色がされていて、実態だけは不明でしたが、本書では、その実態をまとめています。

観光施設の忍者も楽しいけれども、とにかく生の歴史も知りたい――すると切ない姿も見えてきます。

便利に使われつつも、事態がおさまると厄介者扱いされる、アウトローと紙一重だったことも本書では分析されていました。

たしかに、建物への侵入やスパイ活動での諜報、あるいは放火が得意な人材とはそういうものだろうと理解しつつも、何か物悲しいものがあります。

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