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歴史映画レビュー『ダンケルク』実機スピットファイアを堪能できる秀逸なイギリス戦争映画

更新日:

イギリス史において、幾度も重要な役割を果たしてきたドーバー海峡。

現代では泳いで渡る挑戦者もいるほどの幅であり、フランス沿岸との最短直線距離は40キロもありません。

ダンケルクからだと、70キロ。
そんなに遠くはないのです。何の妨害も受けねば、の話ですが。

この海峡は、過去に何度も激戦の舞台となりました。
英仏両国ともに防衛線が敷かれていたのです。

強力な艦隊を作れるようになってからのイギリスは、絶対に敵を上陸させないことを最大の防御としてきました。
長い間、海を渡らせないために、艦隊が戦いを繰り広げられてきました。

しかし第二次世界大戦になると、敵は上空からやって来ます。
その時大活躍したのが、本作にも登場するスピットファイアです。

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基本DATA info
タイトル 『ダンケルク』
原題 Dunkirk
制作年 2017年
制作国 イギリス、オランダ、フランス、アメリカ
舞台 フランス・ダンケルク海岸、英仏間ドーバー海峡
時代 1940年5月
主な出演者 ケネス・ブラナー、キリアン・マーフィー、トム・ハーディ
史実再現度 歴史的背景をもとにしたオリジナルキャラクターの物語。インド系兵士が出てこないといった問題点は指摘されている
特徴 近くて遠いぞ、ドーバー海峡

 

あらすじ

1940年、フランス・ダンケルク海岸。
ドイツ軍との激しい戦いから逃れた英国軍は、厳しい撤退戦に直面していた。

陸軍歩兵のトミーは、ギブソンという兵士と共にダンケルク海岸にたどり着く。
ここからもう一度、祖国の地を踏めるのか?

民間徴用船のドーソン船長は、息子のピーターとジョージと一緒に、祖国の兵士を一人でも帰還させるべくダンケルクを目指す。

空の上では、スピットファイアに搭乗したファリアとコリンズらの小隊が、ドイツ軍と激しい戦闘を繰り広げていた。

 

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撤退戦を体験しろ! 閉所恐怖症は覚悟して見ろ!!

本作は、割と地味かもしれません。
撤退戦なので、派手な銃撃戦もほとんどなく、四肢が吹っ飛ぶ爆発シーンもほとんどありません。

じっくりと戦争にさらされる人間を追うことで、その成長を見守るという要素もない。
そういうドラマ性を求めるのであれば、『ハクソー・リッジ』や『野火(2015年版)』あたりをおすすめします。

それでは本作は地味で、見所がないといえば、そうでもなく……。

精神的にゴリゴリと削られるという意味では、なかなかのもの。
確かに手足は吹っ飛びません。
が、やっと祖国へ帰れるぜと安心しきってジャム付きパンを食べていた兵士が、その直後に沈みゆく船の中で溺れそうになっている……そんな映像は見ていて本当に辛いものがあります。

ドイツ軍が迫る中、穴だらけの船でドーバー海峡を渡るとか。
武装なんかありえない民間徴用船が、ドイツ軍が水上も空の上もうろうろしている中、ドーバー海峡を往復するとか。
燃量計の壊れたスピットファイア機を操り、たった一機でドイツ空軍と死闘を繰り広げるとか。

派手さはないけど、地味に嫌。
やっぱり戦争なんてやめとけ、というシチュエーションの詰め合わせでして。

個人的な話で恐縮なんですが、私は人の手足が爆発して散る系の『ハクソー・リッジ』は割と平気なんです。

ところが、本作のように狭いところに閉じ込められて溺死を待つ、そういうじわじわと死の恐怖と戦う系のシチュエーションには弱い。
死にゆく人の気持ちを想像してビクビクしてしまう。

そんなわけで、本作は鑑賞中何度も脂汗がにじんだ映画でした。
それでも『野火』よりはかなりマシですが。

 

歴史ファンなら見ておこうな

本作は歴史ファンなら絶対見ておくべき要素があります。

CGを嫌った監督が、動態保存されたスピットファイア2機を使って撮影しているのです。

スピットファイアというのは、前述の通り、第二次世界大戦の空中戦を戦い抜いた伝説的な戦闘機。
乗り物や歴史好きなイギリスの子供ならば、一度はプラモデルを作ったことがある――なんて言われているぐらいのメジャー機です。日本で言えばゼロ戦みたいなイメージですかね。

その伝説のスピットファイアが飛んでいるぞ、というだけで歴史ファンなら「ヒャッホオオ!」とテンションがダダ上がり。

スピットファイアを作中の人物がうっとりと眺めているのも、それは当然というもので。
「スピットファイアだ! これで勝てる!!」
と、テンションがあがってしまうものなのです。

そういう英国民の期待値をこめて見れば、本作のドッグファイトシーンは涙なしでは見られないといいますか。感動もんです。

燃料があまり搭載できない、コクピットがなかなか開かないという欠点も、本作には出てきます。
そういう欠点をも組み込んで、脚本を構築したところに、スピットファイアへのあふれんばかりの敬愛を感じます。

ネットで
「空軍の場面いらね、退屈」
という感想を目にした時は、興奮のあまり「なんでだよオオオオ!」と憤ってしまいました。
感想は人それぞれですけれども、スピットファイアは本作の見所なんですよね。

ちなみにファリアとコリンズのエピソードに関しては、モデルがいるそうです。

孤軍奮闘し、空中で敵を倒したにも関わらず、空軍の彼らはあまり報われない役回り。
そんな彼らにグッとくるねぎらいの言葉も掛けられます。

私個人としましては、台詞もほとんどない空軍パートが一番心をわしづかみにされました。

 

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「祖国」ってなんだ

これもまた私個人の感想ですが、彼らにとっての「祖国」が映像や概念で説明されているのもよかったです。

まずは何といっても、ドーバーの白い崖。
海を越えてイギリスに来た人が目にするという、あの白さを見ると、兵士たちの安堵感が伝わってきます。

これでやっと祖国に帰れた――そんな安堵感は、差しだされるパン、紅茶、ビール、そして緑豊かな田園風景から伝わって来ます。

祖国に帰る安堵感を、勲章を受け取るような華々しい場面ではなく、素朴な伝え方をしたことは、この映画の良さではないでしょうか。
私は言うまでもなくイギリス人ではありませんが、ラストシーン間近では帰郷したという感動でふるふるしてしまいました。

民間徴用船を見る海軍人の目線からも、勇敢さを示す祖国への誇りが伝わって来ます。

ごく普通のおばちゃんが、船に兵士を迎え入れるのがよくってね。
こういう勇気こそジョンブル魂だぞ、そう語りかけられた気がします。

 

観客をある程度置いてけぼりにはする

本作には欠点もあります。

歴史的な前提知識がないとわかりにくいというところ。
ある程度予習をしておけ、というのは歴史映画によくあります。本作はそうした映画の中でも、ハードルが高めです。

イギリス人が主人公であるせいか、あまり自分語りをしません。
言わないでもわかるだろ、という前提で話が進みます。

なぜこうするのかという、自分がどう思っているのかということを、アメリカ映画のように説明してくれません。
そのせいか、ストーリー性が弱いという評価もあります。

三つの物語が交錯する構成ですし、一本感情移入できる筋が通っていないというのはそうなのです。

それもまた、本作の味わい。
イギリス人らしさがあふれる、秀逸な戦争映画です。




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著:武者震之助

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