武者震之助の歴史映画レビュー

プロパガンダは単に悪なのか?歴史映画レビュー『人生はシネマティック!』

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映画『人生はシネマティック!』とはなんぞや?

と言いますと、2017年から2018年にかけて放映された朝の連続テレビ小説『わろてんか』殺しと言えます。

あの作品では、ナゼかお笑い女興行師である主人公が、伊能栞という男性版メアリー・スー(制作者の願望をガチ盛りにしたご都合主義の塊のようなキャラクター)と共に映画作りに挑むわけですね。

時代は、日中戦争から太平洋戦争へと向かう暗い時代であり、当局が口を出して来ます。

「甘いロマンチックな恋愛ものは御法度!」

それに対して、
「どうしてえ、私たちは甘くて感動的な映画を作りたいのにぃ、」
と悩むヒロインとミスターご都合主義。

いや、違うから。
プロパガンダって、別に恋愛禁止していないから!

というわけで、本作を見て、正しいプロパガンダ映画作りを学ぼうではありませんか。

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基本DATA info
タイトル 『人生はシネマティック!』
原題 Their Finest
制作年 2016年
制作国 イギリス
舞台 イギリス、ロンドン他
時代 1940年「ダンケルクの戦い」直後
主な出演者 ジェマ・アータートン、サム・クラフリン、ビル・ナイ
史実再現度 歴史的背景を持つオリジナル作品
特徴 朝の連続テレビ小説『わろてんか』とは一体何だったのか?

 

さあ、戦争と恋愛の映画を作りましょう

舞台は、1940年のロンドン。
ヨーロッパ中が戦火に巻き込まれ、物資は不足、ドイツ軍の空襲で死者も出る中、イギリス人たちはなるべく日常生活を変えずに生きようと奮闘していました。

Keep Calm and Carry On (冷静さを保ち、普段の生活を続けましょう)

まさに、そんな時代です。

そんなイギリス政府に、
「ダンケルクの戦いを背景とした恋愛プロパガンダ映画」
の脚本家として起用されたのが、カトリン・コールという若い女性でした。

画家志願の夫のために尽くして来た彼女。
脚本執筆と映画制作を通して、自分の才能を発見し、人生の過ごし方まで変えてゆくことになります。

スクリーンに描かれる甘く切ない恋だけではありません。
カトリン自身も、脚本家チームの主任・バックリーによって新たな恋の可能性をみつけだしていきます。

戦時下、様々な困難を抱えた中で、プロパガンダ映画作りに関わる人々は、人生を再発見することになるのでした。

映画『ダンケルク』や『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』とセットで見ると、よりわかりやすいかも。

 

プロパガンダ映画ってそもそも悪いの?

『わろてんか』では、プロパガンダ映画はともかくダメで、よくないもの、として描いておりました。
戦勝国イギリスと、敗戦国日本の違いもあるかもしれませんが、スタート地点として真逆のスタンスなのですな。

ただ、カトリンが関わる映画はあくまで
「英雄的なダンケルク撤退戦に、甘いロマンスを添えて、国民を楽しませる」
というものですので。
イギリス側の侵略やら、不正な行為を誤魔化す類いのものではない、というのは重要です。

プロパガンダ映画の「嘘」と「誇張」と「制約」の多さは、きちんと描かれます。

元ネタではオールドミスだった姉妹を、映画では若くて美しい姉妹にしたり。
アメリカの参戦をうながすために、演技経験ゼロのアメリカ人が活躍する話にしたり。

ともかく、しょっちゅう当局から「ああだこうだ」と言われまくる姿は、かなり切ないものがあります。

ヒロインはじめ彼らは文句を言っても、泣き言は言いません。
物資不足の中でも、レストランは営業し、不味くても食事を作り続けている。

それと同じで、カトリンたちは自分たちの出来る範囲で、彼らにとって最良のもの(Their Finest)を作ろうとします。
おてんちゃん、伊能栞さん、ちょっとは彼らを見習おうよ!

 

どんな状況でも、素敵な人生を再発見しよう

てんやわんや、介入されまくり、トラブル続出――。
そんな彼らの映画作りは、何度も何度も困難にぶち当たります。

しかし、それを乗り越えるたびに、彼らはものづくりの面白さや、自分の中にある可能性も発見できるのです。

本作には、かつては二枚目だった俳優アンブローズ・ヒリアードという人物が出てきます。
今でも町では「あの刑事役の!」と言われるものの、老齢で落ち目であるのはあきらか。マネージャーのサミー・スミスはなんとか彼をなだめすかし、プロパガンダ映画に出演させることにします。

ただ、その役は「飲んだくれたヒロインのおじさん」であり、かつての二枚目俳優としては、ちょっと受け入れがたいものでして。しかも、その直前には大きな悲劇が彼に襲いかかり、無気力にすらなりかかるのです。

それでも仕方なく出演するアンブローズ。
彼はかつての名俳優として周囲に影響を与えることで、生きる力を取り戻していきます。それと比例して、劇中での役回りもより英雄的なものへと変化していくのです。

ものづくりって、こういう予測のつかないところ、楽しいところがあると、本作は描いています。

 

恋だけが、女の幸せですか?

本作は「プロパガンダ映画作りなんて嫌、きーっ!」という『わろてんか』殺しでもあるのです。
が、別の意味でもおてんちゃんスレイヤーとしか言いようのない要素があります。

カトリンが脚本家として活躍できるのは、戦時中という特殊な要素があるからです。

要するに、男性が戦地にいるわけですね。
戦時中や非常時というのは、女性の力が発揮される時代でもあります。

このへんの「非常時に女が力を発揮する」要素も、『わろてんか』はグダグダにしていましたから……。

本作のヒロインであるカトリン自身は控えめで、夫のために献身を尽くす女性でした。
ところが実力を認められるうちに、自分の創造性や才能を発揮する魅力に取り憑かれてゆきます。

夫の都合を優先するか?
映画撮影を取るべき?
悩み、ゆらぐ、そんな女性心理が描かれます。

そんな中で、自分の才能を認めようとしない夫にだんだんと愛想がつき、本当に彼女を愛する人をみつけるわけです。
ただの献身的な女ではなく、才知溢れる脚本家としての彼女を認める人です。

そうなればあとはありのままに、ですね。
でも、ここがじれったく、なかなか進まないところもよいのです。

彼女の恋心は戦時中という障害があり、甘い結末は待ち受けていません。

それでもカトリンは、ラストシーンで顔を上げて、前を向いて、生き始めます。
映画館で彼女の映画を見た人々は、喝采を送り、涙を流し、感動していたのです。

彼女は恋愛だけではなく、人の心を動かし得る自分の才能というかけがえのない宝物を発見したのです。

だからこそ、生きていけるのです。

 

『わろてんか』なかったものが全部あるッ!

というわけで、本作は的確に『わろてんか』の息の根を止めにいくわけですな。

吉本せいの人生に存在していたのに、『わろてんか』では吹っ飛ばしたものの、いわば全部載せです。

・プロパガンダ映画とは何か? そしてその「正しい作り方」

・ものづくりの過程はいかに素晴らしく、大変で、そして実りあるものかという描写

・男性不在という状況で、才知を発揮し始める女性の姿

・賢く、創造的な女性の魅力

・娯楽を提供する過程を

・通して、人生を再発見する人々の姿

・血と汗の結晶である作品を鑑賞して、生きる力を与えられる観客たち

・愛に裏切られても、才能を信じて前向きに生きてゆく力

・無理解な夫と、自分を理解するもう一人の男性との間での、ゆらぎと迷い

・本当にロマンチックな恋愛描写

もう、いっそこのスタッフで『わろてんか』を作り直しましょうよ。

BBCさん、どないでっか?
吉本せいさんは清濁併せて魅力的な人物でっせ!

著:武者震之助

【参考】
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