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雑誌を投げて合図、サッカー後のパブで密会…ソ連に核の秘密を流したスパイの行動が65年ぶりに明らかに

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クラウス・フックスと言えば、マンハッタン計画に参加し、後にソ連に寝返ってスパイとなり、アメリカの核の独占体制を崩した物理学者として有名です。そのフックスに対するイギリスの情報機関MI5の尋問調書が解禁され、当時の生々しいやり取りが明らかになりました。

その英国のテレグラフ紙が報じています(2015年8月21日付け)。

謎に包まれたスパイ技術の習得

簡単ながら、ウィキペディア日本語版から引用させて頂きます。

クラウス・エミール・ジュリアス(ユリウス)・フックス (ドイツ語: Klaus Emil Julius Fuchs, 1911年12月29日 - 1988年1月28日)は、ドイツ生まれの理論物理学者。マンハッタン計画でアメリカの原子爆弾開発に貢献したが、そのかたわらスパイとしてソビエト連邦に機密情報を流し続けていた。スパイとして有罪判決を受け刑に服し、釈放された後は東ドイツの理論物理学の重要人物となった。

以下、経緯について書かれてはいますが、「何時どのようにしてスパイのテクニックを身につけたのか」については謎でした。考えて見ると、人様のモノを盗むという技術を大学で教えてくれる筈もないですからね。それが今回の文書解禁で明らかになった訳です。テレグラフでは、「まるでスパイ小説を地で行くようだ」と驚いているぐらいです。

第二次世界大戦中、英国では、「チューブ・アロイズ」(Tube Alloys)というコードネームで原爆の開発研究に当たっていました。これに関わり、後にマンハッタン計画にも参加したのがフックスでした。引用させて頂いたウィキペディア日本語版の写真は、計画を推進したロスアラモス国立研究所の入館証のそれだったりします。

フックスは1950年に逮捕され、公務秘密法違反で14年の刑を受けます。原爆の方程式や設計図を盗み出したというのが、具体的な罪状でした。

今回明らかになった文書から、収監されていたワームウッド・スクラッブス刑務所でフックスはMI5の訊問官に取り調べを受けていた事が判明しました。その際に、ソ連の諜報機関の関係者との接触方法などについて明らかにしていたそうです。

ワームウッド・スクラッブス刑務所(ウィキペディア英語版より)

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雑誌を、庭園近くの家のフェンス越しに放り投げ

その方法ですが、単純明快というか何と言うか。当時の男性雑誌を、ロンドン南西部のキュー王立植物園(キューガーデン、現在はユネスコの世界遺産に指定されていますね)の近くの家の庭へフェンス越しに放り投げていたのですって。それが「連絡が取りたい」という合図だったそうです。

キュー王立植物園(ウィキペディア日本語版より)

相手を認識する手段に使っていたのが、テニス・ボールと手袋。ソ連側は両方にテニス用の手袋をはめ(指紋を残さないようにしていたのでしょう)、それと同じ図柄のをフックスに渡していたそうです。「以後、これを付けているのがお前の連絡相手だぞ」という訳ですね。インターネットの無かった時代は、こういうのが効果的だったのかも。

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アーセナルのサッカースタジアム近くのパブで人ごみに紛れ

リアルに接触する手立てもありました。その一つがパブ。ナグス・ヘッドというパブで、あらかじめ決められた席に座っておくというのがそれ。ちなみに、このパブは今でもあるようです。グーグルで「Nags Head pub London」というワードで地図検索したら、こんな具合。

nagsheadpubmap

幾つかあるチェーン店ですね。これのどれかは不明ですが、いずれもアーセナルのスタジアムの近く。恐らく、尾行を巻く為に試合終了後のファンに紛れたりしていたのでしょう。

訊問にはFBIの係官も同席していた

さて、今回明らかになった文書には、フックスの獄中訊問にMI5だけでなく、アメリカのFBIの係官も同席していたと書かれていました。海外の諜報活動なら通常はCIAの任務なのですが、ロスアラモス時代に機密情報を盗み出した可能性があるかもしれないので派遣されたようです。

MI5の上席尋問官だったジム。スカールドンは、次のように書き残しています。
「私は彼にキューガーデンの地図を見せた。すると本人は、即座に3つのポイントを指さした。どうやら、そこで諜報機関と接触していた模様だ。彼が指さしたのがスタンモア・ロードとキュー・ロードとが交差する場にある1軒の家だ。その家には庭があったのだが、そこへフェンス越しに『メン・オンリー』という雑誌を投げ込んでいたのだという。道路に沿って飢えられていた4本ある木の2本目と3本目との間からと投げる位置も決められていた。その上『メン・オンリー』に挟むページも10ページと決められており、それが緊急の会合を意味していたのだという」

「庭には定期的に投げ込んでいた…。投げ込んだ後、ホルメスデール・ロードの反対側(道の東端)の木の北側にあるフェンスにマークをせよと指導されていたとの事である」

「投げ込みはスタンモア・ロードの家の住人に、合図を送る事を意味していたのだろう。フックスが言うには、キュー王立植物園の外にある鉄道駅には店舗が多くあった。そうした店舗の内の2つがバス停留所から至近距離にあった。もし、集まるのが大変危険だと分かった場合は、この2つの地点にチョークでマークせよと教えられていたと話している」

スカールドンは、供述にあったキュー・ロードの場所と住人を捜査しました。だが、今回の文書には、その結果が記載されていなかったそうです。

極秘と書かれたメモの中には…

また、極秘と書かれた訊問翌月のメモの中で、スカールドンは「フックスは様々な新しい接触の認証合図について、事細かく語ってくれた」と書いています。

「本人は…会うようなセッティングを始めたのは、英国に戻った1946年に遡ると言う…で、その接触では紐に結ばれた本や、写真雑誌の『LIFE』を手にしていたと言う」

「自分を『誘い込んだ』人物についても名指しした。ベルリン大学教授のユルゲン・クキジンスキーとロンドン北部のハンプステードに住むハンナ・クロップステーチだそうだ」

「集まる手配をしたのはクロップステーチで、ウード・グリーンのパブに『トリビューン』誌を持参させられていた。パブの入り口正面のテーブル席に座るよう指定されていた。相手は手に赤い本を持っていたという」

つまり、パブで会う際には、テニスとは別の認証を義務づけられていた訳です。

極秘技術の漏洩で英米関係はギクシャク

さて、こうして事細かい段取りが功を奏して?フックスが教えた極秘技術はソ連に渡り、核の西側独占という構図は崩れ去ります。フックス以外にも共犯がいるはずだと捜査が拡大されたのですが、事が進むに連れ当時の英国とアメリカの関係は大変ギクシャクしたそうです。アメリカ側が英国を責めるのは、当然の成り行きでしょうからね。

今回の解禁文書にはワシントンの英国大使館の伝書使のメモも含まれていました。「こうしたスパイが英国国籍では無く、英国とも如何なる関係も無いようであってくれと祈り続けた」と、そのメモには書かれていました。「もしアメリカ国籍だったら、FBIに何故監視していなかったと非難の矛先が向くのは疑い無いのだが」と続いていたそうです。

この伝書使さんの願い空しく?フックスは英国に帰化していた事が判明して、後は…って展開となってしまった訳です。1959年に英国国籍を剥奪。刑期を終えた後は東ドイツに渡り、そこで1988年に生涯を終えました。

ベルリンの壁が翌年の11月9日だった事を思えば、正に冷戦に生き、冷戦と運命を共にした生涯だったのでしょう。それにしても、今だったら、どんな風にスパイ同士が接触しているのでしょうか?

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