月岡芳年『浦島太郎』/wikipediaより引用

文化・芸術

御伽草子って? 庶民の昔話集で最も有名なのが浦島太郎(桃太郎じゃない)

歴史の分野で「物語」といえば、やはり双璧は『源氏物語』と『平家物語』でしょう。

片や優雅な王朝絵巻(源氏物語)。

片やその後に訪れた戦乱(平家物語)。

テーマに違いこそあれ、大長編かつ何度読み直しても面白い傑作中の傑作ですよね。

しかし、これらの物語は、歴史に残るようなエライ人やその周辺人物しか出てきません。

これが鎌倉~室町時代になると、ちょっと傾向が変わってきます。

名もなき庶民が主役になったり、庶民しか出てこないような話が増えてくるのです。

そういった物語をまとめて【御伽草子(おとぎぞうし)と呼びます。

 

「伽」は話し相手「草子」は物語を表す

「草子」を「草紙」と書くこともあります。

試験で減点されることはなさそうですが、一応先生に確認した上で「そっちの字でもいいんだ」ぐらいの認識をお持ちいただければ。

「伽」という字には「話し相手」という意味があります。

「草子(草紙)」は本そのものや物語の総称です。

御伽草子/国立国会図書館蔵

これらを踏まえて『御伽草子』を訳すとしたら

「話し相手代わりになるような面白い物語の本」

あるいは

「会話のネタになる本」

みたいな感じでしょうか。

『御伽草子』として伝わっている物語の中には、起源がいつなのかわからないほど古いものもあります。

おそらく一番古いのは、皆さんよくご存じの『浦島太郎』でしょう。

現代のような話になったのは室町時代とされ、原型は8世紀に成立した『丹後国風土記』、あるいはさらに以前に存在していた可能性も考えられています。

今後、もっと古い写本が見つかれば「日本最古の物語」は『竹取物語』ではなく、浦島太郎になるということもありうるでしょう。

竹取物語(17世紀末作)/wikipediaより引用

とはいえ源氏物語に

「竹取の翁(かぐや姫を見つけた老人)が物語の最初である」

と書かれていますから、京都に伝わっていなかっただけで、地元では存在していた可能性が高そうです。

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全編ほぼ短編だから伝わりやすかった

『御伽草子』に含まれる物語は、ほぼ全て短編であることも特徴の一つです。

手書きしかなかった時代ですから、長編を広めるには、よほど優れた内容と写す人手、貴重品である紙が大量に必要になります。

一方、短編であれば、人の記憶だけでも言い伝えることができます。

また『今昔物語集』や『宇治拾遺物語』など、「御伽草子」と類似した物語集がこれ以前にいくつか成立しています。

たとえば『わらしべ長者』や『雀の恩返し』なども、浦島太郎ほど古くはありませんが、御伽草子以前からこれらの物語集に入っていました。

昔の日本人も創作好きすぎるやろ。

室町時代からそういった物語の本が出始めて、江戸時代初期から出版。より世の中に広まりました。

『御伽草子』という呼び名がついたのも、その頃からだと考えられています。

じゃあなんで本サイトの区分では室町時代なのかって?

いや、教科書や参考書にそう書いてあるんです(´・ω・`)

江戸時代は文化史の比率が他の時代と比べて高めですから、少し室町時代のところにまわしておいたほうが、受験生にとってはいいかもしれませんね。

 

絵が多いのは「絵解」の影響だった

江戸時代に大々的に出版される前。

室町時代末期には、既に『御伽草子』の挿絵入りの本が出ていたようです。

それを受けて江戸時代の『仮名草子(女子供向けにひらがなで書かれた物語集)』や『浮世草子(大衆小説)』などが出てきたのかもしれませんね。

また『御伽草子』に絵入りの本が多いのは、当時「絵解(えとき)」という職業があったからという見方もあるようです。

絵解とは「仏教的な絵画の意味を、字が読めない・学問と縁がない層の人々に解説する」というのが仕事です。

女性の絵解「絵解比丘尼」を描いた絵(月岡芳年)/wikipediaより引用

『御伽草子』に入っている物語も、仏画と同じように読み解いて語り聞かせられ、世の中に広まったのでしょう。

絵解は、民謡などの歌を歌いながら読み解くこともあったらしいです。

なので、数十年前の日本でまだメジャーだった【紙芝居屋さん】みたいに、物語をしながら合いの手を入れたり、演出する人もいたのかもしれません。

この仮定が正しければ、ほとんどの物語に特定の作者がいない(わからない)理由にもなります。

「平家物語の作者は一人ではない」とされているのと同じですね。

もっとも、日本では物語を書き写す際に

「あ、いいこと思いついた! ここをこうしたほうがもっと面白くなるから、ちょっと変えて書いちゃえ!」

ということが珍しくなかったので、物語の作者がわかっているからといって、当時そのままの文章である可能性は非常に低いのですが……。

これこそまさに『源氏物語』がいい例ですね。

光源氏と藤壺の宮や六条御息所などの出会いのシーンがなかったりしますし。

 

清水寺が大人気

御伽草子の中には、少なからず僧侶や盲人、山伏などが登場する話が含まれます。

ゆえに「寺社もしくはその関係者が神仏の存在を強調するために作り、広めたのではないか」という説もあるようです。

今の日本人でも「悪いことをするとバチが当たる」とか「お天道さまが見てる」みたいな、ボンヤリとした概念は残されておりますよね。

そんなわけで御伽草子には、今日我々が思い浮かべる「昔話」の多くが含まれています。

なにせ数が多いので、物語の設定や登場人物は様々で、舞台にはある程度傾向がみられます。

特に清水寺は40もの物語に登場するとか。

また、人間以外の動物や鳥・魚・虫、はたまた植物や道具、妖怪など、登場キャラクターのバリエーションが非常に多いのも特徴です。

これも公家社会の物語にはあまりない傾向。

しかもただ出てくるだけじゃなく、動物同士で戦をしたり、ネズミが人間の女性と結婚したり、立派に(?)主役級の扱いを受けているのですから面白い。

余談ですが、グリム童話にもソーセージを登場人物(?)にした話がいくつかあります。

ドイツだから? と言われればそれまでですが、ソーセージ同士で殺し合ったり、ソーセージが鍋の中を泳いで味をつける役目をしていたり、なかなかシュールです。

一体どんな人が考えたんでしょう。

 

西洋の物語に「全滅」が多いのに比べ……

西洋の物語と比べると、日本の物語は「最後には誰かが報われる・救われる」という話の比率が多いようにも思えます。

グリム童話をはじめ、西洋の物語って登場人物が全滅という話が多いんですよね。

日本ではもうちょっと報われる話になっていたりしますが、原典は読んでて虚しくなるというか、まさに「そして誰もいなくなった」状態。

物語ではありませんが、マザー・グースも実際にあった殺人事件を茶化していたりします。

西洋の創作物は基本的にエグいんですよね~。価値観の違いといえばそうですが。

例えば、有名な"Who killed Cock Robin"(誰がコマドリを殺したか)では、最初に犯人が名乗り出ているのに、その罪を問わずに葬式の準備を事細かにやり始めるというリアルさです。それでいいんか~い。

「犯人のほうが身分が高いから手出しできない」とか、そういう隠喩なんですかね。

そもそも「これらの質問をしているのは誰なのか」などなど、疑問が次から次へわいてきます。

そうかと思えば、"Twinkle, twinkle, little star"(日本では「きらきら星」)の元ネタがフランスのラブソングだったりします。

「欧州事情は複雑怪奇」としかいえません。

 

源頼光、義経、坂上田村麻呂がやっぱり人気!

日本の場合は「因果応報」を含んでいるものも多いです。

その裏返しとして「善人が最後に得をする」ようになっている話が多いですね。

これはやはり仏教的な観念からか、あるいはこれまた日本特有の「現世利益を重んじる」傾向からでしょうか。

他には、源頼光や坂上田村麻呂が妖怪退治をした話など。ヒロイックファンタジー的なものも多い。

中でもやはり源義経は、一ジャンルといっていいほどです。

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義経が長い間「庶民にとってのヒーロー」と扱われてきたのも、『御伽草子』などで庶民に語り継がれてきたから……という面が大きいのでしょう。

武士の話は、能や浄瑠璃など他の芸術のネタ元になっていることも多いので、どこかで触れておくと親しみやすくなりますね。

御伽草子には、一寸法師など有名な話がとても多いのですが、ここではちょっとマイナーな話を紹介させていただきたいと思います。

「猿源氏草子」

いわし売りの男の恋愛と出世が主軸となっています。

三島由紀夫によって、他の草子物語と合わせ「鰯売恋曳網」という歌舞伎の演目にもなりました。そちらでご存じの方も多いかもしれませんね。

「文正草子」

美貌の姉妹とその両親が全員出世する、という珍しいタイプの立身物語です。なんて気前が良いんだ。

「三人法師」

室町時代初期のある日、高野山で修行している三人の僧侶たちが自らの出家した理由を語る……というものです。足利尊氏がちょっとだけ出てきて、恋のキューピッドみたいなことをしていて面白いです。

これは青空文庫現代語訳が読めますので、ご興味のある方はぜひ。

古文の類はどうしてもハードルが高く感じます。

が、御伽草子のような短編から触れるのも切り口のひとつです。

元が庶民の間で広まったものですから、和歌ほど技巧的でもありませんし、「あの話って元はこうだったんだ」というような発見もあるかもしれませんね。

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【参考】
国史大辞典
御伽草子/wikipedia

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