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おんな城主直虎レビュー

『おんな城主 直虎』感想レビュー第46回「悪女について」

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悪名を背負った政次も瀬名も愛されていた

浜松には、今川氏真が北条と話をつけて戻って来ました。
氏真よくやった! あんたはどこまでも格好いいよ!

しかし、時既に遅し。
家康は瀬名の首桶の前でうつむいていました。

思えば第1回で井伊直満(宇梶剛士さん・井伊直親の父)の首桶が帰って来た時から、本作では何度もこうした場面を見てきました。

「許せ……瀬名……瀬名……」
氏真が自らを責め泣き出すと、万千代も、家康も、自分が悪かったと言い出します。
ちょっと瀬名は救われたな、と思いました。

幼き頃の瀬名の夢は、この氏真の妻となり、今川家を手にすることでした(第3回)。

それが自分の母を苦しめた今川への復讐だと信じていました(第10回)。

そんな氏真が、自分のために奔走し、苦しみ、涙し、詫びる。
ささやかながら、彼女の本懐は遂げられたと言えるのかもしれません。
公式サイトで第3回あらすじページにあるおとわ、氏真、瀬名の幼少期を見返すと泣けてきます。

「私は瀬名に信じてもらえなかった。もっと頼りがいのある夫であれば岡崎でおとなしく座っておった」
そう漏らす家康。
政次が嫌われ政次でなかったように、瀬名も悪女ではありませんでした。悪名を背負ったこの二人は、実は愛されていたのです。

 

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「そこまで申すのなら、徳川殿の好きになさるがよい」

家康は瀬名の首桶を持ち、安土城の信長に対面します。

密通していたのは瀬名であり、信康は無実である、北条とも同盟を果たしてますます貢献します、と信長に弁解する家康。
しかし信長は冷たいまなざしを向けます。

つまらなそうな顔で、家康の言葉を聞いているのです。

「そこまで申すのなら、徳川殿の好きになさるがよい」
「では……」
「そのかわり、余も好きにするがのう」
終わりました……全てが、終わりました。

それにしても毎回のたうち回っている気がしますが、この市川海老蔵さんの信長が毎回絶品でもう、言葉もない。
出番が少ないのもプレミアム感がありまして、毎回イメージど真ん中の信長像をつきつけられて五体投地して拝みたいほどです。

かくして天正7年(1679年)、9月15日。信康は自刃をしたのでした。
この自害シーンが力を込めて頸動脈を切断しているのがしっかりわかる、なかなか生々しい動きでこれまた辛い……。

悲報を受けて、徳川家臣団の慟哭が響きます。
忠勝の獣のような声も印象敵ですし、忠次の転げ回るような嘆きようも悲しくて。

於大の方も静かに祈りを捧げます。

私も一緒に床を転げ回りたいくらい悲しい……。

 

「できることしかやらんのか、しみったれた女子だのお」

井伊谷でおとわは、このような悲劇はいつまでも続くのかと苦しみを噛みしめていました。
南渓を前に、怒りと悲しみを語るおとわ。
「いっそ、大名が一堂に会し、やあーっと盟約でも結んでしまえばいいのです」

戦さえなくなれば、こんなこともなくなるのに、そう嘆くおとわ。
そんなおとわに、南渓は
「できることしかやらんのか、しみったれた女子だのお」
と言います。

「瀬名は妻として、母として、その命を使い切った。そなたは何のためにその命を使うのだ。母でも、妻でもないそなたは、何に、その命を賭けるのじゃ?」

南渓が差しだす白い碁石を受け取るおとわ。
おとわは虎松を使い、泰平の世を目指してもらうよう、持って行くと決意を固めます。

「何ひとつ使いどころのない命。ならば、途方のない夢に賭けたとて、誰も何も言いますまい」

この場面がぐっとくるのは、おとわの言葉通りのような世の中を、家康が実現することです。
ここでおとわと家康の苦しみはシンクロして、人生が交錯するのです。ゾクゾクしました。そういう仕掛けなのかと。

 

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母や妻の立場を描くだけのおんな大河ではない

第1回放送で、井伊直満の首桶が届いてからの無念が、おとわの中でずっとたまってきました。
泣いて涙を流し続けて、無力だと嘆き続けてきたわけです。

その涙が滴となって、乱世という堅い石を穿つのだと。
おとわたちの嘆きが万千代を通して家康に届き、歴史が変わるのだと。

今までの女性主人公大河では、母なり妻としての立場が描かれました。本作はそうではなく、一人の乱世に翻弄された女性の涙が、歴史の大河に注ぎ込む過程を描きました。
これぞまさに新たな大河が誕生する瞬間ではないでしょうか。

岡崎では、信康の死後逃げ出す家臣が相次いでいました。
忠勝が岡崎に乗り込もうかと提案していると、それを聞いていた家康は突如怒鳴ります。

「勝手に決めるなと申しておる!」

主君として家臣の前にはいるものの、心は悲しみに砕け散っておりました。

一人、碁盤に向かう家康。
万千代のもとに、瀬名の形見である紅入れを手にしたおとわがやって来ました。

とてもこのような物を渡せる状態ではないと万千代。嘆きの言葉を続けます。
「かようなことはいつまで繰り替えされるのですかね。父上や、但馬や……」

おとわは、直親が亡くなったときにできたことは、直親のかわりに生きることだった、と語ります。
死んだ者はどうやっても戻っては来ない。
生き残った者にできるのは、志を宿すことだ、と。

信康の志を受け継ぐ? それは不遜なことだと万千代は一瞬たじろぎますが、おとわは笑い出します。
「不遜? そなたの口から左様な言葉が出るとは。徳川様にすれば、息子のような家臣ができるということ。ありがたいことだと思うがな」

 

「御方様が見ておられます。考えましょう、この先の徳川のために!」

万千代は家康の部屋に入ると、スライディング気味に碁石を吹っ飛ばします。
かつて瀬名がよくしていた仕草です。

井伊の血筋でしょうか。思わず瀬名の名を口にしかける家康。

「では、もう一度やりましょう。私が、お相手します」
「お前は何様のつもりだ! わしはもう誰の言うことも聞いてやらん!」

家康は泣きながら、抑えていた思いを吐露します。
万千代は静かに、おとわが一人で碁盤に向かっていたと語り出します。おとわは一人で碁を打ってはいなかった、見えぬ相手がいると。その相手、つまり小野政次から碁を習ったと。

回想シーンで小野政次は出てきません。
しかし今週は、政次が脳内に出てきて涙した視聴者が多いことでしょう。

敢えて回想を出さない。台詞だけで小野政次の志がそこにあるのだと示す脚本が見事です。
政次は、地獄の底からではなく今まさにここから皆を見守っています。

「その者は、教えてくれました。負け戦になってしまったら、そもそもどこで間違えたか確かめよと。次に勝つためには! 負けた意味は、次に勝つためにあると」

家康の目に光が戻ります。
万千代が差しだした瀬名の形見を手に取る家康。

「御方様が見ておられます。考えましょう、この先の徳川のために!」
「まずは、岡崎じゃ」

家康はそう言うと、忠勝を呼びます。
主君の命を受け、馬を走らせる忠勝でした。

 

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MVP:瀬名&信康&家康

ここは瀬名が頭一つ抜けている気がしますが、敢えて親子でセットにしたいです。

瀬名の覚悟を決めた顔の美しさときたら……。
直親や政次の時もそうでしたが、覚悟を決めた光のようなものがありました。
私の感情が大いに揺さぶられていることは重々承知で、神々しいほどの美しさでした。

初登場時の、いかにも気の強そうな女性から、この壮絶な最期へ。
奈々緖さん、最高でした!
信康の優しさと気高さ、泣き叫ぶ家康も素晴らしかったです。

 

総評

尊い……。
今週は、あの政次磔刑の第33回のリフレインとも言える回でした。
あのとき今回の信長と同じ役割を果たした家康が、今回はおとわの立場になったわけです。

この構造によって、おとわと家康の人生が交錯しました。おとわと同じ苦しみを味わったこそ、この乱世を終わらせたいと願う家康ができあがったという見方もできます。
おとわの涙が万千代を通して家康の人生に流れ込み、歴史の流れに加わるような。そんな展開にぐっときました。

知名度の低い女性であり、今はもう出番が少なく、脇役のようなおとわ。
それでも彼女の人生が細い流れとなって歴史に流れ込んでいるのです。こんな構造をロングパスで精密に作り上げる森下氏に感服しますし、彼女がこんなにも読者を信じて書き続けてくれることに感謝しかありません。

ありがてえ、ありがてえ……。
好きを通り越して、もう拝みたいほどです。ここ数回は、見終えたあと合掌しています。

小野政次の時のように、瀬名と信康の供養になったような出来であるのも感謝しています。

彼らの死には諸説あるけれども、ただの奸臣や悪女ではなかったはずです。
四百年以上を経て、こうも彼らの死を嘆き、心ふるわせるドラマを作り上げるというのは、最高の供養だと思います。

今回は敢えて回想シーンを挟まないのも、素晴らしいと思います。おとわや万千代の台詞にあわせて回想を入れてもいいはずです。
そこを見る側に委ねて、あなたの好きな小野政次を思い出してください、とボールを投げてくれています。
ここまで視聴者を信じているのかと。

政次の名前すらはっきりとは出てきません。
それでも彼が、万千代の中で生きていて、家康が道をあやまるのを防ぐ役割を果たしているのを見ることになるのです。凄い。

テコ入れとか小手先のことを考えず、視聴者を信じて超絶技巧を放つ本作。
あと数回で終わりというこのタイミングで、すごいボールばかりを投げて来て、ただただ感服しています。

武者震之助・記
霜月けい・絵




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