幕末・維新

リアルな西郷に迫るこの一冊 ミネルヴァ日本評伝選(著:家近良樹)

大河ドラマ『西郷どん』の描写について、多くの幕末ファンが戸惑いを覚えたシーンがあります。

◆3人目の妻である岩山糸が、幼き頃から西郷の郷中仲間に入っていた

篤姫が西郷に恋心という設定だった

◆牢に入れられた西郷が、そこでジョン万次郎と出会う

別に、史実改変が悪いと申し上げているのではありません。

むしろ物語が楽しくなるなら大歓迎――それが当サイトのスタンスでもありますが、物事には限度があります。

史実改変があまりにも荒唐無稽で、歴史のベースとなる舞台そのものを壊してしまったら、それはもう、西郷を題材とした大河ドラマにする意味はないでしょう。

少しでも歴史に興味をお持ちの視聴者様は、薩摩のイメージ、ひいては西郷さんについて

『本当にこういう地域、本当にこういう方だったのか?』

なんて疑問が湧くと思います。

それについては、よろしければ本サイトの西郷隆盛生涯マトメ記事をご覧いただければと存じますが、

西郷隆盛
西郷隆盛 史実の人物像に迫る~誕生から西南戦争まで49年の生涯

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市販の書籍で「一冊選べ!」と言われたら、注目したいのがこちら。

TOP画像に書影のある『西郷隆盛:人を相手にせず、天を相手にせよ (ミネルヴァ日本評伝選) 』(→amazon)です

 


読み応えがあり、充実した内容

本書の価格は4千円と決して安くはありません。

が、500ページを越えるボリュームは圧巻。

筆者がこれを最後の著書としてもよいと思えるほどの内容であり、ともかく読み応えがあります。

最新の研究をふまえた筆者の見解はわかりやすく、うなずけるものであり、本書は新たな西郷伝記のスタンダードとなるにふさわしい価値を備えています。

しかし、それは必ずしも【西郷がいかなる人物か?】という永遠のテーマについての、わかりやすさには結びついていません。

西郷の行動は不可解なものが多く、しばしばその心身は不安定で、波が大きい人生でした。

生前から毀誉褒貶がつきまとい、彼を敬愛する仲間も多い一方で、毛嫌いする敵も数多く存在しました。

精忠組(誠忠組)
西郷や大久保を輩出した精忠組(誠忠組)目をかけたのは久光だった

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本書は過度に美化せず、西郷のそうした矛盾に満ちた人間性もそのまま描写しています。

西郷は寛大な英雄でも、謀略を思うままに操った悪人でもありません。

深刻な体調不良と人間関係の軋轢に悩まされ、思うようにならない人生に対して絶望するひとりの男です。

 


西郷は神経質である

本書を読んで気がついたのは、西郷がしばしば体調不良に悩まされていることでした。

離島に流されたらストレスで食べ過ぎて太り、鬱病のようになってしまう。

激動の政局にあっても下血や下痢に悩まされ、そうした体調不良が判断力を低下させ、行動に影響を与えていることもあります。

浮かび上がってくるのは、豪傑肌のイメージとは正反対。

かなり神経質で、ストレスに弱い人間性です。

どっしりとして動じない西郷像とはまるで違う、素顔の「西郷さん」を見た気がします。

現代に生きていたら、通勤ラッシュ時に体調を崩してしまうのでは?と心配にすらなってしまいます。

そしてこうした神経の繊細さが、彼の転落へとつながったのではないかと思わされました。

明治維新という大事を成し遂げたにも関わらず、彼の繊細な神経は「宮仕え」には向いておりません。

しかし、あれだけの大事を成し遂げ、かつカリスマ性のある人間というのは、「宮仕え」でもして型にはまっていなければ、なりません。

中央政府からしてみれば、不穏な存在というわけです。

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