慶喜の評価

ナポレオン3世から贈られた軍服を着る徳川慶喜/wikipediaより引用

幕末・維新

大河ドラマでの評価ブレブレな慶喜~英仏も惚れたタイクーン 真の実力

明治維新150周年を彩り、大いに話題となるはずだった2018年の大河ドラマ『西郷どん(せごどん)』。

維新三傑の一人である西郷隆盛を名優・鈴木亮平さんが演じるのですから『絶対にスベらない!』と思っていた方も多いでしょう。

しかし現実は惨憺たる視聴率でした。

むろん視聴率は、作品の出来と比例するとは言い難いですが、大河『西郷どん』は、篤姫との恋愛沙汰を入れたり、島津斉彬相撲を取らせたり、ジョン万次郎から「LOVE」を教わったり、珍妙すぎるアレンジで大コケしていたのがあまりに痛々しいものでした。

とりわけ酷かったのが徳川慶喜一橋慶喜)でしょう。

イラスト・小久ヒロ

時代劇と相性バツグンのお顔をした松田翔太さん。

さぞかしキレッキレな人物になるかと思ったら「ふんわりとした馬鹿」みたいな印象だったのです。

一方で、2021年の大河ドラマ『青天を衝け』における徳川慶喜は、かなり印象が変わってきます。

淡々としていて若干冷淡で。ちょっと何を考えているかわからない、されど周囲からは能力が高いと認められている。

掴みどころがないキャラクターを草なぎ剛さんが演じられていますね。

これは一体どういうことなのか?

『西郷どん』と『青天を衝け』では、まるで人物像が異なる。

史実の慶喜は、それぞれの主役である西郷隆盛や渋沢栄一でも簡単に勝てる相手ではありません。

実は有能な島津久光(これまた西郷どんではバカっぽく描かれてました)ですら、キレて力勝負するしかないほど。

慶喜はいい意味で“狡猾”な人物だったのです。

その知能・風格は、歴代徳川将軍としても、幕末の人物としても、トップクラスの実力派であり、徳川家康レベルと評価されたほどでした。

あらためて言います。

慶喜は有能だ!

ただし性格的には逃走上等で難アリだ!

そこで本稿では『西郷どん』や『青天を衝け』の描写をいったん忘れていただき、史実から見た慶喜のカリスマと魅力、そして少々のクズっぷりを混ぜながら抽出してみたいと思います。

なお、慶喜の生涯に注目した記事は以下にございますので、併せてご覧いただければ幸いです。

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ラスト・タイクーンの魅力

徳川慶喜は、日本人のみならず西洋人から見ても評価が高いものでした。

「素晴らしくエレガント、ハンサム。彼が傷つくなんて嫌だ!」

なんて言われるほどで、こと幕末事情で忘れられがちなことがあります。

それは、英仏の干渉です。

開国後は捕鯨船の補給許可さえあればいいというアメリカや、不凍港に立ち寄りたいロシアあたりとは異なり「うちらが日本政府に干渉したらいいじゃん」という、危険な発想をする国がありました。

それがイギリスとフランス。

この両国は、日本が幕府と天皇の制度に分かれているとスグに喝破しました。

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ってな感じで争い、結果、イギリス側が勝利、明治以降も同盟関係が続きますよね。

実はそのイギリスも、徳川慶喜のことを殊のほか気に入っていたのはあまり知られてないかもしれません。

西郷隆盛らが江戸を中心に戦争をしようとした際、イギリスが釘を刺したほどです。

「慶喜公を何か危うくするようことをしたら、あなた方はイギリスを敵に回しますぞ」

英国サイドにしてみれば、ラスト・タイクーンがどうなろうと知ったことではないはず。

それでも彼らは慶喜を庇いました。

さしもの西郷らも、イギリスを敵に回してまでは、慶喜に砲撃できませんでした。

ナポレオン3世から贈られた軍服姿の徳川慶喜/wikipediaより引用

慶喜はもともと西洋文物を好み、賢く、ハンサム。

その魅力に打ちのめされ、フランスからナポレオンの軍服が寄贈されたりしました。

「アジアにこんなロマンチックな名君がいるとは……」

なんて彼らが驚嘆した、とか言うと「さすがに大げさwww 」と思われるかもしれません。

が、西洋人はガチで惚れ込んでおりました。真面目な話です。

しかも、本人も強く意識しておりましたが、慶喜は母方から皇族の血も引いています。

母は有栖川宮織仁親王の第12王女(末娘)の吉子女王。嫁いだあとも、おすべらかし、小袖に袴で過ごした女性です。

「おすべらかし」とは「大垂髪」と書く、公家女性の髪型ですね。

大垂髪(おすべらかし)/photo by Corpse Reviver wikipediaより引用

吉子女王/wikipediaより引用

そういう母の子であれば「天皇家に降伏しても当然」となりますわな。

ただでさえ、出身の水戸徳川家は天皇崇拝の気風が強い家ですし、自身が将軍を降りるのも迷いはなかったのです。

夢中なのは、西洋人だけではありません。

妻妾も、江戸っ子も彼にぞっこんでした。

新門辰五郎のように、お金も名誉も持ち合わせた火消しの大親分が、自分の娘を妾にしたほどです。

辰五郎は、慶喜に「ジジイ」呼ばわりされると、逆に親しみを感じて喜んでおりました。

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本来の慶喜は、そういう魅力ある人物です。

仮にあなたが西郷隆盛だったとしたら、大河ドラマ『西郷どん』のように、慶喜を相手に懐刀をかざし、畳にぶっ刺すなんて真似できますか?

あまりにバカげた話だと思いませんか?

それでも映像にしたいというなら、それはもはや現実離れしたファンタジー。

とにもかくにも徳川慶喜は、ラスト・タイクーンとして最強最高の男でした。

 

でも、グレートなクズかもしれない

一方で、慶喜のことを「マジクズ!絶対許さん!」という勢力もおります。

筆頭は島津久光です。

そもそも薩摩藩の島津斉彬が「将軍継嗣問題」で慶喜派だったことはドラマでも避けて通れないシーンですね。

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兄の後を実質継いだ久光も、慶喜が将軍後見職に就任すると歓迎ムードだったようです。

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しかし!
その期待はすぐに裏切られます。

徳川慶喜/wikipediaより引用

慶応3年(1867年)5月17日。

土佐藩邸に四人の大名が集い、会議が開催されました(四侯会議)。

メンバーは、次のように錚々たるメンツですね。

徳川慶喜(一橋徳川家当主、将軍後見職)

島津久光(薩摩藩主の父)

松平春嶽(越前藩前藩主、前政治総裁)

伊達宗城(宇和島藩前藩主)

しかしここで慶喜は「俺以外の三人は極悪人、しかもバッカじゃねえの! 俺と一緒にしないでね」と、酔っ払って吐き捨ててしまうのです。

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会議の話題は、長州処分と兵庫開港問題であり、長州処分がグダグダになったのもこの辺に理由がありそうです。

ともかくこの態度に久光はガチギレしまして。

「こげんアホ将軍とやっくれなら、長州ときびってしまうよなあ〜〜〜!」となっても仕方なかったのです。

慶喜は頭が良すぎたせいで強気になり、無神経だったのかもしれません。

というか久光はリベンジできたからまだマシです。

「あぁ? 慶喜公? おれなんかは、えらぁい世話になったべした! はははははっ! おめ、おれに何を言わせてえ? あぁ?」

こう真顔でガチギレする権利は、むしろ佐幕派にあります。会津藩とか。

しかし会津藩主・松平容保は真面目です。

将軍の悪口なんか絶対に言いません。

松平容保
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ただし、会津藩士全員にそんな穏健な態度を期待してはいけません。

幕末当時、若く、血気盛んで、その気性の激しさゆえにトラブルメーカーでもあった家老・山川浩

八重の桜』では玉山鉄二さんが、ムカついたら弟だろうと切腹を誘う名演技を披露した、会津屈指のマッドマックス怒りのデスロード系の人材がおりました。

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慶喜がトンズラこいた後、大坂城は大混乱

会津藩では慶喜の代わりに、家老の神保修理に罪を着せて切腹させるという修羅場を迎えました。

しかも修理の妻・雪子はこのあと会津戦争で「娘子軍(女性部隊)」に参戦した説もあります。

ハッキリしているのは、雪子は会津戦争時に大垣藩兵に捕らわれ、陵辱された挙げ句に自害したということ。

それも大坂城からアッサリ逃げた慶喜のせい!

ここで山川に話を戻しますと、彼は著書『京都守護職始末』でボロクソに記述します。

それはこんな内容でした……。

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