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歴史漫画ウソホント ローマ

『テルマエ・ロマエ』で知る古代ローマお風呂&奴隷事情【歴史マンガウソホントVol.6】

更新日:

 

コミックだけでなく映画でも意外なヒットを飛ばし、話題となっている『テルマエ・ロマエ』(BEAM COMIX)。
ヤマザキマリ氏によるコメディタイムスリップモノの漫画で、現地イタリア紙では「ついにローマ帝国 日本の漫画を征服」と報じられたことでも有名だ。
古代ローマと現代日本の入浴設備という絶対的に相いれない環境が、主人公ルシウスの繰り返し行われるタイムスリップにより見事に融合していくという話である。実写映画化に至ってはパート2が出るほど人気で、古代ローマ人を日本人の阿部寛が演じるという無茶な設定でありながらなぜかしっくりきてかえって笑ってしまう。
コミック、アニメ、実写映画、いずれもヒットを飛ばす作品であるが、魅力的なのは古代ローマ人の生活を事細かに描いた作風であろう。タイムスリップモノで、有り得ない話と分かっていてもなぜか現実味を感じさせてしまうあの世界観は、どこまでが史実でどこまでが創作なのだろうか?

古代ローマのテルマエ習慣

作者、ヤマザキ氏が「古代ローマにはお風呂の遺跡が沢山あるのに現代のローマ人は入浴の習慣が無いのがもどかしい」と語っているが、その通り古代ローマ遺跡にはお風呂の遺跡も数多く存在する。
1巻にもある通り、タイトルにもある「テルマエ」とは公衆浴場を指す言葉だが、古代ローマ人と入浴習慣は密接につながっていた。
しかし、私達がイメージする「入浴」とはかけ離れた意味合い、かつ目的を持っていたのがローマ帝国のテルマエである。

まず入浴時間。
日本人が入る銭湯などはせいぜい30分~1時間程度であろうが、古代ローマでは一日の内数時間をテルマエで過ごすという習慣が根付いていた。
古代ローマ人の富裕層は「平たい顔族」ならぬ、「奴隷」を連れてテルマエへ向かった。奴隷には脱衣の手伝いや飲み物の運搬といった役割が与えられていた。
そんなに長い時間お湯に浸かっていたらふやけるだろう、と思うかも知れないが古代ローマのテルマエは浴場というより「公共の社交場」。
現代のサウナに近い設備や、低温の冷水プールなど、日本で言う健康ランドのような設備だったことが考古学の発掘などから分かっている。場所によっては、ジムのようなものが併設された設備もあり、ローマ帝国がいかに進んだ考え、技術を持っていたかがわかる。
そして、皇帝は民衆の支持率を上げるため、テルマエ建設に意欲的で一つ一つの都市に少なくも一つのテルマエを設置した。政治的利用価値もテルマエにはあったのだ。さらに、地元の権力者たちはテルマエを貸切にし、民衆に無料開放し支持率を集めた。
賄賂的目的まであったとはただならぬ存在、それがテルマエだ。

本作でも、テルマエ建設に当たってルシウスが現代日本から持ち込んだ技術が瞬く間に流行したり、皇帝との揉め事になったりといったシーンが登場する。

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ルシウスは実在の人物なのか?

気になるのは、あのリアルに描かれたルシウスが、実在の人物なのかどうか。単刀直入に言ってしまうと「創作」の人物である。
しかし、五賢帝の一人ハドリアヌス帝(西暦76―138年)など実在の人物も多く登場しており、古代ローマの歴史に興味がある人なら聞いたことのある名前がいくどとなく登場してくるだろう。
なぜここまでリアルなのだろうか。

それは作者の旦那様が古代ローマオタクというかなり強力なパートナーだったからゆえの歴史感や登場人物によりリアルさが増しているのだろう。
今となってはルシウス=実在の人として読んでしまうコミックス。わかっていても「こんな人居たんだろうな」と思わずにはいられない。

 

古代日本にタイムスリップしていたら?(なだ・絵)

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古代ローマの温泉事情

古代ローマ側の事情を知ることができるだけでなく、平たい顔族(我々日本人)と着々と交流を深めるルシウスの日本での行動も魅力の一つだ。
3巻ではついに両替に成功し、ラーメン屋を開いた挙句、現代日本人技師と交流を深めて金閣寺の発想から月見風呂を建築してしまうが、気になるのはローマの温泉事情。
ラーメン屋があればラーメンの発祥地が変わってしまうし、日本人の心とも言うべき露天風呂も発祥が変わってしまう、有り得ない話だが、現代のイタリアなどヨーロッパの温泉事情を見てみよう。

驚くのは古代ローマでの公衆浴場の多さ。紀元前1世紀から始まったと言われているテルマエ建設。
4世紀ごろには400のテルマエが有ったと言うから驚きだ。
紀元前1世紀といえば日本人は、バリバリ弥生時代の頃。一生懸命土器を作って生活し、ようやく米がつくれたと喜んでいるくらい。風呂も無ければほぼ文字も無い時代。それと比較してしまうと古代ローマの技術、思考は恐るべし。

さて、話が脱線したがローマ、今でいうイタリアにも温泉は存在する。有名なのは露天風呂。日本人と違い、水着を着用して入浴するのが現代スタイルである。
サトゥルニア温泉などは保養地として現地の方にも人気のスポットだが、観光客も多い。

イタリアには火山があるため温泉もあるのだ。
しかし、ヨーロッパで一番温泉施設が多い国は意外にもドイツ。意外かもしれないが、温泉は何もローマだけのものではない。ヨーロッパ各地に古代ローマ人の軌跡と共に温泉は存在している。
イギリスのバースには、古代ローマ期、イギリスを制圧したローマ人によって開かれた温泉が存在する。現在でも現役の温泉地だ。
他にもドイツ、フランス、スイス、オーストリア、等ヨーロッパの各地に温泉が存在し、温泉地として発展している。

ベルギーには、スパという街が有りこれも同様にローマ期発展した温泉地だ。
そう、気付いた方も居るかもしれないが「Bath」「Spa」という今でも使われる単語は、実は古代ローマ期発展した温泉地の土地名に由来するのだ。当たり前のように使っている単語が実は古代ローマから続く言葉だという事実はやはり温泉の習慣があった古代ローマならではということか。

平たい顔族=奴隷?

ルシウスは最初、日本人を見て「平たい顔族」「奴隷」と、勘違いしているが実際ローマでは奴隷制度があった。実に奴隷の数は10万人、ローマ市民が15万人という記録もあるほど多くの奴隷が存在していた。

奴隷というと、エジプトのようにピラミッド建設に借り出され過酷な肉体労働を強いられているというイメージがあるが、ローマでは少々違ったようだ。

もちろん、肉体労働に借り出される奴隷も居たが、家庭教師や学者といった立場を持った奴隷もおり、難しい役職にあればあるほど報酬は相当のものがあったとされている。高齢になったり、任務を終えた奴隷の中には主人から解放される者も居た。

中には官僚や属州の長官の立場にまで上り詰める者や、借金の肩に奴隷の身分になるというパターンもあったというから一概に○○族だから奴隷、という現代のような民族差別が定着していたとは言いにくい。あくまで貧富の差から起こる主従関係もあったということだ。

もちろん、テルマエでも奴隷は活躍している。

主人の着替えを手伝う者、垢すりなど富裕層の入浴に対しサービスをする者などが居た。ルシウスの設定を見るかぎり、奴隷を一人か二人抱えても良いような身分だと思うが作中奴隷を使う所を見ないのは現代人向けにアレンジされているためと考えるのが妥当だろう。

しかし、奴隷市場や差別があったのは事実で、古代ローマにおいても奴隷の発起した戦いが何度か起こっている。古代ローマ終焉の理由は今だ不透明な所も多いが、身分差別の社会が終わったという意味も含んでいるのかも知れない。

時代は五賢帝という輝かしい時代なので、ローマ滅亡まではほど遠いが、これからどんなローマ時代を教えてくれるか楽しみだ。最近、単行本の刊行がストップしているのが気になる。

春原沙菜・記

戊辰戦争終焉の地、函館出身、こよなく箱館を愛するものの何故か伊予勝山藩(愛媛県松山市)に在住。
ライター、イラストレーターとして地味に活動中。
日本史オタクの趣味が高じ、BUSHOO!JAPANへ定期的に旅ルポ、史跡ルポなどを執筆中。
旅ルポをすると、絶妙な運の悪さで美味しい所を取り逃すためお笑い記事になってしまうのが最近の悩み。
直近の帰省では函館山を一望できるスポットに散歩するも、景観の変化と天気の悪さという悪運を発動し、函館山を拝むことができなかった。

 

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武将ジャパンでは2013年7月のサイト誕生から1周年を迎え、新シリーズ「歴史マンガウソホント」を開始しました。歴史も好きだけどマンガも好きという当サイトの執筆陣が総力を結集したこの企画は、同時並行で書籍化が計画されています。

数々の歴史マンガを題材に、歴史的にどうなのかという時代考証を加える本邦初の試みです。テレビや映画などの歴史ドラマでは時代考証学会という動きがありますが、マンガにスポットを当てた動きはありません。大好きな歴史マンガが、史実をベースにすることで、より面白く、さらにマンガ家(原作者含む)の技量がアップすることを読者の立場から期待しています。

書籍は「そうだったのか!人気『歴史・戦国マンガ』100の真相」で8月11日発売です。

8月11日発売の新刊表紙です!

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