こんばんは、武者震之助です。
まず訂正があります。先週、民放ドラマに『だから荒野』を入れておりましたが、NHKでした。
先週の視聴率は下がり、ついにワーストを更新してしまいましたね。四回以降若干持ち直した感がありますが、放映から宣伝でファン離れを招き、さらに一月の不審者・河原ドン・おみくじのコンボでさらに多くの視聴者を振り払ってしまったようです。
様々な記事で指摘される通り、大河ワーストの『平清盛』を下回るペースです。一桁が見える危険水域にも達しました。
そうはいえども、内容さえよければいいのです。一喜一憂せず、長い目で見たいところですね。
目次
第6話「女囚の秘密」は無理やりな女囚人からの「おつかい」クエスト
今週は文が野山獄で唯一の女囚人の高須久子からおつかいを頼まれるところから始まります。何でも父の菩提を弔うため、遺品を実家から取ってきてくれとのことです。十二歳の少女にそんなことを頼む高須さん、のっけから非常識なんですが。今週の文ちゃんクエスト、どうなるのでしょうか?
どうでもいい、わけですけれどもね、ええ……。
無駄な雄壮さが虚しくなってきたOPを経て、本編開始です。今週は高須久子がメインのようです。この久子に文はクエストの報告をします。追い返されたと聞かされた久子は、「無理は承知なので何度でも何度でも訪ねてください」と厚かましいにもほどがあるクエスト続行を命じます。ここで文は久子経由で金子の遺品であるボタンなどを渡すわけです。文が間に入ることで寅次郎(吉田松陰)と久子が交流って何だかなあ。
高須久子という女性は、吉田松陰との恋と呼べるのかそうでないか、淡い交情がみどころであると思うのですが、そういう人が無理クエスト依頼主になるというのは、魅力が台無しの気がします。
このあと恒例になってきた、文が寅次郎に差し出す書籍の名前を読み上げる場面が出てきます。こうやって漢籍の名前を並べることで、なんだか難しいことをやってますアピールしたいんですよね、わかります。
野山獄ではなぜかすさんだおっさん囚人の富永有隣が、文から筆をもらって喜んでいます。文ちゃん賢い、気が利くねエピソードですが、囚人の本田博太郎さんがかわいいので、なんだか和みますね。

もーらった、もーらった、いいものもらったニコニコ(霜月けい・絵)
野山獄はめんどくさい人の別荘?
一方、文のクエストはうまくいく糸口すら見いだせない様子。ああ〜、もう何回文の「お願いでございます!」聞いたかなあ。ゲームバランス悪いなあとうんざりしていると、高須家門前でイベントキャラクターぽい少女に出会います。役者の年齢に差があるので文がだいぶお姉さんに見えますが、この二人はほぼ同年代ほぼ同じはずです。
文はクエストの途中で、野山獄の囚人はどういう境遇かを聞き出します。犯罪者というよりも、厄介払いで預けられた人も多いとか。みんな楽しそうにしていますし、先週までの「生きて出られぬ者はいない野山獄!」という煽りは何だったのか……。
文がクエスト報告を再度久子にしますと、「もうどうでもいいから」とか何とか態度が悪くなります。どうでもいいなら、あんな難易度が高いクエストを子供に頼むなよ!
ここで伊之助パート、申し訳程度に世相を語らせます。文が動きに制限あるぶんを伊之助が動く構造なのでしょうが、伊之助もうろうろしている程度しか働けていないため、ますます時代感が失われている気がします。
伊之助の熱い言葉も吉田松陰には届かず?「妹が反省しろって言うんで」
伊之助は藩主と重臣たちへの報告を終えると、寅次郎の面会に来ます。牢から出すから一緒に頑張ろうと励ます寅次郎。しかし寅次郎の反応は鈍いようです。
文もこの面会に居合わせました。それにしても伊之助、結構聞かれたらまずい藩政批判をでかい声でしていますが、本当に本作はセキュリティ意識がありませんよね。演出的にでかい声で語らせることでしか、情熱を表現できないのかもしれませんけれども。あ、あと文に立ち聞きされるためですね。
それはさておき寅次郎の反応がなぜ鈍いかと言うと、
「反省しろって妹に怒られたから」
というしょうもない理由でまた頭を抱えることに。
トホホな面会を終えた伊之助と文は、桜を見ながら世間話をします。文はほとんど無反応なのに、やけにかっこつけた口調でポエムを語る伊之助に違和感が。文って、この困った眉で、口角を下げている顔ばかりで、何だか演じる井上さんが気の毒で仕方ありません。
12歳の少女に真夜中のお使い指令 さすが江戸時代治安がいいぜ!
伊之助が一家団らんを楽しんでいる頃、真夜中なのに杉家には「高須家の母子が会うから文さんも立ち会って!」とわざわざ連絡が。なんで十二歳の少女がそんなことしなきゃいけないんだよ。意味わかりません。
こうして文はよくわからない理由で、高須母子の面会に立ちあうことになりました。よくわからない遺品要求をやめろと求める娘の糸に対し、ここで文が駆けよって家族再生クエストに挑みます。糸はここで、「こんな女は母親ではない。夫亡きあと三味線にハマって、身分の低い男と不倫したとんでもない奴だから」と衝撃の理由を語ります。

大河ドラマ花燃ゆでは色っぽい女囚を井川遥さんが演じています(絵・霜月けい)
磨かれた鏡を見た糸は「誰に媚びを売っているの?」と毒づいて帰ろうとします。すると文がまたしゃしゃり出て、「私が無理ゲークエストに挑んだのは、あなたを煽ってここまで来て欲しかったからなんだよ! あなたに会いたかったからなんだよ!」と勝手にニュータイプ能力で解釈して語ります。
さらに「私が見た時、その鏡は曇っていた! でも今日の鏡はキレイ! 今日の久子様はこんなにキレイ! 見てあげて、お母様を!」とまたまた意味のわからないことを言います。クエストクリアに必死な文ですが、久子は「もう娘と縁を切るからどうでもいいわ、でもまあ会えてよかった。帰れよ」と勝手にクエストを打ち切ってしまいます。糸も「二度とここには来ないし、あんたを憎む」と捨て台詞を吐き、それでいて母の手に触れ「憎んだ人のことは忘れないだろうから」とツンデレっぽく言うわけです。この作品って、とっちらかってどうしようもなくなった展開に、感傷たっぷりのBGMとそれらしい台詞をくっつければよい話になると勘違いしていますよね。
久子は「クエスト終わったから帰れば」と文に言います。無茶ぶりして、ダシに使って、よくわからないのに呼び出して、それで「おまえ何でここいるの? 帰れば?」的な態度って、もうこいつ本当に何なのだよぉ……。
ここで恒例、おかあさま滝さんのホラーショータイム。文がやたらと滝に抱きつくのはほのぼのコメディのつもりなのでしょうが、子役ならばまだしも本役ですし、滝の能面笑顔とテンションは怖いし、勘弁して欲しいところです。
クワッッッ!急に覚醒する寅次郎
場面は野山獄に戻ります。文は高須久子にお手玉を渡していたようです。楽しげに遊んでいたのに、それを捨ててしまったからと、囚人たちは興味津々で理由を聞きます。お手玉を捨てるとか捨てないとかどうでもいいと思いますが、文ちゃんのお手製だからきっと魔法のアイテムで「それをすてるなんてとんでもない!」扱いなのでしょう。
寅次郎はここで「そのアイテムを捨てるって何かすごい理由があるの?」とのこのこ聞いてきます。お手玉捨てたくらいでなぜそんな重大事件扱いなのかと思うこちらの戸惑いを無視して、久子は自らの胸の内をぺらぺらと独白します。
これに感じ入った寅次郎、突如『孟子』を引用して熱血教室状態になります。役者さんの熱演と仰々しいBGMでぱっと見名場面ぽいのですが、つなぎ方が強引過ぎてポカーン……です。松陰が獄中の囚人たちを感化させたのは史実で見所だと思いますが、それになぜ高須久子だの文だのをからめて展開させるのでしょうか。もうなんだか極めてあやしい洗脳のように見えてきました。
ラストで文が野山獄に訪ねてきますと、寅次郎による講義が始まっており、伊之助が感銘を受けた様子になります。ここでわざとらしくOPテーマが入り、とりあえず今週は終わるようです。
「どうしてこげなことに?」
文が訪ねると牢番は、
「文の魔法のアイテム・筆のおかげだ」
とオチ。
おにぎりだけでなくありとあらゆる魔法のアイテムを使いこなす文。すごいなあ。ほんとうにすごいなあ。今週はおにぎりが出てこなかったけど、魔法少女は触れるものみな重要アイテムにでもなるのでしょう。
ところでこのドラマ、一体何なんでしたっけ。「どうしてこげなことに?」ってこっちの台詞だよ!
ツッコミすら許されない魔空間
脚本家交替した四回以降、マシにはなったと思っていました。しかしどうやらそうでもないのではないか、と不安になってきました。
今週はある意味おそろしい回でした。
河原ドンやおみくじデートはひどいなりにツッコミながら見るスタイルができたわけですよ。ところが今回はひどい要素すらなく、ツッコミどころもなく、無としかいいようがない時間がたんたんと過ぎてゆく。ブラックホールのような回でした。
しかも、大河ドラマのフォーマットからはますます遠ざかる危険な事態になっています。
本作は主人公の知名度の低さが問題とされます。知名度が低くても隠れた英雄や女傑もおりますから、そう単純には言えません。しかし文の場合、根本的な部分で分裂が生じているのです。
本作の文は、姉の寿のような愚かで目の前の利害しか考えていない女性ではなく、兄から感化され幅広い学問を志すヒロインとして設定されています。
それと同時に、その才知を誇るような下品なところはなく、半歩下がって笑顔でおにぎりを作る、古典的で清楚なヒロインとしての設定も感じられます。
才女でありながら男を立てるキャラという分裂気味のキャラ設定
ところがこの二つの要素がかみ合っていないのです。江戸時代の才女、和歌や古典といった女性のたしなみ以外で知性を発揮する女性は、はしたないとされ理想の女性ではありませんでした。第四回で文が張り切って勉強すると決意を固めていた蘭学などは、勉強した時点で女として規格外の変人扱いです。
要するに蘭学を勉強してハキハキと知性を発揮する女性像と、控えめおにぎりヒロインでは、かみ合わずに分裂するでしょうということです。ぶれるのです。もはやこの破綻は始まっていて、普段はおずおずと控えめでありながら、おみくじデートの久坂玄瑞くんにはリードするような生意気な態度を取っていたりするわけです。
この破綻を無くす手っ取り早い手段は、スピリチュアルパワーでニュータイプにするか、心が温かいから特別という方向に持っていくかです。ニュータイプ現象は第一回冒頭で既に出ておりましたし、毎回いきなりダッシュするとすぐさまターゲットにぶちあたる神秘の力を発揮していますので、これからもガンガン出てくるでしょう。
今週で既に高須母娘の心理をピッと受信し、べらべら喋っておりましたし、貧乏なはずが筆を差し入れて囚人の心をキャッチ。神秘の力を発揮しまくりです。姉妹だけではなく松陰の威光までモリモリぐんぐん吸収して、文様がいなければ明治維新はなかったレベルまでふくれあがりそうな勢いです。文様に錦の御旗を作って欲しいレベルですよ!
さらに文は朝ドラヒロインの定番特技まで装備していると今週ではっきりしました。現在放映中の『マッサン』でも、エリーが相手のプライバシーにまでずけずけと踏み込み、余計なお世話で家族再生や縁結びに奔走する様子が、マッサンのウイスキー作りを放置してまで描かれます。なんでエリーがそんなことをしてもよいかというと、これはもう朝ドラヒロインのお約束だからとしか言いようがありません。ヒロインの前だとみんな心があたたかくなるんです、癒されるんです。そういうお約束なんですね。
でもそれを文がやるのはどうなのでしょう。半日後にはエリーがやるようなことを、大河枠でやられても何か違うと思えてしまうんですよね。文が人助けに奔走している間、歴史は流れていくわけで、それを放置してそんなことやられても本末転倒としか思えません。
その点、昨年の『軍師官兵衛』は「腐っても大河」でした。じっくりレビューを書くために見ていると、マイルドヤンキーと唾のしぶきに心を蝕まれる作品ではありましたが、スマホ片手に流し見するぶんには、それなりに大河らしく思えるんでしょうね。ぱっと見て破綻がないから批判もされにくかったのです(じっくり見るタイプのレビューサイトでは酷評が目立ちましたが)。
軍師官兵衛とうってかわって各メディアでも辛口続出
・男が脱げば女が喜ぶ? 迷走するNHK大河『花燃ゆ』最低視聴率更新の背景 - BIGLOBEニュース
http://news.biglobe.ne.jp/entertainment/0202/mes_150202_0550635757.html
・『花燃ゆ』、大河ワースト『平清盛』下回る視聴率推移! 「乙女ゲー」「花男みたい」と違和感噴出|サイゾーウーマン
http://www.cyzowoman.com/2015/02/post_14963.html
しかし本作の場合は、大河でもない、朝ドラでもない、何が何だかわからないものになっているわけで、これはもう視聴率低下に歯止めが止まらないでしょう。中途半端にテコ入れしたところで、芯もなければ骨もないものをしゃきっとさせることは難しいでしょう。
とはいえ、世間ではそれでも「テコ入れ」するに違いないという報道が。
井上真央「花燃ゆ」大低迷で、NHK内から「杏だったら…」の声! | アサ芸プラス
http://www.asagei.com/32151
「花燃ゆ」の視聴率が最低レベル 井上真央の女優生命に懸念 #ldnews http://news.livedoor.com/article/detail/9743242/
「花燃ゆ」大低迷 二の矢「セクシー大河」でコケたら、残す手段は井上真央の◯◯!?〈dot.〉(dot.) - Yahoo!ニュース
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150204-00000009-sasahi-ent
花燃ゆ:浮上のカギは“キャラ押し”? 濃いキャラぞろいの青春群像劇 - 毎日新聞 http://mainichi.jp/mantan/news/20150207dyo00m200029000c.html
低迷する大河ドラマ、井川遥の妖艶な美貌で視聴率回復なるか - BIGLOBEニュース
http://news.biglobe.ne.jp/entertainment/0203/mcz_150203_5691085045.html
イケメン俳優が片っ端からフンドシ 大河ドラマ『花燃ゆ』不調でNHKが取る“禁じ手” - リアルライブ http://npn.co.jp/article/detail/22292700/
下の二つの分析は論外。男ならセクシーな美女、女ならイケメンの裸が出てくればホイホイ釣られるだろうって、本気でそう思っているなら『吉原炎上』でも『くノ一忍法帖』でも大河にするんじゃないですかね。毎年こういう「テコ入れで脱ぐ!」系の記事って出てきますけど、当たったためしがないとそろそろ気づいたらどうでしょうか。スマホ、パソコンでちょっと検索すればいくらでもエロ画像が見られるこのご時世に、裸がちらっと出るかもしれないからとテレビに45分間張り付くほど酔狂な人ってそうそういないと思いますが。
NHKスタッフが理想とする「女性像」っていったい…
井上真央、決意の大河ドラマ主演 目指すは理想の妹 :日本経済新聞 http://s.nikkei.com/1ubkLLf
いろいろ言われていますが、井上さんは何も悪くないんですよ。悪いのは大河ドラマで歴史を描こうとか、人の生き様を描こうではなく、この記事にあるような
「妹萌え〜」
とか言うスタッフですよ。そういうのはキャバクラでやれよ。井上さんでなくてキャバ嬢に頼めよ、な?
「男性が理想とする『妹キャラ』として、議論する藩主の人たちの中におにぎりを持って、ふわって入っていく、柔らかい安心感のある女性を演じてください」
得意げな顔をして何が「男性と理想とする『妹キャラ』」だ。妹に夢見過ぎなんじゃないのかと。そもそも「議論する藩主の人たち」に違和感なく入っていける人ってただの女中なんじゃないですかね。いやあ、柔らかい安心感はそれこそ奥様なりキャバ嬢なりに求めてください。そんなスタッフの身勝手な女性像に貴重な大河枠を消費されるこっちの気持ちもちょっとは考えましょう。こんな底のすっぽ抜けたことを言っているから、視聴率も底がすっぽ抜けて今ごろヒーヒー言っているんですよ〜、わかってますか?
こんな要求を聞くはめになって、さらにはあさっての方向で責められ、女優生命の危機まであおられる井上さんが気の毒過ぎます。杏さんだろうが、スカーレット・ヨハンソンだろうが、誰が演じたってこんなの駄目ですよ。歴史ドラマに歴史でなくて妹萌えを求めるスタッフがいる時点でお察しくださいでしたね。はあ、もう、どうするんだろう。
武者震之助・記
霜月けい・絵
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