『おんな城主 直虎 完全版 第壱集 [Blu-ray]』/amazonより引用

おんな城主直虎感想あらすじ

『おんな城主 直虎』感想レビュー第16回「綿毛の案」 人身売買や金儲けに瞳キラキラ

 

三人は太鼓を叩き、宣伝内容をラップに載せて♪

方久の茶屋では、行商人、僧侶、山伏らが行き交いし、噂が飛び交っています。

最近登場しない松平元康(徳川家康)は吝い(しわい・ケチ)が鷹だけは買うとか。そろそろ美濃で戦があるとか。少し前に人買いの市が立っていたとか。気になる情報が次から次へと流れてゆきます。

ただの噂のようで、松平元康の性質や、織田信長が美濃を侵攻しているとか、情報が詰まっています。桶狭間では姿が見えず、それ以来作中で意識もされていなかった織田信長ですが、じわりと力を伸ばしていることがさりげなく示されています。こういうのは脚本家がきっちりと史実を整理して頭にたたき込んでいないと、さらりと書けません。技術力を感じます。

美濃で戦があると知った直虎はそこまで行きたそうにしますが、直之に流石に遠いと止められます。そこで誰かが、こう一言。
「噂を流されてはいかがか」
いつの間にか背後にいて、茶碗の中身をすすってからそう言ったのは政次でした。

「御三方(井伊三人衆)かたが人を貸してくれぬのは、何のうまみもないからじゃ。しかし耕す百姓にとってはうまみがある。ならばこの話が百姓の耳に直に届けば井伊に参る者が出るのではないか」

さりげなく適切なアドバイスを告げると去ってゆく政次。お前って一体……。

中野直之は、兵法にも噂を流す手はあると政次の提案に対して感心します。さらに反対する直虎に「聞いたことのない話ならやってみたいでしょう。それに皆の心意気に応えたいのでしょう」と焚きつけます。直之も機転が利く人物です。

「知っておるか? 井伊にはうまい話があるらしいぞ」

直之は早速、方久と井伊の瀬戸村に行くとうまい話があるという会話を始めます。

直虎も悩んだあと、「瀬戸村への道はどうなっておる?」と会話に参加。

方久は茶屋の代金を本日は無料、そのかわりに口コミを広めてください、と客に告知。

さらに三人は太鼓を叩き、宣伝内容を「乱舞(らっぷ、楽器演奏にあわせて大勢で歌うこと)」しながら、太鼓に乗せて謡い出します。それをそっと見つめる政次でした。

 

傑山がセコムなら直之はアルソック 心配は絶えない

一日中歌い続け、やっと井伊の屋敷に戻った直虎と直之は、声が枯れてしまいました。六左衛門は政次に直虎らの居場所を漏らしまったことを詫びます。直虎は六左衛門を許しますが、ここで立ちあがって、いきなり気を失ってしまいます。

同じ頃、駿府では寿桂尼が病に倒れていました。流石公家の姫君、倒れた所作すら風に落ちた花のように優雅です。

直之と六左衛門は直虎を心配しますが、昊天の見立てでは「遊び過ぎた子供が疲れて寝ているのと同じですよ」とのこと。ほっとする六左衛門ですが、直之もまた疲れきってその場に座り込んでしまいます。

「俺はな、正直ぞっとするのじゃ。殿をいただいて戦ということになったら、とてもお守りしきれる気がせぬ……」

本音をこぼす直之。日夜直虎と出陣するイメージトレーニングでもしているのでしょう。絶対に直虎を守り抜くと誓う直之。

傑山がセコムなら直之はアルソックでしょうか。

「それを考えていきましょうよ、皆で」と六左衛門が励まします。

回復した直虎がやっと目を覚ますと、井伊にはぞくぞくと民が集っていました。噂を聞きつけ、井伊にやってきた者たちです。

人集めの策は見事成功です!

しかし直虎は、実は喜びきれないところがあったのでした。

 

政次のほうが井伊谷の領主にふさわしいのでは……

井戸の横で悩む直虎に、南渓和尚が声を掛けます。

直虎は政次の策が成功してしまうと、人々は政次の方が井伊家の支配者にふさわしいと思うのではないか、と悩んでいたのです。そうなれば政次は家を乗っ取れてしまうと。ただの感情的な反発ではなく、そこまで悩んでいたんですね。

前回、なつとの会話で政次の立場を理解しているとにおわせた南渓は、ここで直虎にむしろ政次を利用したらどうかと助言します。

乗っ取られるにはないかと不安に思う直虎ですが、南渓はそうはならないとわかっているわけです。直虎の頑固さにも理由があったこと、その頑固さが南渓のおかげで改善しそうなことに安堵させられます。

ここで南渓は、虎松の手習いを始めてもよいかと直虎に確認。直虎は快諾しますが、問題はもう一人います。
しのの元には、虎松の手習いの件で昊天が訪れていました。

直虎は南渓でしのは昊天、差がある気がしますし、そもそも直虎に対して先に確認しているわけです。しのがイライラする理由はこのあたりにあるのではにでしょうか。しのは、虎松の手習いはまだ早いのではないかと昊天に告げるのですが、ここで政次の「つんけんしていると味方を失いますよ」という言葉を思い出し、虎松を預けることにします。

直虎は南渓の言葉で柔軟になりました。政次に政務の進捗を告げて良いかと尋ねる六左衛門に許可を与えます。しかし政次は駿府に挨拶参りに行っていて、留守です。

駿府で政次は寿桂尼が倒れたという話を、菅沼忠久から聞いています。一命はとりとめたものの、不安が漂っているようです。

今川の屋台骨が揺らいでいることを知っているのは、現時点で政次だけというのは今後の伏線になる気がします。桶狭間で今川義元が斃れたことよりも、寿桂尼が欠ける方がより致命的だと今年は描いています。
そして今週のラスト。直虎のもとに中野直之が持ち込んだのは「種子島(=火縄銃)」でした。戦国の兵器革命が、井伊谷にまで及んだのです。

 

MVP:中野直之

先週の立ち回りを見て「武勇特化型」と思ったのですが、それも訂正した方がよさそうです。この二回で彼の才能がはっきりと見えて来ました。
「主君を守り抜く」、「敵を効率よく倒す」といった目標を設定し、かつそれを自分が学んできた知識に落とし込めば、それを活用してきっちりと目的を果たす有能な武将でした。

直虎が疲れていることを察して自分が休みたいからと提案する。政次の噂を流すという発想を聞いて、すぐさまその場で行動にうつす。兵法書に通暁し、武術の鍛錬怠りなく、気遣いもできる柔軟性もある。主君を観察し、どうすれば戦で守れるかと常に考えている。いち早く鉄砲を持ち込む先見性もあり。ここまで出来る男とは思っていませんでした。

有能なのに、スポットライトが当たるまではそれをひけらかせない性格の良さもポイント。行動をじっくりと観察すると有能なのに、誰かの台詞で「お前は出来る奴じゃのう」なんて言わせないのがいいんです。

まだ若く経験は不足している直之が、ここまでできる男なのは亡父・直由の薫陶もあるのでしょう。第一部の登場人物は、中野直由はじめアッサリと目立たないうちに退場した印象がありましたが、二世世代を通して印象を変えてくるというのはなかなか凄いことです。

こういうハイスペックキャラをさりげなく潜ませていた……配られたカードが駄目だとあきらめていたら、実は使えるものがちゃんと入っていたこの感覚。面白いです!

 

総評:今週もやっぱり面白かった!

内政ターンの面白さを引き出しているのが今年の凄味です。可能性を切り拓きに行っています。

茶屋の場面のように、人が行き交うことで生じるダイナミズムを魅力として描いているのも素晴らしい。あの場面で噂話が流れてくるところは本当にワクワクしました。人が生きて、交流して、そこで生じるエネルギーの面白さがあるのです。エネルギーに反応して、乱舞を始めるのも面白いところ。異国の雑踏を訪れたような躍動感と生命力がドラマそのものから漂っています。

今週は中世ならではの価値観もあれば、現代社会にも通じる価値観もあるのが面白い点だと思いました。

人身売買に瞳をキラキラとさせるヒロインは中世ど真ん中ですが、今にも通じる価値観も出てきています。直虎は人が足りなければ近隣に貸してもらおうと考えました。

これは今で言うならば、介護士などに周辺諸国からの移民を活用という話に通じると思います。当初の直虎にも、この案にも欠けている点があります。どこにとっても人材は貴重であるという点です。移民を募集しようにしても、東アジアや東南アジアは軒並み少子高齢化に悩まされています。そんな状況で、人を貸してくれると期待するのは甘いんじゃないか、ということは今週の展開と重なっていると思います。人は財産です。

方久が茶屋で「今日のお代はいただきませんから噂を流してください!」と持ちかけたのも、普遍的です。

現在ならばこの投稿をリツイートした方にはコーヒー一杯無料クーポンをプレゼント、レビュー投稿で30%オフ、みたいなものですね。宣伝というのはそれほど効果があることなのです。

好条件を示せば人がぞろぞろ集まってくるのも、ある店が時給1300円にしたら、時給800円で求人している周辺の店は誰も応募しなくなった、みたいな話です。そういう「条件がよいところがあればガンガン転職しようぜ」マインドが戦国時代にはありました。今でもそのマインドを持ってもよいのではないでしょうか。

いやなんというか、今年の大河は凄いですよ。

新しいものを作るという明確な目標を定めて、的確に撃ち込んでいますよ。今年は見なくちゃいけませんね。噛みしめれば噛みしめるほど味が出てきます。正直に言ってよろしいですか。もう脳が追いついていけないくらいです。

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【参考】
おんな城主直虎感想あらすじ
NHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』公式サイト(→link

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