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週刊武春 中国

中国究極の美少女作品『紅楼夢』って何ぞ! 君は林黛玉派か、それとも薛宝釵派かい?

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今から十年ほど前。
日本のとあるアダルトゲームが中国でバッシングを受けました。
中国では未発売だったのにナゼか?

ヒロインの一人が「林黛玉」という名前だったからです。

これ以前から、三国志の人物名でも同じような論争があったそうですが、その比ではありません。完全に虎の尾を踏みました。

林黛玉(りん たいぎょく)とは、『紅楼夢(こうろうむ)』に登場する、中国文学史上、最高の美少女であり、永遠の恋人なのです。
それをいかがわしい作品に出すとは、さすがに彼らの反応も致し方ないものでしょう。

では林黛玉ってどんなヒロインだったのでしょうか?
そもそも実在するのでしょうか。
日本人にはあまり馴染みがないため、その辺から説明して参りましょう。

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美少女だけ側にいて欲しい究極の美少女小説『紅楼夢』

主人公の周囲には十代の美少女しかおらず、皆それぞれ個性があって、彼女らは主人公が好き――。

そんなあらすじだけ辿れば、
「それって少年誌の漫画であったね」
とか
「それ、なんてゲーム?」
と思う方もおられるかもしれません。

こうしたストーリーは、何も漫画やゲーム、ライトノベルだけの専売特許ではありません。
18世紀中頃に中国で成立した長編小説『紅楼夢(こうろうむ)』の世界観が、まさにこうしたものだったのです。

つまり林黛玉(りん たいぎょく)は、実在の人物ではないんですね。

この小説のあらすじはザッとこうです。
中国の大貴族・賈(か)氏。その貴公子である美少年の賈宝玉(か ほうぎょく)は、「栄国府」と呼ばれる賈家の大邸宅で楽しく暮らしています。
そんな彼の周囲には、繊細でプライドの高い林黛玉、しっかり者で穏やかな薛宝釵(せつ ほうさ)がいます。
さらに個性豊かな美少女が、宝玉の周囲におりました。

そんな宝玉と美少女たちの華麗なる日常を描く――それが『紅楼夢』の世界です。夢幻の如き世界がそこにあります。

「中国版『源氏物語』」と形容されることもありますが、ヒロインが多い点と、恋愛要素が強いという点ぐらいしか共通点はない気がします。
『源氏物語』のヒロインは男の身勝手さにげんなりすることも多いのですが、『紅楼夢』の美少女たちはひたすら愛くるしく、宝玉を慕い続けるのです。

理想のハーレム、といえばこちらではないでしょうか。『源氏物語』はヒロインが結構死にますしねぇ。

本作を象徴すると言われてい主人公の台詞は以下の通り。
「女の子の体は水から出来ているのに、男の体は泥から出来ているんだ。女の子にといるとすっきりと爽やかな気分になるけど、男といるとマジ汚くて臭くてウザくて最低」
「女の子も処女のうちはいいけど、男と交わると泥臭くなって駄目」

この台詞を二百年前に通過しているって、凄くないですか?
伝統的に中国では、歳をとって経験を積んだ男性が賞賛の対象でした。

ところが本作では、若い女性こそ最高だと賞賛しているわけです。
価値観の逆転であり、本作はただのハーレムものじゃないぞ、ということではあります。

 

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林黛玉は萌え要素てんこ盛りデス♪

メインヒロインは林黛玉と薛宝釵の2人です。

『エヴァンゲリオン』のファンが、レイとアスカどちらが好みか?で争うように、中国の人々は、彼女らのうちどちらが好みかで盛り上がっておりました。
そんな彼女らのスペックはこうです。

◆林黛玉(りん たいぎょく)
外見:病弱で弱々しく、やせ形。字は「顰児」(眉をひそめる女の子)。心痛や体調不良でよく眉をしかめるのは、古代中国伝説の美女・西施を意識した設定と思われます
性格:繊細可憐でひたすら健気。ちょっとしたことでもプライドを傷つけられ怒りやすく、そこが欠点とされることも
主人公への態度:ややツンデレ気味。好き過ぎて素直になれない

◆薛宝釵(せつ ほうさ)
外見:楊貴妃型のグラマラスタイプ。健康美人
性格:温厚でよくできた優等生タイプ。あまり怒らず、良妻賢母型
主人公への態度:素直に好意を示す

どうですか、これ。
中国では「恋をするなら林玉で、結婚するなら宝釵だよねえ」と言われているそうで、いかにもそんな感じですね。

他のサブヒロインには、おっとり天然系、おてんば系、クール系と揃っています。
それでもやはり彼女らが二大人気であることは言うまでもありません。

この黛玉には名場面がありまして。
庭に散った花びらを小さな鋤で集め、庭に葬るのです。
「黛玉葬花」と呼ばれるこの場面は、黛玉の感性のやさしさ、花びらを集める仕草の美しさから、大変人気があります。
黛玉を描いた絵は、たいていこの場面をモチーフとしています。

しかも黛玉は、作中で唯一リッチニート状態の主人公に、「アンタもっとちゃんとしなさいよ」と言わない存在です。
他の人は、ろくに勉強もせず、美少女とキャッキャウフフする主人公にちくりと嫌味も言うのですが、黛玉は絶対にそんなことをしません。

最高だな、黛玉たんは……ここまで読んでおわかりいただけたでしょうか。
二百年の歴史ある美少女キャラを、隣国が勝手にアダルトゲーに出してしまったことに対する、中国人の憤激を……。

 

「紅迷」が二百年前に既に通過した道を我々は歩んでいる

本作は発表当時「軟弱なものを読みおって!」と批判されました。

三国志演義』や『水滸伝』が好きな人からすれば、美少女といちゃついてばかりの本作は確かにそう見えたことでしょう。
発禁になったこともあります。

しかし、熱狂的なファンはそんなことでびくともしませんせした。
中でも、本作には「紅迷」(『紅楼夢』オタ)というマニアがおりまして。
彼らは聖地巡礼、コスプレ、二次創作、ハッピーエンド改変作品発表と、およそオタクのすることならば全部やり遂げてきました。

『紅楼夢』は、作者の曹雪芹が作品未完のまま亡くなったため、後半は別の作者が書き足しました。
この不運な要素すら「教祖が亡くなったからには俺らが作り上げる!」という情熱をかきたてたとも言えるでしょう。

オタクのいる場所は、中国人はすでに二百年以上前に通過しているッ!

私も「紅迷」から本作を熱烈にプッシュされたことがありますが、ものすごい情熱でした。

もちろん映像化も幾度となく経てきてます。
原作を読んだことはなくとも、ドラマ版でファンになる人も多いわけで。

二百年間、本作は中国の人々から愛されてきたのです。

 

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永遠のときを生きる美少女たち

こうして書いてくると、まるで美少女だけが売りのような物語に思えるかもしれませんが、それだけではありません。

貴族社会を描いたディテールや心理描写の細かさ等、繊細な細工物のような美しい世界観は、たいへん魅力的です。
そんな世界は永遠に続くものではなく、本作は主人公の置かれた環境が激変し、少年少女たち住むキラキラした世界が崩壊してゆく結末を迎えます。

だからこそハピエン厨(ハッピーエンドが好き)の「紅迷」は、改変してハッピーエンド版を二次創作したりしたわけですね。

しかし本作には、ハッピーエンドを捏造しなくてもよい仕掛けもありまして。
実は本作の少年少女は、天上界から下界に降りてきている、という意味です。

つまり悲しい退場をした彼らも、天上界に戻って「地上が怖いところだね」と暢気に言い合っている。
そういう解釈もできます。

幻想的な設定であると同時に、力技で強引にハッピーエンドへ持って行ける設定なので、ハピエン厨の皆さんも是非参考にしてください。

繊細な世界観と魅力的なヒロインという、素晴らしい設定を持つ『紅楼夢』。
その世界そのものだけではなく、世間から軟弱な連中だと思われつつも、どっぷりハマって価値観すら変わってしまった「紅迷」の行動を見ても楽しくなる作品です。
二百年前の「紅迷」に親しみを感じてしまう人も多いのではないでしょうか。

日本でもドラマ版のソフトが販売されています。
興味のある方は是非ともご覧ください。

文:小檜山青

 




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【参考文献】

 



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