竈門炭治郎

『鬼滅の刃』23巻/amazonより引用

この歴史漫画が熱い!

竈門炭治郎(鬼滅の刃)は日本の劉備だ! 徳とお人好しが社会に必要な理由

黒と緑の市松模様でおなじみの『鬼滅の刃』竈門炭治郎(かまどたんじろう)

主人公にも関わらず人気投票ではトップスリーに入らず、【日の呼吸】の使い手ながら圧倒的に強いわけでもない。

なんせ天才美少年剣士では無一郎がいるし。

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共感できる人気者ならば善逸がいるし。

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作者・ワニ先生の読み切り作品から察するに「冨岡義勇タイプを主役にしたかったのではないか?」と思える要素も感じます。

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では、炭治郎って一体何なの?

どんな立ち位置なの?

超人気作品の主人公だけに、至るところでキャラ解析されてるかと思ったら、何か言い切れるほど単純ではないせいか、そうでもないという印象。

本稿では、難解な竈門炭治郎の考察に挑戦してみたいと思います。

【TOP画像】
『鬼滅の刃』23巻(→amazon

 

【徳】の英雄~どこか頼りないけどいい人

『鬼滅の刃』は「既存作品の寄せ集めでしょ」としばしば指摘されます。

確かにそういう要素はあります。

古典的で、どこか既視感のある人物が揃っている。

しかし、著者の膨大なインプットがあるからこそ生まれる物語であり、パクリでも焼き直しでもなく、良い意味での「同工異曲」でしょう。

では、炭治郎はどうか?

ワタシなりの結論を一つ出すとこうです。

三国志演義』における劉備であり、『水滸伝』の宋江であり、『西遊記』の三蔵法師である――。

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「ドコが似てんだよ!」と突っ込まれそうですが、彼らと炭治郎には一言でバシッと言い切れる大きな特徴があります。

【徳】です。

先に挙げた三名は、主人公の割にグイグイ押しては来ない。

どこか抜けていたり、詰めが甘かったり、脇役たちの協力無しではやっていけない。

「リーダー、もっとガツンとしていてくださいよ! なんでそんなに頼りないんですか!」

そんな風に叱られつつ『まぁ、ええヤツやからな』と内心では皆に慕われ、リーダーにされている。要は、周囲の有能な者たちにとって安心感があり、尽くしたくなるタイプなんですね。

もちろんフィクションでは脚色もあります。

史実では意外としっかり者だったとしても、いざ創作となると、そこには人々の願望が反映されるのでしょう。

穏やかで優しく、主人公なのに守られていて、まるでお姫様。そんなことを指摘されたりするほどで、例えば、中国フィクションにおける劉備は、双剣を装備しがちです。

二刀流というと、日本では宮本武蔵のイメージがあり、強くトリッキーな武器のように思えます。

けれども、中国文学のお約束で双剣は「女性の装備」なのです。つまり武器からして、劉備にはヒロイン属性なのがわかりますね。

劉備の言動は、後世議論の的となりました。

フィクションのみならず史実で最も論争となっているのは「後継者たる劉禅の資質が拙ければ諸葛亮が国を統治するように」と言い残したこと。

これは君臣の枠組みを無視するものであるとして、長いこと議論の対象とされてきました。

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宋江は【及時雨(きゅうじう)】と呼ばれます。

欲しいときにふりそそぐ雨のように慈悲深いという意味。強者を率いるリーダーなのに、優しさが持ち味です。

あるいは『西遊記』の三蔵法師を女性が演じることも日本の作品ではお約束となっています。救われる心清き人――これはもう女性だっていいじゃない。そういう発想なのでしょう。

かように中国文学の価値観では、ちょっと抜けていて優しい【徳】のあるリーダーの方が好まれました。

『鬼滅の刃』においては、個人戦闘能力が低くても、優しさでまとめあげる産屋敷家当主も同じタイプでしょう。

 

パワハラ政治の明代に望まれたリーダー像

三国志演義』『水滸伝』『西遊記』にブラッシュアップがかけられていった明代は、中国史でも屈指のビシバシ君主時代でした。

初代洪武帝・朱元璋以来、皇帝本人の資質のみならず、秘密警察組織である東廠(とうしょう)・西廠(せいしょう)、錦衣衛(きんいえい)が人々を監視し、締め付けていたのです。

明の政治体制はまさにパワハラ会議!

監視をして、家臣が何をしていたのかまで把握できる。嘘をつこうにもつけない、あたかも『鬼滅の刃』における無惨と下弦の鬼のような体制ができあがっていたのでした。

むろん中国史の中でも時代差はあります。

恐怖政治という意味では、明代は最悪の部類。

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そんな政治体制に疲れ果てた人々は、風通しのよい、寛大なリーダー像を求めるようになり、官僚での出世ルートを挫折した文人たちは、そんな理想をこめた英雄像をフィクションで世に送り出すようになったのです。

それが日本にも伝わり、大人気を博してゆきました。『三国志演義』は多くの藩で教科書としても採用されるほど。

こうして東アジアには【徳】のあるリーダーを好む風土ができあがっていきます。

劉備の義弟であり【徳】の化身とされる関羽。『三国志演義』での見せ場は【赤壁の戦い】において敗走してきた曹操を見逃すというものです。

最大のヒールである曹操を、恩義があるから見逃すとはどういうことだ! そう突っ込みたくもなりますが「それでこそ関羽だなぁ」と称賛されました。

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こうした話を見ていて、何かを思い当たりませんか?

炭治郎へのこんなツッコミです。

炭治郎はおかしい!

鬼はあいつの家族の仇で敵だろう、ならばあんな同情せずにさっさと始末すればいい。

いちいち御涙頂戴だかなんだかしらんけど、理解を示す場面を入れるなんておかしい!

これ、『三国志演義』での関羽にもバッチリあてはまります。

関羽はおかしい!

曹操はあいつの仇で敵だろう、ならばさっさと始末すればいい。

いちいち御涙頂戴だかなんだかしらんけど、理解を示す場面を入れるなんておかしい!

いかがでしょう。

炭治郎の古典的な要素が見えてはきませんか。

 

【徳】の英雄が否定される時代へ

しかし、アヘン戦争が起きた19世紀以降になると、東アジアは西洋列強に飲み込まれ、思想まで変貌してゆきます。

中国の国民的作家である魯迅は、文学を通して祖国を分析し、絶望しました。

【徳】のある劉備、宋江、三蔵法師……どれもリーダーとして情けないじゃないか、お人好しすぎるじゃないか、こんな英雄を理想とするから負けてしまう!

そう嘆き、容赦ないダメ出しをしたのです。

日本でも、明治維新以来「脱亜入欧」を掲げました。文学作品でも西洋からのものが流れ込み、変貌してゆく。

そんな中、代表例として『三国志演義』に注目しましょう。

当時、劉備の扱いはどうなったか?

日本人の『三国志』観に多大な影響を与えた吉川英治版では、前半部の最も重要な人物を曹操、後半部は諸葛亮としています。

まぁ、劉備は人気といえばそうだけどさぁ。あんなええかっこしい、偽善者めいた像はどうなの? もっと面白くならない?

そういうツッコミは定期的に入りますし、劉備の女体化作品もでてきたりして、かつてのように全面肯定されるというわけでもなくなった。要は、かつて描かれてきた像に納得できず、古典もブラッシュアップされ、新解釈されたのです。

そうした流れのある明治以降のフィクションと比較しますと、炭治郎はあまりに地味。

善逸や伊之助の方が問題行動的な要素では際立っておりますし、柱と比較するとより目立ちます。

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熱血でともかくまっすぐ! そんな煉獄杏寿郎は、まさしく昭和のヒーローだ!

冨岡義勇は、21世紀型のスタンダードとなりえる【アブダクション】を使う接近戦型。ワニ先生が一番得意そうな枠ですね。

そして、日本人が好きなヒーロー要素てんこ盛りの時透無一郎は、どの時代でも大人気!

彼らと比較すると、炭治郎にはウケのよい主人公要素がない。市松模様の羽織で、炭焼き出身で、どこかズレていて、初期は一番無難な水の呼吸を使っていた。

改めて言います。

どうして炭治郎が主役なの?

ここでまたあの話に戻ります。

【徳】があるからではないか?

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