明治・大正・昭和

朝ドラ『マッサン』の見どころは?本物のウイスキー作りを学び酔いしれよう

2018年4月2日の朝7:15から、朝ドラ『マッサン』の再放送(BS)が始まります。

北海道も舞台にしたウイスキー作りの苦闘を、北海道出身の中島みゆきさんが歌うオープニング。

 

本場スコットランドを意識したバクパイプの音色は、雄大な大地を思わせ、同時に少しばかりの感傷を呼び起こし、今なお曲を聞いただけでマッサンとエリーに感涙してしまいそうな方も少なくないでしょう。

本稿では、まだマッサンを知らない方、もう一回見たい!という方に向け、見どころをご紹介したいと思います。

 

最初からラブラブカップルと、じれったい男2人

本作の主人公は、“マッサン”こと亀山政春と、スコットランド出身のエリーのカップルです。

『マッサン』のビジュアルイメージを見ればわかる通り、この二人は初回からラブラブ。
朝ドラの序盤といえば、主人公カップルの淡い恋がじっくりと描かれますが、このカップルの場合はハネムーン状態で日本にやって来ます。

「あ~、じれったい! 目標は同じなんだから、さっさと手を組めばいいのに!」
というジリジリな2人は、マッサンと雇用主・鳥居さんの間で展開されます。
それはそれでお仕事ドラマとして面白いですよ。

本作は、マッサンがぼんくら気味であるという点をのぞけば、二人とも好感が持てます。
脚本もよいのですが、演じる玉山鉄二さんとシャーロット・ケイト・フォックスさんがチャーミングというのも大きいですね。

玉山さんはボンクラだけど憎めない関西男。
フォックスさんはなんと日本語を習得しながら演じるという、凄まじい苦労をしながら、魅力的なエリーを演じています。

女優のフォックスさんが、劇中のエリーと、キャリアが重なっていることもうまく作用しているんですね。

演じるキャラクターと役者のキャリアが重なると不思議なプラス効果が生まれるのは、『あさが来た』における五代友厚のディーン・フジオカさんと通じるものがあります。

 

見ているだけで芳醇な薫りが漂ってくる

『マッサン』という作品は、他の朝ドラと比較してみて、極めて優れていたとは言いません。
僭越ながら、欠点もあると感じます。

ただし、本作には突出した点があるんですね。
宣伝効果です。

ここ数年、特に大阪製作の朝ドラで批判されているのが、
「まるで企業の宣伝ドラマのようだ」
ということ。
確かに企業の創始者がいかに成功したかを扱う作品が多いです。

しかしこれには【良し悪し】ありまして。

ドラマとして取り扱われたからといって、プラスに作用するとは限りません。
むしろ仕事内容の描き方が雑ですと『なんや、これ?』となり、モデルとなった会社の物・サービスは敬遠したくなるでしょう(作品名は敢えて伏せさせていただきます)。

その点『マッサン』は、兎にも角にもウイスキーが欲しくなる。お酒の飲めない方でもチビッとしたくなる。

見ているだけで芳醇な薫りが漂ってくると申しましょうか。
本物感がスゴいのです。

というのも、ウイスキー考証には、関連著作の多数ある土屋守氏を起用。
製法、技術、特色……そうした制作過程が余すところなく描かれておりました。

他の考証では若干甘い部分もありますが、ウイスキーに関しては厳密で、文字通り上質なクオリティに酔いしれます。

なによりウイスキーとドラマ進行の時間軸が相性バッチリなのがいいんですね。
他の酒よりも熟成に時間がかかるウイスキーの扱いをめぐって、主人公たちは大きな岐路にぶつかり、葛藤、成長します。

 

主人公の事業が最終盤になるまで失敗し続ける

本作の宣伝効果は抜群で、
・マッサン役の玉山鉄二さん
・鴨居役(サントリー創始者・鳥井信治郎がモデル)の堤真一さん
このお二人は、ニッカとサントリーの広告に起用されました。

もしも本作がウイスキー作りに関して手抜きしていたら、メーカーとしてはそんな対応ができないでしょう。
実際、ウイスキーの売り上げも放映後に急増して原酒が品切れ、生産が追いつかなくなったほどです。

一度、見てみたらおわかりになると思います。

本作の芯をなすウイスキーについては、とにかく文句のつけようがない。

琥珀色の輝き、スモーキーな香り、麦の豊かさ、時が織りなす熟成されたまろやかさ。
思わずグラスを傾けたくなる魅力に満ちています。

しかも本作は、主人公の事業が最終盤になるまで失敗し続けるという、希有な特徴を持っています。

これは主人公が無能なわけではありません。

本場で製法を学び四苦八苦しながらそれを日本に持ち込む――というパイオニアゆえに、実践では経験しないとわからないことが多く、しかも当人が職人気質の頑固さで人一倍コダワリが強く、さらには不運に見舞われることも影響しています。

けど、それがいいじゃないですか。

バカみたいに成功が続くイージードラマとは違った、苦しく、されど不屈の道のり。
まさしく熟成されたストーリーを堪能できるのです。

 

嫁いびりが始まったらトイレに行こう

ここまで褒めていて何ですが、前述の通り、本作にも欠点があると感じます。

おそらくや脚本家さんは、ホームドラマが苦手なのかな?と感じました。

具体的に『シンドイなぁ』と感じるのが
・マッサンの無職ボンクラ暗黒時代(史実の竹鶴氏は働いていた)
・マッサンとエリーの娘エマのウダウダ反抗期(ただし、史実の竹鶴夫妻と娘も不仲で有名だったのですが)
・姑役の泉ピン子さんによる、スーパー嫁いびりタイム
とまぁ、だいたいホームドラマパートなんですね。

大阪制作の暗黒パートと申しましょうか。
この手の表現は、よほどうまくやらないと、どんな朝ドラでも不愉快になるリスクを負ってます。

嫁姑の対立パートで、WWEのマイクパフォーマンスの如きエンタメ性を宿していた『ごちそうさん』は例外ですね。
あれは片方がやられっぱなしではなく、ド派手に反抗するからプロレスを見るような感覚だったのですね。

しかし、ピン子さん迫真の嫁いびりは心痛の極みでした。

何が痛いかって、姑にいびられっぱなしのエリーを庇わないマッサンが、とにかく薄情に見えたのです。

ラブラブカップルのお話が中心なのに
『そりゃないぜセニョリータ(´・ω・`)』
と思いました。いや、冗談ではなく、本当に辛かった。

姑はエリーを「外国人だから魔女」みたいなことまで言い出します。
あとで和解するにせよ、これはあまりに酷いと感じました。

そもそもエリーは、マッサンの実家を継がないので、嫁として修行する意味はありません。

全体を見渡してみますと、無理に朝ドラらしさを入れた部分が失敗していて、芯のあるお仕事や歴史パートは成功という印象です。
そこだけが本当に惜しかったなぁ。

 

『西郷どん』と『まんぷく』にも通じる部分

本作を今放映する意味としては
・大河ドラマ『西郷どん』
・2018年下半期の朝ドラ『まんぷく』
両作品の予習ということもあるでしょう。

『西郷どん』は、本作のスタッフが多数参加し、キャストも一部重なっています。
『マッサン』と『西郷どん』の第一回冒頭は似た展開であり、影響を感じます。
嫁いびりは踏襲して欲しくないところですが。

『まんぷく』は、本作と共通点があります。
・ヒロインは彼女自身が事業を興すのではなく、夫を支えている
・ヒロイン夫は遅咲きであり、事業がなかなか成功しない
・ヒロイン夫の事業は、日本ではかつてなかった飲食物の製造販売業である
・主人公は国際結婚カップル(※『まんぷく』の場合、夫が台湾出身という設定は変更される可能性あり)

『まんぷく』も、『マッサン』ぐらいじっくりと、インスタントラーメン製造を描けば成功するんじゃないかな?と思っております。

嫁いびりはいらないけど、見ればきっとウイスキーを飲みたくなるそれが『マッサン』。
他にも、
・日本近代企業の歴史
・北海道近代史
といった見どころがあります。

本作でエリーの魅力にメロメロになった方は、2019年大河ドラマ『いだてん』を楽しみに待ちましょう!

文:武者震之助

 

『マッサン』のここが良い!

ウイスキー製造過程がわかる
主人公の仕事描写が丁寧
主人公カップルはじめ、役者の熱演が素晴らしい
主人公カップルの愛情ゆたかな姿
主人公カップルはじめ、役者がちゃんと段階的に加齢する
鴨居商店の経営戦略が優秀
鴨居商店「赤玉ワイン」のポスター撮影シーンがともかく絶品
マッサンと鴨居、ものづくりに賭ける者の熱い絆
北海道の美しい自然を生かしたロケシーン
北海道開拓史が描かれる
戦時中、迫害を受けるエリーの哀しみ
最終盤、雪の中を歩く竹鶴夫妻の姿

 

『マッサン』のここが残念

無職時代のマッサンが鬱陶しい
ときどきスベる人情コメディパート
エマちゃんのウダウダ反抗期と悲恋
スーパー嫁いびりタイム
時々甘い時代考証(ウイスキー関連以外)

【参考】マッサン

 



-明治・大正・昭和
-,

×