真田丸レビュー

『真田丸』全50話の感想レビュー38万字を一挙公開!

更新日:

 

第21回「戦端」 中世から近世へ~歴史は確実に動いている

こんばんは。来年の大河『おんな城主 直虎』のキャストも発表されています。現時点ではあまりコメントする必要はないかと思うのですが、主人公周辺の人間ドラマ重視で、今年のように国衆のパワーゲームはあまりやらないのかな、という気がします。

さて、今年の大河です。まずは追加キャスト。

橋本マナミ「真田丸」細川ガラシャ役で「夢かなった」13年ぶり大河 ― スポニチ Sponichi Annex 芸能
http://www.sponichi.co.jp/entertainment/news/2016/05/28/kiji/K20160528012672880.html

そしてこの方はブレイクしたキャストです。

[真田丸]村上新悟 “セコム直江”のあだ名に「複雑」 | マイナビニュース http://news.mynavi.jp/news/2016/05/27/270/

本編でも「直江状」は是非読み上げて欲しいところです。

真田丸直江兼続霜月けい

先週は暗い、陰惨、有名な大事件でもない、人が死ぬ――と、視聴率が上がるような要素はまったくなかったにも関わらず、19%に迫る勢いでした。

昨年某氏は「人が死ぬから数字が取れない」的なことを言い物議を醸しましたが、今年は結果を出してそんな戯れ言を粉砕しているわけです。大河のお約束ではなく、最新研究をふまえて面白い脚本を組み立てるという基本を大事にすれば、きっちり視聴率はついてきます。

「人が死ぬから」、「血が流れると女性やライト層が逃げるから」、「難しい展開はわかりにくいから」、「主人公が挫折するとカタルシスがないから」、「今の若者は時代ものがわからないから」と逃げずに、噛み砕くのと手を抜くことを混同しなければ、結果はついてくると今年が証明しました。今後数年間は、本作こそが大河の指標となるでしょう。

と、先週までの展開もおもしろいことは、そうなのですが、第14回から七回ほど、二ヶ月近く秀吉周辺を描いてきたわけで、ちょっと食傷気味になってきたのも確かです。そんな不満も今週で終わり。舞台はまた東日本、信濃から関東へとうつります。

 

目次

目次

捨をめぐって飛び交う思惑 秀次は「後継者になんてなりたくない」

権力、待望の世継ぎを手にした秀吉。残るは関東と奥羽を手に入れれば、天下統一です。

天下のゆくえを家康と三成と話すときでも、秀吉の膝には子の捨が。ここで信繁が秀吉に呼ばれますが、意見を求められるどころか捨の世話を頼まれるのでした。ここで駄目なドラマなら、信繁に意見を求めるところなんでしょうがねえ。

真田丸豊臣秀吉

家康と三成は、巧みに北条との戦を回避しようと持っていこうとするのですが、秀吉は北条を攻める気満々。三成と大谷吉継は、秀吉に北条攻めを吹き込んだのは、秀吉に都合のよいことばかりを言う千利休の仕業ではないかと推理します。その推理の通り、この数日前秀吉は利休の茶室で北条を攻めるべきだと助言を受けていたのでした。

どうやら三成・吉継と千利休対立の種が蒔かれております。今年の利休は胡散臭い! 戦を回避したい三成は、再度北条に上洛を促すのですが。

捨を産んだ茶々は、側室でありながら正室の寧に対抗するほどの度胸と力を持つようになります。しかし、茶々の権力志向ゆえというよりは、母となった強さゆえのもののようです。

「出産経験がないとわからないだろう」というマウンティングは、正直見ていてちょっと辛いものがあるのですが、この茶々は悪意があるというよりは、天然お姫様気質で何気なくきついことを口にしている気もします。この二人の対立はどうにも見ていてギスギスとしたものになりがちですが、三谷流は見ていてあまり不愉快ではなく、かつ自然にかみ合わなくなってきていて、うまいと思います。とはいえ、この二人の間で冷や冷やしながら話を合わせる阿茶局の立場にはなりたくありませんが。この二人の間で軽くいなし、話をそらす阿茶局もどうしてなかなか、ただ者ではありません。

阿茶局の報告を受けた家康と正信。正信は、秀次は捨の誕生に気落ちしているのではないか、と推察します。

しかし、そう言われた秀次はそうではありません。秀次は捨のために風車を作りながら、きりの前で本音を明かします。

「足軽の倅に過ぎない自分は、天下人の跡継ぎの器ではない」
「むしろ後継者から外れて、胸をなでおろしている」

秀次は見ていてこちらが不安になるほど、善良な好青年です。頼りないし、頭の回転もあまり速くはなく、カリスマには欠けていますが、そこそこの地位ならばきちんとつとめあげそうな真面目さがあります。そんな秀次は、捨に直接風車を渡せず、きりに託すのでした。

そんなわけできりは、信繁を呼び風車を託します。

「お前って相変わらず秀次様と仲が良いな。側室にでもなれば玉の輿だろ」

「はあ? 私を振り回さないでよ! 気がある振りをしたり、そっけなくしたり。素直になりなさいよ、もう子供なんだからぁ!」

出、出た、きりちゃん空回り勘違いタイム! ここまで痛い女子を演じる長澤まさみさんってすごいと思います。この二人、どこをどうしたら将来的に夫婦になるんでしょうね。

 

ウザい、ウザすぎる本多忠勝が怖くて何も言えねぇ

茶々は信繁にも、子がいるのでは? 会いたくないのか? と問いかけます。梅の忘れ形見・すえはもう五歳。伯父の元ですくすくと育ち、賢そうな女の子になっていました。作兵衛伯父さんも可愛い姪御にデレデレです。それにしても、あれからもう五年経つんですね。

一方で、エクストリーム新婚生活に悩んで居るのは信幸。稲は、出された食事は塩味がきつすぎて食べたくないと突っぱねます。これからは薄味で作らせると言う夫に、稲は父から持たされた薄味の梅干しで食べるとそっけなく言い、取り出し食べ始めます。

これには信幸もすっかり弱り、高梨内記に手強い妻について愚痴ります。

霜月けい真田丸真田信幸

「鼻でもぎゅっとつまんでやればいいんです」(←あなたそうは言いますけどね。おたくの娘さんのきりちゃんも、そうやって躾ければあんなことにはならなかったのでは……)

「そんなことしたら本多忠勝が殺しに来るよぉ!」

叫ぶ信幸。日本最強の舅もまた、悩みの種です。

そう言う側から、超高速上田駿府間移動をこなした忠勝が、娘の見舞いにやって来ます。そりゃ信幸も「他にすることねえのかよ!」と突っ込む。私も突っ込みました。

忠勝はおいしい蜜柑(柑子)をお土産にやって来ました。いや、そこは送ろうよ。稲は父相手には、夫には見せぬ笑顔をしております。おずおずと舅に対面した信幸は「うちの稲は才色兼備で武芸も達者。日本一可愛い稲にふさわしいもののふになってくれ」とすさまじいプレッシャーをかけられます。信幸の寿命がまた縮む音が聞こえてきそうです。そこに松が入ってきて、とりが体調を崩していると報告します。

真田丸本多忠勝霜月けい

とりは急に体調を崩したらしく、寝込んでいます。しかし相変わらずふてぶてしい態度も見せています。薫、信幸、松がとりを見守っていると、粥と古漬けを手にしたこうがやって来ます。きびきびと甲斐甲斐しく働くこうは、以前よりずっと元気に見えるのでした。

と、信幸パートは完全にコメディですが、箸休めとしては貴重です。

 

北条相手に家康が垣間見せる優しさ、情の深さ

ここからは北条パートです。秀吉の天下なぞ気にもとめぬ様子で、狩りを楽しむ北条氏政。そこへ板部岡江雪斎が、徳川家臣・本多正信が面会を求めていると伝えます。家康本人ならともかくふざけるなと言った氏政ですが、はっと何かに気づきます。

クククッ

氏政が向かった面会の場にいたのは、家康本人でした。氏政は相変わらず意気軒昂で、秀吉に臣従する気はないと断言します。

真田丸徳川家康霜月けい

しかし家康は、北条に勝ち目はない、力をつけている、長いものに巻かれるのは卑怯なことではない、生き延びるための知恵だと説得します。氏政は何故、自分を説得に来たのかと家康に問いかけます。家康は対立してきたものの、今は戦友だと思っている、これからもご健在であっていただきたい、嘘偽りはござらんと言います。はて、どこまで本気でしょうか。

上洛し、形だけでも頭を下げればよい、あとは何も変わらない。徳川、上杉、真田、皆そうしてきた。北条の家と領地を守るためにご決断を、とさらに家康は促します。さらに、氏直に嫁がせた娘を離縁させると同盟破棄をちらつかせます。ここまで言われ、氏政も動揺を見せます。それでも氏政は、いずれ秀吉を倒すと言い切ります。家康はならば心してかかりなされませ、さもなくば北条は滅びますぞ、と言います。こう言っている家康が、やがて熟慮断行して豊臣を倒しにいくわけですね。

正信は誠心誠意の忠告をした家康を労います。その上で、本気で言ったのかどうか尋ねます。

家康は確かに損得を考えたら北条が滅んだ方がよいのだが、心底救ってやりたくなった、と心情を吐露します。このあたりが実におもしろい。本作の家康は真田最大の敵ではあるのですが、邪悪なだけではないのです。秀吉ならばありえない懐の深さと情けが彼には備わっています。

 

沼田の支配権は北条・徳川・真田のディベートで決まる!?

氏直は父・氏政の真意を尋ねます。氏政は沼田が真田から取り戻したらば上洛すると条件を設定し、江雪斎を京都に派遣します。

秀吉は怒りますが、三成はかえって好都合だと判断。(全国の大名は勝手に合戦をしてはならないという)惣無事の実現でもあるし、秀吉が沼田問題を処理することで力を見せられるというわけです。三成はそのために、昌幸を上洛させるから説得しろと信繁に言います。こういう土地の割り当てを頭越しにすることは戦略のひとつで、権威を見せ付けることであるわけです。

昌幸は呼ばれたからには上洛せねばならない、ついでに建設中の京の真田屋敷も見て来ると言います。秀吉の世はそう長く続かないとまた言い出した昌幸、なんと屋敷に隠し扉を作っているとか。そんな父を見る信幸の顔は「うわー、何言ってるのこの人……」という呆れに満ちています。

ついに登場! 主役感、満載ですw

その信幸は、つらい新婚生活からの逃避をはかりたいのか、同行を申し出ますが即座に却下されます。薫は上洛に同行できると知ってはしゃぐのですが、体の良い人質要員であると昌幸から聞かされ、臍を曲げてしまうのでした。

京の真田屋敷に着いた昌幸は、信繁から「隠し扉なんていらないから作ってないよ!」と言われてちょっとむっとします。さらに沼田のことを聞き、本格的に怒ります。ふざけるな、明日には帰ると言い出す父を引き留めそこなう信繁でした。

翌日報告すると、三成は「まあ、そうなると思った」となかなかひどい返事。ここで大谷吉継が、北条・真田・徳川でディベートを行い、秀吉がジャッジすればどうかと提案。これは新たな形の舌戦、頭脳による戦だと納得した昌幸は、受けて立つことにします。

しかし北条側は氏政ではなく、氏直も渋り、江雪斎を代理に出すことに。北条側も一枚岩ではなく、氏政はともかくとして氏直や江雪斎は戦ってはまずいと思っているようです。

これを聞いた家康はおとなしく上洛しない氏政にあきれます。

「沼田、沼田、まるで喉に刺さった小骨だな」(※編集部注 なぜ北条はここまで沼田にこだわるのか? 沼田は上杉謙信も直轄地としたほどの要衝なのですが、その解説に触れた記事はコチラにございます)

家康はそう嘆き、本多正信を派遣することに。

これを聞いた昌幸は「おいふざけんな、代理ばっかりじゃねえか」と怒り、やってられるかとボイコット。なんとしても戦を避け、乱世を終わらせたい三成と吉継は、父が駄目ならお前がやれと信繁を焚きつけます。こうして三者とも代理を出すことになるのですが。

真田丸石田三成

 

「徳川を味方につければ勝てる!」 昌幸必死

ディベート会場は、赤いキャンドル(『軍師官兵衛』でも悪目立ちしていましたな)、明朝風味の柱(中華料理屋みたい)、テーブルと椅子、絨毯、レースのカーテンと、やり過ぎて悪趣味なインテリアで飾られています。

信長の場合、和洋折衷に洒落っけがあったのですが、秀吉はまるでごった煮。美的センスの欠如と、海外への野心を感じさせる装飾でしょうか。スタッフは意図的に悪趣味にしていると思います。

真田丸板部岡江雪斎霜月けい

江雪斎、正信、信繁が揃ったところで、信繁はそそくさと退席しどこかへ去ります。行き先は何か倉庫のような場所です。そこにいるのはなんと昌幸。

子供か、子供のかくれんぼか! 昌幸は徳川を味方につけろ、沼田を決して北条に渡すなよ、これは戦だ、とアドバイス。いつまでも親に頼るなとも言いますが、あんたこそ息子に頼ってばっかりだろうが! そこまで言うならお前が出てこい! そう突っ込みたいのは山々ですが、きりがないのでこのあたりで。

席に戻った信繁は、早速正信を味方に付ける作戦開始。腰痛に悩む正信に、有馬の温泉が効くと助言し和やかなムードが流れます。

中国風の茶器で茶を飲んでいた秀吉は、三成に促されディベートの審判に向かいます。かくして、沼田を巡るディベートが始まります。

 

今週のMVP:本多正信

際だってこの人だと思うところはないももの、敢えて言うならばこの人で。家康が誠意をもって北条を救いたいと知り、嬉しそうな顔をするところがよかったです。演じる近藤正臣さん、どの表情にも味があります。

真田丸本多正信霜月けい

総評

「戦端」なのであくまでさわりまで、あまり話が大きく動かないのでちょっとむずむず消化不良になるかもしれません。

しかし、ちゃんと歴史は動いています。

おそらく秀吉以上に惣無事の理念を重要視していると思われるのが、三成、吉継、家康といった周辺に見えるのが面白いところ。「いくさはいやでございますぅ〜」と綺麗なべべ着たお姫様がキャーキャー騒ぐ近年の駄作大河とはちがい、本作の男たちは乱世に疲弊し、利害を計算し、熟考の末出した結論としてこれ以上戦うのを避けようとしています。

崇高な理念でも、現代的な平和思想でもなく、人々が中世人から近世人へと脱皮する過程において、武器を置く。そういう歴史の流れが感じられます。

本作は決断におけるくじ引き、鉄火起請、戦う村人たちといった中世人の姿を描いてきました。不合理な神だのみ、暴力による解決が彼らの理念でした。ところが彼らはそうした中世的なものへの疑問が生まれています。もっと合理的でよりよい解決手段はないのかと頭を悩ませています。そうした試行錯誤の結果出てきたのが、惣無事であり、所領の帰属を理非で決めるというやり方であるわけです。

ただここで面白いのは、そのやり方を採用する秀吉が、実のところ中世の申し子のような人物であることです。彼のような人物がもし徳川の江戸時代にいたとしても、あれほどの出世はできません。先週、戦がなくなったことを嘆く元足軽の尾藤道休は「成功しなかった秀吉」と書きました。道休も秀吉も、戦を糧として生きてきた存在です。世間から戦をなくしてしまったら困るのです。惣無事で戦を日本からなくした秀吉は、海を越えてまで戦を仕掛けてゆきます。その秀吉の政権は短命に終わります。秀吉とともに、中世は終焉を迎えるのです。

それに対して家康は、大坂の陣を中世最後の戦とすべく戦います。

本作は中世から近世へと移行する、時代と時代がぶつかりあい戦う大きな流れ、まさに大河が底に流れていると感じます。歴史の教科書で覚え、頭の中ですんなりと流れてゆく、信長・秀吉・家康の流れ。戦国が終わって江戸時代が来たということは誰でも知っています。その誰でも知っている歴史の流れの中で、苦闘、葛藤、犠牲、喜怒哀楽があったと感じ取れるのが、今年の良さだと思います。

日本中が沸き立ち、暴力で物事を解決していた戦国時代。その国の民から武器を取り上げ、まとめあげることがどれほど困難なことであったか。本作最大の敵として立ちふさがる徳川家康は、それを成し遂げた男です。近世最初の統治者に、中世最後の戦士が一太刀浴びせる、それが本作のクライマックスとなるのでしょう。軽かろうと、コメディタッチだろうと、歴史の流れる音が聞こえるのですから、本作はやはり「大河」ドラマです。

第22回「裁定」 そして名胡桃城強奪事件が起き、小田原征伐が決定した

こんばんは。今週は沼田をめぐる裁判劇からスタートします。それにあわせて、北条方はこんなアピールをしました。

「真田丸」山西惇『名胡桃城は北条のもの!』 | ニュースウォーカー
http://news.walkerplus.com/article/79424/

さて、沼田裁定はどのように裁かれるのでしょうか。

「交渉のテーブルにつく」という言い回しがありますが、まさにそれを視覚的に体現しています。

この場面で思い出していただきたいのが、ちょうど十回前の「人質」です。あの話でも利害が対立した二者が、交渉していました。

◆第十二回での交渉
対立勢力代表者:北浜代表者、南浜代表者
証人:神官
裁定者:神
手段:鉄火起請

◆第二十二回での交渉
対立勢力代表者:板部岡江雪斎(北条方)、真田信繁(真田方)
証人:本多正信(徳川方)
裁定者:豊臣秀吉
手段:話し合い

真田丸沼田裁定テーブル

こうまとめてみると、人類の叡智が進化する過程を見ているようです。後者の裁定も現代人から見ると不備はあるのですが、それでも「鉄火起請」を見ていて感じた「こんなの無理!」「意味がわからないよ!」という戸惑いはかなり緩和されています。これが中世と近世・近代の差ではないでしょうか。

「話し合いで領土を決めるなんて戦国時代じゃない!」「戦国ドラマなら合戦をやれ!」という批判もありますが、まったく的外れだと思います。本作は戦国という武力闘争で解決した時代の終焉を描いているのです。

ただ、この裁定も必ずしも正しいとは言い切れません。裁定の場のインテリアは、先週指摘した通り無茶苦茶で悪趣味です。秀吉の頭の中の状態を暗示しているのかもしれません。

そもそもこの秀吉は、先々週の落書事件(レビューはコチラ)で極めて感情的恣意的に裁定をくだしかねない、危険な人物であると示されています。四百年前ではこれが最善の限界です。

 

そもそも沼田は誰の地で、なぜ大事なの?

かくして沼田裁定が始まります。北条(板部岡江雪斎)と真田(信繁)は双方言い分を語り出します。

論点その一「そもそも沼田は誰の領地か?」

ここで片桐且元渾身のパワーポイントスライド(の、ようなもの)が登場。張り切って解説する且元ですが、「長い」と秀吉にぶった切られます。

これはたどっていくと、上杉領になります。

論点その二「なぜ沼田は大事か?」

且元またもプレゼンを行いますが、要するに天然の要害にあるということです(沼田がいかに重要か?の解説記事がコチラにございます→後で読む)。

論点その一に戻り、北条方が真田よりこちらが古いと言い出すと、真田はそれならば上杉帰属になる、織田勢から誰が取り戻したかが争点だと言い出します。織田を追い払ったのは北条だと主張する相手に対し、真田は沼田を取ったのはこちらだと言います。

しかし、思い返してみれば滝川一益を裏切った騙し討ちでした(第七回)。そこを北条に突かれ、信繁は「ええそうですよ。だまし取り! かすめ取り! 勝ち取りました!」と開き直ります。この時点で私の心は北条支持に傾きます。しばし休廷。

隠れていた真田昌幸は信繁に対し「いいぞ、その調子だ!」と励ましますが、私の心情的にはあの昌幸のかすめ取った時のドヤ顔を思い出しましてねえ。やはり北条に肩入れしてしまうんですけどね。気になるのはここまで沈黙を貫いている徳川方(本多正信)の動向です。

そこへきりが、秀次への差し入れにもって来ます。信繁にもミニサイズおにぎりを持参するきり。さらに秀次に「北条に沼田を取られたくないな〜、とってもいいお城なんですよ〜」とアピール。最近のきりちゃん、すっかり有能じゃないか。

休憩を挟み、石田三成が徳川の証言を求めます。

北条は、徳川が和睦の歳に沼田を引き渡すと約束したはずだと言い張ります。真田は、同じ年に真田も徳川と約定をかわしており、沼田は真田のものだとしたのだと主張。家康がめんどくさそうに両方へ良い顔をしたことがこんなところで響いてくるとは。

ここで秀吉は、我が子を抱いて退出。残された秀次に裁定がゆだねられます。

北条は、大名同士の約束である北条・徳川間の方が、真田と徳川の間の主従関係であるもの、いわば親子間の約束より重要であると主張。北条は約定の重さを持ち出し、真田は約束の順序が大事だと言い張ります。

その途端、北条方の板部岡江雪斎はなんとも嫌らしい勝利を得たかのような表情を浮かべて、「真田は徳川と約束があるにも関わらず理屈をないがしろにした、そんな二枚舌の男だと誹謗するつもりか」と真田に返す刀で詰め寄ります。

真田丸板部岡江雪斎霜月けい

ここで徳川が口を開きます。

徳川は沼田を譲っていない、奪い返すなら好きにせよと許可を出したまで、起請文にも「手柄次第」とあるはずだと言います。これで真田有利に動きます。北条は抗弁しますが、苦しくなっております。

裁定を任されていた秀次は続けて

「譲り渡すにせよ、奪い返すにせよ、こうなると真田の元だと暗に認めているのでは? 北条のものならば“取り返す”だろう?」

と真田有利の意見を出します。おおっ、どこか無能扱いされがちな秀次、ものすごく賢いですぞ。本人もやたらと謙虚なだけで、実はなかなかきれる人物なんですね。

 

昌幸を前に三成が怒声「沼田が火種となるのだ!」

信繁はほっとして隠れた父に報告に行きます。するとそこへ三成が入ってきます。三成はとっくに昌幸のかくれんぼをお見通しでした。

三成は彼の計画が台無しになったと言います。

「これでは困る、北条を上洛させ戦を何としても回避したい、真田のために裁定はするものの、北条沼田は譲るつもりだったのに」

自分の計画を語り、ここは折れて欲しいと頼みます。日本を巻き込んだ大いくさになったらどうするかと詰め寄る三成を昌幸は笑い飛ばすのですが、「沼田が火種となるのだ!」とすごみ頭を下げる三成を見て信繁の気が変わります。

真田丸石田三成

ここは沼田を引き渡しましょうと言う信繁。昌幸は悔しそうな表情をしながら、引き渡す条件として沼田のはずれにある「名胡桃」が欲しいと言い出します。その理由は「真田一族代々の墓がある」というものですが、これが真っ赤な嘘です。

本当は沼田を見下ろす場所に名胡桃があるという、嫌がらせ兼軍事的理由でした。この嫌がらせが、北条を地獄に突き落とすことになるのですが……本当にろくなことしませんね、昌幸は。

真田丸真田昌幸霜月けい

そしてここで先ほどの秀次の名裁きを思い出します。あの裁定そのものは聡明ですが、彼よりもっと聡明で進歩的な三成のプランをぶちこわしにするものだったのですね。秀次はそのあたりわからないということで、やはりちょっと残念な人物ということに。

かくして沼田裁定は決着しました。

信幸、東国一のコワモテ父ちゃん忠勝に向かって叫ぶ

関東に戻った江雪斎は北条氏政に上洛をすすめるのですが、氏政は聞きません。さらには城の受け渡しに大軍を動員し、裁定への不服を示そうとします。

これを受け秀吉は戦を仕掛けようとしますが、三成が何とかとどめ、氏政にさらに上洛を勧めようと提案します。

沼田城の矢沢頼綱(72)は、信幸からの城引き渡し勧告を聞き入れません。そもそもこの人が北条との使者を殺し、北条勢から根性で城を守り抜いたからゆえの(第十回)、このこじれなんですよね。沼田を戦国の火薬庫バルカン半島にしたのは、この人の奮闘のせいと言えなくもありません。

城の柱に己を縛り付けて暴れる頼綱に、信幸は「見た目以上に頑丈だぞ、多少乱暴に扱っても死にはせん!」となかなかひどいことを言いながら、頼綱を強制連行します。

霜月けい真田丸真田信幸

そしてこのあと、名胡桃城奪還事件が!

北条家臣の猪俣邦憲が名胡桃城を奪回し、真田家臣で城代の鈴木主水が責任をとって自害してしまったのでした。いきり立つ家臣を前にためらう信幸。そこへなんと舅・本多忠勝がドスドスとやって来ます。

「何をとまどっておる! 城を奪い返すのじゃ! この本多忠勝に先陣を任せろ!」

「帰って! ここは真田の軍議だろ、あんたは徳川の家臣なんだから帰って!」

そう強気で言う婿を忠勝は気に入ったらしく、ワハハハと笑いながら去って行きます。

真田丸本多忠勝霜月けい

信幸は五日かかる上田京都間の道を佐助に疾走させ、四日で京に知らせを届けるよう指示を出します。それにしても忠勝は一体いつまで娘の元にいるつもりなのでしょうか。

 

小田原城があれば! 小田原城があれば、クックック

京の真田屋敷で凶報を聞いた昌幸は激怒。城代の鈴木主水の死を悼み「こんなことなら名胡桃をさっさと渡しておけばよかった」と悔やみます。昌幸はその決断を、二日で上田へ届けよと指示(やめて、佐助が過労死しちゃう!)。しかし信繁は秀吉の判断をあおぐべきだと意見します(よかった佐助死なないで済む!)。

昌幸に状況を聞いた秀吉は、北条攻めの口実ができたとほくそ笑みます。三成はなおも上洛するように促すべきだと提案します。はたして北条の決断は?

昌幸と出浦昌相は酒を飲みながら「いちいち領土問題に秀吉の決裁がいるなんてかったりぃ、あのサルめ」と愚痴ります。昌相は「聚楽第の東が手薄だ、攻め込めるぞ」と調査結果を報告。どこまで本気かわかりませんが、この人たちは、謀略と愚痴をつまみに酒を飲む連中なのでしょう。

真田丸出浦昌相霜月けい

一方北条氏政は、秀吉がいちいち口を挟んでいることに激怒。これは秀吉の思うつぼですから、江雪斎は諫めます。しかし氏政にはまったく聞く様子はありません。

秀吉は利休の茶室で、これぞ討伐の口実ができたと喜びます。こんな黒い利休はなかなかおりませんな。

北条征伐を決めた秀吉を、三成と信繁は何とか止めようとしますがまったく聞く耳を持ちません。秀吉の圧倒的な力を示す北条征伐が始まります。三成はうつろな目で「戦が始まるといつこもうだ、暴れ牛のようなもので誰も止めることはできぬ」、とつぶやきます。

氏政はまだ勝てると信じています。氏直はうろたえますが、氏政は違います。秀吉が攻めて来るならば、小田原城と奥羽の伊達との盟約を頼りにする、サラに徳川だけでも味方するはずだと言います。

氏政から駿府に派遣された江雪斎ですが、家康が相手をするはずもなく、追い返されてしまうのでした。焦燥する中、時だけが過ぎてゆきます。家康は「しまいじゃな、北条は」とつぶやくのでした。

関東の名門北条家は、滅亡へと向かってゆきます。

クククッ

クククッ

 

今週のMVP:板部岡江雪斎

彼がここまで目立つドラマの作りそのものが素晴らしいのですが、その与えられた中で最大限の活躍をしていたと思います。裁定の場面では秀次の言葉から取り乱していたものの、巨大な壁となってぴしりと主人公を封じる弁舌は見事でした。それと対称的に、氏政にははっきりと厳しく諫言できない辛さ、哀しさ。有能さから悲哀まで、彼の様々な表情が今週最も光っていました。

 

総評

『リーガルハイ』だの、『逆転裁判』だの。まさに三谷節が炸裂した沼田裁定でした。今週の裁定の仕立ては好みが分かれるところかとは思うのですが、前述の通り「鉄火起請」(第十二回)と比較してみると、どれだけ時代が進んだかはっかりとわかると思います。こんなかたちでの裁定があったかどうかはさておき、世の中のルールは変わってゆくという表現の範疇かもしれません。

これを三谷氏らの単なる悪ふざけ・悪ノリとだけに見なすことは難しいと思います。

沼田裁定はややこしく、さらに名胡桃の件では真田がかなり意地の悪いことをしているからです。沼田は本来誰の城であるか、どうして大事か、そういったことを物語に組み込むには、こうした手段が適していると思います。劇中では秀吉にくどいだの長いだの言われてすぐ引っ込めた片桐且元のプレゼン資料は、視聴者にとってはわかりやすいものでした。

そして何よりも、議論の説得力。一昨年は、主人公がまったく納得のいかないきれい事を、唾を激しく飛ばしながら大仰に語ると、「サスガカンベージャ」と誰かが言い出して丸くおさめる。そんなパターンの繰り返しでげんなりしました。今年は双方言い分の筋が通っていますので、見ていてあまりストレスを感じません。

沼田裁定も面白かったのですが、今週は信幸の成長が見られた回でした。ゲームのルールが変わったとわかっている彼は、名胡桃を奪われても中央に確認する冷静さと慎重さがあります。これには舅もにっこりです。

新しいゲームのルールを理解し、従おうとする真田兄弟。彼らは父を諫め、判断を下し、物事を悪い方向に行かないよう注意を払っています。対称的なのは北条氏直で、彼の表情からははっきりと戸惑いが見て取れます。しかし、父に言い返すことはできず、ずるずると滅亡へと引き込まれてしまいます。

賛否両論はある描写でしょう。しかし、北条攻め前夜を秀吉天下統一へのステップとしてだけではなく、ゲームのルールが変わったと視聴者に見せ付け、意識させる作りはなかなかできないと思います。本作は毎回、歴史劇のハードルを上げているかのようです。劇中でもルールの変化を描いていますが、本作は大河や時代劇のルールを変えてしまう、そんな力を感じてしまいます。間違いなく本作は、大河のターニングポイントとなる作品でしょう。再来年大河の題材発表がそろそろあってもおかしくはありませんが、今後NHKは自らあげたハードルを飛び越えるべく、苦労することでしょう。それは見る側にとっては、大変ありがたいことではあります。

第23回「攻略」 堅城とプライドにすがり、落つる哀れはブーメラン

こんばんは。本作の勢いが止まりません。

◆これは家康もプンスカしそう! 「真田丸」直江役・村上新悟の直江状朗読動画が公開 – ねとらぼ
http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1606/10/news139.html

◆県内「真田丸」効果は200億円 日銀松本支店が試算 | 信濃毎日新聞[信毎web] http://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20160607/KT160606FTI090005000.php

こうなると「うちも大河招致しよう!」と思う自治体も多いとは思いますが……昨年のことを考えますとリスクがないわけではありません。当然ながら捕らぬ狸の皮算用になる年もあるわけで。

「大河を誘致しよう!」ではなく「大河を誘致しよう。そして主役にしても無理のない人物で、歴史考証にも協力して、変な大河にならないようにしよう!」くらいの意気込みをもって誘致するのでなければ危険ということですね。

もっともその要望や熱意をNHKがくみ取るとは限りませんけれども。

 

小田原攻めの総大将は家康ではなく豊臣秀次

さて今週。いよいよ北条攻めが始まります。

その前に陣立てが発表されます。名目上の総大将は豊臣秀次。ここでの真田昌幸ですが、徳川の与力大名でありながら変則的に上杉・前田家の別道東山道組に配置されます。これに家康は苦い顔ですが、昌幸は露骨なまでに大喜びします。

ニヤニヤと笑いながら「いやあ残念でござったなあ〜、徳川殿の元で戦いたかったんですけどねえ〜」と家康本人を煽る昌幸。本当にこの人は大人げないな。こんなに根性悪い主人公父って、今更ながらZA・N・SHI・N・・・斬新!

一方、信繁を伴い大坂に来ておきながら、無断帰国した上杉景勝(第十六回)はばつが悪いのでしょう。信繁を避けるようにそそくさと立ち去ろうとします。そこで信繁が彼を呼び止め「ぼくはそれでも御館様が好きです!(意訳)」と言うと、景勝の顔に灯がともるように明るくなります。久々に登場した景勝はやはり癒やし要員になりそうです。

昌幸にダマされるのか?

昌幸にダマされるのか?

信繁は石田三成に、昌幸を徳川配下に入れなかった真意を聞きます。三成は、徳川をまだ信じきれないとのこと。この家康への不信感がのちの伏線になるのでしょうか。徳川が離反したとして、真田まで連れて行かれたら困るからゆえの措置だそうです。そしてまだ、三成はこの戦をすることに賛成ではない、とのこと。それでも与えられた仕事はこなすのが三成です。

 

黄母衣着用で陣内を駆けずり回る

小田原城の包囲は、コーエーグラフィックであっという間に説明されます。本当にこのマップは便利なので、もういっそ毎年採用して欲しいくらいです。今週の見所は、北条攻めという大きな戦でありながら、省エネ、もとい予算をうまく節約。コーエーマップ、グリーンバックのスタジオ撮影にVFXで小田原の遠景を合成し、奥行きを出しています。スタジオ撮影部分の照明や小道具がちょっと貧弱な見た目になりがちですが、VFX合成でかなり奥行きが出ています。

さて、小田原での信繁の役目は、本来の馬廻りらしく黄母衣を背負い、戦場を往来し伝言を様々な相手に伝えること。怠惰な上司である平野長泰は、ここぞとばかりに膝が痛いと言い、役目を避けるのでした。この役目の振り方は巧妙です。馬廻りなら戦場を往来しても不自然ではなく、主人公を追えば各人の動向を追うことができるのです。

霜月けい真田丸真田信繁

秀次は景色を眺めながら、もう一ヶ月早ければ桜が満開で綺麗だったろうに、と風流なことを言います。彼は北条攻めでは戦果をあげているのですが、今回クローズアップされるのは「うまくいったところ」ではなく「うまくいかないところ」なので、残念ながらそこは描かれません。

それにしても秀次は、台詞をひとつ言うごとに憎めない愛嬌、そしてそんな好青年に待ち受ける運命への痛ましい気持ちが増してゆきます。

家康は信繁を「連れション」に誘います。小用を足しながら、家康は信繁に本音を語りだします。北条氏直に娘を嫁がせているから信頼されないのだろうか、でも離縁させるのだから心配無用と伝えてくれ、と信繁に言います。

 

連れションの合間に「徳川は江戸にお引越しね」

秀吉は諸将を集め、今回の戦の意図を語ります。圧倒的な軍勢で北条を攻め、その威容を見せ付けることで、まだ従っていない陸奥・出羽の大名の臣従を促すということ。そのためには敢えて長期戦にするわけです。

秀吉は家康を「関東の連れ小便」に誘います。僅か十分の間に二度の連れション! そして羽がついているようなファンタジックな秀吉の陣羽織の異様さ!(衣装担当がふざけているわけではなく史実準拠です。公式サイトに解説あり)。

真田丸豊臣秀吉

この小用を足しながらの会話で、秀吉は北条領関八州を家康に与え、駿河・三河を召し上げると通告。短く一方的な会話で、日本の歴史と運命も変わります。江戸を本拠とした家康が天下を統一し幕府を開いたからこそ、現在日本の首都はかつての江戸、今の東京であるわけです。

この場面は大河ではよく取り上げられますが、今回はこの前に家康が既に用を足していたこと、そのせいもあってかおどおどとしていることが特徴的だと思います。本作の家康はまだ成長途上で、秀吉と比べるとどこか小物臭いのです。この男がどこまで大きくなり、壁としてたちふさがるか。それも本作の見所です。

 

伊達政宗の援軍にすがるだけしか道はナシ

圧倒的大軍に包囲された北条氏政は、打って出るという息子・氏直の策を却下し、籠城戦を選びます。まだまだ皆が秀吉に服従していないのだから、伊達政宗の援軍を頼りにし、その時点で打って出ると指示を出す氏政。しかし、氏直も江板部岡江雪斎も納得しません。

秀吉は、長期戦にそなえて茶々を呼び出します。留守を守ることとなった北政所は、秀長ら周囲の心配をよそにどこかさっぱりした顔をしています。以前描かれた彼女の本心を考慮しますと、あの恐ろしい夫の横で戦を見守らなくて済むことが嬉しくてもおかしくないと思います。このさっぱりとした北政所の表情と、あとで出てくる茶々のそれとの比較はなかなか興味深いものがあります。

東山道組は忍城攻略へと向かって進軍。どうにも昌幸は、秀吉のために戦うことがひっかかっており(そのためこの場では呼び捨て!)、景勝は大義がない戦だと苦い顔をしております。景勝は内心、義のために戦い滅びる氏政に同情を感じているようにも思えます。昌幸は上杉主従に向かって、忍城は小さいから自分に任せて欲しいと提案し、さらにその指揮権を信幸にゆだねるのでした。

このとき、廊下で出浦昌相と佐助が信幸を呼び止め、秘策を持ちかけます。北条と手を結べば、秀吉を倒せると提案する昌相。何を考えているのだ?とあきれる信幸は、昌相の策を一蹴。佐助は信繁の元へと派遣することとし、昌相から引き離します。

それにしても、「乱世でしか生きられぬ男もいる」とつぶやく昌相の痛々しさ。あのクールで格好よい昌相が、空気と時代の変化を読めないただの暴力装置のようになってしまうとは。彼は何も変わっていません。ゲームのルールが、変わってしまったのです。

真田丸出浦昌相霜月けい

 

風呂にも入れないほど秀吉に怯える、悲惨な北条家TOP

北条方は、実りのない軍備を繰り返しています。そんな中、氏政は蹴鞠を楽しみ、薄化粧すらしています。その父の行動が、氏直には奇行にしか映りません。しかし江雪斎は主君の胸の内を知っていました。

蹴鞠に興じるのは、家臣に動揺していないふりをするため。薄化粧は顔色の悪さを隠すため。部屋に焚かれた香は体臭をごまかすため。氏政は入浴中に敵が襲ってくることを恐れ、風呂にすら入れないという悲惨な状態なのでした。負けを先延ばしにできても、勝つことはできないと説く江雪斎に、氏政は「伊達さえ来てくれれば……」と漏らします。

「クックック」と不敵な笑みが特徴的だった高嶋政伸さんの氏政/イラスト霜月けい

秀吉は茶々を傍らに呼び寄せ、出雲の阿国の舞を見て大喜び。茶々はどこか寂しいような、疲れているような、複雑な表情をしています。秀吉が阿国らと踊っている間に、そっと場を抜け出す茶々。彼女は険しい顔で城を眺め、ほっとため息をつきます。その様子を見かけた信繁に、茶々は退屈しているから千利休の元へ案内して欲しいとねだります。

利休はこんな時も、最新ファッションアイテムを取りそろえ、茶々に見せます。今作の利休は黒いだけではなく、俗っぽく胡散臭く、どこかミーハーな商人という顔があります。まさか小田原で品物を売るために、戦を焚きつけたわけじゃあないですよね? 後世の人間は聖人のように思ってしまう利休ですが、当時の人から見たらこのくらい胡散臭かったのかもしれません。

扇を手にして喜ぶ茶々を、信繁はそろそろ戻るべきだとたしなめます。茶々は、ここまで来たからには城の焼け落ちる様も見たいのに、と言います。悪女そのもののような台詞ですが、本心からそう言っているとは思えないのが、本作の茶々です。

 

政宗が白装束で小田原へ 氏政、最後の希望は見事に打ち砕かれ……

そうこうしているうちに1590年も六月に入りました。信幸は忍城を攻めるのですが、この「のぼうの城」は守りが堅く、なかなか落ちません。

三成は、忍城がなかなか落ちないことと、伊達政宗の遅刻に苛立っています。親友である吉継は三成をちょっとからかいながら、なだめようとします。三成はストレスで胃腸がやられたようで厠へと向かいます。三成の子孫の方は、いざという時に腹具合が悪くなることを「三成腹」と呼んでいるそうで、この体質は子孫に遺伝してしまったのだとか。

真田丸石田三成

六月九日、白装束の伊達政宗が参陣。政宗の台詞はなく、出番もごく短いものです。彼の本格的な出番は来週からのようです。政宗の参陣は、氏政最後の希望を打ち砕きました。追い詰められた氏政は、鏡を見ながらおしろいをやつれた頰にはたきつけます。

茶々は暗い目をして、滅びを待つ小田原城を見つめています。城が焼け落ちる様が見たいと口走った彼女の過去のことを考えると、この陣中に彼女を伴うということは極めて残酷に思えてきます。立場が逆転したからこそ、平気というものでもないでしょう。秀吉は茶々を口説き落とす際に二度と血なまぐさいものは見せないと誓っておりました(第十九回の感想はコチラ)。ところが彼はそう言いながら、戦陣に茶々を呼び寄せるわけです。すっかり忘れたのか、わざとなのか。どのみち、最愛のものでもこんな扱いをする秀吉は、どこか異常なところがあると思えてきます。

伊達政宗が従った以上、もはやこれ以上北条を攻める理由もなくなりました。一気に攻めようとする秀吉に、吉継と家康は支城を落とすことで降伏を促す策を提案。さらに吉継は計画練り直しに汗を流し、ストレスをため込んでいる三成に、忍城攻めを任せたらどうかとも提案します。

これが採用され、三成が忍城へ向かうことに。吉継は純粋に親友のためを思ってそうしたのでしょうが、これが三成をさらなるストレスへと追い込みます。

 

北条早雲公以来の家を滅ぼすつもりか!

氏政は降伏するくらいならば、城に火を放ち、腹を切ると言います。江雪斎は何とか降伏の交渉をしようとするのですが、氏政はどうせ処刑され梟首になるだけだと言い張り、降伏を頑として拒みます。

江雪斎は北条早雲公以来の家を滅ぼすつもりか!と強く詰め寄ります。氏政はようやく降伏条件を出すのですが、その中身が「本領安堵」「上杉と同等の扱い」という、かなり条件のゆるいものです。もはや氏政は常識的な判断力すら喪ってしまったのでしょう。

真田丸板部岡江雪斎霜月けい

江雪斎は、当主である氏直の説得を試みます。しかし彼は父に逆らえない、父の降伏条件を秀吉側に伝えろと言うのみ。

案の定、この条件を聞いた秀吉は「アホぬかせ!」と却下、小田原城へ攻め込むと言います。吉継と家康は、氏政を死なせるには惜しいと助命嘆願。おもしろいことに、この時点での三成親友である吉継と、のちに三成と対立する家康は意見が一致しているのですね。本作が興味深いのは、関ヶ原で激突する家康と三成が、性格的立場的にはあわないものの、戦略面での思考においては一致したところを見せているところだと思います。両者とも近世的なセンスをにおわせてもいます。

秀吉は、家康と三成に「北条贔屓なのか」と悪態をつき、戻るまでに片を付けておけと言い残し、茶々と箱根の温泉に向かってしまいます。秀吉の陣中に側室を呼び寄せる、芸人と踊る、温泉に行ってしまうという行動は、彼の突拍子もなく型破りな魅力とすら描かれかねないものです。しかし本作を見ていると、どうにも無神経でいやなものに思えてきます。

 

「陥落宣言」三成 オレより先に、落としちゃいけない

かくして三成はいそいそと忍城に向かい、真田昌幸・信幸父子、上杉景勝・直江兼続主従にお説教タイム。

「いつまで長引かせるつもりだ! おまえらがこうしている間、どれだけ兵粮が無駄になるかわかっているのか!」

と怒鳴る三成。馬鹿じゃないのと言いたげな昌幸。これはないわと目で語る信幸。これはもう駄目なんじゃないのかと表情で雄弁にあらわす兼続。そして「いい加減にしろ!」と言い返す景勝。ああ〜、職場でも時々、こんなギスギスした空気の会議ってありますよね。上司が失敗確実にする計画を出してきた会議って、こうなりますよね。

真田丸直江兼続霜月けい

彼らを別の城に向かわせ、三成は水攻めを用いて短期間で城を落とす宣言。堤を作るのは楽ではないと昌幸は嫌味ったらしく言うのですが、三成は聞く耳を持ちません。信幸、景勝、兼続も表情で「こりゃもう駄目だ」と語ります。そして案の定、堤防がまったく作れず、城攻めは失敗するのでした。

忍城攻めに関しては、三成一人のミスにするのは気の毒で、そもそも水攻めをしろというのは秀吉の指示ではあるのです。ただしそれに固執する三成も、ミスがなかったとは言えないところでしょうね。

一方、信繁は小田原の大谷吉継の陣に呼び出されます。そこにいたのは何と家康です。小田原城に入り込んだ徳川方の使者と合流し、何とか氏政を説得して欲しいとの密命が、吉継と家康から信繁に下されます。

なぜこんな重要な使命を信繁が帯びるのか、単なる主人公補正ではないのか。

その疑念は、彼を迎えた本多正信と江雪斎によって説明されます。先週の裁定の場で見せた弁舌を買われてのことでした。受け狙いかと思われた戦国裁判ですが、翌週こうして伏線として回収してくるのだから、今年は侮れません。

「主人公補正とご都合主義」と「史実としてありえなくもない」の間で今年はバランスを取っています。今年は序盤さんざん主人公が活躍しない、父親の方が目立っていると言われてきたわけで、ここにきて少々ご都合主義的に信繁が動いてもそれはそれで仕方ない範囲ではないかと思います。

ここで、どこからともなくするっと佐助が現れ、信繁の護衛をすると告げ、またするっと闇の中へ消えてゆきます。

江雪斎の案内で氏直に引き合わされた信繁。

氏直は何としても父を説き伏せて欲しいと頼まれます。今週の氏直は、涙がこぼれおちるほどではありませんが、大きな目がうるんでいて、悲運の貴公子といった風情であります。あのキレる若者から随分印象が変わったものです。そして信繁は、氏直が「ま〜〜さ〜〜ゆ〜〜きぃ〜〜〜」と呼んでいた男の息子です。あの頃から立場はこれだけ変わってしまいました。かつての彼なら、信繁など鼻にも引っかけなかったはずです。

氏直の頼みを受け説得に向かう信繁ですが、降伏に不服を持つ北条勢が次から次へと襲って来ます。堺雅人さんの殺陣はなかなか迫力があるのですが、そういえば彼は以前、剣聖として名高い塚原卜伝を演じていたのでした。信繁は佐助の援護、そして突如現れた謎の男によって窮地を逃れます。信繁に親しげに語りかけてきた男は、なんと姉・松の夫にあたる小山田茂誠でした。

 

今週のMVP:北条氏直

今週は皆がんばっております。北条父子、先週に引き続き江雪斎。神出鬼没、役に立つ佐助。家康配下につかないからと実にいやらしい喜びを見せ、三成を小馬鹿にしたような笑みを見せた昌幸。チベットスナギツネ顔で三成の策を聞く直江兼続。信繁相手にばつが悪そうにしていた上杉景勝。複雑な表情で城を眺める茶々。親友をあたたかく見守る大谷吉継。ストレスで胃痛が生じる人間は涙なしには見られない石田三成。

そんな中、序盤(第八回~十回)あたりで見せた傲慢で何かが足りないキレる若者っぷりから、悲劇の貴公子へと変貌を遂げた氏直へ一票。「ま~~さ~~ゆ~~きぃ~~~」と首を傾けながらキレていた頃から想像がつかないような進歩を遂げています。前述の通り、泣くのをこらえるかのように目がいつもうるんでいるのがまたよかったと思います。

先週あたりから、歴史は変えられないとわかっていても、なんとか北条が生き延びて欲しいと何度も思ってしまいました。そう思ってしまうのも、引き込まれる演技をする役者さんあってのものでしょう。

 

総評

今週は変化球ばかりが投げられている印象です。定番の北条攻め描写から、何もかも少しずらしてあるような印象です。

「関東の連れ小便」は、それより先に信繁と家康の連れ小便を入れる。白装束の政宗は瞬時に出番終了。得意の絶頂で浮かれているように見える秀吉と茶々は、それぞれ無神経さと苦悩を混ぜる。利休は徹底して俗物的。そして何より、時勢の読めない愚か者とされがちな北条氏政らを、苦悩する悲劇の一族として、感情移入できるように描いています。

今年は武田勝頼から真田信繁まで、敗者にやさしい作品になるはず。定番描写からずらしながら、そこにおもしろさや個性を入れているのが今年の作品です。

今回、フレームの外では黒田官兵衛が北条の説得を行っています。一昨年の『軍師官兵衛』では第一回アバンタイトルに官兵衛が北条を説得する場面が使われており、かなり重要でした。

「命を無駄にするな」と言いながら、彼自身は矢玉飛び交う中ずんずん歩いて行くという時点で、あの歳は嫌な予感がしたものです。

あの官兵衛はともかく上から目線の恫喝一点張りでしたが、今年の信繁はきめ細やかに北条側の心情に寄り添い、説得し、そして失敗すると信じています。そう、失敗することが大事です。一昨年の官兵衛のように失敗したのに成功したかのように誤魔化すよりはるかに誠実です。そして、はっきりと失敗を描けば、「主人公補正のご都合主義」批判をかわすこともできます。何より失敗することは事実なのですから、そこは信繁の苦い経験として今後生かせばよいのだと思います。

そしてこの北条攻めは、今後の伏線も盛り込まれています。

堅固な城とプライドを頼りに時勢に背くと、滅びてしまうということ。これは本作最終局面において、もう一度繰り返されます。そのとき豊臣の立場は、攻める側から攻められる側へ、勝者から敗者へと逆転しているのです。

第24回「滅亡」 中世氏政と近世政宗の対比が映し出すものは?

こんばんは。今日は父の日です。そしてその日、北条家の「父」が退場します。何と寂しいことでしょうか。

本作の話題性は健在で、今週もよいニュースがあるようです。

村上新悟ってどんな人?「真田丸」直江兼続を演じ”イケメンボイス”と話題に http://www.huffingtonpost.jp/2016/06/11/sanadamaru-reading_n_10421438.html

【真田丸】地元・上田で人気の「黙れ小童」せんべい 次は「信幸どうでしょう」 | ORICON STYLE http://www.oricon.co.jp/news/2073261/full/

真田丸直江兼続霜月けい

 

それでは本編、といきたいところですが、実は先週の内容がなかなか紛糾しているようです。

一体何があったかというと、「信繁が黒田官兵衛の手柄を横取りしている」という批判があった模様。私は「信繁と官兵衛は同じ時空にいて、それぞれ別のタイミングで説得している」と考えていたので、その発想は思いつきませんでした。考証の先生のツイートを見ていると、信繁・官兵衛同時説得で正解のようですが、ちょっとわかりにくかったかもしれません。ちなみに信繁が当時小田原にいたことは、新出史料で確定したとのこと。

そんな事情もあってか、三谷氏が連載コラムでそのあたりの裏話を披露しています。

(三谷幸喜のありふれた生活:805)最新の歴史研究が支えに:朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/articles/DA3S12412223.html

いやぁ、本作って本当に大変ですね。史実にないことをやるなという意見と、真田十勇士を出せという要望が同時に来るそうですよ。これはもう、どうしろと。

要するに官兵衛が豊臣政権正規ルートからの使者で、信繁は家康と吉継がこそっと派遣した裏ルートの使者ということですね。「裏ルート」ですから、歴史の表に出ないわけで、そこは創作の余地があるわけです。

確かにわかりにくいかもしれませんが、信繁が裏ルート、しかも家康や吉継があまり期待していない、あくまで特殊札な扱いで起用されたことは、先週、以下の描写から推察できたとは思います(確かにわかりにくいんですけどね)。

  • 徳川の使者である本多正信が潜入してから、既に三日経過している。つまり万策尽きた結果、信繁を一か八かに引っ張り出した
  • 家康と吉継はあくまで夜、こっそりと信繁を裏口から派遣した
  • 正信が覆面をして、こっそりと信繁を招き入れている

そしてこれが一番大事な点の気がするのですが、

「周囲は真田信繁をできる男として頼ることはあるが、あくまで便利な特殊札扱いである」

ということではないでしょうか。

小大名の次男に過ぎない信繁は、身分的にも不安定で、才知があるからこそ「使い物にはなるけど、それ以上のものではない」扱いです。おそらく彼の才知を最も認めている父・昌幸ですら、後継者として重視しているのは嫡男・信幸であるとわかる場面があります。信繁もそれをわきまえており、兄を積極的に押しのけるような真似はしませんし、意見を誰かに言うときもきちんと断り、礼儀を守って述べます。

信繁が活躍した場面はあります。
例えば聚楽第落首事件(第二十回)において、事件の捜査し、隠蔽しようと動きました。沼田を守る裁定の場にも、父の代理として出席しました(第二十二回)。
しかし、こうした場に彼がいたことで何かが変わったか? 何も変わりません。信繁が右往左往しようが聚楽第落首事件では大量の人が死にましたし、沼田領裁定は真田の顔を立てるために行われたものの、石田三成の一存で決定が覆りました。今回も、信繁が必死で北条を説得しても無駄だということは決まっているわけです。

やたらとウロウロし、大物にも接近遭遇するが、しかし何をしても結果として残らない。なかなか難しいところではあります。

さらに言えば、大坂の陣でいくら徳川家康に冷や汗をかかせたところで、彼は結局のところ宿敵を逃し、大事な人を救えず、妻子を残し討ち死にするわけです。最終回まで彼は歴史をまったく変えることができないのです。主人公補正どころか、もう主人公なのに呪縛がかかっているレベルです。知名度という点ではここ数作で随一でも、何かを成し遂げたという観点で見ると、ここまで不利な主人公はそうはいないでしょう。信繁はそもそも、誰かの手柄(小田原編では官兵衛でしたが)を奪おうにも、ハナからさらえない位置にいるのです。

そんなポジションからの今回本編は、信繁の、氏政説得ミッションからです。ではスタート!

 

化粧直しもできなかった女子社員のような佇まい

先週も出てきた佐助の進化した忍術が登場。これまた「ダサいVFX」と一部で失笑されていたようですが、特殊効果さんが頑張って作り上げた水蒸気爆発で、実写だそうです。信繁は北条家に仕官していたらしい小山田茂誠(しげまさ・信繁の姉・松の夫で第六回から出番なし)に助けられます。この高木渉さんの特徴ある声と、あたたかみのある笑顔が実に懐かしいですね。

茂誠は、松が落ちた崖で丸二日彷徨ったあと、小山田一族に縁の深い北条家に仕官したそうです。信繁は何か含みを持たせながら松の生存を伝えようとするのですが、板部岡江雪斎がやって来て話は中断します。

演じられるのは声優の高木渉さんです

演じられるのは声優の高木渉さんです

それにしても久々に出てきた茂誠を見て感じましたが、彼は人柄はよいものの、あまり有能そうではない雰囲気はありますね。こういう位置があっているのでしょう。豊臣秀次と似たようなタイプかもしれません。誰しも皆野心にギラついていたと思われる戦国時代ですが、こういうほどほどの位置で小さな幸せを追い求める人物がいてもよいわけですし、実際大勢いたでしょう。茂誠は本当によいキャラクターだと思います。

なんとか北条氏政の元までたどり着いた信繁。
氏政は憔悴しきり、脂ぎった肌にメイクが白く浮き上がっており、残業で疲れ切って化粧直しもできなかった女子社員のような佇まいです。

真田丸北条氏政霜月けい

氏政はうつろな目で、信繁を刺客の手にかけようとします。氏政は今までどれだけ真田に振り回されてきた、ぬけぬけとよくここに来たものだと信繁に言います。それはそうでしょう。沼田とか、沼田とか、沼田とか。本作はどれだけ沼田問題で真田が無茶苦茶な行動を取って北条に迷惑をかけてきたか描いているので、それにも納得できます。北条は真田の被害者です。こうした事情を考えると、本当に本多正信、江雪斎は万策尽きていたのだなという気がしますし、本気で信繁の身を案じてもいなかったでしょう。室賀正武のように(第十一回)、失敗して殺されても「真田ナントカが失敗して死んでしまいましたねえ」くらい、正信は言いかねないかもしれません。

信繁は真田家の子息としてではなく、豊臣の使者として来た、徳川家康からの書状だけでも読んで欲しいと抗弁します。氏政は書状を受け取り、信繁には「行け」と退出を促します。信繁は皆、氏政の助命のため奔走していると必死に返答。しかし氏政は、この城がある限り負けない、戦は最後までわからないと言います。

信繁は伊達政宗も豊臣に降った、ほとんどの城は落ちた、真田と因縁のる城も真田が奪回したと城の外の状況を説明し、説得を試みます。引き際をわきまえてはどうかと説得する信繁ですが、氏政はなおも「どうせ秀吉と一戦をまじえるならば、伊達や徳川と組んで日本を分ける戦をやってみたかった。そうして戦国の世に幕を引きたかった」と嘆きます。この台詞ひとつで、氏政の矜持が説明できたと思います。そして氏政はさらに「命なぞ惜しくない」とも。うーん、素晴らしい。これが聞きたかったんです。

一見、氏政が愚かなように思えますが、実のところそうでもありません。攻め手も兵粮が不足していました。豊臣の力は、当時世界最大クラスの兵力を動員できることではありますが、大きな兵力というのは大変管理が難しいのです。兵粮、トイレ、風紀の維持など、人が集まるだけで問題は山積みになります。

コミックマーケットや音楽フェスティバルを想像してみてください。ああしたイベントは戦うわけではなく、ただ平和的に人が集まるだけです。それでも人の列に並ぶだけでも疲れ果て、トイレは大混雑します。人が多く集まるところ、問題は必ず発生するのです。大兵力動員は大きな力でもありますが、同時に危険性も孕んでいます。

説得を終えた信繁は、上機嫌の江雪斎から労われます。信繁はここでやっと、茂誠に最愛の妻・松の生存を伝えます。感極まり泣く茂誠を前に、信繁はちょっと引いています。信繁は茂誠と話している蔵の中で、鉛の塊を見つけ何か気づいたようです。

 

朝食のメニューでも決めるかのように「氏政には死んでもらおうか」

一方、昌幸と信幸は厄介な忍城を三成に預け、鉢形城を落とすと八王子城に向かっています。昌幸の元には、八王子城は上杉に任せて鉢形城に戻るようにと秀吉の指示が届きます。どうやら忍城が苦戦中のようです。昌幸はなかなか落ちない氏政をどこかうらやむような態度を見せます。

氏政は江雪斎に氏直を呼び出させます。そして天正十八年(1590)七月五日、北条氏直が城を出て降伏しました。

真田丸北条氏直

家康は氏政・氏直父子の助命をし、城を明け渡してもらいましょうと秀吉に確認するのですが、秀吉は軽く朝食のメニューでも決めるような口調で言うのです。

「氏政には死んでもらおうか」

家康は色を成し、それでは約束がちがう、命は助けるはずだと反論。しかし秀吉は「さんざん粘ったんだから腹くらい切れ」とそっけない態度。大谷吉継も約束が違うと諫めますが、秀吉は聞き入れません。

七月十日、氏政は髷を落とし秀吉の軍門に降ります。家康は氏政を、よく粘ったと労います。家康は必ず助命すると目をうるませ、氏政の手を握ります。氏政は助命すれば家康に災難が降りかかるとこれを断ります。家康は上杉景勝と昌幸に「案の定死ぬ気だ」と苦い顔で言います。家康は何とか氏政に生きる気力を出してもらうよう、説得しようとします。このとき、三人の顔には氏政を敬愛し敬うような表情が浮かびます。

三人は氏政の説得に向かいます。景勝は八王子城攻め、昌幸は忍城からやってきたそうです。なんとしても氏政には生きてもらいたいと説得する三人。景勝は髻を切ってでも説得すると言います。

この言葉に偽りはないでしょう。氏政は「秀吉のために生きるのですか、それでよろしいのですか」と景勝に問いかけます。昌幸は「死にたければ死になさい。ただ生きていればまだまだ楽しいことがありますぞ。秀吉の天下は長持ちしないんだから。もう一暴れしたいとは思いませんか?」と、ギャンブル依存症らしい説得を試みます。しかし氏政は、昌幸らの活躍をあの世で見物すると言うのでした。景勝は「よき戦相手でござった」と氏政の人生そのものを労います。

真田丸上杉景勝霜月けい

信繁は江雪斎らや直江兼続を前にして「氏政の決意は固い」と自分の意見を言います。兼続は「主人が勝手な約束をしていないか心配で気になる」と実にこの人らしい懸念を口にします。はい、あなたの主君は髻を切る宣言しています。

信繁は正信に、何故ああも家康は氏政を助けようとするのかと訪ねます。正信は「ああ見えてうちの主君は情け深いですからね。長年戦ううちに強敵と書いて“とも”と読むようになってしまったんですねえ」と語ります。そうですね、そこが家康のチャームポイントですね。

そこへ家康たち三人が戻り、そこにいた者たちはもはや氏政は助からないと悟ります。無言でじっと何か言いたげに主君を見つめる兼続。景勝は決まり悪そうに「何も約束しておらん」と言います。嘘つけ。

江雪斎はここで一人、その場を去ると一礼します。この北条の中心は、生き延びまた別の人生を歩むこととなります。

真田丸板部岡江雪斎霜月けい

翌日、氏政は切腹しました。その首は京都に送られ、聚楽第に晒されたそうです。氏政は自分なりの乱世を喰ったとばかりに、汁かけ飯を一気に食べます。印象的ではありますが、切腹の前の食事は切ったところから食べ物が出てくるのでみっともないとタブーになっているとされており、考証担当者はその点を指摘したそうです。

氏直は出家し、高野山に送られました。ここでナレーションは北条滅亡と断言していまいますが、北条は大名復帰運動がありました。氏直がもし長生きしていたらば、運命は違ったことでしょう。また北条家そのものは、河内佐山藩主として存続します。

 

ずんだ餅・政宗に昌幸も家康もガッカリ(´・ω・`)

信繁は北条の蔵から持ち帰った銃弾用の鉛を吉継に差し出します。どうやら千利休が販売したものでした。つまり利休は敵味方の双方に武器を売りさばく「死の商人」であるわけです。痕跡を消し去ろうと右往左往した利休ですが、信繁によってその企みが暴かれました。これで、利休がなぜ秀吉を煽り、北条攻めをけしかけたか、その理由もハッキリしました。

忍城は、小田原城が落ちてもまだ降伏しません。石田三成は何度も破られる堤防に激怒。「水攻めで殺さないようにしているのに、城の連中は空気読めよ!」とキレまくります。信幸は敵は討ち死にする覚悟なのだから攻めた方がよいと言い、昌幸は「俺が卑怯な手を使ってすぐ落としてやるよ」とドヤ顔で進言。氏政の血がついていない兜を出浦昌相によって城内へ持ち込ませ、「おまえらの主は血も流さずに降伏したんだぞ」と知らしめる作戦を用い、二日で落とすそうです。汚い、流石、昌幸汚い。

真田丸真田昌幸霜月けい

昌幸の策は当たり、士気が尽き果てた忍城は降伏します。これには三成も、「昌幸の策は嫌いだが、おかげで無駄な死人は出なかった。戦のノウハウを教えてくれ」とツンツンしながらデレます。

一方、宇都宮仕置に挑む伊達政宗は自領を全て差し出します。昌幸は伊達家臣の片倉と話したいと言い出します。どうやら東国の大名が決起するときは伊達もよろしく頼むと言いたいようですが。懲りないギャンブル狂です。それでも伊達に賭けると言う昌幸ですが、果たして政宗はどんな男でしょうか。

そのとき、政宗は……
「では、始めます!」
片肌脱ぎになった政宗は、片倉小十郎景綱と餅つきを始めてしまいました。

「駄目だこいつ」と凍り付いた顔の昌幸。ノリノリで「豆をついたあんをのせて、名物ずんだ餅のできあがり!」と差し出す政宗……こいつに頼った氏政が哀れです。さらに政宗は餅をつく秀吉に「これぞ天下餅! 殿下つきたいはしゃぎたい! 一気一気!」みたいなかけ声あわせてハッスルします。
政宗、歌舞伎町のホストかよ!

片倉景綱は「うちの殿ってああいうノリ好きで疲れすんですよね」と信幸に話しかけてきます。信幸は「どうしますか?」と昌幸に例の件を尋ねますが、昌幸は「もういいわ」と完全に脱力しています。家康も「もうちょっと気骨あるかと思ってた」とポロリ……。

昌幸は家康に「北条領ゲットおめでとうございます」と言いますが、家康はそのかわり今までの領土を召し上げられたと疲れたように言います。昌幸は江戸の田舎ぶりに困惑する家康に嬉しそうです。しかし家康は、秀吉には「よい土地をありがとうございます」と御礼を言います。まあ、当時は地震が周期的に起こることはわからなかったでしょうしねえ。

真田丸徳川家康霜月けい

 

秀吉は北条を平らげ、時代は破壊から建設へ?

一方、昌幸は小県、沼田を安堵され、さらに徳川の与力から外され、さらには徳川監視役にされます。これには昌幸も喜ぶほかありません。露骨に嬉しそうな顔をする昌幸でした。

信繁は、餅つきパフォーマンスを終えた政宗と接近遭遇。大大名のわりには気さくな政宗は信繁を一緒に話そうぜと誘います。「殿下に気に入られちゃった〜。ずんだ餅もうまくできたしマジいいかんじ〜。俺殿下と似てるし相性よくね?」と軽く語り始めます。

しかしここからちょっと真面目になって、「もし北条が先に降伏していたら俺危なかったよな。俺の人生綱渡りだし」と語り出します。ここで「そうだねえ、小田原に来る前には母親に毒殺されかけたし」とお思いの方。毒殺事件に関しては後世の捏造ですので、ご注意ください(【関連記事】伊達政宗の実母・義姫ってどんな人? 毒殺を企てた鬼母イメージは終了 有能なネゴシエーターでした)。

信繁は「氏政様はあなたを頼りにして待っていましたよ」とちくりと釘を刺しますが、政宗は「し、しらん!」と動揺します。政宗はどうせ戦国に生まれたなら大軍を率いて敵を蹴散らしたいと言いますが、信繁は自分はその器ではないと言います。奥州一の大大名嫡男と、信濃の小大名次男ではそれはそうでしょう。政宗は「もう二十年早く産まれていれば、もうちょっと京都の近くに産まれていれば」とこぼし、刀を抜いて暴れ出します。いや、あなたはよい時代によい場所で産まれたと思いますよ、いろいろな意味で。

政宗は餅をふるまい、愚痴り、暴れ、「真田の小倅、またどこかで会おう」と言い残し去ってゆきます。

ちなみに北条に勝利したものの、奥羽はまだまだ一揆で不安定な状況が続きます。政宗は領土が安堵された一方、伊達配下でありながら参陣できなかった大名家は、政宗正室実家の田村家などを含め、軒並み改易の憂き目にあっています。

秀吉は北条を平らげ、これで天下の覇者と宣言。時代は破壊から建設へ移ります。

関ヶ原まであと十年です。

真田丸豊臣秀吉

 

今週のMVP北条氏政、次点伊達政宗

総評:MVPの理由が総評に重なります。今週は中世を擬人化したような北条氏政と、近世の申し子のような伊達政宗が光っていました。氏政の死と北条滅亡で区切らず、敢えてコミックリリーフのような政宗を出して餅つきをさせたことに意味があると思います。

氏政の死は時代を読めぬ頑迷な男としてのものではなく、戦い抜いた敵からもどこか賞賛の目で見られる、「美しい死」でありました。氏政を見る昌幸や景勝の目に熱っぽいものがあったのは、日本を分ける大いくさに敢えて挑もうとしたその魂への崇敬の念があったからでしょう。昌幸と景勝は、のちに日本を分ける関ヶ原の大いくさで、乾坤一擲の勝負を挑む石田三成に味方することとなります。

愚かでありながら美しく、そして崇高であった氏政の死に対し、軽いノリで生きることを掴みとった政宗は、コミカルで見ようによっては無様なものでした。昌幸の嫌悪感すらこもった目は、生を選び大博打を投げ捨てた男への軽蔑の念に他なりません。政宗は関ヶ原では東軍につきますが、どこか消化不良でぐずぐずとした動きを見せることになります。

本人はもう二十年早く産まれたらと嘆いていますが、史実を考慮しても、また本作の描写でも、二十年遅かったからこそ名を残したように思えます。彼は実のところ信幸と同じ、もう一暴れしたいと嘆きつつも近世への適性を持った人物なのでしょう。一方で信繁は、穏やかで三成や吉継の抱く近世思考に近い考え方でありながら、その体内に流れる血は父親ゆずりの中世への適性があふれているのです。

本作で繰り返し描かれて来た、中世と近世の対立が今回に集約されてきました。おもしろいのは、本作では従来とは逆で中世人の生き方こそ、滅びゆく美しさがあると理想化されていることです。

最終盤、氏政と政宗ではなく、今度は信繁と政宗の対比として、私たちは擬人化された中世と近世の対峙を見ることになるのでしょう。

第25回「別離」 ギラついた江戸と信州の野獣が鶴松の死をほくそ笑む

こんばんは。私も見てきた「真田丸展」が大盛況だったとのこと。よいニュースですね。

江戸東京博物館「真田丸展」盛況閉幕 6年ぶり来場者10万人突破 ― スポニチ Sponichi Annex 芸能 http://www.sponichi.co.jp/entertainment/news/2016/06/20/kiji/K20160620012817700.html

視聴率も高めで安定しており、周回遅れで「きりバッシング」をしているニュースがチラホラあるほかは、だいたいが好評のようです。余計なバッシングが少ないのはよいことです。

そういえば先週の伊達政宗ですが、『独眼竜政宗』と比較してしまうのは仕方ないにせよ、今回はこれでよいと思います。先週も書いた通り、あれはあれで意味がありました。主役は真田なのですし、ああいうコメディリリーフでも個人的にはありだと思います。

では、今回も本編へ行ってみましょー!

 

悪事に手を染めてもひるまない大谷吉継の精神力

天正十九年(1591)、秀吉の愛児・鶴松は死に瀕していました。巷では千利休の祟りとされているとか。

これより数ヶ月前、千利休は秀吉に切腹を申しつけられていました。

発端は自業自得と申しましょうか、北条攻めで敵味方問わずに物資を売買していた利休。石田三成と大谷吉継はこれを警戒し、秀吉の実弟・秀長に報告します。

しかし利休の息の根を止めることになるのは、もっと別の理由でした。秀吉が参拝する大徳寺に置かれた巨大な利休の像。その寺に参拝をするということは、利休の足下を通ることになるわけです。これが秀吉の逆鱗に触れ、利休は切腹となります。

この像について讒言したのは、三成と吉継でした。北条攻めでの商売よりも無理矢理こじつけたように思え、なかなか悪どいものがあります。この出来事を祟りとして蒸し返されて暗い顔をする三成に対し、「祟りならまず俺のところに来るだろう。だが何ともない」と吉継は言います。今のところはそう見えますが、病魔は静かに彼の体を蝕んでいることでしょう。

大谷吉継はなかなか面白い人物になってきましたね。

義の将というイメージが強い彼ですが、義だけでここまで引き立てられることはないわけです。多面性が彼の像に深みを持たせています。また吉継は悪事に手を染めてもまったくひるむ要素もなければ、後ろめたさを覚える様子もないのです。高潔そのもののさわやかな容貌と態度で悪事もいとわない彼からは強い精神力を感じます。

 

信幸は稲相手に苦労を強いられ、松は夫と共に記憶も取り戻す

死を目の前にした利休は、信繁に金と権力を濫用して足下をすくわれた、だからこそ茶で己のバランスを取っていたと告げられます。利休のたてた、業で苦い茶を飲み干す信繁。権力を濫用するのは彼だけではありません。

昌幸と薫夫妻は、公家のツテを使って明渡来の高い薬を見舞いに献上します。なんとそれを片桐且元が自ら薬を作るとか。この人、張り切るとあんまりいいことないんだよなあ。

一方で沼田城の信幸は、相変わらず戦闘気質な大叔父・矢沢頼綱のわがままに手を焼き一人コントを演じてみたり、ツンツンする一方で一向にデレない妻・稲相手にそっけなくされたり、なかなか多難な様子。そんな彼の心を癒すのは、なんと元妻のこうなのでした。

上田城では、小山田茂誠(しげまさ)・松夫妻が病床の祖母・とりと再会。松は夫と再会したことで記憶を全て取り戻したそうです。とりは確か茂誠のことを「死んでますね」とそっけなく言っていたと思うのですが(第三回)、やはり再会は嬉しいようです。

茂誠はこれから岩櫃城主になるそうです。彼も出世しましたねえ。裏切り者一族という経歴もなんとかロンダリングされたようで。この二人が幸せそうだとこちらもうれしくなります。名物カップル復活おめでとう!!

真田丸松霜月けい

演じられるのは声優の高木渉さんです

仲睦まじ過ぎるこの夫婦はオアシスかもしれません

 

利休の死にも関わっていたデスブロガー茶々

上田から一転、淀城では暗い空気に包まれています。

信繁は鶴松にもしものことがあれば、侍医すら害されかねないと北政所に懸念を語ります。北政所は夫に悪行がたたったのだときつく言っておくと返します。

ここで大蔵卿局が、利休の死に茶々が関与していたと語り出します。父のように利休を慕っていた茶々は、利休の像を欲しがります。ところができたものが予想以上に大きくなったため、茶々は利休が寄進した大徳寺に預からせればよいのでは、と提案していたのでした。

きりは「私、お茶々様が怖い。デスブロガーみたい」と不安を告げます。悪気はないと庇う信繁ですが、そこがかえって怖い、ときり。

薫と片桐且元は明渡来の薬を煎じますが、なんとここで且元が肝心の「煮汁」の方を流してしまいます。残されたわずか一本の薬草で何とかしようとする二人なのですが……。

鶴松の死後の段取りを三成と吉継が話し合っていると、領地から駆けつけてきた加藤清正福島正則が「願掛け水垢離(みずごり)をする」と三成を誘います。あっさりと断る三成に「誘った俺が馬鹿だった」と吐き捨てる清正でした。

 

マッチョ三成が肉体美披露のファンサービス

そのころ、徳川家康と本多正信は、夜を徹して働く者たちに大量のケータリングを差し入れ。こういうさりげなさに、家康の「人たらし」の部分があると思います。秀吉のようなパフォーマンスとしてではなく、そのぶん人を思いやったさりげない行動ができるんですよね。

清正と正則が水垢離をしていると、三成が無言で登場。来るやいなやマッチョな肉体美をさらし、頭から水をかぶります。今日のファンサービスですね。この日のためにビルドアップしたという肉体美を皆さんご覧ください。

真田丸石田三成

三成は秀次と二人の弟、豊臣秀俊(のちの小早川秀秋)、宇喜多秀家らを一室に集め、これからもともに豊臣家の反映に尽くして欲しいと頼みます。この部屋に集まった人たちの大半は三十過ぎまで生きられないとは……。

一方、昌幸と家康は鶴松死後に乱れるであろう天下の行方を思い、ほくそ笑みます。このときの二人の顔はまさに餓狼の面構えです。幼い子の死という悲劇を前にしてほくそ笑む。こういうのがまさに、戦国の将です。槍を構えて鉄砲を撃つことよりも、この悪い顔がまさしく乱世です。

真田丸真田昌幸霜月けい

真田丸徳川家康霜月けい

昌幸と家康に「ひ弱すぎる」と評されていた秀次は、ますますのしかかるプレッシャーを感じています。あの二人と比べると彼は繊細で善良な好青年そのもので、だからこそ好感も持てますし、不安にもなるんだなあと哀しくなってきました。秀次はきりに側室にならないかと持ちかけますが、きりは言葉を濁してしまいます。

それにしても、この場面のきりの美しさときたら。そりゃ秀次も惚れるだろうと納得しました。そりゃそうですよ、だって長澤まさみさんですからね。むしろその美貌を残念にすら見せていた前半の演技力に驚きました。

 

息子・鶴松の容体が悪化 「何のために生まれてきたのか」

製法を誤って大量の煮汁を捨ててしまい、残ったわずか一本の薬草でどうにか作った薬を薫と且元が差し出すと、すかさず昌幸がパクっと味見! これで貴重な薬は全て無駄になりました。これは且元のせいだ!

昌幸は廊下で家康とすれ違い「治るといいですよね〜」「本当に心配ですよね〜」と心にもないことを言い合います。いいぞ、このしらじらしさ!

そしてその晩、鶴松の容態が悪化。

ふらりと一人でどこかへ向かう秀吉を追い、信繁はその嘆きを聞きます。一体何のために我が子は生まれてきたのかと悲しむ秀吉に、信繁はよいことを考えましょうと告げます。小日向さんの演技は父の悲哀を表現できてはいます。しかし同時にこうも思えてきてしまいます。あなたは我が子の死を悼む何分かの一でも、自分の手によって殺めた者たちもそうはできないのか、と。

戦で出会う敵ならばまだわかります。政敵も仕方ないでしょう。しかし秀吉は八つ当たりのように、誰かにとっての愛児にあたる幼子すら殺すような男です。そしてその嗜好は今後も変わりません。

天正十九年八月五日未明、鶴松は二年二ヶ月という短い一生を終えました。

秀吉は愛児の枕元でんでん太鼓を鳴らし続けます。魂が抜けたような淀は、ふらふらと廊下に出ます。信繁は我が子の側にいなくてよいのかと声を掛けるのですが、茶々は「死んでしまった者のそばにいても仕方ないでしょう」とつぶやきます。そんな茶々に廊下で出会った北政所は、何も言わず強く茶々を抱きしめます。ここで茶々の涙が堰を切ったようにあふれだすのでした。

失われた小さな命。しかしこれも、豊臣の悲劇全体からみると序章なのでした。

真田丸豊臣秀吉

 

今週のMVP:千利休

自分でも何故死ぬのかわかっているようで、わかっていないような、不思議な感覚がありました。

今年の利休は悟りやわびさびを感じさせない、むしろ金の力で得た権力によって転落するキャラクター。そんな彼がむしろ死に直面したからこそ何か憑き物が落ちたように見えたのは、己の溺れていたものの正体を悟ったからでしょう。

そしてその目には、権力に溺れた豊臣政権も盤石ではないと見えていたのかもしれません。

総評

矢玉が飛ばず、誰も刀槍を構えなくても「戦国」の臭いがむっとたちこめていました。

上田の信幸パートや薫と且元の薬パートで箸休め、悲嘆にくれる秀吉と茶々で人間ドラマを見せながらも、最もいきいきとしていたのは鶴松の死にほくそ笑む昌幸と家康。

ここまで見てきて、この二人ならばそうしてもまったくおかしくないと視聴者はわかっていると思います。ところがこれをこう表現するのはなかなか難しいのではないかと感じました。

彼らは二歳児の死を予想し、喜んでいるわけです。むろんただの二歳児ではありませんが、苦しそうな子供とその枕元で悲しむ親のすぐ横で、それを喜ぶ連中がいる――なかなかえげつない話です。ちょっと臆病なドラマ制作者なら、不謹慎と思われそうだからアッサリと扱うのではないでしょうか。

そしてこの場面の二人のギラついた顔。まさに獲物に飢えた野獣です。

以前、野生の雄熊が幼い熊を殺し、食べる場面を動画で見ました。あの時に感じたものを今回思い出しました。愛くるしい鶴松も、頼りない好青年の秀次とその親族たちも、昌幸や家康にとっては「獲物」です。豊臣政権は野獣を手なずけようとし、失敗します。悲劇はまだまだこれからなのです。

続きは次ページへ

 

次のページへ >



-真田丸レビュー
-

Copyright© BUSHOO!JAPAN(武将ジャパン) , 2019 All Rights Reserved.