『真田丸 完全版ブルーレイ全4巻セット』/amazonより引用

真田丸感想あらすじ

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利休の庭から掘り出されたものは……馬上筒?

城に戻った幸村は、農作業をしている春やきりを見かけます。春はきりに敵愾心を燃やし、頰に泥を塗りたくります。この顔に泥を塗りつける場面は、第一回の薫やとりの逃避行を思い出させます。
きりは、この畑はかつて千利休の茶室があったという情報を幸村に語ります。春はきりの言葉に感心する幸村に対抗しようとして、半端な青菜を詰んで怒られてしまいます。

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幸村が畑仕事を手伝い出すと、農具が何かに当たりました。
不審に思い掘り出してみると、土の中にあったのは千利休の印がついた箱でした。思えばこの印から「死の商人」としての一面が露呈し(二十四回)、利休は命を落としたのでした(二十五回)。

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中を開けると、銃身が短い不思議な形の鉄砲が出てきました。

火器に詳しい毛利勝永に聞いてみると、これはフリントロック式の「馬上筒」でした。
火縄に点火せずとも撃てるので、馬上からでも使えるわけです。利休はこの新製品をいつか高値で売りさばこうととりあえず隠して、そのまま亡くなったというわけですね。まさか茶人兼死の商人という設定がここで生きてくるとは。

真田丸毛利勝永

牢人たちは、渡された支度金が尽きつつありました。城内に牢人を養うだけの資金はありますが、幸村はとりあえず金を配ることには反対します。これに納得できなかったのが、治長の弟で牢人に近い立場の治房です。彼は勝手に蔵を開け、配下の牢人に金銀米を配ってしまったのでした。

治長は弟の軽挙妄動に激怒しますが、時既に遅し。一部の者だけが恩恵にあずかったとなると、他の牢人も騒ぎ出すでしょう。幸村は全ての牢人に金を渡すことを提案。秀頼もこの提案を受け入れてしまいます。

真田丸大野治房

幸村は兄に不出来な弟と罵られた治房を、自分と信之の立場を比べて慰めます。
ここでの幸村の台詞はとてもよいのです。今までの真田兄弟の歩みを見ていると感動的です。しかし治房にとっては何の意味もないものでした。治房は堀を掘り返したいとつぶやきます。

それにしても、大野兄弟にせよ、真田信之の子である兄弟にせよ、世の中には出来がよく仲の良い兄弟ばかりではないのですよね。彼らと比べると、真田兄弟の素晴らしさがわかるというものです。そんな自分たちを基準にして見てしまうと、他の兄弟のことはかえってわからなくなると、幸村は気づいていません。

 


又兵衛が幸村に迫る「腹をくくるときかもしれねえぞ」

牢人に配った金銀は裏目に出ます。
牢人たちはこぞって武器を買い求めたのです。

真田丸団右衛門

幸村と治長は、この報に愕然とします。牢人が武器を買いあさっているとなったら、これはもう和睦の手切れも秒読み段階になります。幸村の要害を作る計画は、間に合わないでしょう。

さらに悪いことは続きます。治房は兄を襲撃し、重傷を負わせます。この事件には大蔵卿局も一枚噛んでいるようです。治長は寝込んでしまいます。
さらに治房は堀の掘り返しも強行。心の奥底では戦がしたいと思っている又兵衛は本気で止められません。
「腹をくくるときかもしれねえぞ」
又兵衛は幸村に迫るのでした。

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堀の掘り返しを聞いた家康は、機は熟したと喜びます。家康自身も出陣し、今度こそ牢人を成敗してやる、自らの手で奴らを滅ぼすと宣言。

幸村は城内で馬上筒の訓練をしています。
江戸では信之が、弟の手紙を読み驚愕します。一見普通の内容ですが、兄には弟が死ぬ覚悟であると読み取ったのです。信之は家康と刺し違えるつもりだという弟の悲愴な覚悟を悟り、弟を止めるため、大坂へ向かうことにするのでした。

城内には、幸村が馬上筒を撃つ音が響いています。

 


MVP:大野治長

様々な作品で、茶々との密通説まで持ち出され、色男でも無能で嫌な奴として描かれて来た治長。本作は有能とまでは言えなくとも、常識的でまっとうな判断力を持つ人物として描かれております。そんな彼の良さが今週は出ていたな、というところです。

牢人たちも格好良かったんですけどね。
銃を構える毛利勝永とか、真田幸村とか。でもこの人たちが結局事態を悪化させているんだよな、と思うと複雑です。

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総評

作劇的には素晴らしいものがありました。
幸村と茂誠の会話で、騎馬での突撃には馬上攻撃できる銃があれば最適だと導かれ、そのあとに千利休が隠していた馬上筒が出てくるわけです。
利休は死を前にして「これもさだめじゃ」と語っていました。リスクをわかっていても危険な商いに手を染める業を背負っていた利休のように、今の幸村も戦い続けねばならないという業を背負いました。さらにはかつて石田三成が語っていた「戦への流れは一度始まると止まらない」という言葉も思い出されます。巨大な運命の歯車が廻り、主人公たちはそれに取り込まれてゆくのです。

勝てるかもしれない→しょうもないことで躓いてやっぱり駄目な方向に→石田三成と大谷吉継さえいればこんなことにはならないのに→二人とも健在で、上杉家や宇喜多家はじめ大勢が味方についた関ヶ原でも、家康に歯が立たなかったという現実→勝てない、家康強い→絶望
そんなループを何度繰り返したことか。
そのたび、大型巨人が壁から頭をのぞかせたような気分になったことか。
今週もこのパターンでした。

戦争をする上で最も難しいことは何かというと、終わらせ方とよく言われます。なんとか終わらせようとしても、余力があるとか、あるいは好戦的な勢力がいると、彼らがなんとかして終戦を阻もうとするのです。
本作の生々しさは、史実を再現するため現実ともリンクしてしまうところでしょう。本作を見ていると、なぜ世界から紛争や戦争はなくならないのか、種は蒔かれてしまうのか、そんなことがわかる気がするのです。本作に夢中になったお子さんには、世界から争いがなくならない理由を、説明しやすくなるんではないでしょうか。戦争をやめたがらない者、戦争続行に必要な資金、武器があればなかなか終わらないんだよ、ということです。

先週決まった和睦があっさりとやぶれてしまったのは、牢人が統制できなくなっていたからです。そのときにも記しましたが、十万人の戦闘員がそこにいるだけで危険なのです。牢人=火薬と譬えたわけですが、まさにこの火薬が最悪の形でくすぶり、爆発しようとしています。この牢人を何とかしようとしなかった時点で、大坂方は真面目に和睦する気がないと家康に思われてしまっても何の言い訳もできないわけです。

和睦なんて無視して本陣を襲った今回の冒頭部。たしかに爽快でしたが、ルール違反です。さらに幸村は、四国へ秀頼を移すことを提案しながら、家康の首を取る気もあるわけで佐助に襲撃させているわけです。家康の首なんて取ってしまったら、秀頼が国替えするなんて調子のいい話が通るわけがありません。

有楽斎を追放し、大蔵卿局の口を封じ、これで勝利や成功へ近づいたと思いますか?
実際はその逆です。本作において、無邪気で美しい死に神である茶々は、今回も死へと導く相手をしっかりと掴んでいます。茶々は幸村がいる限り大丈夫だと思っていますが、彼こそが実は茶々母子を死へと向かう道にがっちりと固定する駄目押しみたいな存在なのです。

真田丸茶々(淀)

土の中から掘り出された箱には、馬上筒が入っていました。
この馬上筒を人に譬えると、幸村その人かもしれません。
ずっと眠っていた、優れた武器。でもその武器を箱から出したところで、茶々や秀頼にとって救いになったのでしょうか。武器というのは確実に使いこなせる人が持たなければ意味がないものです。武器というのは、時と場合を得なければ役に立たないものです。
この武器は追い詰められた人の命を絶つという、哀しい役目を果たそうとしています。

著:武者震之助
絵:霜月けい

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