真田丸感想あらすじ

『真田丸』全50話の感想レビュー38万字を一挙公開!

更新日:

 

第26回「瓜売」 流血の先にあったのはウンザリするほど軽薄な馬鹿馬鹿しさ!?

こんばんは。

◆「真田丸」追い風に 沼田城再建へ「造る会」気勢(上毛新聞) – Yahoo!ニュース
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160630-00010001-jomo-l10

これまたなかなかすごいニュースですが、同じように群馬でカンパして作るはずだった、昨年の大河がらみの銅像はそういえばどうなったんでしょうねえ。

 

早いもので、もう本作も折り返し地点を過ぎました。視聴率は18パーセント前後を保っており、各種イベントも絶好調。マスコミの叩き記事も今年はすっかり息を潜めています。

さて、私もだんだんと落ち着いて本作を見るようになってきまして。
「やったぞー、まともな大河が戻って来た~~」
と、昨年の反動で舞い上がった状況ではなくなりました。正直なところ、大坂編からはちょっとキャラ萌えで引っ張りすぎではないかと感じることもあります。出来がちょっといまひとつではないかと思う時もないわけではありません。

しかし、こうも万人受けするとは思っていなかったので、意外ではあります。癖もアクも相当強いドラマだと思うんですよ。アンチ、嫌いな人の気持ちがわからなくはないところもあります。

本作を「輝かしい大河の伝統を破壊したふざけた作品」と嫌う人の気持ちは理解できます。しかし、ドラマやエンターティメントの世界というのは常に進歩しています。『真田丸』は野心で目をギラつかせる真田昌幸のように、危ない綱渡りで変革を乗り切ろうとしているのです。

昌幸が「おまえは卑怯だ」と言われて、たじろぐでしょうか? ニヤリと笑う、それだけでしょう。本作のスタッフに求められるのも、昌幸のようなふてぶてしさです。そのふてぶてしさをもって、彼らは大河を変える旅に出ました。昌幸が武田信玄を敬愛するように、もちろん彼らも過去の大河に敬意をはらっていることでしょう。しかし、それと変革をおそれることはまた別なのです。

 

今から半世紀以上前、大河ドラマが目指したのは日本映画を超える娯楽たりえることでした。そして今、大河は越えるべき目標が日本国内ではなく海外にあること、映画ではなく大金をかけて世界中でオンエアされる歴史ドラマであることを意識しなければならなくなりました。

甘ったるい恋愛模様と、けばけばしい衣装、安っぽいようでいて視聴者を引き込む手練手管に長けた韓流時代劇。
しょっちゅう誰かが崖から落ちしかも生還、ワイヤーアクションで吹っ飛ぶ役者が乱れ飛ぶ、荒唐無稽ながらおもちゃ箱をひっくり返したように楽しい中国時代劇。
古城ロケを惜しみなく行い、格調の高さとよく練られたプロットで歴史好きをうならせるイギリスの時代劇。
鮮血、死体、陰謀、裸体、惨殺をげっぷが出るまで出し続け、毎週怖いものみたさに心臓をバクバクさせながら見てしまう、アメリカ有料チャンネル放映の時代劇風ファンタジー。

日本人の考えるルールとは別の次元にある時代劇が、奔流のように押し寄せ、ソフト化され、有料チャンネルで流れ続けます。隣の懐石料亭を追い抜けばよい時代は終わりました。韓国風焼き肉店、中華料理店、欧風料理店、多国籍風味ごった煮アメリカ資本のビッグチェーン、気がつけばありとあらゆるライバル店がひしめく場所に変わっていたのです。

こんな激流が押し寄せる中、「我々の作る一年スパンの時代劇こそ、大河です」と言い続けなければならないとして、そこに必要なものは二つあります。

度胸と変革です。

この両輪が今年の十二月まできっちりと回り続けたならば、半年後の私たちはきっと、大坂の陣を失踪する真田信繁の姿に拍手喝采を送り、今年の大河は素晴らしかったと総括していることでしょう。私はスタッフすべての努力に惜しみない拍手をしながら、後半に向けてエールを送ります。

 

もくじ

もくじ

太閤秀吉は引退で関白秀次はしゃぎ回る?

それでは本編です。

愛児を失い気落ちした秀吉は、隠居を表明。関白の座を甥である秀次に譲ります。これより秀吉は「太閤(=息子に関白の座を譲った者の称)」となります。

新たに関白となった秀次は、装束が武家のものから公家のもとに変わります。こちらの方が、品が良くおっとりとした彼には似合っているかもしれませんね。秀次は関白の任務に疲れてきり相手に愚痴をこぼします。きりが「自分の話ばっかりしないでよ、聞いてばっかりで疲れるじゃないですか」と生意気に突き返すと、この好青年は「人の話を聞かないとだめだよね!」と受け取るのだから、どこまで人がよいのやら。

秀次はきりをある一室に案内します。そこにはきらびやかな衣装に身を包んだ側室、それに秀次の娘・たかがいたのでした。たかを演じているのは子役かと思ったらば、本役の岸井ゆきのさんです。一瞬の出番とはいえ、まだ幼い少女として違和感がないので、驚きました。

秀次はきりを側室としたいため、どうやら包み隠さず見せたようです。これできりは幻滅するのかと思ったら「父の許可を得てからね」と返事をします。このあたりの感覚が細かいことながら健全です。やたらと臆病な作品であれば「側室がこんなにいるのに……」ときりが困惑したと思うわけです。きりは貴人ならば側室が大勢いても自然だとちゃんと理解しているわけですね。

 

錯乱したわけでも耄碌したわけでもない 明確な意志で無謀な出兵

秀吉は隠居すると言っていたはずが、明国を攻めると言い出します。

「問:日本は泰平の世となった。しかしついこの間まで暴れ回り、自力で領土を獲得していた大名がいつまでもおとなしくしているだろうか? 解決法を考えよ」

という大きな問いに、秀吉は答えます。

「答:新たな戦に大名を駆り出すことで、反乱の余裕も与えない」

本作の秀吉は愛児を失ったショックで錯乱したわけでも、耄碌したわけでも、家臣や妻にそそのかされたわけでもなく、明瞭な自分の意志でもって、無謀な出兵に及ぶわけです。

そしてこのあと、家康も同じ問いに向き合うこととなります。家康なりの回答は、今年の最終盤に見られることでしょう。

朝鮮渡海の前線基地にあたる肥前名護屋に呼び寄せられた大名たち。信幸は昌幸とは別の大名として参陣しています。実に昌幸はうれしそうです。我が子がついに大名として認められたわけですからね。感慨もひとしおでしょう。

真田昌幸・信幸・信繁父子は、いろいろ気遣って接待しているらしい加藤清正から飲み会に誘われます。ところが信幸は既に日本最強の舅・本多忠勝から飲み会に招かれており、まさかのダブルブッキング!

「えぇ、マジかよ! こりゃどっち断っても死ぬしかねえな!」

と、無責任にもこの状況をおもしろがる昌幸。わかっちゃいたけど、この父親はマジ外道です。

真田丸真田昌幸霜月けい

イラスト・霜月けい(以下同)

 

忠勝と清正の間で振り回される信幸

信幸はまず忠勝と家康の酒宴に参加。

飲み会とは思えぬ緊迫したBGMの中、信幸は「なんか旅の疲れ出たみたいで! 全身震えるんでちょっと休みますね!」と仮病を使い、いったん退出します。ところが忠勝は「いくら遅くなってもいいからまた顔を出して!!」と念押し。ああ、信幸の寿命が縮むぅ……。

真田父子を前にして、加藤清正は豪快に盃を飲み干します。その席で「なんで兄が源三郎で弟が源次郎なの?おかしくね!?」と絡んできます。昌幸は「あんまり深く考えずに名付けました」と面倒くさそうに返答。戦国時代の名前は本当に順番が無茶苦茶なので、結局あんまり名付ける時考えていなかったのではないか、ということでよいのではないでしょうか。

清正はここで話題を変え、襖を開けます。すると大量のコンパニオンたちが室内になだれこんできます。仮病を使っている以上、酒の臭いが漂うコトすら困る信幸。この上、キスマークなんてつけられたら、本当に死んでしまいますよ。こんな飲み会、ストレスで胃が荒れまくりだわ!

そしてここで大量に出てきたメイクの濃いコンパニオンたちですが、一緒に酒を飲む程度ならまだしも、アフターでお持ち帰りするといろいろ厄介なことが起こりえます。コロンブス一行が南米から持ち帰ったというあの流行病が戦国時代にも流行しております。三十代の大半を朝鮮出兵で費やした加藤清正もまた感染してしまうわけです……。

話を戻しまして。信幸はセルフブレスチェックを済ませ、忠勝と家康の飲み会に参加。ここで忠勝、突然信幸のおでこに自らのおでこをくっつけ、発熱チェック……って、なんの少女漫画だよ!! まってくもって冷や冷やしますが、なんとか信幸は忠勝チェックをクリアした模様。

霜月けい真田丸真田信幸

 

信繁にとって二、三、四番目の妻が全員登場っす!

一方で上田に戻ったきりは、父・高梨内記にとある人の側室になってよいのかと許しを得ようとするのですが、「お前は信繁様の子を産むんだろ!」と怒られます。「関白殿下ならまだしも」と内記が念押しすると、そのまさかが大当たりです。ここで内記は後悔することしきりなのですが、時既に遅し。迷いがふっきれたきりは、秀次の側室にはならないと決意を固めます。

場面は名護屋へ。石田三成と大谷吉継が事務作業をしている場所に、ストレッチに励む男が……なんとも暑苦しい松岡修造系武将がいます。これがあの、一部で「泳いで参った!」と呼ばれる宇喜多秀家です。彼の父は『軍師官兵衛』で陰険な謀将ぶりを見せていた宇喜多直家(陣内孝則さん)なのですが、ここまでキャラが違う父子ってなかなか面白いと思います。

真田丸石田三成

その後、加藤清正らが渡海し、朝鮮に上陸し進軍をスタート。総大将の秀吉、徳川、真田らはそのまま名護屋に残りました。

愛児を失って気落ちしている茶々は、名護屋に呼び寄せられておりました。波の音を聞いている茶々と信繁が話していると、花束を抱えた一人の少女が通りかかります。道に迷っているという娘の名は、大谷吉継の娘・春です。設定上かなり幼いのか、小学校低学年が好きそうな甘ったるいピンクの衣装で、声のトーンを思い切りあげています。本来の松岡茉優さんの魅力は低く落ち着いた声とクールな雰囲気ですので、魅力発揮はまだまだこれからでしょう。今回は信繁にとって二、三、四番目の妻が全員出ています。

京では、秀次の側室が懐妊していました。一方で名護屋の茶々も二度目の懐妊を遂げます。秀吉は既に還暦の目の前。これが最後の子となります。この、秀吉にとっての吉報は、秀次にとっては凶報でした。

 

生まれてすぐ夭折した息子を見て安堵してしまう異常

朝鮮での戦いは膠着状態に陥り、秀次の弟・秀勝(茶々の妹・江にとって二度目の夫)も戦病死していまいます。

暗く沈む状況に嫌気が差した秀吉は、「やつしくらべ」を提案。要するに仮装パーティです。出浦昌相は即座に家康はあじか売り(籠売り)だと探り、「瓜売り」ではどうかと昌幸に提言するのでした。佐助の演技指導のもと、昌幸は美声で隠し芸をマスター。佐助が瓜売りの口上をできるというのは、変装潜入している忍びの顔が見られて、よいですね!

秀次には男児が誕生します。しかし、父親にも関わらず、いや、父親だからこそ恐怖のあまりパニック寸前。秀吉に男児が生まれたならば、秀次の子も、そして秀次自身も邪魔になってしまうとうろたえます。しかしこの男児は、生後数日で夭折してしまうのでした。

秀次は、きりの前で涙を流します。泣いているのは息子を失った哀しさゆえではなく、息子の死に顔を見て安堵した己の情けなさゆえである、と。秀吉はまるでブラックホールです。彼の近くにいるものは、皆不幸の底に沈んでゆきます。

朝鮮で苦戦が続き、秀次が苦悩しているころ、名護屋城の大名たちは仮装パーティで大盛り上がりです。昌幸は芸の出来映えに自信があるようですが、信幸はどうにも困惑中。しかし、ここでトラブルが発生してしまいます。

なんと秀吉も昌幸と同じく「瓜売り」に扮する予定だったのです。しかも出来映えは秀吉の方が明らかに下手クソ。このままでは接待は失敗する、出し物を変えるしかない、信繁はうろたえまくりです。仕方なく片桐且元に相談し、且元はもっと下手にして欲しいと昌幸に懇願するのでした。

真田丸豊臣秀吉

 

仮装パーティーですら秀吉を持ちあげよう!の歪(いびつ)な世界

そこまで気遣いながら、且元の演目って「猿回し」なんですよね……。なんというか、いい度胸しています。小日向文世さんにあまり「猿イメージ」がないからスッカリ忘れそうになりますが、「猿」は秀吉を侮蔑する定番キーワードの一つ。

しかし強気の出浦昌相さんは、秀吉の方から演目を変えるよう工作をします。

真田丸出浦昌相霜月けい

信幸は家康経由で頼もうとしますがあえなく失敗。昌幸はわざと練習風景を見せ付け秀吉の自信を喪失させようとしますが、これがかえって秀吉の闘志に火をつけてしまいます。しまいには昌相が秀吉にしびれ薬を飲ませることまで提案しだしてしまいます。

横では佐助が無念の涙。仮装大会に熱が入りすぎている忍者二人組ですが、昌幸に演技指導をしていたことも関係あるのでしょうか。どんなときでも全力を尽くす二人の忠義がいいですね。

万策尽きた昌幸は、仮病を使いパーティを欠席することに。この仮装大会は、秀吉が皆あっと驚くほどうまく演じて優勝したという描かれ方が多いのですが、変化球勝負を好む本作では、秀吉が下手で結果はあきらかに出来レースという設定にしているわけです。

こんなくだらないことでも、大仰に秀吉を立てねばならない馬鹿馬鹿しさ、不気味さが描かれています。

目を引いたのは、でっぷりとした、まさにタヌキの焼き物のような家康の腹。石田三成役の山本耕史さんとは別のベクトルで、内野聖陽さんは体を作っているようです。

 

「淋しいのは嫌じゃ、明るく見送れ」

仮装大会のあと、上田から昌幸の母・とりが危篤であると知らせが届きます。片桐且元は渋るのですが、母親思いの秀吉はあっさりと真田が上田へ戻ることを許可します。こうして昌幸、信幸、信繁の三人は上田に戻ることになります。

とりの枕元には、真田三世代の人物が勢揃いすることとなりました。切ないのは、作兵衛に手を引かれてやってきた梅(黒木華さん)の忘れ形見・すえ。信繁は久々に娘と再会したわけですが、すえは怯えて作兵衛の元に戻ってしまいます。徳川家を出奔し、今は会津の蒲生氏郷に仕えている昌幸の弟・信尹(のぶただ)も駆けつけました。

とりが「淋しいのは嫌じゃ、明るく見送れ」と言うので、昌幸は瓜売りの真似をします。しかし、とりはすぐに「うるさい」と一言。確かにうるさい。結局、練習した意味のない昌幸に隠し芸でした。

真田一徳斎の妻・とりが有働ナレとともに大往生……かと思ったらば、とりは起き上がり、孫である信幸と信繁と話したいと言い出します。おっとぉ、最強の死亡フラグ有働ナレを止めるとはたいしたもんだ!

兄弟で心をひとつにし、真田を守り抜けと告げる、とり。兄弟に対し、産まれるのに遅すぎるも早すぎるもない、うまれもった宿命のままに生きよ、見ておるぞと発破を掛ける、とり。真田のゴッドマザー、堂々たる退場でした。

そのとりの死から二日後、大坂城で茶々が一人の男児を産み落とします。人が誰しも宿命を持ってうまれてきたのだとすれば、この子は一体どれほど過酷な宿命なのでしょうか。とりの力強い言葉は、この赤子と、彼に関わる者にとっては呪いにもなるのです。

霜月けい真田丸真田信繁

 

MVPというか三役(哀しき秀次・昌幸の仮装・祖母とり)

今週は三人いてもよいのではないでしょうか。

悲劇への序章を哀しく演じきった豊臣秀次。キャラ萌えという点ではもう百点満点中百二十点は獲得できそうな、昌幸の仮装っぷり。そして有働アナがナレーションでとどめを刺しに来てもいったんキャンセルできるゴッドマザー・とりの凄味。

毎週豪華で汁気たっぷりの演技合戦をありがとうございます。今週もおいしくいただきました。

総評

今週はため息をつかずに見ることは難しい。うんざりするほど軽薄で、馬鹿げています。合戦のために策を練っていた彼らはどこに行ったのでしょう。

しかし、だからといって悪いわけではありません。この軽薄な馬鹿らしさこそが、本質を突いているからです。

海を隔てた向こうで大勢が戦っている間、留守を守る連中は仮装パーティで馬鹿騒ぎ。史実からして軽薄なのですから、仕方ありません。むしろこのふざけきったパーティを「太閤の素敵なアイディア!」として描いた方が、より問題があると言えるのでしょうし、それで良いのだと思います。

血を流し、掴んだ太平の世の先にあるのが、この軽薄な馬鹿馬鹿しさです。

源平のころ、歌を巧みに詠む平家の公達は軽蔑されました。しかしこの時代になると、歌を詠み、茶を点て、古典文学に通暁していることは武士にとっても大切な教養となりました。

真田丸瓜売

さらに時代がくだり江戸時代になると、武士たちは能を舞い互いに褒めあい、席次や官位をめぐってくだらない小競り合いをするようになります。もはや武士でありながらこれは「宮廷文化」と言ってもよいでしょう。地球の反対側で、キンキラキンのバレエ衣装を着て踊るルイ十四世に拍手喝采を送っていたフランスの貴族と、大差がないではありませんか。

武家の世が完成したとき、そこにあらわれたのは洗練されていると同時に退屈な、社交の世界でした。泰平の世で武士は、サラリーマンに近くなってゆくのです。

そして今週が、そんな退屈なサラリーマンおべっかだけの内容かというと、そうではありません。

たかが仮装パーティでも演目がかぶれば大問題になるという、権力の濫用。別段優れているわけでもないのに周囲が秀吉を仮装で勝たせる、そんな真実をねじまげる硬直ぶり。娯楽ならばたいしたことはないかもしれませんが、秀吉の気まぐれな権力が政治の場に持ち込まれたらどうなるでしょうか。

その脅威をはっきりと感じているのは、現在のところ秀次です。炭坑のカナリアのように、繊細なこの青年はひしひしと恐怖を覚えています。

本当の悲劇はこの先訪れます。

第27回「不信」 恐怖のパワハラ政権は鬱に理解なく人材を平気で使い捨てる

こんばんは。

今週注目のインタビューはこちら。時代考証の丸島氏のインタビューです。
◆JapanKnowledge VOICE 丸島和洋さん 大河ドラマ『真田丸』の若き時代考証者

こちらの記事もおもしろいです。
◆真田丸 平岳大、清水ミチコら出番少ない役者の演技も高評価│NEWSポストセブン

ついでにツッコミたいのはこちら。
◆「真田丸」脚本の三谷幸喜氏が大スランプか 既視感のある話も? #ldnews

筆者はッ! 本当にネタが尽きた大河を知らないッ! 本当にネタが尽きた大河とはこんなもんじゃねえぜ……幕末の動乱かと思っていたら、なんちゃって大奥編が始まり、その新章でも従来通り菓子作りを続けたりするんだぜ……!

と、昨年を思い出して錯乱しつつ、そこは主張したいです。

 

ドラマ随一の危機察知能力 きりはいずれ大坂の陣で……

さて、選挙の影響で繰り上げ放送の今週本編です。

拾(後の秀頼)誕生を喜ぶ秀吉。信繁は、秀吉の命で関白付きになることに。この先の歴史を知っていると到底そうは思えないのですが、劇中でも示されているように、当時の秀次に近づく者は勢いのある勝ち組とされていたようです。

その秀次ですが、彼は疑心暗鬼に陥りつつありました。秀吉の言動ひとつひとつに怯えているのです。

「拾」という名は、捨て子は丈夫に育つという迷信ゆえ。「お拾」と丁寧に呼ばないようにしていたようです。だんだんとその意図は薄れて皆「お拾」と呼ぶようになるのですが。

祝いに訪れた秀次に、秀吉は日本を五分割し、そのうち五分の四を秀次に与えるものの、残りを拾に与えたいと言い出します。秀次は関白の座を譲ればすべて拾のものになると言うのですが、秀吉は受け付けません。秀吉にすればただの親馬鹿で、「パパがお前に領土あげちゃうぞ!」と言いたいだけなのでしょうが、秀次にはそんなことはわかりません。

そんな中、きりは信繁に、秀次の側室になってよいかを尋ねます。ここできりは脳内で記憶を捏造まででして「初恋の女が他の人のものになってもいいの?」とまで言い出します。梅よりはるかにランク落ちする櫛をもらっておいたことを忘れたのでしょうか(第三回)。案の定、信繁は「何いってんだこいつ」という顔をして、きりの一人芝居を見ているほかないのでした。

きりは確かにうっとうしい勘違いぶりではあるのですが、それだけではありません。きりがこのまま側室になった場合のことを考えると、彼女の危機察知能力はたいしたものだと感心します。

梅の六文銭のお守りに不吉なものを感じ、茶々の山吹を食べて消去し、そして秀次のアプローチは頑として断り抜く。きりはとことん、生死の選択において正解を選ぶのです。この先彼女は、大坂の陣に向かう夫の袖をがっちりとつかみ、必死で止めようとするでしょう。夫はそれを振り切り、死へと突き進むわけですが。

 

不吉を示唆する『源氏物語 宇治十帖』

このころ真田屋敷には珍しい客が来ていました。昌幸の弟・真田信尹(のぶただ)です。

時期的には既に徳川家出奔をして蒲生氏郷に仕官しているころですが、劇中では遅らせたようです。ここで有働ナレが「しばらく信尹の出番はありませんよ」的なことを言うのですが、それはちょっと寂しい話ではあります。

きりは『源氏物語 宇治十帖』を借り受けるため、秀次の元へ出向きます。しかし彼は湯治に出かけており、出迎えたのは娘・たか。まだ幼いようで、シッカリと父の心の弱さを見抜いてしまっている、たか。彼女はきりに向かって「側室になるのはやめた方がよい」と言います。悪い人ではないけれど、周囲のことを気にしすぎる、気分に波があると彼女は告げるのです。

それにしても、今週ここで貸し借りされる本はなぜ『宇治十帖』なのでしょうか。

この物語の主人公は、一部で主人公であった光源氏の子・薫。しかし薫の実父は柏木という人物です。光源氏の妻・女三ノ宮に恋心を抱いた彼は、寝所に侵入して狼藉に及びます。その結果産まれたのが、不義の子・薫です。薫は自分の持つ出生の秘密をそれとなく知っており、そのことが物語全体に暗い影を落とし続けます。

薫の父の柏木は夭折していますが、心因性の病気と示唆されています。妻の不貞と柏木の邪恋を知った光源氏は、ことあるごとに柏木にプレッシャーをかけ続けます。柏木は「有力者である光源氏に睨まれたのだから、もう自分はおしまいだ」と悲観し、憂悶のうちに病み衰え、命を落とすのです。

光源氏=秀吉
柏木=秀次
薫=秀頼

ととらえると、『源氏物語』は今後の三者の運命を暗示しているとも言えます。柏木も悲劇的ですが、薫もまた死者の暗い影を背負い、名門の貴公子ながらどんよりとした恋路に悩むこととなります。公家である彼らだからこそ、この程度のねじれと悲劇で終わりますが、豊臣の場合は武家であるだけに、さらに凄惨な結末が待ちうけています。

文学の名作をここで持ち出すことで、今後起こる様々な悲劇を暗示しているかのようです。

 

豊臣秀俊が小早川家に養子へ 後の秀秋に……

秀吉は秀次の一歳になる娘と、拾を婚約させると言い出します。しかし秀次は喜ぶどころか、このような大事を勝手に決めるとはどういうことか、とますます不信を深めることに。

ここで豊臣秀俊(のちの小早川秀秋)が、能の名人・宇喜多秀家に習い、太閤に披露してはどうかと秀次に提案します。その意見に従って、秀次は秀家の指導を受けることに。松岡修造系武将・秀家は見ているだけで暑苦しい熱血指導を展開。むっとした汗の臭いが画面の向こう側からつたわってきそうです。絶対にこの秀家、体臭が濃いと思います。

そんな中、秀俊がどうにも様子がおかしいのです。話を聞いてみると、彼は小早川家に養子に出されるとのこと。

厄介払いが始まったとおびえる秀次を前に、秀家は何か「気合いだ! 殿下のために気合いで舞うのみ!」と、空気を読まないことを言っています。

どうやら秀家は鬱に理解がないようです。宇喜多という代々続く大名家に生まれた自らの境遇と、豊臣という日本一の大大名であっても所詮は成り上がり一族として生きるしかない者の心情も、彼にはもちろんわかるはずもありません。西軍につくことになる将たちには、もうこの時点で何か欠落していると、本作はさりげなく示します。

 

キレる秀吉 何かが取り憑いているのかと思うほどの冷たい目

こうして迎えた吉野の花見。上機嫌で酒を飲む秀吉たち。能のリハーサルをしていると、秀次の実弟である秀保が高熱を出して倒れます。こうして急遽、信繁が代役になることに。

桜の舞う中、立派な衣装を着て秀次たちが能を披露します。代役の信繁がミスを繰り返すものだから、こちらも冷や汗が出そう。そしてこの和やかな場面がだんだんと不穏な空気に満ちてゆきます。皆にこやかなのに、秀吉だけは殺気に満ちた目線を舞台にじっと注ぎます。何かが取り憑いているのではないかと思うほど、冷たい目つきです。

演技が終わって秀次らが挨拶を述べると、秀吉は彼を怒鳴りつけます。

「関白ならもっとやるべきことがあるだろ、くだらないことをしている場合か、お前を関白にした理由をわかっているのか! それから源次郎はへたくそ!(秀保が倒れたと聞き)揃いもそろって何をしている!」

真田丸豊臣秀吉

完全に裏目にでました。ちなみに秀吉は自分の生涯を能にして自ら舞うようなことをしたり、能のグループ(大和四座)を庇護したり、そもそも能にはかなりのうるさ型です。

こうしてますます鬱を悪化させた秀次のもとに、寧がやって来ます。

「秀吉が叱ったのは秀次に目をかけているからこそ。もっと自信を持ちなさい。堂々としていたらいいの」

と助言する寧。

寧のアドバイスは悪くない。決して悪くはないのですが、この言葉は本当に秀次にとって最適なものであったか、ちょっと疑問は残るところです。寧は鬱に少々理解があっても、それでもまだ何か足りません。それでも結果的に、豊臣一族の中では一番まっとうな対応をしてはいます。

 

楽しいはずの酒宴が一転地獄の様相へ

夜になり、石田三成が宴席に到着。ここで茶々が「もう一度能を舞ったら?」と言います。この人はあんまり人の心を読めないようで、鬱にまったく理解がない。秀吉は、信繁に対して官位をやると言い出します。

しかし信繁は、兄をさしおいてもらうわけにはいかないと固辞。すると秀吉の顔はたちまち険悪な表情に。

「俺、馬鹿だからお前の言うことちょっとわからないんだけどさ〜、お前、ひょっとして自分だけが官位をもらうのでは足りないって言いたいのか? 策を弄して兄にまで官位をやれってか! 策士策に溺れおって!」

と怒ります。楽しいはずの酒宴がもはや地獄の様相に……職場の飲み会を嫌う人間ならわかる、この辛い空気。日曜夜に見るのはきつい展開です

「お待ち下さい!」

ここで声を上げたのは秀次です。彼はキッパリと言い切ります。

「官位を与えるのは関白のつとめ、誰にどの位を与えるかは私が決めることです」

秀次は信繁だけではなく、信幸のことも調べて問題がなければ同じ官位を授けると約束します。やったぞ秀次、よく頑張った! これには秀吉も喜び、やっと笑顔を見せます。

それにしても秀吉がトラウマになるほど怖いです。

上機嫌に酔っ払っているリラックスした雰囲気が、一瞬で消え去って完全に相手を殺すモードに。「俺は馬鹿だからよくわからないけど」という前置きも怖い。過去の心の傷がぱっくり開いて、胃が痛くなった勤め人もいるのでは。

この場面は、パワハラ経験の有無で評価が違ってくる気がします。

私は血が凍りそうになりましたね。

 

「弟のおかげで官位をもらえてよかったな」 秀吉の一言に震える信幸

このあと上野の沼田城では、信幸が上洛準備を進めています。官位をもらうため、妻の稲とともに京都に向かい、そのまま稲は京都に住まわせると妻に告げる信幸。稲は絶対に嫌だと言い張るのですが、信幸は聞く耳を持ちません。

稲は実家の浜松に戻る支度をすると、信幸の前妻・こうに命じます。こうは稲の手を取り、こう告げます。

「それはなりませぬ、つらい思いをしているのはあなただけではなく、あなたが知らないだけでもっとつらい思いをしている者がいます。乗り越えねば、なんとしても乗り越えねば。あなたの帰る先はここしかありません」

こうの辛い思いは今までコメディタッチで、しかも断片的にしか描かれず、封じ込められてきました。悲劇に酔う陶酔型の彼女の性格と、思いがあふれた渾身の台詞だったと思います。正室の座は稲に交替したものの、インパクト勝負ではまだまだ彼女が勝っています。

文禄三年(1595)十一月、真田信幸は従五位下伊豆守、信繁は同左衛門佐の官位を授けられます。秀次はやっと自信をつけてきたようで、これで無事に済めばよかったのですが……そうはなりません。

昌幸は息子たちを連れ、官位の御礼を言いに秀吉の元へ向かいます。ここで秀吉は信幸に対して言ってしまいます。

「弟のおかげで官位をもらえてよかったな。しかも弟は、おまえと同じナントカ守は遠慮したんだぞ」

ここでは、三成が一瞬秀吉を止めようとしておりました。彼は人の心を察知できないとされていますが、実はそうではないと示されているわけです。

にしても本作の秀吉って、とことん邪悪な描かれ方だと思います。「人たらし」どころか、人が嫌がりそうなことを積極的に指摘する、しかも人と人との関係にひびをいれるようにそれをやります。なまじ人の心が読めるだけに、その能力を悪用して面白半分に傷つけてゆく。これはもう、サイコパスだと思います。

霜月けい真田丸真田信幸

 

兄の気持ちを全く慮ることができない父の昌幸

昌幸は三成と大谷吉継から、伏見城の普請への協力を求められます。その図面には、政務を行う間取りも描かれています。これは秀吉なりの、甥の激務を軽減するための気遣いなのですが、これがあとで裏目に出ます。渋々でも引き受けざるをえない昌幸です。

昌幸がめんどくさそうにしていると、そこに信幸・信繁兄弟がやって来ます。信幸は屈辱のあまり激怒しております。自分だけ蚊帳の外で官位のことを決めたのか、と怒りに震える信幸。これに対し昌幸は、いつものどうしようもないチャランポランな口調でたしなめるのです。

「いいじゃん、もらえるもんなら病気以外何でももらっとけよ」

本当に面倒臭いことが嫌いなんですね、このオヤジは。

真田丸真田昌幸霜月けい

信繁は自分が左衛門佐なのは源義経にあやかったからだと弁明。その兄弟は最後、兄が弟を討つんだよ、というツッコミはさておき。信幸は、

「おまえのそういう抜け目のなさが、なんかむしょうにムカつくんだよ!」

と、かえって怒ってしまいます。

この憤懣やるかたない言い方から、この兄弟はずっと幼い頃から、こんな感じだったのかなと想像できました。仲が良いのはその通りです。宴の席で、信繁が「兄は私を全て上回っております」と即答したのも、そのあらわれです。心底そう思っていなければ、ああいう言葉は出てきません。しかし、それでも、そういった仲の良さだけでは解決できないこともあるわけです。

兄弟の仲がこじれたとき、普通のドラマならここで父親が懐の広さを見せ、和解させるんじゃないかと思うんです。たまには昌幸の、父としてのそんなところも見てみたいではありませんか。

しかし、ここで昌幸は、伏見城の改築を任せてやると言い出します。【お前の度量を見極めたいんだ】とか何とか気の利いた一言添えればよいところを、若干かったるそうにそう言います。

これに対し信幸は「その役目はアンタが命じられたんだろうが!」とますます怒り、立ち去るのでした。昌幸はさらに面倒臭そうに「じゃ、お前やってみっか?」と信繁に城の図面を渡します。やはり昌幸に懐の広い父親像を求めたのが間違いでした。昌幸って結局、いつもこう……。

 

こんな図面、間違っても秀次に見せられん! しかし……

信繁は昌幸に渡された図面を見て驚きます。隠居所のはずが政務を行う場所があるではありませんか。

こんなもん間違っても秀次に見せるわけにはいかない――。と、信繁が焦っていると、その秀次がきりを側室に迎える件でやって来て、偶然、図面を手に取って見てしまいます。秀吉が政務をやるということは、自分はもう用済みなのか、何故信じてもらえぬのか、と嘆く秀次。

信繁はそんな秀次の様子を秀吉に報告し、対話の場を持らせようとしますが、秀吉は突っぱねます。

「あいつの心が弱いからだ! 強くなれ! 強くならなければ会わん!」

秀吉は鬱への理解が欠けている。そして人材を育成するということができなくなっているのです。

石田三成、大谷吉継、加藤清正らは、秀吉に見いだされ、磨かれていった宝石でした。ところが秀吉は、辛抱強く秀次を育てるということを放棄してしまった。秀次だって磨けば光るはずなのです。

人を育てられる余裕がなくなった人間や組織は、人と使い潰し、捨て去るようになります。そしてその責任を潰された側におしつけ、同じことを繰り返すのです。

豊臣政権は完全にブラック化しました。「お前のことは今まで甘やかしすぎた」と、いきなりピッチャーに百六十球以上投げさせるどこかの球団のようになってしまいました。

 

弟・秀保が17才で病死 その死が隠蔽され、秀次は旅へ

さらに秀次の心にとどめをさす出来事は起こります。

能の前に倒れた弟・秀保が僅か十七で病死してしまったのです。彼の死は謎に包まれており、事故による溺死説もあります。豊臣家親族の死であるにも関わらず、秀吉は葬儀すらろくに行わず、秀保の死を隠蔽しようとします。

今年、拾は三歳、鶴松が亡くなったのと同い年です。秀吉にとって今年は不吉な歳です。そんな歳に亡くなったこと、拾を支えず亡くなったこと。この二つに激怒した秀吉は、秀保の死を極めてぞんざいに、冷たく扱ったのです。

しかも秀保の死には、もうひとつ意味があるのです。秀保は秀吉の弟・秀長の跡継ぎでした。その家が潰れてしまったわけです。それはもう、あっさりと。

弟の死、そしてその死への秀吉が見せた冷たい仕打ち。秀次の不信は頂点に達します。壮麗な聚楽第も、秀次にとってはもはや死刑囚の独房のようなもの。

秀次は、ふっと姿を消してしまいました。

主を失った聚楽第で、信繁たちを迎えたのは呆然とした様子の秀俊。彼もこの惨劇を間近で目撃しています。秀次の精神崩壊過程を見ていた彼もまた、心に深い傷を負ってしまったのです。

そのころ、大坂城で働くきりは、自分を呼ぶ声に振り返ります。そこにいたのは、旅姿の秀次でした。

 

今週のMVP

先週に続き一人に絞ることはできません。意識してアンサンブルにしているのでしょうから、ここは秀吉、秀次、そして秀俊(秀秋)でしょう。

よい大河とは何か?

と問われたら非常にあいまいでかつファンタジックではあるのですが、私は「誰かが降りてきたら、欠点だらけの作品でもよいところがある」と答えたいと思います。

平清盛』における井浦新さんの崇徳天皇。『八重の桜』における綾野剛さんの松平容保、小泉孝太郎さんの徳川慶喜。この二作品は視聴率が低く世間では失敗作扱いですが、私はそう斬って捨てることはできません。あの作品において、先にあげた人たちには何か、魂のようなものが降臨している感覚がありました。

今週のこの三者にも、何かが入り込んでいるかのようでした。

中でも秀次。やっと私は、後世の悪意によるフィルターが外された、豊臣秀次という青年に出会えた。そんな気分です。出会えたと思ったら、彼はもう死ななくてはならない。本当に私は哀しい。来週訪れる彼の死が、本当に哀しくてなりません。

『真田丸』を過去作と比較する感想も見かけますが、むしろこの作品は過去の大河を押しやる可能性もあると思います。

リアルタイムで視聴したファンならば過去作品の方がよいと思えるでしょう。しかし、本作で大河の魅力に目覚めたファンは、もう過去作品を素直に楽しめないかもしれません。少なくとも、やたら好色で残虐な秀次像は、もう受け付けられなくなるのではないでしょうか。

本作は欠点がないわけではありませんし、パーフェクトであるとは思いません。

それでも偉大な魔法を持っています。着想から脚本、配役に至るまで丁寧に作られた歴史劇に宿る魔法です。この先どれだけ本作が無残に失速したとしても、駄作と評価されることはないでしょう。この作品が示した人物像、特に秀次や勝頼の新たな像には、それだけの価値があります。

 

総評

鬱に理解のないブラック豊臣政権。そんな言葉が脳裏をよぎりました。

人はいくら歳をとっても、自分はまだまだ若いと思いたがる。そのことを、私たちは定期的に思い出さなければいけないのかもしれません。

人の老化、特に精神老化のサインというのは、本人にはわからないものです。人材育成ができなくなるというのも、わかりにくい老化のサインではないでしょうか。

現代のブラック企業において、人材の使い捨てが横行しています。ブラック企業は、今時の若者は根性辛抱が足りないと、肉体と精神を破壊して育てる気がありません。

そして秀吉。彼はもう、秀次や秀俊(秀秋)を育てるだけの力が欠けているのです。

今週の評価は、パワハラ経験があるかないかで変わってくると思うんですよね。ブラック企業で精神をすり減らされた経験がある人にとっては、相当辛い回だったと思います。スケールが小さく思えるでしょう? それはそうです、現代の企業にも通じるような話ではあるんですから。身につまされる人にとっては、相当おそろしい展開であったはずです。

今週の秀次事件に関しては、おおむね最新の研究成果を反映しています。従来とちがってスケールダウンしているように見えるかもしれませんが、個人的にはその見解に半分賛成、半分反対です。『ジョジョの奇妙な冒険』第四部のように、卑近にしているからこそ凄味や恐怖が増すパターンはあります。本作もそうなのです。

第28回「受難」 不信という黒い渦が豊臣一派を呑み込むとき

こんばんは。

先週は参院選の影響で放送が19時台へ繰り上げでした。関連ニュースとしましては…。

◆「真田丸」の繰り上げ放送 「見逃した」と悲鳴ツイートが溢れる
http://news.livedoor.com/article/detail/11747008/

◆真田丸:第27回は視聴率15.1% 参院選で50分繰り上げ放送 – 毎日新聞 http://mainichi.jp/articles/20160711/dyo/00m/200/002000c

視聴率もワーストを更新しましたが、そのぶんBS先行放送は5%ジャストをキープ。合計すると20.1%となり、さほど落ちていません。

実は、選挙による繰り上げ放送の影響が本当の意味で出るのは、繰り上げの翌週です。一週見逃した視聴者が「まぁいいか、別に続きを見なくとも」と視聴習慣をやめるか、やめないか。その差が出るのが今週の視聴率です。

ここで落ちなければ、本作は後半まで数字をキープする可能性が高いと思います。

 

大谷吉継はハンセン病ではなく皮膚病の一種

さて本編です。

ストレスのあまり聚楽第から失踪した秀次は、関白の座を放棄。ふらりと大坂城に来てしまいます。

きりに匿われた秀次。秀吉に弁明すべき、だらしないとズケズケもの言うきりに、秀次は「うるさい!」「うっとうしい!」と言い返します。

「私はみんなにウザい女って言われるし、癒やし系の言葉なんてかけないし、関白だろうとハッキリ言います。あなたが心配だから言っています!」

きっぱりそう言い切るきり。はい、ここで私もきっぱり言いますが、そんなきりちゃんが大好きだぁ! 自分がウザいと嫌われても、相手のためになることをはっきり言う。こういう度胸、本当に好きです。相手が次に言って欲しいことを察知して先回りする癒やし系の梅(黒木華さん)もよかったとは思います。しかし私はもう断然きり派になってしまいましたね。

聚楽第で留守を守る信繁は、伏見城建設中の大谷吉継に報告へと向かいます。その伏見では、信幸が官位を返上したいとくすぶっています。それにも関わらず昌幸は、

「伊豆守~」
「豆州と呼ばせてくれよぉ〜」

信幸をしつこく官名で呼びます。いやがらせか。もうヤダ、こんなオヤジ。

真田丸真田昌幸霜月けい

さらに昌幸はすっかり仕事のやる気を無くし、職場放棄をした後は信幸に任せてドコかへ向かってしまいます。その先はなんと、吉野太夫の元なのですが……仕事放棄してキャバクラに向かう主人公・父って……。

信幸から、吉継が病気早退したと聞いた信繁は、自宅へと面会に向かいます。そこで信繁を迎えるのは吉継の娘・春。侍女ではなく敢えて息女が出迎えるというのは、意識あってのことでしょうか。春は信繁が去ったあと、照れくさそうに微笑んでいるので、少なくとも彼女は何か知っているようです。

信繁は吉継に事態を報告します。吉継は咳き込み、発声もやや乱れているようで、体調の悪さを感じます。信繁から事態を聞き、吉継はどこかへ報告するためにと向かいます。ちなみに本作の吉継は、ハンセン病であるという説は信憑性が薄いことから採用しないとのこと。何らかの皮膚に影響が及ぶ疾患で、頭巾を被るようになるようです。

 

信繁の母ちゃん、やっぱり菊亭晴季の娘じゃない!?

真田屋敷では、久々に嫁・稲と対面した薫が礼儀を教育中です。

人と話すときはアイコンタクトをしろと指導する薫。それに対して稲は「チッ、うっぜーな」という態度。まだ心を開かないようです。

それにしても稲は嫁いでからずっと山吹色の着物であるにも関わらず、薫は出番のたびに衣装が替わっているような。

「やっぱり私は都の女、やっぱり都は最高よね、私に合っているわ~。私は菊亭晴季の娘なのよ~」

嫁に対して上機嫌でマウンティングする薫。それを稲は冷ややかに見ております。この二人に加え、おこうも上洛した様子。

大坂城に潜伏中の秀次は、ずっときりとドコかに潜んでいるようです。そこで偶然耳に入ってきた茶々と、無邪気に遊ぶ拾の声。ますます顔色が悪くなる秀次は、成り行き上、真田屋敷に匿われることに。

真田屋敷では信幸、薫、稲たちが秀次を迎えます。ここで信幸が「関白殿下は公家とお会いする機会が多いですよね。うちの母も実は公家の娘なんです」と余計なことを言い出します。どなたの娘かと首をひねる秀次に、稲がさらに「菊亭晴季の娘でしょ」と付け加えます。

秀次の正室は菊亭晴季の娘・一の台です。つまり薫と姉妹ということになるのですが、このあたりで不穏な空気が流れ出します。薫は経歴詐称がばれた焦りか、「そういえばおいしい落雁が!」と必死で誤魔化します。

このあたりは薫の出自に関する説をからめてネタにしています。薫は菊亭晴季の娘とする説もあるのですが、いくらなんでもそんな名門の姫君が地方大名の陪臣に嫁ぐだろうか、と疑問視され信憑性は低いとされていました。ただし京都出身であるということは確定しています。武田信玄正室である公家出身の三条夫人についてきた侍女あたりではないか、というのが現在の定説です。そうした説をうまく取り入れ、ドラマにしているわけです。

稲は薫の出自詐称を見破り、書状で徳川に知らせることにします。そこへおこうが入ってきて、その書状を真っ二つに破き、「真田の内情を伝えるのがあなたのお役目なら、それをおしとどめるのが私の役目」と啖呵を切ります。稲はその態度に怒り、さらにはお前が信幸の前妻だということも知っているぞ、とおこうを問い詰めます。それでもおこうは怯みません。

「私は真田家をお守りするだけでございます!」

そう言い切るおこう。おこうは元々真田の姫ですもんね。この二人にも一波乱ありそうです。

生命力の象徴・きりを諦めたということは……

大谷吉継は関白不在を隠蔽し、公式行事をキャンセルしたと信繁に伝えます。信繁は秀次の娘・たかに偶然出会い、パーデレ(神父)からもらったというあるものを託されます。たかとの会話の直後、信繁は秀吉から呼び出されていると伝えられます。

信繁は秀吉に呼び出された秀次に報告し、たかに託されたものを渡します。中身は板に描かれた美しい聖母子像と、ロザリオでした。秀次がキリシタンであるとは明言されていませんが、ストレスをためた彼は異国の神に救いを求めていたようです。

秀次はマリア像を眺めその美しさを称えると、これをきりに渡して欲しいと信繁に託します。そのうえで、きりを側室にする話はなかったことにしたい、と彼に告げます。

この秀次の行動はあとで信繁による解釈で説明されるのですが、それだけではない作劇上の意味もある気がします。

何度もこのレビューで書いてきた通り、きりは生命力の象徴のような存在です。そのきりを求めることをあきらめた秀次は、生きることを放棄したのではないでしょうか。もし彼がもっと強ければ、貪欲にきりを求め、生き延びて彼女を愛したいと思ったのではないでしょうか。

冷や冷やしながら信繁が秀吉の前に参上すると、秀吉は商人から買ったという「呂宋(ルソン)壺」を手にして上機嫌。秀吉は大谷吉継の娘・春との縁談を持ち出します。どうやら秀吉は、信繁を豊臣の味方としてつなぎとめたいようです。

しかし話はこれで終わりません。三成が信繁を書庫に呼び出し、秀次の件を報告しろと迫ります。言わなければ三成自身が秀吉に伝えるぞ、私が知っているということは太閤だってもう知っているぞ、と脅す三成。やむなく信繁は真相を話すことに。

秀吉は案の定怒り、秀次を呼びつけ説教してやると言い出します。茶々はあきれ、寧も「あの子に関白は向いていないのだから別の役職につけたら」とうながします。しかしもう豊臣の成年男子は秀次しかいない、と言う秀吉。秀次は大事な人材なのです。

 

振り回されっぱなしの人生は秀次だけじゃなく兄・信幸も

信繁と三成が秀吉の言葉を伝えるため真田屋敷に向かうと、秀次はもう高野山へ向かったあとでした。高野山の青厳寺で、秀次は叔父のおかげでここまで来られたが、振り回され続けた人生だと振り返ります。生まれ変わったらもう二度と秀吉の甥にはなりたくないと嘆く秀次。そこで同行した信幸も、俺の周囲も無茶苦茶です、振り回されっぱなしです、と愚痴半分励まし半分の言葉を秀次に返します。

「大きすぎる父!(=昌幸、大きすぎるというか全てが無茶苦茶)

なぜか私の話は聞こえない祖母!(=とり、露骨な弟贔屓)

病弱なんだかよくわからない最初の妻!(=おこう、彼女は許してよ)

心を開かない二番目の妻!(=稲、本当に信幸かわいそう)

そして無茶苦茶怖い舅!(=本多忠勝、本当に、本当に信幸かわいそう)」

振り回されながら九十年も生きる真田信幸という男……。しかしこのあとすぐわかりますが、信幸の状況は秀次より断然ましなんですね。そしてこの彼を振り回す面々の中に、弟・信繁は入っていない点も大事です。

信幸は秀次と語り合います。そこで信幸は、「官位を返上する気はないな、あれは関白として私が行った数少ない仕事だから」と言われ、官位に対するもやもやが消え去ります。さらに信幸はそろそろ信繁が来る、知らせがなくともわかると秀次に告げます。そこには豊臣の人々にはない、強い信頼があるのでした。

霜月けい真田丸真田信幸

秀次が高野山に向かったことは、隠密行動でありながら人々の噂になりました。秀吉はこのままでは面目がたたないため、謀叛の疑いがあったのだと世間に流布し、一月ほど謹慎し許すと決めます。そして高野山に使者を送ることにしました。

この知らせを受け、徳川屋敷では「面白くなってきた」と家康や本多正信・その嫡男の正純がほくそ笑んでいます。

そこに入ってきたのは家康の子・秀忠です。秀忠はほぼ無言で、ただ丁寧すぎるほど正純に頭を下げる所作だけが、不気味なBGMとともに映し出されました。徳川秀忠……彼はどんな男でしょうか。家康は正信に「お互い跡継ぎがいるのはありがたいことだ」と感慨を漏らします。秀吉と家康の違いはまさにここで、家康はキャラが立って優秀で野心家の息子が多すぎたのではないか、と思えるほどです。

徳川幕府が二百年以上続いたのも、家康の子が多かったからでしょう。たとえ将軍家がとだえても血のスペアである御三家御三卿あたりから跡継ぎを迎えられたわけで、家康の子だくさんは歴史を変えたと言えます。

真田丸徳川家康霜月けい

 

俺を怒らせたらどんなに怖いか、あいつに見せ付けてやる!

高野山に急ぎ向かった信繁は、秀次に明日使者が来ると伝えます。使者を追い返してくれと言う秀次を、信繁はなんとかおしとどめようとするのですが。

信幸と再会した信繁。官位の件以来ぎくしゃくしていた兄弟ですが、やっとここで和解し、仲良くなります。真田の兄弟は、いくら離れようと、こじれよと、結局のところ元には戻ります。ねじれて戻ることができず、砕け散る豊臣の人間関係とは違うのです。

信幸や信繁とは異なり、もう決して直らない人間関係にからめとられているのが秀次。秀次は聖母子像を長持ちにしまってきて欲しいと信幸に頼みます。そのあと天井を見上げる秀次の目に、涙がいっぱいにたまります。あの枇杷を抱えた純粋な秀次に、人をすぐ疑う癖をつけてしまったのは誰なのか。彼をここまで追い詰めたのは何なのか。そんな思いはよぎります。

信繁は秀吉の使者である福島正則を迎えます。正則は秀次に好意的で「あいつはよくやってるよ」と語ります。するとそこへ血相を変えた信幸はやって来ます。三人が廊下を走ってゆくと、そこにあったのは血の中に転がる秀次の屍。秀次は切腹し、自らの命を絶ったのでした。

秀次はキリシタンであるとは明言されていませんが、少なくともその教えは知っているようです。そしてキリスト教であれば、自殺は厳禁のはずです。もし彼がキリスト教徒であったならば、自ら天国に行く扉を閉ざしてしまったわけです。

破滅の予感をおぼえ、自分が死ねば周囲が災厄に巻き込まれるであろうことも感じており、さらに自殺は罪であるとわかっていながら、それでも耐えきれなかった秀次。彼に対して、弱い、無責任だ、だらしない、もっとちゃんと考えろなどとは言いますまい。それはとても残酷なことです。自殺した人を愚かと言いたくなる気持ちはわかりますが、言ってはいけないことだと思います。

秀次自害の知らせに秀吉は激怒!

真田丸豊臣秀吉

泣き崩れる寧を前にして「俺はあいつに精一杯のことをしたのに、あいつは裏切った! 悪いのはあいつだ、あいつに俺を怒らせたらどんなに怖いか、あいつに見せ付けてやる!」と叫びます。

秀吉は秀次の首をさらし、さらにその妻子の処刑を命じます。この命令に三成もひるみますが、秀吉に逆らえるはずもありません。三成は秀吉にかわって、残虐な処刑を実施します。晒された秀次の首の前で、三十余名の秀次の妻子、侍女が虐殺されました。幼い子どもは母親の前で刺殺され、女性たちは辞世を詠んだあと斬首されました。

遺体は遺族による引き取りを許されず、大きな穴に投げ込まれ、その上に「秀次悪逆塚」と書かれた碑が置かれたと伝わります。これには世間の人々が怒り、「こんな仕打ちを関白妻子にするものではない、こんな政権は長続きしないぞ」と落書がされたとか。

処刑された秀次の妻子には有力者の関係者も含まれていました。秀次と親しかっただけで処分された、あるいはされかけた大名もいました。秀次事件は豊臣の男子を減らしただけではなく、怨恨という大きな負債をも政権に背負わせることになりました。

 

隠しトビラの向こうに祭壇があり、そこには秀次の娘「たか」が

秀吉は、秀次の痕跡を消そうと決意したかのようです。秀次が居住していた聚楽第も破却されることに。とばっちりで平野長泰も馬廻りを解任です。あれだけ壮麗な建物を、怨恨で破壊してしまうのだから異常性がわかります。妻子の処刑にせよ、聚楽第の破壊にせよ、非効率的で手間暇かかるわけです。

秀吉はもうそんなことすら気にせず、自分の気持ちのためだけにそんなことをしてしまいます。

これから破却される聚楽第を歩く信繁と片桐且元。信繁は何かの気配を感じ、隠し部屋を発見。蝋燭とロザリオが飾られた祭壇の奥にいたのは、なんと秀次の娘である「たか」でした。

信繁はたかの命を救うため奔走します。今まで信繁が手を回してうまくいったことはありませんが、今回はどうなるのでしょうか。

信繁はある決意を秘めて秀吉の元へ。秀吉は秀次を一人前の男にしてやりたかったとむせび泣いています。いくら泣こうが彼のしたことはパワハラであり、人間性の破壊なのですが、それに気づかないところが悲劇なのでしょう。このタイミングで信繁は、吉継の娘との縁談を受けると秀吉に言います。さらに妻にしようとしていた女を側室にしたい、と。その女とは秀次の娘・たかなのでした。秀吉は不快感を示し、さらに男子が生まれたら出家させろと言うものの、信繁の申し出を承諾します。

きりは秀次からもらった西洋婦人像を手にしながら「側室回避よかった♥」と能天気に言うのですが、信繁から「あの人は自分の窮地を察して、お前を側室にする話をとりやめたんだよ」と告げられ泣きじゃくります。このタイミングで信繁は「追い打ちをかけるようだけど、俺、結婚するんだ。あと側室も娶るから」ときりに告げます。きりは思ったでしょう。

「やっと私を側室にするのね! 正室じゃないけど我慢してあげる」

って。ところがそこに現れたのは、なんとたか。

「なによぉ~~!」

大坂一帯に響き渡りそうな、きりの絶叫(エコーつき)。やっぱりきりは最高です。能天気無神経と見せかけた強がりの笑顔、そこから泣きじゃくり、そしてエコーつきの絶叫で笑わせる。この人はもう、本作に不可欠のキャラクターでしょう。

信繁は秀吉が心変わりした後に危害を加えることを見越して、先手を受けます。彼が頼ったのは豪商・呂宋助左衛門こと、納屋助左衛門。現地で二束三文の壺を買い付け、高値をふっかけ秀吉や大名に売る助左衛門は、商売で権威に挑む反逆心の持ち主です。

権力者から弱いものを守るのならばいつでも歓迎であると快諾する助左衛門。こうしてたかは、呂宋(フィリピン・ルソン島)行きの船に乗ることとなったのでした。

 

今週のMVP

豊臣秀次です。

先々週あたりからずっと秀次の瞳が脳裏に残っていました。枇杷を抱えた初登場から今年の彼はひと味違うとは思っていましたが、ここまで秀次という人物像が印象に残るとは思っていませんでした。切腹前、涙を目にためて天井を眺める表情、素晴らしかったです。

もう一人今週忘れてはならないのが納屋助左衛門だと思います。彼の登場の仕方や台詞には少々無理があるようにも思えたのですが、そうしたひっかかりを吹き飛ばしたのは、さすが松本幸四郎さんだなと。

「裏MVP」はきりでしょう。視聴者の憎しみを集めていた彼女ですが、回を追うごとに私は好きになってしまいます。周囲の人に鬱陶しいと思われていると自覚していて、たとえ嫌われても、相手のためを思って耳に痛いことを敢えて言う、その性格。きりは相手が聞きたいことを察知して言う梅とは正反対で、計算なし、まっすぐなんです。そういう気持ちのよさが好きなんですよね。この重苦しい回において「なによぉ〜〜!」のエコーでくすっと笑わせる彼女は本当に貴重だと思います。

 

総評

本作は家族のドラマであると強調されていました。確かに家族のドラマです。日本の歴史を揺るがすドラマを、家族ドラマの延長上におさめました。真田家ではありません、豊臣家のことです。

豊臣政権は何故滅びたのか。それが夏以降、じりじりと描かれて来ております。

かつて豊臣一族は、皆で集まって寧が焼いた里芋を楽しそうに食べていました(第十五回)。それが今では崩壊し、軋んでいます。その腐敗は死んでしまった秀次だけではなく、秀次の死を見ていた秀俊(秀秋)にも、そして何もわからないまま多くの死を背負ってしまった拾(秀頼)にまで及んでいます。

無邪気に遊ぶ拾は、自分自身が秀次を追い詰め、自らの婚約者(秀次の娘)すら殺してしまったと知るよしもないでしょう。しかし彼自身は知らなくても、世間は知ってしまっています。

「家族で切り抜ける」と、有働アナウンサーがさわやかに読み上げるあのフレーズ。その裏には、互いに信じ合えずに崩壊する豊臣家という家族の存在が浮かび上がります。家族さえ団結していれば生き延びられるほど世の中は甘くありません。しかしこの厳しい世において、家族すら信じられない者に明るい未来などあるわけもないのです。

豊臣家を飲み込む、不信という黒い渦がはっきりと見えた回でした。

第29回「異変」 現実世界とリンクする心苦しいリアリティを視聴者も受け入れている!?

こんばんは。
先週の内容に関しては、報道では概ね好評の模様です。

◆【真田丸】新納慎也、元“うたのおにいさん”が豊臣秀次を熱演 | ORICON STYLE

◆「真田丸」三谷幸喜氏独自の歴史解釈による「秀次事件」に称賛

SNS等での感想は賛否があったようですが、敢えて一石を投じることをおそれない本作の姿勢はやはり見事だと思います。本作スタッフは、歴史への愛と、通説を覆す勇気の旗をちゃんと掲げていますよ。

さらにこんなニュースが。これは驚きの再現度です!

◆山本耕史「真田丸」田んぼアートに感激!三成激似「思いもせず」 ― スポニチ Sponichi Annex 芸能

そしてこちら。マップでコラボしたコーエーテクモが、さらなるコラボを実現しました。

なかなかおもしろい試みだと思います。

◆『戦国無双 ~真田丸~』2016年内に発売決定! 描くのは真田幸村、48年間の生涯 – ファミ通.com

さて今週は……。

 

新妻・春(吉継娘)の挨拶はちょいとピリピリ

秀次の死後、政治の中心は伏見に移りました。

信繁は大谷吉継の娘・春を正室として迎えます。これで徳川の重臣・本多忠勝、豊臣の重臣・大谷吉継と姻戚になったと喜ぶ真田家の面々。このとき信幸が、母・薫の経歴詐称疑惑について切りだします。ここで昌幸がネタ晴らし。

「菊亭晴季の娘ではなく、菊亭晴季の母に仕えていた侍女だ。武田信玄公にならって公家の娘を妻に迎えたかったんだが、誰も話に乗ってこなくて、唯一引っかかったのが薫」

アッ、ハイ。まあそんなところですよね。田舎大名の家臣、しかも三男の嫁に来る京都の公家娘なんて、そんなわけありですよね。それでもお姫様扱いして綺麗な服を手配する昌幸、なんだ優しいじゃないですか。名門貴族の侍女なら、教養や気品があるのも納得ですね。

「これしゃべったって薫ちゃんにはバラさないでね、バラしたら俺殺されちゃう」と息子たちに釘を刺し怯える、妻には弱い昌幸でした。

その薫は、嫁の春は信繁の前妻・梅(黒木華さん)に似ているそれとなくほのめかします。

「確かにお梅さんに似ていますね」
と口を滑らせたそのことをおこうを止める信幸。
さらにそこで稲が
「私も前妻に似ていますか?」
と嫌味をチクリ。

ここで薫の出自にも話がおよび、春が「菊亭晴季卿は関白失脚に連座して皆大変なはずなのによくぞご無事ですね(秀次の継室が菊亭晴季・娘のため、彼も連座し罪に問われた)」と感想を漏らします。これ以上つつかれたらまずいぞ、と男たちは必死で話をそらそうとします。

新婚の夜、信繁は新妻・春に、先妻である梅のことも忘れられないと正直に話します。春も納得した様子です。

霜月けい真田丸真田信繁

 

就寝中に失禁し、老いを隠せない秀吉の狼狽

そのころ秀吉は、何と就寝中に失禁してしまいました。目撃した石田三成は宿直の信繁に「久々に酒を飲んだためだ」と言い訳。三成と信繁は失禁をごまかすため、信繁が片桐且元の注意をひきつけ、その間に三成が寝具を処理することにしました。信繁に騙されているとは気づかず、胃痛仲間が増えたとちょっと嬉しそうな且元が不憫です。

三成と二人きりになった信繁は、秀吉は最近難度も同じことを繰り返す、怒りを抑制できなくなっていると指摘します。三成は以前からだとはぐらかし、信繁の新妻・春について話をそらすのでした。三成は「春には苦労する」とほのめかしますが、その真相はいかに……?

秀吉は三成を呼び出し、自らの死後の政治体制を相談します。拾(秀頼)元服まで関白は不在とし、三成ら奉行衆に政治を任せたいとの意向です。

真田丸石田三成

寧は、夫・秀吉の好物である「生せんべい」をこしらえ、元気をつけてもらおうと考えています。ちなみに「生せんべい」は現在も愛知県で販売されているそうで。

寧は、秀次の死後、落ち込んでいるきりにも気を遣う懇親っぷり。侍女・わくさ(キリシタン大名小西行長の母・洗礼名マグダレナ)が、きりに用事を頼みたいとのだと言います。わくさはきりに、細川越中守(忠興)妻の玉にあるものを届けて欲しいと頼みました。
このわくさですが、二年前の『軍師官兵衛』ではマグダレナという洗礼名で、石野真子さんが演じていました。あの作品ではロザリオを首にかけ、しょっちゅう秀吉の悪口を言っているという役所でしたが、今作ではどうなるのでしょうか。

 

伏見城の普請現場に昌幸はおらず!?

こうしてわくさの使いをすることになったきりは、伏見城の建設現場に向かいます。

昌幸はおらず、不機嫌そうに普請をこなしているのは信幸。きりは大工の吉蔵から、洗礼名フランシスコから見事な台座のついた十字架を受け取ります。どうやら吉蔵は熱心なキリシタンのようです。

きりはその帰り、薫の元に立ち寄り。【昌幸が仕事をサボタージュしている】という情報をアッサリ話してしまい、不信感を増長させてしまいます。というか、薫の直感は正しく、昌幸は昼間から吉野太夫の元に入り浸っているのでした。昼間から女遊びする殿なんて見たくないぞ、これは俺の惚れた殿ではない、と出浦昌相は不満げです。

きりはその帰り、廊下で春と出会います。春は笑顔で厳しい一撃を放ちます。

「どこに言ってもウザいと言われるきりさんですね!」
なかなか煽ってきます。一応謝るのですが、天然でしょうか。ところがきりは何故か喜びます。
「すごい、私とお梅ちゃんのよいところを兼ね備えている!」

一体どういう評価なんだ!

薫は信幸を呼び出して肩を揉ませながら、詰め寄りいます。

「お父さんのキャバクラ通いのこと知っているんでしょう!」

「もうやめて! 働き通しでもう精神がもたないよ!」

たまらず信幸はその場から逃亡。ストレスのはけ口を元妻・こうに求め、抱き寄せます。しかもその帰り、稲に捕まり「元妻といまだに関係するとはどういうつもり? 馬鹿にしてんの? 言いつけてやる、全部父(=本多忠勝)に言いつけてやるんだから!」と、デレてるのか怒っているのか、わからない迫られ方をされた上、抱きつかれます。ギャルゲーかい! ここでこうデレるんか~い!

霜月けい真田丸真田信幸

 

秀吉と家康がご対面 ボケ発言に三成は動揺するのみ

ある日、徳川家康は伏見城に呼び出されます。

家康との面会前、秀吉は寧から生せんべいをすすめられます。しかし秀吉はまずい、こんなもの食べたことないと怒り出したのでした。おおっとこれは、味覚障害でしょうか。

秀吉は家康に、自らの死後の政治について念押しをします。拾の元服まで関白は不在とし、家康を要とした大名による合議制にしたいとのこと。これには横で聞いていた三成が動揺します。ついこの間は、三成ら奉行に任せると言っていたはずです。そして家康にあとを任せるという秀吉の判断が、豊臣の崩壊を招くことになるのです。

真田丸豊臣秀吉

真田丸徳川家康霜月けい

信繁は異変を感じ、舅である大谷吉継に相談します。こんな時に限って、豊臣を支える吉継は不調なのです。顔は苦しげで首には何か浮腫があるのか布を巻いています。その隙間からは皮膚の病変が見えます。

きりは十字架を届けるため、細川忠興の妻・玉(洗礼名ガラシャ・明智光秀の娘)の元に向かいます。キリシタンと賛美歌を歌う玉。きりは秀次からもらった絵をガラシャに見せ、誰が描かれているのか尋ねます。玉は、この絵は聖母マリア像であり、送り主はきりを守るために渡したのだろうと説明します。
おつかいが終わったきりに、寧はキリシタンへの理解を語ります。寧はここでも何かの生地をこね、お菓子作りに精を出しているようです。

 

「なんで殿下は同じことを繰り返すんだ?」

真田屋敷では、薫が昌幸の浮気を追求中。材木調達のため大坂に行ったとかわす昌幸ですが、薫は騙されません。さらに薫は出浦昌相にも詰め寄るのですが、昌相は忍術で脱出してしまいます。

昌幸は信幸が描いた伏見城の設計図を見て怒り出します。

「お前の築城プラン、全然駄目だろ! こんな平城じゃ駄目だ、高台に出城を作れ」

真田丸真田昌幸霜月けい

昌幸はえらそうにダメ出ししますが、ならさっさとやれよと。ここで昌幸の闘志に火が付き、難攻不落最強の城を作ってやると言い出します。やっと本気になったのはいいけど、ちょっと遅いよ!

家康は再度秀吉に呼び出され、前回とまったく同じ、秀吉死後のプランを聞かされます。これを聞いている間、家康や三成は困惑しきり、けれどそれを秀吉に悟られないため絶妙な表情になります。

真田丸豊臣秀吉

真田丸徳川家康霜月けい

「なんで殿下は同じことを繰り返すんだ?」
そう疑問を持ち出す家康相手に、三成と信繁は異変を悟られないようにポーカーフェイスで返します。秀吉の異変は豊臣最大の秘事となったのでした。さらにこの間、吉継の病状はどんどん悪化していきます。ついには手にはしる激痛で筆を握れなくなってしまう吉継。

寧は秀吉のため、今度は秀吉が褒めていたビスケットを作ります。しかし秀吉はバターの臭いを嫌がり、臭いと投げ捨てるのでした。これは完全に味覚障害ですし、ヒロインが心をこめて作ったスイーツを作れば万事解決していた、昨年を完全否定している流れとも言えるでしょう。そうだそうだ、現実はスイーツを食べればおさまるほど甘くはないんだ!

伏見城を完璧な城にすべく張り切る昌幸。久々に生き生きとした父の姿を喜ぶ信繁でした。

その帰り道の廊下で、信幸は弟に重大な告白をします。なんと初めての子ができたものの、妊娠したのはおこうでした。これがばれたら舅に殺されるからと黙っていた信幸。しかしここにきて新事実、なんと稲の懐妊も発覚したのでした。それでも結局おこうが先に妊娠しているのでは、忠勝の心証はよくないのではと思ってしまいましたが、何とかなるのでしょう。

 

捨のために父でありたいのじゃ……って、拾では?

真田父子が伏見城を普請していると、張り替えたばかりの畳をまた張り替えると大工がやってきます。なんとごく小さな段差で転びかけたため、畳みを厚くするとのこと。わずかな段差に転ぶ秀吉に、驚きを隠せない信幸です。

秀吉はまた三成に、死後の政治体制について念を押し始めます。流石に三成がそれを指摘すると秀吉は顔色を変え、三成のみを下がらせ信繁を残します。ストレスのない環境でしばらく休んだら、とアドバイスする信繁ですが、秀吉は自らの衰えぶりにおそれおののきます。ここで「捨」のために頼りがいのある父でありたいと語る秀吉……あれ、捨は亡くなった子で、今生きているのは拾ですよね。うわーっ、この場面、恐ろしい。

三成は寧に秀吉の衰弱ぶりを危惧する言葉を伝えると、寧は「あなたたちが何もかも押しつけているからではないか」と叱責します。三成は寧に医者の診断を伝え、今後ますます悪化する見通しを伝えるのでした。ここで穏やかな寧が急に厳しくなるのがよかったと思います。

三成は茶々と拾の親子にも面会し、茶々になるべく拾と過ごす時間を作って欲しいと頼みます。しかし茶々は、むしろ老いさらばえた姿を拾に見せたくないと拒みます。息子の記憶には、強い父を焼き付けたいのだと。信繁がそんなことを言わずに秀吉の気持ちを考えて欲しいと言うのですが、茶々は秀吉のことを配慮してのこと、とピシャリ。双方の気持ちがわかるぶん、つらいです。

信幸は差し向かいで飲む信繁に、秀吉の様子について尋ねます。信幸は今後天下が乱れたら、徳川重臣の婿として働きたいと語ります。さらに信繁に、お前は豊臣に深入りし過ぎている、真田のために豊臣に近づいたことを忘れてはいないか、と釘を刺します。

そこで信幸はもう一度秀吉の様子を信繁に尋ねますが、信繁は変わりないとはぐらかします。ここは犬伏への伏線ですね。

人々が異変に不安を覚える中、文禄五年(1596)閏七月十三月日未明、マグニチュード8クラスの大地震が伏見を襲います。信幸は稲とおこうの無事を確かめ、信繁は秀吉の様子を見るため出かけます。昌幸は女のことを見に行こうとするのかと止める薫を引き離し、伏見城建設現場へ。

完成間近の天守閣は倒壊、一から作り直しとなったのでした。

 

今週のMVP

老耄演技が恐ろしいほど迫真に迫っていた秀吉。次点で、そんな夫の衰えぶりを見ないようで見ている、寧の複雑な心のあや。

 

総評

本作の特徴として妙なリアリティがあげられると思います。先週までの秀次が追い詰められていく鬱病の心理、そして今週からの秀吉の老衰ぶり。

老衰そのものが悪いわけではありません。人は誰しも老いるものです。問題は、誰もその老いを指摘できないことです。老いて判断力が鈍った組織のトップと、それを指摘できない周囲というのは、大変危険であることは日々ニュースを見ていればわかることです。国民的アイドルグループの価値もわからずパワハラを繰り返す芸能事務所重役。いつまでたっても引退しない会長が人事に口を出す大企業。そうしたゴシップ、企業の御家騒動ニュースと今回の展開を比べると、あまりにリアルで嫌になってくるほどです。

この現実世界とリンクしたリアリティは賛否両論でしょう。

しかし賛否にかかわらず、大河や歴史ドラマとしてはこちらの方が今後のスタンダードになりうる気がします。かつての大河ドラマは、ともかく豪華でスケール感があり、非日常的な世界観を楽しむものでした。私も創生期から見ていないのでえらそうなことは言えないのですが、大河の魅力とはお茶の間にいながらにして、現実のせせこましい世界から遠くはなれる魅力があったのだと思います。それが今は価値観の変化か、そういう非現実的な豪華さが求められなくなってきているのではないか、と思うのです。

これは何も大河だけではなく、私が繰り返し取り上げてきている『ゲーム・オブ・スローンズ』のような海外作品でもそうではないかと思います。

今の歴史ドラマ視聴者は、歴史ドラマを見ながらハッシュタグでツイートし、感想を読みあい、ファンアートを描き、ネタやコラ画像を作り、コスプレを楽しみます。現実のニュースとドラマの展開を比べ、皮肉な要素や普遍の共通性を見いだそうとします。

そういう「今どきの」視聴者に媚びてどうするのか、という意見もあるでしょう。しかし時代はそう変わってしまった。スマホ片手に楽しめて、身近に感じられる物語の方が今の視聴スタイルにあっているのです。

本作は21世紀の大河を作り上げるうえで、極めて健全なアップデートを行っている作品です。それには勇気が不可欠ですが、今週はラストでリアルな地震描写を入れて逃げなかったことで、またも勇気を示しました。本作は歴史への愛と変革への勇気を掲げてもいいんだ、と示す作品です。

物語の描写は見ていて気が滅入るような展開尽くしですが、それでも見たいと思わせるのは、根底に健全極まりない勇気があるからでしょう。

第30回「黄昏」 それでも信繁が義を貫かねばならないゆえの懊悩

こんばんは。今週は放映時間が前倒しです。番組側もSNS等で告知したようで、早速本編へ。

地震で倒壊した伏見城。加藤清正はいち早く伏見城に駆けつけ、被災者の救助にあたります。この地震の影響で伏見城は木幡山に移動することになります。もともとそこに目を付けていた昌幸は喜びますが、石田三成は「戦う城ではなく、居住用に切り替えるから、あなたは堀の普請に回って欲しい」と昌幸に告げるのでした。伏見城を己の築城の集大成にしたかった昌幸はガッカリ。

その矢先、土佐にスペイン船サン=フェリペ号が漂着します。七十万石に及ぶ積み荷を秀吉は己のものにしようとしますが、信繁が諫言します。船の積み荷を勝手に奪ってはならないと五年前に布告を出したのではないか、罪のない船から積み荷を奪ってはいけない、と。

これを聞いた秀吉は「罪がないなら罪をつくればよい」と言い出し、バテレン追放令を持ち出します。秀吉は船の積み荷収奪だけではなく、犠牲者の耳と鼻をそぎ磔にするという、凄惨なキリシタン迫害へと飛躍します。秀吉への信繁の進言はいつも裏目に出てしまうのでした。

 

秀吉の異変に気がついた家康と正信が動き出す

細川忠興の妻・玉(ガラシャ)のキリシタン仲間にもバテレン追放令の手は及びます。この信者の集会には、きりの姿も。先週出てきた大工のフランシスコ吉蔵は、自ら志願して捕縛されてしまいます。吉蔵は殉教者になることを選んだのです(日本二十六聖人の殉教)。

このあたりの事情は複雑です。バテレン追放令を受けて布教活動を控えめにした古参のイエズス会とはちがい、新参者のフランシスコ会は堂々と布教しており、それが秀吉の怒りをかったとか、様々な要因があげられます。またこの事件は、のちに関ヶ原前後に起こるオランダ船リーフデ号の漂着と比較するとなかなか興味深いものがあります。

秀吉の蛮行に、信繁や大谷吉継は心を痛めます。一方、徳川家康と本多正信は、秀吉は衰えているようだと疑念を深めます。正信は手を打ち、情報を集めることにしたようです。

堀普請のやる気がうせた昌幸は、連日吉野太夫の元に入り浸っているようです。この艶っぽい美女を目にして、何か気にかかるのか、訝しむ様子なのが出浦昌相……。

真田丸本多正信霜月けい

 

諸将が見つめる中で思わず漏らしてしまった秀吉

秀吉は明との和平交渉にのぞみます。

しかし明側の文書に、日本側を下に見て日本国王にすると書いてあったため、秀吉は激怒。こうして水面下で多くの人々が勧めてきた和平交渉が白紙に戻ります。またも日本の大軍が渡海することになるのですが、ここでアクシデントが。

怒りの形相の秀吉の足下から、何か液体が漏れます。

真田丸豊臣秀吉

信繁が「拾様が粗相しました!」と誤魔化しましたが、秀吉の失禁であると周囲にはわかったはずです。ちなみに今週は医事考証がついているので、老衰の描写が何ともリアルです。

長らく渡海していた加藤清正は、久々に秀吉に面会します。面会前、石田三成は「秀吉が衰えたからと涙ぐんだりするな」と釘をさしていました。しかし清正は、やせ衰えた秀吉から息子の拾のことを頼むと言われてしまい、こらえきれず泣き始めます。

三成の目はあきれるようであり、素直すぎる清正をうらやむようでもあります。

 

義を貫くことがこれほど苦しいとは

信幸は信繁から秀吉の病状を聞きだそうとしますが、信繁はかわします。信幸は検地が進んでいない本領に戻ると信繁に告げます。兄と別れたあと、信繁は妻の春に「私は兄を裏切っている。そして兄に私の心はお見通しだ」とこぼすのでした。

信繁は憧れた二人の人物、真田信尹と上杉景勝からかつてこう言われました。

「わしのようにはなるな」

生きるために人としての道、家のために信念を曲げた二人は、信繁に「義を貫け」と託したのです。そのおかげで今、息を出来ないほど苦しいと吐露する信繁。義を貫くことがこれほど苦しいとは、と漏らします。先週の信幸の読み通り、信繁は豊臣家に深入りするどころか、運命の糸にからめとられているのでした。

霜月けい真田丸真田信繁

沼田に戻った信幸は、豊臣政権はあやうい、戦乱にそなえ天守閣を建設すると告げます。ウォーマシン矢沢頼綱(昌幸の叔父、信繁・信幸にとっては大叔父、矢沢三十郎の父、80歳)は喜び、雄壮なBGMを背景に生きているうちにまた戦に出られそうだわいと張り切り、こう言います。

「床の上で死ぬわけにはいかんわ!」

その後、「矢沢頼綱は、このあと戦場に出ることなく天寿を全うした」と語られ、ナレ死するのでした。二コマ落ちかよ!

 

秀頼は5歳という異例の若さで元服す

秀吉の状態はますます悪化し、部屋からいなくなったかと思うと「千利休が呼んでいる」と言い出すほどです。もう信繁の役回りが、ボディガードというより介護士。こうした状況の中、三成は僅か五歳の拾の元服をすすめます。

豊臣秀頼の誕生です。

三成曰く、武家では異例でも公家ならばこの年齢での元服はあることなのだとか。それにしても、人形のように可憐で幼い子が元服するというのは異常です。家康はこの状況をますますあやしみ、正信はほうぼうに情報網をはりめぐらせます。

大坂城から城下を眺める秀吉は、人生の目的を達成できていないと語ります。平清盛のように、自らの都へ天皇を連れて来ることが秀吉の最終目標だったとか。信繁はその宿願を秀頼がきっと成し遂げます、と秀吉を励ますのでした。

この場面、城から見える大坂城下のCGと、金色に輝く夕日が綺麗です。今週は「黄昏」のイメージか、黄色いライティングが印象に残る場面が数カ所あります。

真田丸石田三成

 

茶々の無茶振り発動「秀頼が花咲か爺を見たいって」

慶長三年(1598)、秀吉は上杉景勝を呼び出し、越後から会津への移封を命じます。表向きは伊達の押さえですが、本当の目的は徳川を北から見張って欲しいと、秀吉は景勝に告げます。

徳川によからぬ動きがあれば、会津から関東に攻め込み秀頼を助けて欲しいと頼みながら、景勝の手を握る秀吉。これは完全に関ヶ原の伏線ですね。相変わらず直江兼続が冷たい顔で、この場面を眺めています。兼続には、こんなふうに湿っぽく頼まれたら景勝がその期待に応えないはずはない、とわかっているのでしょう。

真田丸上杉景勝霜月けい

この年、秀吉の人生最後の大イベント、醍醐の花見が開催されます。女たちを中心に千三百人を呼び出した晴れの舞台。そのわりにはちょっと狭苦しいのは、仕方ないでしょう。桜のセットと、ずらりと並んだ女性たちの衣装は見応えがあります。

花見の席で信繁はきりとすれ違います。キリシタンになりたいというきりに「やめておけ」と信繁は即答。花見はなごやかに進んで行きますが、ここで茶々が「秀頼が花咲か爺を見たいって」と、ろくでもないことを言い出します。空気を読めというか、一体この人は何を考えているのでしょうか。結構な死神気質です。

先週、茶々は我が子が第一なのだと説明されていましたが、だからってこれはないでしょう。信繁や三成、寧ら周囲がはらはらしつつ見守る中、秀吉は木に登ります。

息子のために張り切って花咲か爺の真似をした秀吉は、足を踏み外し木から転落、腰を強打します。その場は何とか取り繕ったものの、これ以来秀吉は歩行できず、寝たきりとなってしまいました。

そうなんですよ、お年寄りが転落や転倒で骨折し、寝たきりになって急激に容態が悪化するのはよくあることなんですよ。本当に本作は、胃が重たくなるようなリアリティをつきつめていくスタイルです。

 

真田か豊臣か、はたまた徳川か 揺れ動く信繁と信幸

そんな中、稲はおこうを呼び出しある事実を告げます。

この二人のお腹は平らになっていますから、出産はもう終わったようです。さらに稲は、本多正信から密書を受け取って内情を探るよう言われていたと、信幸に告白します。正信の狙いは、信繁経由で秀吉の容態を聞くこと。なぜそれを告白するのかと尋ねた信幸に、稲はここでやっと「私はあなたの妻で百助(信幸と稲の子、のちの信政)の母」と、デレたことを言うのでした。

信幸は信繁を呼び出し、また秀吉の容態を聞きだそうとします。

秀吉の容態を徳川に流すことで、徳川の反応を試したいと信幸は信繁に提案。信繁は板挟みの苦悩を舅である吉継に相談します。吉継は己の決めた道を進むがよい、とアドバイス。ここはそうとしか言いようがない気がしますね。吉継は利休事件のように己の手を汚すこともありますが、基本的にまっすぐな人です。

信繁は意を決し、秀吉の容態を信幸に伝えます。この場には昌幸も同席しており、信繁の話を聞いています。「秀吉は花見以来容態が悪化し、弱っているのは明白、もう回復の見込みはない」と語る信繁です。信繁の胸中、決断の理由は明かされません。兄に嘘をつき続ける苦しみに屈したのか、それとも兄の提案に乗ったのか。

霜月けい真田丸真田信幸

 

ゲイシャ! ニンジャ! 外国人が喜びそうな戦国劇も

息子の会話を聞いていた昌幸は、吉野太夫にこの情報を漏らしてしまいます。吉野太夫はその場を一時退席しようとしますが、そこに出浦昌相があらわれ、太夫の腹へ刃物をブスリ!

驚く昌幸に対し昌相は、吉野太夫の隠し持ったくないを示し、彼女は忍だと明かします。さらに佐助が、本物の太夫は京の廓にいると補足。昌相は目を見て同類とわかったとか。太夫は本多正信の情報網のひとつだったようです。ちなみに設定としては、今回の吉野太夫だけが別人に入れ替わっているそうです。

真田丸出浦昌相霜月けい

それにしてもこの短い場面、なかなかグローバルです。海外に展開するなら、この場面は最高。海外の戦国モノは、強引にニンジャとゲイシャをねじこんできます。吉野太夫はゲイシャではないというツッコミはいりません。和風セクシーな水商売ガールはゲイシャですから。ニンジャがゲイシャを殺すなんてブラボー!に決まっています。

この偽吉野太夫の主君は誰かと言いますと、本多正信でした。「役立たずめ」と吐き捨てる正信はまさに悪企みをする嫌なおっさんで、これまたなかなか味がありました。

 

ついには信繁の顔すら分からなくなってしまった

信繁の言葉を受け、信幸は舅の本多忠勝の元に向かい、秀吉の容態を告白します。さて、徳川はどう出るか。

浮気相手がいつのまにか忍になっていて、しかも死んでしまった昌幸は、薫の元へと戻ります。久々のイチャイチャタイムを堪能していると、おこうが孫の仙千代を抱いてあらわれます。そこへ稲も、同じく孫の百助を抱いて登場するのでした。

真田丸真田昌幸霜月けい

一方、大坂では、己の老い先が短いと知った秀吉が形見分けをします。

徳川家康には明の水墨画、片桐且元には金子十五枚、石田三成には金子五十枚と脇差。三成は一瞬固辞しますが、再度促され受け取ります。きっと三成は、のちにこれをすべて軍資金に回すのでしょう。三成が「信繁にはないのか?」と尋ねると、秀吉は「知らん」と一言。三成と且元は、まだ仕えて日が浅いから仕方ないと信繁を慰めます。

信繁がその後秀吉の側に控えていると、秀吉が起き上がり話しかけて来ます。

ここで繰り返されるのが、第十四回放送「大坂」でのやりとりです。

あれから月日が流れ、輝いていた日輪の子は今沈みかけています。黄色みを帯びた照明が、「黄昏」の寂しさを引き立てます。信繁はよちよちと歩く秀吉を床まで導き、幼い子どもをあやすように寝かしつけるのでした。

信繁が寝かしつける老人は英雄ではなく、かつて英雄だった人物の抜け殻のようでした。

 

今週のMVP:真田信繁&信幸

秀吉、実は別人に入れ替わっていた吉野太夫もよかったのですが、兄弟で。大坂編クライマックスで二人の成長や変化がよくわかりました。

領主として貫禄を見せてきた信幸。板挟みに苦しみつつも、老いた秀吉に細やかな配慮を見せる信繁。どちらも素晴らしいと思います。

 

総評

秀吉の死を前にして皆様々な思惑のもと動いていますが、そんな中で信繁がいかに進むべきか、生きるべきか迷っていると示されました。そしてこの激動の中、信繁がたのみとするものが「家族」ではなく「義」に変化しました。そのことを必ずしも肯定的に描いていないのも、本作の意地の悪さだと思います。

信繁が「義」を貫く豊臣政権は無茶苦茶です。

積み荷を奪うためにキリシタンを弾圧する非道っぷりはむろんのこと、肝心の秀吉その人は信繁のことを忘れている始末。そもそもこうなる前の秀吉だって、決して仕えてよい主君ではありませんでした。そのことは、落首事件、朝鮮出兵、秀次事件を通しで信繁自身がよく知っているはずです。

今まで丁寧に、豊臣政権が日本を支配することはよろしくないと描いて来て、それでも主人公にその政権への忠誠を誓わせるというのは、なかなかおもしろい点だと思います。

そうした描き方だからこそ、信繁の選択がいかに苦く、辛いものであったかわかります。しかも信繁がそうした選択をしたのは、真田信尹と上杉景勝の言葉のせいもあったと劇中で語られるわけですが、本当にそれでよかったのだろうかと、どうしても考えてしまいます。

本作のコピーは「今だって、愛と勇気の旗をかかげていいんだ」でした。そのコピーも、ここまで進んできたらやっと意味がわかってきました。信繁は迷い、苦しみ、そんなもの掲げない方がいいとわかっていても、敢えて旗を掲げるのだと。

「義」に生き、貫く痛みと苦しみを、今週の信繁は表していたと思います。

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