昭和35年(1960年)――。
弟子の今松(荒川良々)がやって来る中、古今亭志ん生(ビートたけし)はテレビを見ています。
家族揃っての朝ご飯です。
そこに五りん(神木隆之介)が入ってきます。
食事に誘われるものの、メザシをみて「いらない」と断ります。ちょっと偉そうな態度だぞ〜!
家族に無断で五りんの弟子入りを許した志ん生。それがもとで、いささかモメ始めるのでした。
当の五りんは涼しい顔で庭へ。
すると悲鳴をあげ始めます。
何事かと騒ぎになり、ここで志ん生はこう言います。
「戦争か?」
何気ない一言ながら、これはよい傾向かもしれません。
戦争というのは、銃を撃つとか、爆弾が落ちてくるとか、それだけじゃありませんよね。
終わってからも心に残っていて、大きな音や変異にびくつくもの。
そういう戦争をくぐり抜けた影響が、彼にはあるのです。
五りんは、水をかぶっております。
あれ?
この習慣はどこかで見たような……。
【第3回の視聴率は13.2%でした】
目次
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乃木大将にはなれずとも嘉納先生を目指す
舞台は、明治42年(1909年)へ――半世紀ふっとびます。
海軍兵学校に落第した金栗四三(中村勘九郎)は実家の畑仕事を手伝っておりました。
兄の金栗実次(中村獅童)は、腐っている弟に「喝」を入れます。
四三の進学は家族全体の生活に影響しますね。
上級学校に進学できないというのは、こりゃまずいと。勉強部屋すし詰めタイムです。
四三は、東京高等師範学校の資料を見せます。
そこに嘉納治五郎(役所広司)の名前をみつける実次。ここで四三は、嘉納に抱っこしてもらっていない、父の嘘だと語り出します。
しかし、実次はそんなことはとっくに知っていた、と見破ります。
そりゃそうだよなあ。ここでちょっと顔を和らげ、実次は弟をじっと見つめます。
そんなことを気にするなんて、可愛らしくてしょうがない。そんな愛が伝わって来ますねえ〜!
実次は、こう続けます。
乃木希典将軍にはなれずとも、嘉納治五郎を目指すなんてたいしたものだ! とつけむにゃあ!
そう励ますのです。
明治時代、出世を狙うならば「軍人か、大臣か」そんな道がありまして。
政治には藩閥がありますから、なかなか厳しい。軍にも藩閥はありました。
『八重の桜』でも、山川健次郎が「軍か教育者か、どちらか選べ!」と兄の山川浩、そして佐川官兵衛に迫られておりました。
教育分野は、まだ藩閥の影響が少ないので、当時の進路選択としては妥当な線と言えますね。
夏目を夢見る美川と共に上京
こうして四三は、東京高等師範学校に入学が叶います。
祝砲を浴びながら、東京に向かう四三。
そのころ嘉納はストックホルム五輪への日本参加を決めておりました。
美川(勝地涼)とともに、東京へ向かう二人。
未来の嘉納治五郎と夏目漱石だと励まされ、二人は出かけてゆきます。
夏目漱石も、江戸幕府・旗本の子孫ですから出世のしにくい系統です。
当時、教育や文学の道を選んだ人物には、こうした負け組も多いものでした。
昨年の『西郷どん』では、ずいぶんと軽いノリで我が子や親族を海外留学させておりました。
佐幕派の子弟たちは、そう単純ではありません。
必死です。
それしかない道にしがみつくようにして、教育への道を選んだのです。
後に『いだてん』に登場する可能性があるとすれば、新渡戸稲造や
福沢諭吉も佐幕派ですね。
美川は、そんな実次の大言壮語にちょっと引いておりますね。
「ばんざーい! ばんざーい!」
故郷を旅立つ四三。
汽車にゆられて、明治43年春――オリンピック出場の夢を見始めたころ、故郷を旅だったのでした。
チャラい 美川がチャラいぞぉ!
OPから志ん生の寄席へ。
私以外からも指摘が出ているようですが、やっぱりたけしさんのナレーションが不評みたいです。
◆NHK大河『いだてん』視聴率急落の原因は、古今亭志ん生役のビートたけしにあった?
滑舌がちょっとねえ。
明治と昭和を行き来する構成は、挑戦的である点とリスクが表裏一体になった試みですね。
若い二人は、美人の客をジロジロ見つめております。
夏目漱石『三四郎』の美禰子っぽいんだとさ。
「三四郎、知ってる! 柔道の人ね!」
って、それは三四郎違いですね。
嘉納治五郎の弟子・西郷四郎がモデルですので、本作とはまんざら関係ないとは言えない。
いや、むしろ取り上げてくれたら面白そうなんですけどね。
嘉納が夢を持つ若者をサポートすること。
それは、金栗を指導する前から始まっていたんですね。
それにしてもチャラい。
美川がチャラいですね。
二人が身につけている赤い毛布こと「赤ゲット」は、ダサいおのぼりさんグッズだそうで。
当時のアスリートは「遊び人」だと思われていた!?
美川と四三は、押川春浪(武井壮)の『冒険世界』を読み始めます。
今回のタイトルですね。
そこには「天狗倶楽部」の記事がありました。
「早い話、遊び人さ」
そうなんです。
当時のアスリートってそう思われておりまして。かけっこだの球遊びに夢中になる愚かな若者扱いでした。
あれ?
歴史って繰り返していませんか?
最近話題の「eスポーツ」。
要は、テレビゲームで腕を競い合うわけですが、かつてゲームは「所詮はお遊び」で、「あんなものに夢中になる奴はけしからん」と言われたものですよね。
それが、変わりつつある。
活躍の舞台はワールドクラスになっていて大金も動く。
つまり明治時代のスポーツは、今のeスポーツのようなものだったと考えるとわかりやすいかもしれません。
楽しみ方もワイドなもので。
スポーツで騒いで、飲んで、脱いで、ともかくゴキゲンな振る舞いをすることこそ! そんなノリでした。
スポーツは、同時にお金持ちのものでもありました。
スキー、スポーツ、自転車。
何をするにしても、金がなければ始まりませんでした。道具を輸入しなければならなかったんですよ。
その雑誌『冒険世界』に、三島弥彦の記事が出ております。
スーパーセレブとして大人気でした。
「はあ、もう無理」
四三はゲンナリ。セレブライフは遠いのです。
コレが本物の、モテる薩摩隼人ですよぉお!
千駄ヶ谷の一等地に7,000坪 エリート三島家
そんなモテモテ薩摩隼人の三島。
モダンな『冒険世界』記者である本庄の取材を受けています。
うーむ。
衣装考証が抜群にイイじゃないですか~!
最近の朝ドラも明治時代を取り扱っていましたが、女学生の袴姿にせよ、何にせよ、あまりにお粗末なものでした。
特に、2017年朝ドラ『わろてんか』では、モダンガールを期待していたのに、そこにいたのは『ドラクエ』の竜王に扮した広瀬アリスさん。
ボブスタイルすらできないんかーい!とキレたもんですが、『いだてん』では問題ありませんね。
結局、ヤル気ひとつなんですな。
ここで、千駄ヶ谷の一等地に7,000坪もの邸宅を構える「エリート一族・三島家」についての解説が入ります。
三島家は、実は大河と関係なくはない。
いや、バッチリある。
父の三島通庸は、ソノ気なら昨年も登場させることができた。なんせ大久保利通がリードした精忠組の出身ですからね。
三島は『八重の桜』とも関わりあって。
新島八重が夫・襄を看病しているとき、あまりに監視が厳しいことから八重のことを「三島総監」と呼びました。
ちなみに三島通庸と和歌子の兄は、この事件に関与しております。
和歌子のきょうだいは、精神に異常を来してしまっていたのですね……。
そして弥彦の母・和歌子と兄・弥太郎。
和歌子は薩摩弁で、昨年よりイイなぁ。
彼女は字が読めません。当時の女子教育の歪みを感じますね。昨年の大河では、そこに全く触れないどころか、妙円寺詣りに男装した女子が参加する始末でした。
薩摩は全国的に男尊女卑が厳しい地域として有名です。
和歌子が字を読めないとしても、それはわかろうというもの。まあ、これはフェイクだったんですけどね。
このことが、嫌な予感を招きます。
和歌子がモデルとなった人物が出てくる話題作『不如帰』を女中のシマが読み上げるのですが、内容を誤魔化しております……これは危険ですね。
女中が出てくるのはよいことです。
ダメな時代物は使用人を削る傾向があります。
そして、四三は東京に到着!
美川は浅草見物しようと言い出します。
おっ、これはVFXかな?
十二階までよく再現してくれるなあ。
そこで遊女の小梅が遊んでいかないかと誘いをかけて来ます。このころの浅草は、マァ、あんまり上品な町ではありませんでしたねえ。
しかも四三はスリに遭ったとわかり、すっかり電車嫌いになるようで。
巾着切り=スリといえば、よくある話ではあります。おのぼりさんは、そりゃいいカモってもんよ。
アクシデントを乗り越え、お茶の水の宿舎に到着した2人。
ここで永井道明が再登場です!
肋木(ろくぼく)推しの人で、鬼教官。
美川の荷物検査をして『冒険世界』を見つけると、いきなり鉄拳制裁を振り下ろします。しかし美川は四三に責任を押しつけおった!
『冒険世界』でナゼ殴られる? 雑誌でしょ?
と疑問かもしれませんが、先ほどのeスポーツを思い出してください。
学生寮でゲーム雑誌が荷物から出てきたら、怒り狂う先生がいるかもしれませんよね?
ここでも永井のイチオシ・肋木が登場。
肋木は、罰則にも有効でした。
東京から出された四三の手紙が、故郷に届きます。
憧れの嘉納治五郎先生とは、無事に入学式で対面を果たしておりました。
東京高等師範学校は、文武両道の方針です。
ちなみに、四三らが来る少し前には、あの新選組の斎藤一(こと藤田五郎)が剣術指導をしていたそうですよ。
スゴイ話ですね。
冷水浴と乾布摩擦。
そして食事をゆっくり取り、勉学に励む四三。
最後に寄宿舎を出て、走って学校へ向かうと四三は手紙で報告しております。
韋駄天通学が続いていました。走れば電車の混雑にあわなくて済むわけです。
走っている最中に「失敬、失敬!」と声をかけることから、そのまんま「失敬」があだ名になった四三は、歴史の授業が好きでした。
ナポレオンの名言を熊本弁で披露します。
って、昨年の悪夢が……。すみません、もう忘れたいんですが、参考記事を掲載させていただきますね(興味のある方はどうぞ)。
ちなみに幕末期にナポレオンブームがやってきましたが、普仏戦争以降は下火になります。
柔道の徳三宝にも立ち向かったと語る四三。全然勝てなかったようです。
強がってはいるものの、四三はシティーボーイになれず、ホームシック気味です。
そして夏休み、四三は帰省します。
熊本では、春野スヤが待っておりました。
泳ぐ四三に、橋の上から声をかけるスヤ。
喜びのあまりなのか、フンドシの外れた姿をうっかり見せかけます。
「きゃっ」
そうそう。これが普通の反応ですよね……。
こういう橋の上の出会いは、ありだと思うんです。お見合い前提の明治時代で、結婚前の恋愛をこの程度盛り上げることは、正常範囲内です。
正常を逸脱した、婚前ロマンス大河はもうね……異国船を山から眺めていたアレとか、アメリカでの結婚はLOVEとか。
スヤは東京の土産話をせがみます。
しかし、四三は見物したことではなく、走る話しかしません。埃っぽいだの、石畳だの。好きなんだねぇ。
ここで熊本名物「いきなり団子」に飛びつく四三。
美味しそう、食べたくなります。
2013年『あまちゃん』で「まめぶ汁」を出してくれたクドカンさんですからね、お手の物でしょ。
待っていたぞー!
名産品!
そういえば昨年って、鹿児島名産のおいしいものって何か出てきましたっけ?
四三は、音楽の時間でからかわれたものの、スヤの教えてくれた歌「自転車節」のおかげで克服できたと語り出します。
こういうの、大変だと思いますよ。
音源を探してくることだって大変。でも手を抜かない。
本人も気づいていない夏休みの淡い恋
自宅で、四三は実次の書いた嘉納治五郎の、座右の銘を見つめます。
【順道制勝(じゅんどうせいしょう)】
道に従って勝つ――そう読みます。
実次は、ロシア人士官を投げ飛ばした話を、機嫌良さそうに語り出します。これまた史実ですね。
家族団らんの食事が始まり、母親が作った故郷の「だご汁」を味わう四三。
こういう知られざる名産品を、美味しそうに出してくるドラマは当たりの確率が高い。
四三はすっかり日焼けしたと言われながら、故郷の味を楽しみます。
ここで、四三はスヤの見合い話を聞きます。
ちょっと複雑そうな表情を浮かべる四三。家柄を考えたらそういうものだという諦念がチラリ……これがこの時代の、恋心ってやつですね。
美川のように、恋愛小説を手にしていたわけでもない金栗には、自分でもわかっていないのかもしれません。
四三の鍬を握る手には、無念がこもっているかのようです。
名家の女性が、学校卒業後結婚することは、明治では当然のことでした。
実次は、家のことは自分に任せて学べと弟を励まします。
こうして夏休みは、あっという間に終わるのでした。
「金栗氏(うじ)〜」
駅で再会した美川。インテリっぽい口調ですねえ。
この手の時代ものの言い回しをやるクドカンさんは、相当調べるタイプだとみた。
熊本名物にせよ、夏目漱石の作品にせよ、徹底的に調べるんでしょう。書いている側がどれだけ努力しているのか。本作からは伝わって来ます。
電車内で、『坊ちゃん』ヒロインのマドンナ発見!
美川がいささか興奮していると、その正体は、自転車で四三を見送ってくれるスヤでした!
ちなみに夏目漱石本人は、ロンドン留学で自転車を乗りこなせるよういなったのですが、あまりいい思い出ではなかったようです。
それにしても綾瀬はるかさんはスゴイですね。
自転車に乗っていても、運動能力の高さが伝わってくるもんな〜。選手役でちょっと見たいかも。
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