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「ヒトラーにホロコーストの着想を与えたのはパレスチナ人指導者だ」とのイスラエル首相の発言が大炎上

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ナチスの思想にオリジナリティが無いのは、研究者なら誰でも知っている事ですが(例の手を挙げるポーズだって、元々はムッソリーニのファシスト党のを真似ているぐらいだし)、流石にこれはトンデモだろうとしか言いようが無い。

イスラエルのネタニヤフ首相が「ヒトラーは、ホロコーストの着想をパレスチナ人政治指導者から得た」と発言し、内外から激しい非難を浴びています。地獄でヒトラーもビックリ?

ワシントン・ポストが報じています(20151021日付け)。

4年ごとの世界シオニスト会議の場で

イスラエルの政界で、雄弁性と攻撃性に於いてベンジャミン・ネタニヤフ氏の右に出る人物はいない。だが、彼の盟友ですら、1020日に行った発言には当惑とショックを受けている。

と、ポストも呆れ気味の書き出し。首相がこの日、同時代のパレスチナ人宗教指導者がアドルフ・ヒトラーに対し、ユダヤ人の絶滅というアイディアを授けたと発言していたからです。

さて、問題発言が出たのは20日の夜。4年毎に開かれる世界シオニスト会議の席上でした。イスラエルではパレスチナ人によるヨルダン川西岸の暴力沙汰が激化しており、話題にしたようです。で、歴史に先例があると、まず切り出しました。1920年と21年、29年に、当時イスラエルで暮らしていたユダヤ人がアミーン・フサイニーという宗教指導者による扇動で、パレスチナ人の集団から攻撃を受けていたというのです。で、フサイニーは後に第二次世界大戦ではナチスと同盟を結んでいた事も指摘しています。

ウィキペディア日本語版から引用させて頂きます。

ハーッジ・ムハンマド・アミーン・アル=フサイニーhājj Muhammad Amīn al-husaynī1895 197474)はパレスチナアラブ人で、汎アラブ主義者。エルサレム大ムフティー、最高ムスリム評議会議長、全パレスチナ政府PLL)大統領、パレスチナ民族評議会議長。 父のムハンマド・ターヒル・フサイニー、兄のカーミル・フサイニーもエルサレムの大ムフティーであった。

パレスチナ・アラブ人(のちに「パレスチナ人」とされる)の大部分はユダヤ人との平和な生活を望んでいたにもかかわらず、暴力団によって反フサイニー派のアラブ人を殺害し、フサイニー家のライバルのアラブ人136人を虐殺した(ヘブロン市長、エルサレム元市長を含む)。

1936ヤッファ9人のユダヤ人虐殺を煽動し、更に「パレスチナ・アラブの大蜂起英語版)」を3年間にわたり指導。このため、英当局によりベイルートへと追放され、そこからイラクへ移る。1941にイラクでのラシード・アリー・ガイラーニーによる親枢軸国の反英クーデターが起きるとラシード・アリーを支持・援助するが、イギリス軍が政権打倒のために軍事介入(アングロ・イラク戦争)したことで身の危険を感じイランに亡命。しかし、イランにも英ソ両軍が侵攻したことから、同国の日本大使館に逃げ込んで変装してイタリアに亡命した。

最終的にフサイニーは、ナチス政権下のドイツへ渡り、1129日にはヒトラーとも会見してヨーロッパからユダヤ人を「殲滅」するよう要求した。ヒトラーからは、中東・北アフリカにおけるユダヤ人一掃とアラブ民族主義勢力に対する支援の確約を得た。(中略)

この通り、ヒトラーとも会見しています。

この会談の中でフサイニーはこう語った

アラブ諸国はドイツが必ずや戦争に勝利すると確信している。アラブ人とドイツ人は共通の敵を持つ。すなわちイギリス人、ユダヤ人、共産主義者である。したがってアラブ人とドイツ人は自然の友である。だからアラブ人はドイツの戦争遂行に心から協力したい。(略)総統からアラブ人の統一と独立に希望を与えるような宣言を出して欲しい。

これに対して、ヒトラーの回答はこうだった

ドイツはユダヤ人に対する呵責なき戦いを遂行している。そのことは当然としてパレスチナにユダヤ人国家を作る事には大反対だ。この地がユダヤ人によって経済的に開発されたというのは嘘であり、アラブ人の力によってなされたものでしかない。やがてドイツ軍はコーカサスから南の出口へ進撃しよう。そのときこそ、アラブ解放の時が来たと宣言を発しようし、フサイニーをアラブ人最高のスポークスマンと認めたい。

これがヒトラーとの会談の様子。日本では余り知られていないのですが、穏やかならざる人物であった事が分かります。そして、イスラエルの人にとっては憎んでも余りある人物なのでしょう。

で、ネタニヤフ首相は、フサイニーについて次のように発言しました。「ヒトラーは当時、ユダヤ人の絶滅を考えていなかった。ユダヤ人の追放をしたがっていたのだ。そこにアミーン・フサイニーがヒトラーの元に赴き、こう言った。『ユダヤ人を追放したら、みんなパレスチナに来てしまう。彼らをどうするべきだろう? 焼き殺そう』と」

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ホロコースト否定へのアシストにと危惧

ポストは、この発言に触れる前にThen Netanyahu dropped his bombshell(そしてネタニヤフ氏は爆弾を投下した)と断り書きを入れていました。フサイニーは、「ユダヤ人問題の最終的解決」(ユダヤ人政策に関連してナチスが使った表現。ホロコーストを指すものと理解されています)の「扇動の中心的な役割を担っていた」とまで、ネタニヤフ首相は発言していたそうです。

ちなみに、ネタニヤフ首相のお父さんは歴史家。首相としても問題発言なのに、そういう家柄というのもあって「ホロコーストの否定論者を助けているようなものではないか」と、余計問題視されています。支持者の中ですら怒りの声が上がっているぐらいです。

しかも、21日にドイツを公式訪問する予定もある中での発言。書くまでもないでしょうが、ドイツではホロコースト否定は犯罪行為になっています。それを、よりによってユダヤ人であるイスラエルの首相が・・・という話の構図になっています。

ポストにしても、過去の発言姿勢を見ていると、単刀直入で物議を醸すスタイルだとしながらも、今回の発言については意図が分からないと困惑しています。パレスチナ人は勿論の事、ユダヤ系団体や歴史家も「間違っている」と指摘しています。

その急先鋒が、アメリカの名誉毀損防止同盟。ユダヤ人差別を無くそうとする運動団体なのですが、こちらのナショナル・ディレクターを務めているジョナサン・グリーブラット氏は「フサイニーは敵意に満ちた反ユダヤ主義者だったが、ホロコーストについて語る時はいかなる場合でも慎重でなければならない」とTwitterで苦言を呈していました。それだけでは足りないと思ったのか「意図していなかったとしても、首相の言葉は600万人のユダヤ人を殺した『ユダヤ人問題の最終的解決』を指揮したアドルフ・ヒトラーの役割を実際に低く評価し、矮小化するものだ」とも書き添えています。

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時系列的には合わない

どこの国でもそうでしょうけど、与党指導者の失言を見逃す野党はありません。今回もそうなっています。イスラエルの場合は、中道左派の野党であるシオニスト連合のイトジック・シュムリ議員は、ネタニヤフ首相に対し、ホロコーストの犠牲者に謝罪せよと発言しています。

地元のハアレッツ紙によると、「ホロコーストの事実をネタニヤフ首相が歪曲するのは初めてでは無いが、今回は嘘によるものであり、各方面を震撼させている」とシュムリ議員は発言しているそうです。

閣内からも苦言が出ています。モシェ・ヤーロン国防相が、ヒトラーは「ホロコーストを実行した。フサイニーはそれに参加したのだ」と、正しい事実関係を持ちだしているからです。

では、何故こういう発言をしたのか? パレスチナ人の暴動のルーツは、48年にも及ぶイスラエルの西岸占領にあるとの見方があり、それを否定したかったのではないかと思われているそうです。こうしたイスラム法学者が扇動している面を見逃すべきでは無いと言いたいらしい。

実際、今回ほどではないにせよ、2013年にもイスラム法学者がアラブ世界の反ユダヤ主義を煽っているとの発言をしていた事があります。そして、今回はフサイニーがホロコーストのアイディアをヒトラーに授けたとまで言ってしまったものですから、政界が紛糾状態になるのもむべなるかなというところ。その上、SNSがある時代。上記のTwitterの苦言やフェイスブックでは首相発言を嘲笑するページが起ち上がっているほどです。

野党の指導者であるアイザック・ヘルツォーク氏は、今回の発言を「危険な歴史の歪曲の歪曲だ」としています。「我々の同胞にとって恐るべき災厄であるホロコーストやヒトラーやナチズムがホロコーストで果たした役割を矮小化するからだ」と言うのです。

そもそも、ヒトラーとフサイニーが会談した194111月には、既に虐殺が始まっていた事をヘルツォーク氏は指摘しています。確かにその通りで、これでは歪曲と言われても仕方ありませんね。

左派系のメレッツ党のゼハヴァ・ガロン議員は、フェイスブックのページでオーストリアの右翼政治家で、ナチスを賛美する発言をしていたイェルク・ハイダー(2008年没)の発言でもなければ、パレスチナ自治政府のマフムード・アッバス大統領の発言でも無いと皮肉った上で「恐らく19419月で発生した33771人のユダヤ人が殺されたバビ・ヤールの大虐殺について思い起こさねばならないのだろう。ヒトラーとフサイニーが会う2ヶ月前の出来事だったではないか」

1941929から30日にかけて、ナチス・ドイツ親衛隊の特別部隊およびドイツからの部隊、地元の協力者、ウクライナ警察により、33771人のユダヤ人市民がこの谷に連行され、殺害された。「バビ・ヤール大虐殺」はホロコーストにおいて1件で最大の犠牲者を出した虐殺と見なされている9月末の虐殺の後も、数多の市民がバビ・ヤールへ連行され、銃殺された。推計では第二次世界大戦中にナチスによっておよそ10万人がバビ・ヤールで殺害され、その大多数が市民であり、またその多くがユダヤ人であった

 ウィキペディア日本語版より引用いたしました。やはり、時系列として合わないのがわかります。

トドメは、エルサレムのホロコースト犠牲者追悼施設であるヤド・ヴァシェムで歴史部長を務めるディナ・ポラット氏の指摘。イスラエル陸軍の運営するラジオ局で、発言は事実関係が間違っていると発言しています。「ヒトラーにユダヤ人を殺すとか焼くとかといったアイディアを与えたのはフサイニーでは無い。相次いで虐殺が続く中で、2人は会っていたのであり、事実は違っているのだ」。また、テルアビブ大学で中東・北アフリカ史を専門としているメイル・リトバック氏も、Ynetというニュースサイトの取材に対し「フサイニーはユダヤ人の絶滅を支持していたし、ユダヤ人救出を妨害したし、ナチス親衛隊の為にアラブ人を集めようともした。不愉快な人物であるが、これはヒトラーの罪のスケールを小さくするものではない」

旗色が悪すぎますね…。

ともあれ、一番怒り、かつ呆れているのはパレスチナ人グループ。和平交渉に参加していた事もあるパレスチナ人指導者のサエーブ・エレカット氏もその1人で「ネタニヤフ氏はパレスチナ人を深く憎む余り、600万人のユダヤ人を殺したヒトラーを喜んで無罪としたいのだろう」と皮肉たっぷりに指摘しています。

さすがにヤバイと思ったのか、本人は21日の訪独直前に、次のように釈明しています。

「欧州のユダヤ人社会を極悪非道に破壊したヒトラーの責任を軽くする意図は無い。ヒトラーは600万人を虐殺したユダヤ人問題の最終的解決』について責任がある。決断を下したのはヒトラーなのだ」

そう言いながらも、フサイニーの歴史的な位置付けは変えようとしていません。「フサイニーはユダヤ人虐殺を指導した人物だ。彼の役割が重大だった事を、我々は無視してはならない。フサイニーは繰り返し、ユダヤ人を虐殺するべきだと主張していた。パレスチナ問題を適切に解決する手立てだと考えていたのだ」と、この期に及んで、まだ言っているぐらいです。

こうした首相の姿勢に困惑しているのが、ドイツ政府。首相官邸の広報担当者は「殺人レースを展開したナチスの役割について、全てのドイツ人が把握している。ホロコーストという文明を破壊する行為に繋がっていった事も同様だ」と声明を発表しています。

「ドイツの学校で教えるのには理由がある。『決して忘れてはならない』という思いがあるのだ。そして、歴史への見方を、どのような理由であれ、変える理由は無い。我々は、この人道に背く犯罪がドイツによって行われたという自覚を持っている」

巻き込まれたくないって感じが有り有りですね。なお、フサイニーは1974年にベイルートで癌によって他界しています。天国に行ったか地獄に行ったかは不明ですが、後者なら今頃ヒトラーともども困惑している事でしょう。

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