『西郷どん完全版第壱集Blu-ray』/wikipediaより引用

西郷どん感想あらすじ

『西郷どん』感想あらすじ第2回「立派なお侍」

斉彬に直訴だ!と思ったら……

何度も脱線して申し訳ありません。

話を戻しまして……西郷は百姓を救いたい、しかし不正は見逃せないと、苦悩。赤山靱負に相談します。
そこで西郷、なんと斉彬に会いたい!と主張するのです。

本作は、岩山糸といい、島津斉彬といい。
西郷隆盛と運命の人を、最初から接触させすぎではないでしょうか?
(編集部注:実は林真理子氏の原作ではそこまで簡単に斉彬と接触できてません。少年時代に一度偶然遭遇して、それから西郷が出仕するようになって農政の意見書をせっせと提出してから)。

赤山もその思いを汲み、スケジュールをバラします。
だ、大丈夫でしょうか、薩摩藩のセキュリティ。

赤山靱負(沢村一樹さん)

西郷は熱心に民の窮状を訴える手紙を書きます。
大久保は止めようとしますが、西郷は昔斉彬に会ったことがあるから、と言い出します。
偶然出会っただけの世子との絆をやたらと強調するって、危険すぎやしませんか。

西郷が「こんな未熟な自分では、まだ斉彬様に会えない!」なんて悩むのであれば、納得できるのですが。

翌朝、斉彬は江戸に出立します。

一方、糸はフキを雇えないと言い出します。
理由は単純。糸の家も貧しいから。
でも、なんで彼女は事前に確認してなかったのでしょうか? 子供相手にこの梯子外しはあまりに厳しい。

そこへ借金取りが乗り込んできて、フキを連れ去ります。
糸は西郷に助けを求め、走るのでした。

 

悪辣な人買い共はチェスト!で片付ければ……

そのころ赤山は、斉彬を止めようとしています。
ここで西郷は【斉彬か、フキか】という二択を迫られます。

そして、どちらもミッション失敗という流れ。なんじゃそりゃ!

赤山が時間稼ぎをするものの、斉彬は出立し、フキは結局身売りされてしまいます。
西郷は、
「立派な侍じゃなか!」
自分の無力さに打ちひしがれ、泣き崩れるのでした。

「チェストおおおおおお~~!」
と、悪辣な人買い共をぶった斬ってから、「町人の分際で武士に刃向かった!」とか適当なことを言い出すのもアリなんじゃないかと一瞬思ったのですが。まあ、そういうワイルド薩摩はやらんようですね。

ところで、隠し田はどうなったのでしょうか。
こういうところ『直虎』を知っちゃった視聴者は曖昧にできませんぞ!

 

総評

子役から本役になっただけで、基本的にあまり必要のない回だったなぁ、と感じました。

薩摩藩の八公二民の厳しさ。藩主争いを描いてはいるのですが、全体的に薄味で、表面的になぞったものだなぁと感じてしまったのです。
風景は美しく、役者さんはがんばっていて、時折台詞に光るものもあります(斉彬とフキの桜島を眺めたときの感想とか)。

ただ、肝心の中身がよくない。
斉彬を薩摩切子に注いだ不味い酒と喩えましたが、全体的にそういう傾向があります。

食器や盛り付けは綺麗。
宣伝も熱心にしている。
しかし、どれを食べても面白みのない味。口を付けた途端、失望感をおぼえてしまうのです。

そういう意味では昨年と正反対でした。
昨年の序盤は、プラスチック製のかわいらしいおもちゃがついたお子様セットに、ハバネロを隠し味にした絶品オムライスがついてきた。
あるいは生ハムメロンにも喩えたりしましたが、とにかくあそんな意外性がありました。

『真田丸』にせよ、『直虎』にせよ、実に罪深い作品です。
視聴者の目を、バリバリに鍛え上げてしまいました。

雰囲気だけは良くて中身のない作品に対し、違和感を覚える人を格段に増やしてしまった――そう思います。

先週指摘した欠点は、改善の兆しどころかさらに悪化する予感がしています。
あまり突っ込まれないのですが、糸が出しゃばるのは何なのでしょう。
糸や三角関係の描写を削って、他にいくらでも描くことがあるじゃないですか。

「政治の描写なんて退屈だから」
というのだとしたら、それは単に「政治を面白く描けない」と認めちゃってるも同然かと思います。

そして今週、最大の問題は……。

斉彬を、民を困窮から救う名君候補としてしまったこと。
民を重税で苦しめる一因は、斉彬の曽祖父・島津重豪や斉彬による「蘭癖=西洋技術への傾倒」なのです。

大砲にせよ、薩摩切子にせよ、開発にはえらい金がかかるわけです。
調所や斉興が苦い思いで斉彬を見つめるのも、そういう背景があるから。
ただの父子相克ではありません。
「民を苦しめる重税はいけない」と西郷が思うのであれば、本来調所や斉興と気があうはずなのです。

斉彬や西郷のすることは全て善。
島津久光、お由羅、調所広郷……つまり西郷と斉彬に敵対する者は、全て悪。

こういう単純な構造に落とし込みそうで戦々恐々としております。

 

蛇足その1「子役時代の必要性」

さて、前回はSNS等でも高評価が目立ち、私はちょっと居心地が悪い思いがしておりました。
新年パーティをぶち壊した奴みたいな気分でして。

ただ、火曜日以降視聴率が発表されると、批判的な感想も目立ち始めました。
私が賛同するのは、こちらの記事です。

◆西郷どん 視聴率ワースト2位に(→link

この記事の指摘に同意します。

もうひとつ、先週を振り返って考えたのは、時代考証の甘さとはまた別の問題でした。
子役時代を描く意味についてです。

「子供のすることなんて見たくない。大人の政治劇を見せろ」
という意見もありますが、これには私は賛同しかねます。

例えば前作の『おんな城主直虎』は、子供時代にかなり長い時間を割きました。
流石に長すぎるとは思いましたが、脚本の森下氏が山田風太郎を参考にしたというインタビューを読んで気がつきました。

山田風太郎の作品に『室町少年倶楽部』というものがあります。
本作は前半、主人公たちの少年時代が、お伽話のようにのんびりとした文体で描かれます。この前半部はちょっと退屈で、児童書のようなのですが、後半作風ががらりと変わるのです。

後半は、あの少年たちが成長して、ギスギスドロドロ、人の浅ましく哀しい業が渦巻く政治劇を繰り広げます。

ここに来て、前半のかったるいほどの展開がわかるのです。
あの無邪気で純粋な少年時代があるからこそ、後半の展開が胸に突き刺さり、息苦しくすらなるのです。

『おんな城主直虎』も、これと似た技法を用いていました。
小野政次が直虎の手によって処刑された回のラストシーンは、無邪気に微笑む少年時代の政次と直虎が映し出されました。
ほんの数秒間で胸が抉られるような気持ちになったのは、幼年期をじっくり描いたからこそ、でした。

これと似た手法は2013年『八重の桜』も用いています。
会津の美しい風景と、そこで遊ぶ子供たちの姿は、戦争で荒廃してしまう前段階だからこそ、悲哀を帯びた美しさがありました。

で、話を本作に戻しますと。

本作の場合、子役時代の場面で描いたのは、主人公と二人の人間との関係でした。
斉彬と糸です。

将来的に二人とも別れることにはなるのですが、同じ夢を見ながら決裂するというわけではありません。
個人的には、しつこいくらいに絆を強調すべきであるのは、大久保利通をはじめとする他の郷中仲間であったと思います。

それこそベタな表現かもしれませんが、そうすることで西郷と大久保、二人の道がすれ違い分かれてゆく時の切なさがぐっと増した気がするんですよね。

終わったことをネチネチ言っても仕方ないのですが、やっぱり前回の描き方は、あまり意味のない場面の積み重ねであった気がします。
これから重要な伏線として生きてくるのかもしれませんが。

 

蛇足その2「本レビューの採点基準」

◆キャスト充実の大河「西郷どん」初回ワースト2位の不思議(→link

あんまり人様の記事にケチをつけたくはありませんが……。
『おんな城主直虎』のせいにするのはどうかと思います。

朝ドラの序盤は確かに前作の影響を受けて数字が下がることがありますが、大河はさほど影響を受けません(2013年『八重の桜』、2016年『真田丸』等)。

この記事、「本当に見ているのか疑問だ」と書いている割には、キャストのことしか触れていないんじゃないですかね。

この記事を書いた方と私は、採点方法が真逆。
私の採点基準を書いておきます。

私個人としては、ゲンダイさんの記事が高評価をしている懐古趣味にたよったキャスティングは、むしろ減点要素だと考えています。

懐古趣味、話題性重視のキャスティングは、即効性があるけれども、副作用も強い薬のようなもの。
脚本の綻びをキャスト頼みで誤魔化そうとすると、ドラマ自体どんどん話がつまらなくなります。現在放映中の朝ドラもそういう傾向があり、本作からもそれを感じました。

前回、渡辺謙さんが演じる斉彬は、馬に乗っていましたね。
竹林で泣いていた西郷が、馬が広々と駆け回れる野原に瞬間移動したかのような不自然さでした。

「ケン・ワタナベが馬に乗ったら、『独眼竜政宗』好きな懐古大河ファンがそれだけでも話題にするぞ!」
という、そういう狙いが見える気がしましてね。
私はシラけましたよ……。

渡辺さんを、一昨年の真田昌幸役の草刈正雄さん、昨年の小野政次役の高橋一生さんに喩える意見もありますが、これには賛同しかねます。

一昨年の草刈さんは『真田太平記』ファンの懐古趣味にもマッチしたキャスティングでしたが、それだけではありません。
二枚目のイメージが強い草刈りさんから、お茶目でとぼけた面を引き出すという、ベテランの魅力を再発見したチャレンジがありました。

昨年の高橋一生さんは、
「無残にも処刑される瞬間、高橋一生さんが微笑んだら最高なんじゃないか?」
という発想が根底にあったそうで。
「惨殺される高橋一生さんに不憫萌え」という、常人ならば思いつかない、鬼才の発想がありました。

つまり、役者の可能性を引き出す方向で脚本を練った。

ところが、本作は「世界のケン・ワタナベ」のPV的なアプローチで、脚本を作っている。
既存の魅力に乗っかるカタチ。
見てない方には意味不明かもしれませんが、朝ドラ『わろてんか』における高橋一生さんもそんな扱いをされていまして。

岩山糸(西郷糸子)
西郷3番目の妻・岩山糸(糸子)銅像見て「こげなお人じゃなかった」

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歴史ドラマをどう評価しているか

以下に私の採点基準をマトメておきました。
どうでも良いかと思われますが、お時間あります方は一読よろしくお願いします。

◆加点要素はここ
・考証の細かさ、脚本家の知識量が豊富であると感じられる
・キャストの新鮮味。過去の大河に出ていたかよりも、新たな才能や魅力を発掘してくるチャレンジ精神を重視
・脚本の細やかさ、ロングパスを重ねても破綻しない精巧さ
・史実をこういう切り取り方をするんだ、という新鮮な驚き
・過剰な演出に頼らない
・テンプレートにそった登場人物を出さない
・悪役を不要に貶めるような描写をしない
・見やすいナイスな地図
・VFXを駆使してでも頑張った、迫力ある映像
・逃げずに描く残酷描写

◆減点要素はここ
・考証の粗さ、脚本家の知識量が不足している
・「同窓会」キャスト。過去大河の常連を引っ張ってきて、往年大河ファンを引きつけようとする
・話題性ありきのキャスト。演技経験や演技力の不足したコメディアン、モデル、アイドル等を起用する
・役者ありきでねじまげる脚本(乗馬が得意な俳優を無意味に馬に乗せたがる等)
・ヒロインのわけのわからないおてんば行為(史実に基づくものならOK)、ツンデレ描写
・「政略結婚なんてロマンがないから」とねじ込まれる雑な初恋描写
・先を読みすぎて「未来人」、「神」になった人物
・中身のない台詞にかぶせてくる大仰なBGM、過剰演出
・テンプレートにそった既視感あふれる登場人物
・主人公と対立する悪役を不要に貶める
・「母だからこそわかるのです」、「戦は嫌でございます!」みたいな陳腐な台詞
・雑な大衆迎合(壁ドン、ボーイズラブを適当にぶちこむ)
・ヒロインが作った手料理を食すると、和解するとかそういう流れ
・残酷描写を避けるため、ぬるいヒューマニズムを発揮する

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【参考】
西郷どん感想あらすじ
NHK西郷どん公式サイト(→link)等

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