漫画バジリスク

漫画『バジリスク』一巻・二巻/amazonより引用

この歴史漫画が熱い!

伊賀&甲賀の理不尽すぎる戦い 漫画『バジリスク』が妖艶で恐ろしい理由

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漫画『バジリスク』レビュー
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細やかな表情にも凄惨さが宿る

アニメ版ですとより顕著ですが、漫画でも原作より印象的であるのが、きちんと忍者たちが人間であるところです。

死ぬ間際、愛する人を思い出す。

幼い顔に戻って、涙がぽろりとこぼれる。

そうした描写からは、この忍者の争いがいかに不利益で、どうしようもなく残酷なのか、ヒシヒシと伝わってきます。

せがわまさきの特徴として、性暴力に晒されている被害者が苦痛を感じているとハッキリ示されることが挙げられます。

性暴力に晒されても、恥ずかしがっているのか、嫌がっているのかわからない――そういう表現は、ソシャゲ宣伝バナー等でも多いものです。

しかし、本作では朧も陽炎も嫌がっているのが明確で、作画の良心を感じます。

これもある意味、山風の再現とも言えます。

エロい作品扱いをされていて、「くノ一」のエロさを定着させた山風。

しかし、彼の作品を読むと特徴があります。

・性暴力被害者は心身ともに打撃を受けていることがわかる

・同意なき性行為加害者は惨殺される、主人公側でも例外ではない

・お姫様ポジション(本作の場合は朧)、正義剣豪ポジション(柳生十兵衛が代表格)は、性行為をしない

凄惨な暴力の一環として描かれているため、「山風作品はエロいというより怖い」という感想も多いものです。

そこをふまえると、本作はエロチックでありながらおそろしい。

なぜ、そうなったのか。

山風の世代が、性暴力のおぞまさしさを見聞きする機会が多かったことも関係していると思えてきます。

エロスよりも、被害者加害者ともに人間性や尊厳の破壊を意味するものとして性暴力がある。

それを絵で再現するせがわまさきの素晴らしさよ。画力はもちろんのこと、原作の読み込み度合いが圧倒的なのです。

 

滅法おもしろいから忘れそうになるけれども

そんなわけで「読めばスグにわかる」レベルの高い本作。

テンポのよさと面白さゆえに忘れてしまいがちなことがあります。

本作が『水滸伝』の山風流翻案であるという点です。

『金瓶梅』と『水滸伝』の日本版翻案を描く。同じことをした日本作家に滝沢馬琴がおります。

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山風には『八犬伝』という作品があります。馬琴と、物語そのもののダイジェストを組み合わせた内容です。

けれども、ここで引っかかることがあります。

共通点は異能力者が複数戦うところくらいしか一致していない。むしろ『水滸伝』とは逆方向へ突き進んでいく。

『水滸伝』は、アウトローである百八星が団結するところがみどころでした。

宮仕えをしていた者も中にはいますが、本来は社会から弾き出されたもの同士が協力し、助け合う世界です。

民が官の力を借りずに一致団結するところが素晴らしいとされたがゆえに、官軍になる後半カットバージョンがヒットしたこともありました。

本作『バジリスク』ではどうか。

徳川幕府のため捨て駒にされるのに、そこを打破しようという方向性へは向きません。

隣人殺し、プライドの問題に酔いしれ、平然と殺しあいへ突き動かされてゆく。忍法争いが始まったと知った忍者たちは、むしろ喜びの表情さえ見せています。

そんなことは時代に逆行していて愚かしい――主役の弦之助(甲賀)と朧(伊賀)だけはそれを重々承知しているのですが、そういった姿勢がかえって罵倒されてしまう。

協力して難局を乗り切るなんて出来ません。

バラバラになって、無利益な殺し合いをしてゆく。愚かといえば、あまりに愚かなのです。

 

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優れた能力を持つ忍者たちが、しょうもない幕府の決定のため、プライドのため、泥沼の殺し合いへとジリジリと進んでゆく。

殺される側は疑念すら持たない。

争いを止める者を罵倒するほどで、死の間際になってようやく「自分は愚かだったかもしれない、死にたくない……」というような表情と涙を浮かべる。

なんでここまで地獄のような世界観なのか?

その謎解きとして、一緒に読みたいのが『風太郎不戦日記』なのです。

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彼は戦争という極限の状況で、日本人像と社会をじっくり観察する時間がありました。

医者ではなく作家となり、あの江戸川乱歩に指導をされつつ、作品を発表していくのです。

まずはミステリ。彼と同年代の青年が、怨恨や不信感をバネに相手を殺すような作品を発表してゆきます。

『妖異金瓶梅』をへて「忍法帖」をスタート。

不信感がたまりにたまった彼は、もはや『水滸伝』のように人間同士が信じ合う世界を描けない。

上からの命令で隣人を憎み、ゲスな性欲にかられて任務中に発散し、上への反発をすることもなく、ひたすら忍者の死体が積み上がってゆくのでした。

こうしてまとめると、陰惨極まりない内容です。

が、それゆえにヒットした。

特に深作欣二のような戦争経験者の琴線にふれると、これまた傑作として再生産される。

「エンタメとしてなんかおもしろい」「知名度あるよね」程度の読み込み具合では、なんかちょっとズレているような作品になってしまいます。

せがわまさきはその点、誠心誠意で原作を読み込み、その結果、忍法争いそのものの無利益さ、残酷さ、愚かさにまで肉薄しました。

『風太郎不戦日記』が漫画化された今こそ、『バジリスク』を再読する意義が増したと思える。

ゆえに皆さんにも読んで欲しい――そんな思いをこめて、本稿のしめくくりとします。

最後に蛇足ながら。

アニメ版は、若干引き延ばし感が出ている点は惜しまれるものの、傑作です。

主題歌の陰陽座『甲賀忍法帖』まで見事な仕上がりです。

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文:小檜山青

【参考】
『バジリスク』(→amazon)※Kindle版ならスマホですぐに読めます!

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