真田丸レビュー

『真田丸』全50話の感想レビュー38万字を一挙公開!

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第31回「終焉」 真夏の夜に寒気を感じる、孤独で無様な秀吉の死

こんばんは。
リオ五輪がいよいよ開幕しました。放送日程にも今後影響があるかもしれません。
選挙と五輪と、なかなか視聴率的には厳しい試練、さらに数字が落ち込む夏本番です。果たして今年はどうなるのでしょうか。
先週はこんな「オーパーツ」事件が話題になりました。本能寺の満月ミスに続くカットとなったようです。

◆大河ドラマ「真田丸」に“紙おむつ”が映り込み視聴者騒然 → 再放送ではカットに – ねとらぼ

 

目次

目次

秀吉亡き後を巡り水面下での権力闘争が激化

さて本編です。いよいよ最期の時が迫る秀吉。信繁は枕元に鐘を置き、ナースコールとして使うように秀吉に説明します。
ところが秀吉は何度もしつこくこの鐘を鳴らすのでした。先週に引き続き相変わらずリアルな描写で視聴者のSAN値を削りにかかっております。

石田三成は秀吉死後の人事案を練ります。本作は従来の「五大老」ではなく「老衆(おとなしゅう)」という名称を用います。来週続々と登場予定ですが、現時点ではとりあえず老衆・徳川家康、五奉行・石田三成という対立構造を頭に入れておけばよろしいかと。ちなみに奉行には大谷吉継の名もあがっていたのですが、病が悪化している吉継は固辞しました。三成はかなりショックを受けている様子です。

三成は今後暴走しそうな家康を止めるべく奔走することに。
その家康の謀将二名、本多正信と阿茶局は「ここはもう、天下を取るしかありえない!」とけしかけ始めます。
となると邪魔になってくるのは、行動を制限する奉行の三成です。三成は先手を打ち、自らが九州で朝鮮から撤退する軍勢を迎える間、伏見であやしい動きをしないように、と家康に告げに来ます。

家康は「そんなに留守が不安なら、私が九州に行こうか」と提案するのですが三成は一蹴。戻って来た軍勢を率いて謀叛を起こされたら困る、というわけです。
「チッめんどくせーな。わかりました、留守を守るからね〜」
本音を隠して三成をあしらう家康ですが、もちろん約束を守る気なんてさらさらないわけです。そこで、正信がある策を提案。
「こちらに都合のいい新しい遺言を、秀吉に出させればいいんですよ」
おお、火曜サスペンス劇場じみてきた! 今も病院でよくあるパターンだ、遺産をめぐって親族が揉め出すパターンだ!

真田丸本多正信霜月けい

 

五奉行を排除した遺言書をムリに書かせ……

一方、真田昌幸は孫二人(信幸の子、仙千代と百助)を膝に乗せ、「鬼に犬を使者として送り込んで、油断したところを一気に討ち取る」という、桃太郎謀略風味を聞かせています。あの油断のならない昌幸も、すっかりよいおじいちゃんになってしまいました。

家康、本多正信・正澄父子は、織田信長拝領の甲冑を持参し、秀吉の病室に乗り込みます。留守番をしていた片桐且元は、これを止めるうえでまるで役に立ちません。

家康は秀吉の半身を起こし、筆を無理矢理握らせると、「秀頼のことを頼む」と繰り返す秀吉を罠にかけます。遺言の内容は言うまでもなく、五奉行を排除し、老衆だけで物事を決めてもよいというものでした。悪いなあ、本多正信、このおっさん、本当にワルいよ!

このことを知った三成は当然ながら激怒。且元を叱り飛ばします。三成は策をめぐらし、遺言状の行間に「五奉行のこと」を加筆することにし、さらに末尾に「以上」と書かせこれ以上加筆できないようにします。

強引に秀吉を再度起こし書かせるわけですが、秀吉は体力を消耗しているのか「眠い」とつぶやきます。その瞬間三成は「眠くはないッ!」と一喝。三成の秀吉への敬意を知っていると驚きの場面です。ところがこの声が寧に聞こえてしまい、いい加減にしろと怒られてしまいます。うーんやっぱり、生々しい。

一方、刻一刻と秀吉の死が迫るのに、茶々は秀頼を父親にあわせようとはしません。茶々は「元気なころは隠れていた、秀吉の心の卑しさ、醜さ、冷たさまで秀頼は感じてしまう」と信繁に漏らします。そういえば秀吉と茶々のカップルって、かつてあった親愛の情が今はすっかり消えたように見えます。もしかすると、はじめから茶々の方にはそんなものがなかったのかもしれませんが。

 

家康を殺してやってもいいぞ

すっかり好々爺になった昌幸を焚きつけるのは、出浦昌相です。秀吉死後の天下動乱を期待する昌相は、さらに家康も殺してやってもよいぞ、と主君に持ちかけます。角が取れた昌幸は流石に引き気味。

この頃、最強の舅こと本多忠勝は孫の顔を見るため、真田邸にやって来ておりました。祖父・忠勝に抱かれ、本気で泣いている百助。一方、仙千代は母のおこうに抱かれて隠れ潜んでいます。薫はうっかり百助を仙千代と呼んでしまい、周囲からたしなめられます。

実は信幸は仙千代の存在を舅に打ち明けておりませんでした。やっぱり正室側室ほぼ同時懐妊は伝えにくかったか……ここで昌幸が息子を叱ります。

「何をぐずぐずしておる。世の中先延ばしにしてよいことなぞ、何一つない!」

この一言にしらける一同。上洛をさんざん引き伸ばして痛い目にあったのは誰でしたっけ? そうです、昌幸です。

信繁はきりから寧の手作り菓子(おそらく生せんべい)を渡されます。秀吉を憐れむ信繁にきりは「今までさんざん悪いことしてきたんだから、自業自得でしょ」と冷たく言い放ちます。二人は秀吉の死後どうなるのか、語り合います。そこへ、家康が来訪しているとの知らせ。一人残されたきりちゃんは、思い人の間接キッス狙いか、食べ残しをパクリと口に運びます。

最近おとなしくなったきりですが、相変わらず個性派ヒロインぶりは健在です。よいこの模範的ヒロインなら、どんな嫌な奴でも死にかけているとなれば眉をくもらせ「おかわいそうに」なんて言うはずです。思ったことをハキハキと口にするきり。さらに食べ残しすら口をつけてしまう行儀の悪いきり。この型破りぶり、嫌いじゃありません。

 

「天下の覇者のわびしい最期に、諸行無常を感じている」

秀吉の枕元で家康は、「先日は手荒なまねをしてしまった」と反省の弁を漏らします。これはおそらく、半分本心でしょう。遺言偽造の時、本当に悪い顔で笑みすら浮かべていた本多父子とちがって、家康は若干後ろめたそうな顔をしていましたからね。秀吉のように振り切った悪に染まりきらないのが、家康という男なのでしょう。

信繁は家康に応対しながら、秀吉の枕元にある燭台を取り替え「この火は絶やさないようにしています。これが消える時が、命の消えるときなのです」と語ります。「最後の一葉」のようですね。

家康は秀吉の様子に、「天下の覇者のわびしい最期に、諸行無常を感じている」と語ります。さらに続けて「本当は戦なんて大嫌い、伊賀越え(第五回)は一度でたくさん、戦場で命からがら逃げ惑うのはもうごめんだ、秀吉の死で天下を乱れるのは困る」と本音を語ります。
残念ながら、家康は最晩年に今目の前にいる男=信繁から命からがら逃げ回ることになるのですが。

真田丸徳川家康霜月けい

霜月けい真田丸真田信繁

そこへタイミングよくやって来たのは、秀吉の甥である小早川秀秋です。おずおずと偉大な叔父に近寄った秀秋の言動はどこか奇妙です。「お元気で」と死にかけの病人に声をかけ、秀頼について頼まれたところ「できる限りで」という、どこか迷いのある返事です。さらに秀秋気を利かせた信繁と家康がふと離れたと隙に、あの大事な蝋燭を吹き消してしまいます。思わず叫んでしま信繁、家康、そして秀吉。この夜から秀吉の容態は急変します。
この秀秋が蝋燭を消すという構図、解説するのも野暮ですが、のちの関ヶ原での伏線となります。

 

褌一丁の三成が二度目の水垢離

秀吉の死が迫り、今夜が峠となった今、信繁は茶々の元へ向かいます。大蔵卿局から茶々の死を恐れる心を聞かされている信繁の前に、秀頼の手を引いた茶々本人があらわれます。茶々は覚悟を決めたのか、どこかさっぱりとした顔です。

ここで三成、二度目の水垢離(みずごり)。今度は下半身まで映り、褌一丁の尻まで見えます。前回(第二十五回)は上半身のみでしたので、サービス度がアップしています。サービスシーンに前のめりな今作スタッフの姿勢、嫌いじゃありません。

真田丸石田三成

毎年大河のゴシップ記事で「テコ入れのためにヌードシーンか?」という記事が出ます。毎年外れますが、今年は当たっているようです。ただし、ゴシップ記事が要求する裸体は女優で、大河が実装してくるのはビルドアップされた男の肉体という大きな違いがあります。

茶々は気丈に振る舞おうとしますが、それ以上に立派な態度なのは幼い秀頼でした。

茶々の言葉通り、秀頼は聡明そうな目をしています。茶々は甘えるような声で秀吉に呼びかけますが、耐えきれず泣き出して寧に慰められます。茶々の甘い声を久々に聞きました。鶴松の死以来、彼女は明るい声すら出さなくなっていたのです。

その夜、秀吉は馬の駆けてくる音とともに、不気味な夢を見ます。枕元の信長の甲冑が光り、血を滴らせた少年の幻影が秀吉の前にあらわれます。恐怖のあまり秀吉は絶叫。

この少年はちょっとわかりにくいのですが、公式サイトの小日向さんのインタビューによれば、浅井万福丸だそうです。

万福丸は茶々にとって兄にあたる浅井長政とお市の方の間に産まれた嫡男です。かつて秀吉は、浅井の血を引く男子である万福丸を、後顧の憂いを絶つために磔にして処刑しました。その万福丸の幻影が示唆するのは、「後顧の憂いを絶つために、幼い子だろうが容赦なく殺す者はいる」ということでしょう。

錯乱した秀吉は、駆けつけた三成に「家康を殺せ」と告げます。三成はここでいったん、秀吉の精神状態を確認すべきだったと思いますが、この言葉を額面通り受け止めます。

 

三成ついに決断 家康を殺してくれと昌幸に

三成は真田屋敷にやってくると、昌幸に「家康を殺せ」という秀吉の言葉を伝えます。何故ここに来たかというと、忍城攻め以来、三成は昌幸を師匠と思っていたからだとか。

真田丸真田昌幸霜月けい

流石の昌幸もいったんは断ろうとするのですが、「真田が関係ないってことにするなら……」と言い出します。そして昌相に家康暗殺を依頼する昌幸。昌幸は、たとえ失敗しても、命を粗末にするなと念押して昌相を送り出します。一番鶏が鳴く前に帰ると告げ、佐助の同行を断り、昌相は出発します。佐助は「俺がし損じたら、お前が家康を討ち果たせ」と昌相から託されますが、これものちの伏線になるのでしょうか。

このとき徳川屋敷で家康と差し向かいで話しているのは、なんと信幸です。隠し子告白を自力でするとなると舅に殺されかねないので、なんとか家康の助けを借りたいという依頼でした。
「稲は私の娘だし、未亡人になられても困るしな」
と不吉なことを言いながらも、家康は信幸の依頼を承諾します。

この間、天井裏には昌相が潜んでいました。昌相は瓶の栓を抜く音をさせてしまい、信幸だけが気がつきます。

家康のもとから去る信幸を案内するのは、家康の嫡男・秀忠。秀忠は苦笑しながら、「私も嫁(江、茶々の末妹で2011年大河ドラマ『江 姫たちの戦国』では主役。演じたのは上野樹里さん)を迎えたが、なかなか大変でな。今度話を聞いてくれ」と信幸に言います。

ちなみにこの秀忠は、家康とは異なり正室一筋。ところが火遊びで隠し子ができてしまい、なかなか面倒なことになります。この隠し子こそが、のちの会津藩松平家の祖・保科正之です

 

敵に囲まれ絶体絶命のピンチで驚きのニンジャショー!

家康のもとに忠勝が呼び出されます。
そこへ、信幸は何か気になることがあると部屋に引き返します。信幸は家康に、何か異音がした、忍者の火遁の術で聞いた音と同じだと告げます(信幸が火遁の術を見たのは第十五回)。

忠勝は槍を手にすると、曲者が潜む天井を槍で突きます。時代劇のお約束を久々に見ました。

こうなると昌相は任務失敗、逃走する他ありません。追っ手を次から次へと気合いの入った殺陣で倒す昌相の前にあらわれたのは、本多忠勝。コーエーテクモのゲームだとBGMが変わるところです。昌相は忠勝に槍の柄を切断するという妙技でしのぎ、さらに煙玉で視界をふさぎ逃げようとします。

逃げようとする昌相の前に立ちふさがったのは、なんと信幸でした。

霜月けい真田丸真田信幸

真田丸本多忠勝霜月けい

戸惑う昌相は背後から忠勝に斬られ、敵に囲まれて絶体絶命のピンチです。手負いながら敵を退け、昌相はとっておきの爆発忍術を用い、姿を消すのでした。とんだびっくりニンジャショーだ!

真田屋敷では信幸と信繁が、父がやらかしたを知り愕然とします。そこへ佐助がやってきて、昌相の帰還を告げます。「わしと……したことが……」と言うのだけがやっとの昌相ですが、ここで退場してしまうのでしょうか。史実では長生きするんですけどね。

昌相を抱きしめ泣く昌幸は、今までにないほど感情を剥き出しにして見えます。公式サイトの寺島さんのインタビュー曰く、二人は「男が男に惚れる関係」だそうです。

そして今週のラストは秀吉の部屋。まさか来週まで引っ張るのか、もう時間がありません。秀吉はたった一人で、鐘を拾おうとしてベッドから転げ落ち、目を見開いたまま力尽きるのでした。

真田丸豊臣秀吉

 

今週のMVP:出浦昌相

演技面だと秀吉が最高だと思います。が、ここまで気合いの入ったニンジャショーを見せられて出浦昌相をMVPにしないなんてことができるわけがないのです。

真田丸出浦昌相霜月けい

総評:今週は珍妙な回でした。前半は認知症老人を狙った遺言詐欺という、サスペンスドラマ調の展開。なんとも嫌な生々しさがありました。

前半から一変し、後半は忍者愛が炸裂したニンジャショー。本作でも一番凝りに凝った、かつ殺陣のうまい寺島さんと藤岡さんによる迫真の場面でした。忍術効果担当スタッフも頑張りました。
今までも第十一回「祝言」のような転調はありましたが、今回ほど珍妙ではなかったと思います。前半は今までの生々しいリアル路線として、後半の唐突にあふれ出す忍者愛は何だったのか。予兆は偽吉野太夫が出てきた前回あたりからあったのかもしれませんが、完全にシナリオが忍者のため、出浦昌相のためにあったとしか思えません。

今回の家康暗殺計画、ハッキリ言ってザルでした。三成は暗殺できる人材がいなかったのか。そもそも秀吉があんな状態なら、遺言だの何だのにかこつけて呼び出して手をくだすこともできたのではないか。秀吉が言ったその晩を狙うのではなく、もっとよいタイミングがあったのではないか。何故よりにもよって信幸が徳川屋敷にいる晩に実行しようとしたのか。流石の昌相でも一人で暗殺は無理ではないか。自信満々だった昌相だが、音を立てて感づかれるくらい、油断があったのではないか。

疑問は山のようにわき上がるし、今週後半を「バカげた展開」と評する人がいたら同意せざるを得ないでしょう。

だがしかし、全ては忍者への愛だと説明がつく気がしないでもありません。

真田といえば忍者、忍者といえば真田。立川文庫や『真田太平記』から、コーエーテクモのゲームまで、真田といえば必ず忍者が重要な役割を果たします。それと比べると、本作の忍者成分、忍者愛は薄かった。そこでテコ入れとして、唐突の暗殺計画。本多忠勝との決戦。爆発する庭。そんなニンジャショーをぶち込んできたわけです。

「真田十勇士? そんな荒唐無稽なのを出すわけがないでしょう。プロモでパロディやるからそれで我慢してね」
と、本作は一見クールに振る舞っておきながら、「俺たちの考えた最高の忍者」出浦昌相を作り上げてきたわけです。夏になったら冷やし中華を食べたくなるように、真田となったら忍者が欲しくなる。そんな理由があったのではないでしょうか。

さらに今回、もうひとつ大きな要素があったと思います。それは「秀吉への悪意」です。スタッフが秀吉を心底嫌っているのか、作劇場の要素か、おそらく後者でしょうが、今回は秀吉への悪意に充ち満ちた回でした。

よってたかって遺言を無理矢理書かされる、老人虐待のような描写。
きりの「今までひどいことをしたんだから、自業自得でしょ」発言。
茶々の「心の卑しさ、醜さ、冷たさ」という駄目出し。
ニンジャショーで押しに押された残り時間数分、たった一人でベッドから転落し、鐘を握ろうとしたまま絶息、「終」が出る余韻も何もあったもんじゃない秀吉の最期。

秀吉の最期の描写は酷いと感じますね。今まで武田勝頼、室賀正武、北条氏政、豊臣秀次らの死を情感たっぷりに描いて来たのと比べると、なんともドライです。ユーモアが持ち味のように語られる本作ですが、時折底意地の悪さを感じさせる冷たさが肌を刺すように感じます。

秀吉の無様な死に様からは、真夏であるのに冷たさを感じたのでした。

第32回「応酬」 ジリジリと追い詰められ、胃のキリキリする秋がやってくる

こんばんは。リオ五輪が盛り上がっております。時差の関係か、四年前の『平清盛』ほど影響はないようです。
ドラマは今週から「秋」、関ヶ原へ向けた新章に突入します。

◆「真田丸」新章突入 毎週ヤマ場 家康に敵わぬ…三成の焦燥感 ― スポニチ Sponichi Annex 芸能
◆堺雅人「真田丸」後半戦は「浅い呼吸」究極の自然体「流されるだけ」 ― スポニチ Sponichi Annex 芸能

先週のタイトルは「終焉」でしたが、秀吉の死=豊臣政権の終焉といえる気がします。
もちろん秀吉のあとは秀頼が跡を継ぎ、大坂の陣による滅亡まで豊臣と徳川による支配が続くわけですが、「死に体」に延命処置を施しているようなものでしょう。

そんなわけで本編です。新章突入らしく、新キャストも大勢投入します。

 

出浦は生きていた、が、昌幸の感覚のズレに……

まずは視聴者が気になっていた出浦昌相の生死から幕を開けます。

人物関係図から消えていないことから生存説が有力でしたが、全身火傷を負い、有馬温泉で佐助とお供に療養中とのこと。ちょっと個人的に意外だったのが、昌相が火遁で火傷を負っていることで、てっきり火傷を負わないトリック込みでの忍術かと思っていたので驚きました。ハイリスクなんですねぇ。

真田丸出浦昌相霜月けい

大事な人の生死を確認できたところで、話は真田昌幸に向かいます。なぜ問題の多い計画で、徳川家康に刺客を放ったのか。そんな風に信幸・信繁が問いただすと、昌幸は「乱世に戻し、旧武田領奪還を狙っていた」とか。やはりこの人の感覚はずれてきたな、という目で見つめる息子二人がなかなか切ないものがあります。

昌幸は一応真田家の家長ではありますが、ゲームの流れを決めるのは息子の方です。何かと彼が精彩を欠くのは、全盛期が過ぎ去ったからでしょう。

本作において昌幸が一番輝いていたのは、春日信達を謀殺したあと上機嫌で風呂に入っていた第八回から、第十三回の第一次上田合戦あたりだったのだなと。今後も見せ場があるとはいえ、なかなか切ないものがあります。

そこへきりから、豊臣秀吉の訃報が届きます。

 

巨大な漬け物と化した秀吉の亡骸

徳川屋敷では「どうせ命を狙われるなら、思い切って天下を取ってしまったらいかがでしょうか」と、けしかける本多正信。しかし家康は「くどい」とあしらいます。彼のヤル気スイッチはどこで切り替わるのでしょうか?

茶々は秀吉の死に対して冷淡ですが、糟糠の妻である寧は遺体のそばに寄り添います。三成はその横で、秀吉の遺体を塩漬けにして、大きな甕に詰め込むように指示。防腐のためとはいえ、漬け物のような処理をされるのが不愉快なのでしょう。寧は私の聞こえないところで話せと苦言を呈します。

すっかり巨大な漬け物のようになった秀吉の遺体には、好感情を持っていない「きり」すら同情気味です。そして秀吉の塩漬け遺体は、城の一角で安置。生前は絢爛豪華な天蓋付きの寝台に寝ていたのに、今や甕に詰められ黴臭い一角で放置されるとは……まさしく諸行無常です。

真田丸豊臣秀吉

信繁は秀吉の死によって、馬廻りのお役目御免となります。継続して秀頼の馬廻りとなるかどうか。三成は信繁に今後の進退を尋ねます。

信繁はここで誰にも相談することなく、己の義にのみ従い運命を決めます。石田三成のそばにいて、彼を支えるアシスタントになりたいと志願するのです。

「犬伏の別れ」よりはるか前、この次点で信繁は進路を決めてしまうわけです。三成もけなげな信繁が嬉しかったとは思いますが、実際に役に立つかどうかはまた別の話でしょう。

 

「たまには頭を使って自分で理由を考えてみろ!」

秀吉の訃報を聞いた家康は、一人きりで何者かに向かい深々と手を合わせます。

この合掌の場面が長く、何か大事な要素があると思わせます。

家康は呼び出した秀忠に、即座に江戸へ戻るよう指事を出します。理由がわからず戸惑う秀忠を、家康は「たまには頭を使って自分で理由を考えてみろ!」と一喝。家康の真意は何でしょうか。それにしてもこの秀忠への一喝ぶりが今までの家康とはひと味違うような気がしました。

真田丸徳川家康霜月けい

三成は秀吉のうわごと以来、家康を厳しくマークしています。しかし三成本人では家康に対抗できません。三成の人望は秀吉のバックアップがあってこそです。

となると、豊臣に忠義を誓う老衆や奉行が必要となるわけで。そうした老衆の一人が前田利家です。

前田利家といえば2002年の『利家とまつ~加賀百万石物語~』(利家役は唐沢寿明さん)で主役をつとめたほどの有力武将。秀吉とも古い知り合いであり近しい人物ではあります。

しかし『軍師官兵衛』や本作のように、秀吉にさらに近いという設定の人物がメインのドラマですと、関ヶ原前夜の秀吉死後にやっと出てくるパターンになりがちでもあります。『軍師官兵衛』では黒田官兵衛からオブラートにくるめた本音「死に損ないがすっこんでろ」を言われておりましたが、本作はどうでしょうか……。

はい、本作でも既に病床にありました。
「わしの目の黒いうちは勝手な真似はさせぬ!」
とかつての名将である利家は言うわけですが、誰の目から見ても死期は近いでしょう。利家の代理は嫡男の利長がつとめますが、あまり頼りになりそうにありません。

 

いったんは三成の葬儀スケジュールに同意する

ライバル不在の中、家康はすっかりふてぶてしくなり、五人の老衆と五人の奉行のリーダー然として振る舞います。

とはいえ、まだ野望は隠し通し、三成が提案する葬儀スケジュールに同意。秀吉の葬儀は、朝鮮に出兵している将兵の期間後と決まります。三成は十名の評定の際にもきっちり資料を作ってきて、有能ぶりを見せます。

真田屋敷には久々に矢沢三十郎がやってきます。彼を迎え、真田家の面々はなごやかな団らんを楽しみます。しかし信繁は、いつの間にか真田家の女性たちまで秀吉の死を知っていることに危機感をおぼえます。これは完全に情報漏洩ですね。三十郎は、昌幸が精彩を欠いていることに懸念を抱いているようです。

真田信幸に離縁されて侍女に格下げになったはずのおこうは、何故か信幸正室の稲と並んでおります。いつの間にか側室に格上げでしょうか。

その信幸は、徳川屋敷の宴に呼ばれているそうです。信幸はここで秀忠が江戸に戻ったことを信繁に伝えます。ナゼ急に江戸へ戻ったのか。その意図を計りかねる息子たちに、昌幸はボソッと、しかし内容鋭く語ります。

「父と子をバラバラにしておくことで、いざというときどちらかを残すのだ」

本能寺の変における織田信長・信忠の二の舞を避けるためだ、という意図での分析を披露したのでした。

霜月けい真田丸真田信幸

 

宴を開き、招待客を取り込もうとする正信の老獪

家康は野望実現のためには様々な手を尽くします。

その尖兵の一人が、女版・本多正信の阿茶局。彼女は寧と茶々に、「三成のせいで秀吉の葬儀が決まらないようだ」と吹き込みます。寧に呼び出された家康は、しれっと阿茶局の言葉を認め、三成を責めます。
真に受けた寧から呼び出された三成は、評定で朝鮮からの撤退後からだと決めたはずだと弁解します。寧は「誰を信じたらええの?」とすっかり困惑している様子。

寧と違い、茶々は葬儀にまるで関心がありません。彼女の関心は息子の秀頼にのみあるようです。さらに茶々は、秀吉の遺骸が安置された場所のうら寂しさにおかしみすら覚えます。茶々が生前、甘ったるい声で秀吉の寵愛を受けながら心はこうも醒めていたと思うと、なんだかゾッとさせられます。

徳川屋敷では、宴会部長のような伊達政宗らを招いて、盛大な宴を開催。招待客たちは浮かれ騒ぎ、上機嫌で酒食を楽しんでいます。

そんな中、政宗が突如シレッと言い出します。

「実はある噂を聞いたのだが、太閤は既に亡くなっているのでは?」

正信は「さようなことは……」と何か含ませ否定とも肯定ともとれる曖昧な返事をします。政宗はあいかわらずへらへらと「失礼しました~」と軽薄な態度を取るわけですが、彼はこのやりとりで完全に秀吉の死を悟ったと思えます。

さらに正信は、政宗の娘(五郎八)は今いくつかと尋ねています。正信がこの状況で、世間話のように政宗に娘の年齢を尋ねるわけがありません。裏が必ずあります。

真田丸本多正信霜月けい

 

酒を酌み交わしたい清正と空気の読めない三成 溝は深まるばかり

これに焦った三成は、負けてはいられないとばかりに宴を開催するのですが……見ているだけでわびしいほど、人が集まっておりません。宇喜多秀家や小早川秀秋など、既に豊臣に親しい大名たちばかり。例外は遅れてきた細川忠興です。

本作では宴席における接待において家康の工作をあらわしていますが、史実ではさらに様々な行動で大名の心をつかんでいました。たとえば秀次の死後、秀次と親しいという理由で処分されそうになった政宗や細川忠興を弁護したのが家康です。
忠興は家に帰ると、愛妻の玉(ガラシャ)に「行くんじゃなかった。ガラガラだった」と素直な感想を漏らします。

その玉のもとには、なんと「きり」が切支丹になりたいと訪ねて来ておりました。フランシスコ吉蔵のように殉教する覚悟はあるのか尋ねられると、彼女は躊躇します。もっと学んでから入信した方がよいのではないか、ここに通ってきたらどうかと提案する玉でした。この展開、きりはおそらく玉の最期に関与することでしょう。

十一月、朝鮮から肥前名護屋に加藤清正が帰国しました。

三成は今後ともに秀頼を支え守ろうと清正に持ちかけます。

三成は清正に、
「お前は築城も内政も結構いけてるし、ただの戦バカではない」
と言います。

うーん、戦バカって。もっと口の利き方ってあるでしょうに。

清正は三成の態度に気に入らないものを感じてはいるものの、秀頼に尽くしたい気持ちは同じです。三成は清正のために慰労会を開きます。

ところが三成は、残業があるからと飲み会から帰ろうとします。自分から飲み会をすると言いながらこの仕打ち。感じが悪いですね、この社畜め。三成の空気の読めなさに清正は怒り、「お前と飲みたいんだよ!」とキレます。しかし三成は、結局清正を振り切って退席してしまいます。

真田丸石田三成

 

太閤はまだ死んでない よって縁談も問題はない

三成の留守中、家康はせっせと伊達政宗や福島正則と縁談を進めていました。

徳川屋敷では、やっと信幸が舅の本多忠勝に対して、おこうと稲の同時妊娠を打ち明けるはめに。忠勝は「それだけ婿殿はラブな人ってことだな。そのラブで稲をハッピーにすればそれでいい」と、なんと優しい笑顔を向けます。よかったね、信幸、半殺しにならずにすんで。

が、実は信幸の目的は別のところに。信繁が家康に聞きたいことがあるそうです。信繁は家康に対してストレートに用件を切り出しました。

「なぜ勝手に伊達政宗の姫と、そちらの五男の縁談を進めるのですか? 太閤殿下のご遺志を無視してどういうつもりですか?」
「遺言っていうのは死後発効するんだろ。でも、殿下はまだ亡くなっていないし、葬儀もまだだろ。なら遺言は無効だよな? 何か文句ある?」

あまりにあっけらかんとしている物言いに、信繁は言い返せません。

霜月けい真田丸真田信繁

明けて一月、やっと秀吉の死が公表されます。三成は清正が家康の娘を娶るという知らせに激怒。もう家康を老衆から排除するほかないと思い詰めます。

相談された吉継は「そんなことをしてはいけない、時を待つべきだ」と助言します。しかし三成はそれでは遅いと聞く耳を持ちません。どうしてもやるつもりなら「家康と三成の対立構造」には持ち込むな、と吉継は言う他ありません。

吉継は信繁と親しい老衆の上杉景勝に家康糾弾を頼むことにします。

病状がすすみ、書状を書くのもやっとの吉継。この頼みを聞いた景勝は「任せておけ、太閤殿下を裏切る奴はゆるせないぞ!」と勇ましく言いますが、家臣の兼続はしらけきった顔です……嫌な予感がしますねぇ。

 

家康を前に何も言えなくなる景勝 その横で兼続が……

いざ評定の日。老衆たちは「家康はけしからん!」「許すな!」と意見をあわせ、家康を問い詰めることにします。

しかし家康はのらりくらりと「掟のことなんて忘れてた。昔のことはよく覚えているんだけど、三方原では……」とシラを切り、相手を閉口させます。さらに返す刀で「おまえら俺をないがしろにするって殿下の遺言に反しているだろ。なめてんの?」と反論する始末です。

景勝は、
「忘れたですむ話ではない」
と蚊の鳴くような声で何度か言います。

家康は掌を耳の横につけるどこかで見たようなポーズを取りながら、景勝に迫ります。
「あ~~~きこえんな~~~」
「な、なんでもござらん!」
と逃げるしかない景勝。一瞬見える信繁と兼続の顔が、何とも言えない表情をしております。

真田丸上杉景勝霜月けい

真田丸直江兼続霜月けい

ここで三成が立ち上がり、家康を問い詰めるのですが……。

「忘れたのだろうが、掟を破ったのは事実。九人の合議で老衆をしりぞいてもらう!」
「いいと思ってるの? 俺を排除して。俺を閉め出そうとするなんて、あまりにあさましい、政治を私物化したいの? 君側の奸が出る幕ではないわ」

ああ、もう、まるで格が違う。家康の言葉に激昂する三成が弱々しく情け無く見えます。

三成は秀吉の遺骸を前にして、何やら決意を固めます。そして彼は、信繁にこう告げます。
「腹は決まった。徳川屋敷に夜討ちをかける。家康の首を取る」

嫌な予感しかしません。果たして結果は?

 

MVP:徳川家康

「秋」の章からは、いよいよ家康が最大の敵として立ちふさがります。ヒールターンの回です。

今週前半の家康はまだ頼りなく、どの程度本気で天下を狙っているかわかりませんでした。しかし秀吉の死を知り、いよいよ牙を剥きます。秀忠を呼び出す前に合掌する場面で、そのスイッチが入りました。

そこからは頼りなかった頃が嘘のように、口八丁手八丁で三成を追い詰め政権簒奪にかかります。

第十七回で家康は、芝居が下手だと自ら言い、ぎこちない演技で秀吉と会見しました。さらにさかのぼれば第五回の伊賀越え、第二回の初登場。あのころから格段に進化し、手の付けようのない悪役と化しました。この変貌、存在感、実に見事です。

 

総評

本作はユーモアがあると評される一方で、大変意地が悪い作品です。

秀次が追い詰められる描写、秀吉が老衰してゆく描写で、視聴者もそれがわかったと思います。先週「夏」の章が終わり、あのじわじわと追い詰めるパターンが終わったのかと言いますと、それは違いました。シチュエーションを変えてまた追い詰められます。しかもその追い詰められる中に、主人公である信繁はさらに深く飛び込んでゆきます。

結論から言いますと、信繁が天真爛漫にふるまえていたのは「春」まででした。これからは最期まで、ひたすらじりじりと追い詰められます。鬱展開において定評のあった『八重の桜』ですら、後半は明るい方向に転換できましたが、本作はそれがありません。

これから三成と信繁が追い詰められてゆく様は「きっと辛いのだろう」と思わされた新章スタート。その原因には、信繁と三成の「無能」ぶりがあります。

負けてゆく中だろうと最低限主人公はきびきびとしていて有能であるのが、この手のドラマだと思います。しかし、本作は主役もその盟友もその点では何かが足りないのです。

愚かなわけではありません。むしろ二人は頭が切れ、実務能力もあります。ただしこの才知あふれる二人は、豊臣秀吉の機嫌をとり、その命令を実行にうつす方向にのみ、その能力を特化させてしまいました。秀吉がいない今、彼らは方向性を失い追い詰められてゆくだけです。

実はこの信繁の無能ぶりの前には、別の主役格の人物が同じような状況に陥っていました。真田昌幸です。武田信玄の家臣として、地方の国衆としては能力を縦横に発揮した昌幸。しかし世の秩序が変わると、彼の能力もまたもてあまされ、使い道がなく、かえって実力があるがゆえに目が曇ってしまいました。「春」に冴えわたり、「夏」に色褪せたのが昌幸であったわけです。

そして今度は息子の信繁まで、似たような状況になりつつあります。この父子がそうして時代に適応できず色褪せた結果がどうなるか。それはもう歴史が証明しているわけです。

真田父子にせよ、石田三成にせよ、人気も実力もある人物たちが時代に適応できずに自滅し、輝きを失ってゆく様をじっくりと描く――。それが本作の本質であり、実に意地の悪いところだと思います。そういう底意地の悪さが嫌いであるという人がいてもおかしくはないでしょう。ただし、その意地の悪さのさらに下には、どんな状況でもできる限りの力を発揮する人間への賛歌や、あたたかいユーモアがあるのは救いでしょう。

胃のキリキリする「秋」が、これから展開するのです。

第33回「動乱」 関ヶ原前夜~敗者には敗者の意地があり愛があり

こんばんは。
台詞のみで言及されていたあの女性が出演するそうです。

◆新妻聖子「真田丸」江役で大河初出演!秀忠・星野源の姉さん女房に ― スポニチ Sponichi Annex 芸能

これは本当に喜ばしいことだと思います。それというのも江は2011年に大河で主役だったにも関わらず、とんでもない脚本のおかげであまりよろしくないイメージがついてしまったからなんですね(主演女優のせいではありません)。
同様の人物である直江兼続もやっと今年、珍妙なイメージが払拭されました。江もそうあることを願うばかりです。

◆「真田丸」後半戦突入 長丁場乗り切る秘訣 1年間ゆえの盛り上がり ― スポニチ Sponichi Annex 芸能

さて、季節はいよいよ夏から秋です。この時期は視聴率が落ち込み、ニュースの話題にものぼらなくなります。中盤に重要なイベントがあり、それが合戦や政変であったりすると、今までおなじみであったレギュラーメンバーがごっそり抜けるからなんですね。本作の場合、石田三成、大谷吉継らが退場する来月の関ヶ原がそのイベントにあたるでしょう。

また、この季節になると、世代交代により主人公より年下の世代が新レギュラーとして登場することになります。そうなると新キャストが主演の役者より年下であることが多いわけです。三十前の主演を起用した場合、必然的に二十代までの若手役者が追加。フレッシュな若返りとも言えますが、味のあるベテランが減ることにもつながるわけで、この切り替えがなかなか難しいわけです。

その点、今年は後半戦に有利な材料が揃っています。

1. 主演の年齢が比較的高い
2. 中盤まで退場する人物がさほど多いわけではない(昌幸、信幸、家康、茶々らが残留)
3. 大坂の陣があるため、追加キャストが若手だけにならない
4. 最終盤に最大のイベント「大坂の陣」が控える

本作はどちらかといえば、前半戦が厳しいドラマでした。
主人公の前半生に関する史料が乏しい、どうしても主演が若作りに見えてしまう、マイナー国衆の小競り合いでどれだけ視聴者を惹きつけられるか未知数……。困難山積みの前半をうまく処理し、関ヶ原へ向かっていると言えるのではないでしょうか。秀吉の死まで若干もたついた印象はありますが、今週から関ヶ原、そして大坂の陣まではフルスロットルで進行するようです。

 

板部岡江雪斎とバッタリ! 襲撃計画は漏れていた

それでは今週本編です。

弁舌と正攻法では老衆・徳川家康を排除できないと悟った奉行・石田三成。彼は腹心の真田信繁、島左近、さらには信頼できる小早川秀秋、宇喜多秀家と謀議を重ね、襲撃準備と整えます。

信繁はそのとき、意外な人物を見かけます。北条滅亡後(第24回)、小早川秀秋に仕えているという、板部岡江雪斎です。彼ほどの才知の持ち主は、やはり第二の道があったようです。視聴者にとっても懐かしい人物でしょう。
信繁は腹心である矢沢三十郎に、今回の襲撃は正しいことかどうかわからない、と苦しい胸の内を明かします。真田のことだけを考えていた時代よりも、もっと混迷を極めた中に彼はいます。

ところがこの襲撃計画は、江雪斎経由で徳川家の本多正信に筒抜けでした。江雪斎が北条時代にもこんなことをしたとはちょっと思えないんですよね。長年仕えた主家の滅亡は、彼を変えてしまったのでしょうか。江雪斎が再会した信繁と正信は、第22回で顔をあわせた相手でした。あれから時は流れ、状況はすっかり変わりました。

真田丸板部岡江雪斎霜月けい

家康は暗殺をおそれて江戸へ逃亡しようとしますが、これに待ったをかけたのが正信。この計画を大ごとに吹聴し、伏見に集う諸大名に声を掛けてみてはどうか、彼らが徳川になびくかどうか、その心がけを試したらいかがか、と提案するわけです。

家康は急に強気になり、乗り気になります。それにしてもこの正信の、窮地をも喰らい有利に持っていく鮮やかさの見事なこと。三成に足りないものを、彼は持っています。

 

毛利も上杉も三成の味方にはならず?

徳川屋敷では、本多忠勝はじめ武装した将兵たちが防備を固めることに。ドラマ開始十分になるかならぬかのうちに、三成の計画は大失敗に終わるであろうことがはっきりとわかります。これはもはや計画中止しかないと、信繁は三成に訴えます。

しかし三成はあきらめません。秀秋に毛利家、信繁に上杉家の説得を依頼し、自らは秀頼の許可を得るため大坂に向かいます。秀秋は「毛利様を説き伏せるなんてちょっと無理……」と弱気です。江雪斎のリークといい、計画に加えてプラスどころかむしろマイナスでしかない秀秋でした。

信繁も景勝に面会はできず、直江兼続に止められてしまいます。
「これ以上ごたごたに巻き込むな、守れぬ約束をして苦しむ殿を見たくない、時間の無駄だから帰れ」
きっぱり断られてしまう信繁。このやりとりを外で聞いていた景勝は、「すまぬ」とつぶやくしかできません。

真田丸直江兼続霜月けい

盟友三成の暴走に、病床の大谷吉継は心を痛めています。味方が揃わなかった時、三成はどう出るのか。吉継の不安はつのるばかりです。
徳川からの書状は、真田屋敷にも届きました。昌幸は「俺、この間、家康殺す気で刺客放ったじゃん(第31回)。どのツラ下げて暗殺中止すんの?」と開き直ります。しかし信幸は舅が徳川家随一の猛将・本多忠勝です。つきあわないわけにはいきません。

「おまえはどうするのだ? 敵味方に分かれて戦うのだけは勘弁してくれ」
と、弟に苦しい胸の内を打ち明ける信幸。ここで信繁は、きり経由で寧に呼び出されます。

 

いくさのない世の中を作ったのは秀吉だがね

寧は夫の死を発表してから一月も経ていないにも関わらず、家康暗殺騒動が起こっていることに随分と怒っております。

この少し前には、加藤清正と福島正則も寧を訪れていました。どちらに味方すべきか迷う二人に、寧は「いくさのない世を作ったのは秀吉。その命令に逆らう三成に加勢してはならぬ」と告げました。さらには秀秋を騒ぎに巻き込むなとも釘を刺します。

寧には、三成の暴走する正義が理解できないのです。哀しいことではありますが、無理もないことでしょう。秀吉は家康も含めた老衆を秀頼の後見人に指名していました。寧は茶々への嫉妬だとか、フィクションでありがちなネガティブな感情ではなく、むしろ優しく愛情にあふれた立場から、結果的に徳川に味方してしまうわけです。誰もが皆、明るい未来を目指しているのに、考えがすれ違いズレていきます。

信繁は寧の元を去ると、きりに「お前って突拍子もないけどぶっちゃけた本音が結構鋭い。今回のことどう思う?」と聞いてみます。きりはどういう意味かとちょっとふくれつつも、彼女なりの意見を言います。

「三成は、プライドが邪魔して今更折れられないんでしょ。男の人ってそうよね」

きりのこの意見は、ただのおしゃべりのようで実は本質を突いていることが、このあと明らかになります。

霜月けい真田丸真田信繁

 

よっぽどむかついていたんだな! ストレス解消に腕相撲しよう!

徳川屋敷を訪れた信幸は、大名たちが大勢集まっている様子に驚きます。

中でも目立っているのが、お祭り系大名・伊達政宗。こっそりとなるべく目立たないようにしようとする信幸ですが、早速舅の忠勝に見つかり「これでもう怖いものなしじゃあ!」と紹介されてしまうのでした。

真田丸本多忠勝霜月けい

三成は秀頼に会うため大坂へ。しかし幼い本人はおろか、その母である茶々に面会することもできず、前田利家に「秀吉の馬印を借り、義を示したい」と頼みこみます。しかし利家も、大蔵卿局も、三成の言うことに耳を貸そうとはしません。豊臣の馬印はこのずっとあと、やっと出馬することでしょう。その時にはもう金の瓢箪は威光を失っているのです。

夜は更けていきます。

大名たちは続々と徳川屋敷の集まり、酒を飲んでは盛り上がっています。伊達政宗は「内府自ら武装なんかしなくてもいいですよ! 俺がぶっとばします!」と張り切ります。本多正信は居並ぶ大名に、三成が忍(実は真田家の出浦昌相)を放って家康暗殺を計画した、と漏らします。

この話をじっと聞いていた加藤清正は酒器を握りつぶし、石田屋敷へと向かいます。
もの凄い血相で石田屋敷に押しかけた清正。しかし、彼は三成に対して怒っていただけではありません。清正は「力づくで相手を倒そうなんてお前のタイプじゃないぜ。よっぽどむかついていたんだな、ならストレス解消に腕相撲しよう」と言い出します……が、こういうスポ根熱血体育会系のノリは三成に通用しません。

清正は助け船を出しているとも言えるんですけどねえ。もしも三成がもっと器用ならば、内心は馬鹿にしてしらけながらも、腕相撲をとったと思います。それから目を潤ませて清正に、「実は秀吉から死の間際に家康を殺せと言われた(第31回)」と告げたらば、状況は違ってきたでしょう。

清正は三成に反発するも、心底嫌っているわけではありません。兄弟のようなもので、反発しても結局離れられないと思っているのではないか。そう感じさせるフシがあります。ところが三成はそんな相手の気持ちをくみとろうとすらしないんですね。プライドを折れないわけです。

 

干し柿で釣ろうとして、忠興、冷たい目つきでガンギレ

さらに三成は、信繁らから上杉・毛利失敗の知らせを受けます。苛立ちマックス!となった三成は、ストレス性腹痛をこらえつつ、細川忠興の説得へ。
細川屋敷に向かった三成は、何故か干し柿を持参……なんでこんな大事な頼みに、よりによって干し柿……スイーツで問題が解決する大河は去年で終わったというのに。三成が今回の件で加勢をして欲しいと切りだすと、忠興はこう言います。

「俺は加藤清正とか福島正則とか大嫌い。でもそれ以上にてめえ見ていると怒りが爆発するわ。こんなもんで俺の心がつれると思ってんの?」

キレて干し柿を握りつぶし、三成に投げ飛ばす忠興。激怒した忠興は、徳川屋敷に向かう、お前は帰れと三成を追い払います。すっかり涙目の三成が何とも切ないです。忠興も蛇のような冷たい目つきで、いい味出していますなぁ。

空が白み始めて来ました。

信繁は真田屋敷に向かい、昌幸も徳川屋敷に向かうよう策を提案します。三成心の師匠である昌幸までも徳川についたら、三成も折れてあきらめるだろう、ということです。その作戦は三成の精神もバキバキにヘシ折ると思うんですが。

 

コイツだけは絶対に裏切らない! ハズの吉継まで……

三成は彼だけは絶対に裏切らないと信じてきた、大谷吉継の元へと向かいます。

折しも吉継は、病身を鞭打って甲冑を身につけていました。吉継が味方に付くと顔を輝かせる三成に、吉継は残酷な事実をつきつけます。自分はこれから、徳川屋敷に向かうのだ、お前は間違っている、家康に秀頼を守らせる以外に道はない、と。
三成は死の間際であった秀吉が家康を殺せと告げたと言います。しかし吉継は、死を目の前にした老人の世迷い言に惑わされるな!と言います。激昂する三成に、吉継や三成には人望がない、到底人の上には立てないと、さらに残酷な真実を突きつけます。

「今ならまだ間に合う。今、兵を引けば、咎められることはない」

親身になって語りかける吉継。見えぬ目でも、三成が泣いていることはわかる吉継。そんな彼の言葉ですら、三成の心を変えることはできません。

視力が低下した吉継は、杖を突き、体を支えられながら、やっと徳川屋敷に到着します。喜んだ家康と正信は、吉継を大歓迎するのでした。

すると吉継は、毅然とこう言います。
「誤解のないよう申し上げる。某、内府のために参ったわけではござらぬ。大谷刑部は、秀頼公の家臣でござる」
正信が苦々しげに言葉を選ぶように釘を刺しますが、家康は吉継の忠義を賞賛します。燦然と輝く吉継の忠義は、損得勘定で動く大名たちの中で際立っています。

 

お調子者っぷりがお見事な伊達政宗さん

そこへ昌幸も、しれっとした顔で家康の前に到着。家康は喜色を満面に浮かべ、これではもう三成の勝ち目はないと言い切ります。

昌幸は図面を持参し、防衛計画軍議を提案。この場面で昌幸が「発言者は名乗ってください」と言ったのは、目の見えない吉継への思いやりでしょうか。目立とうとする昌幸に清正は不満げですが、ウェイウェイ系大名の伊達政宗、さらに細川忠興はノリノリで昌幸の提案に賛成します。

政宗の出番はあまり多くはありませんが、やけに目立っていてお調子者っぷりが伝わってくるのは、本当に美味しいと思います。これぞ政宗。ここで政宗がこう言い出します。
「三成、内府を殺そうとして刺客放ったってよ」
すると昌幸はこう返します。
「マジかよ、それは絶対許せないな」
出浦昌相を放っておいて、しれっとこういうことを言うから、ゲス系親父は今日も平常運転です。横の信幸も淡々と父の芝居につきあいます。

真田丸真田昌幸霜月けい

 

それでも諦めない三成の前に現れたのは「義」の漢たちだった

絶対に成功しない襲撃計画であるにも関わらず、三成は譲ろうとはしません。出陣の支度を命じられ信繁は動揺します。そのころ、上杉屋敷では景勝と兼続がこう語り合っていました。
「義のためなら命を捨てるか」
「それができる男です」
「では……わしはどんな男じゃ?」
ここで兼続の答えは映りません。一体何と言ったのでしょうか。

三成がついに出陣しようとしたそのとき、矢沢三十郎が大谷吉継と真田昌幸が徳川に味方したと告げます。どういうことなのかと尋ねる三成に、信繁は今ならまだ間に合うと止めようとします。ここまで騒ぎを大きくし、大名同士の争いを禁じた惣無事令に違反したのだから、もう切腹敷かない、そうなるくらいなら討ち死にすると三成は決意を固めます。三成は宇喜多秀家を巻き込まぬよう、帰って家康の暴走を止めて欲しいと言います(秀秋はスルー)。

ここで信繁は、三成の前にたちふさがり、これからも三成は生きねばならないと叫びます。天下万民のため、命を賭けて尽くしてきた、あなたにしかなしえないことがある、己の欲で動く家康には思いも付かぬことができる。死んではならない。そう真摯に語りかけます。

そこへ、上杉景勝と直江兼続主従がやって来ます。景勝は、ここはもうあきらめろと説得します。反論しようとする三成に、景勝はこう決意を語ります。
「徳川内府は、わしが倒す」
この言葉に兼続はしらけた顔になるのかと思っていたら、彼はこう言います。
「御屋方様は本気になられた」
今までずっと思うようにならなかったこの二人は、この重大な決意をむしろすっきりとした顔で語るのでした。寡黙な景勝は、ここぞとばかりに饒舌になります。
「太閤殿下の前で、皆は義を誓った。それを破り、義をないがしろにするものを、わしは断じて許すわけにはいかん。我等で徳川に大いくさを仕掛けるのだ。今は命をつなぎ、時を待つのだ」
そう言うと、景勝は三成を抱き寄せます。こうして彼らは、大きな悪を倒すべく大いくさに挑もうと、義によって繋がるのでした。

真田丸石田三成

真田丸上杉景勝霜月けい

一方の徳川屋敷。三成の武装解除を知った家康は「たいしたことがなかったなあ」と笑います。家康は、目をきらきらと輝かせて満足げな様子。
「わしは決めたぞ。わしの一声で豊臣恩顧の大名がこれだけ集まった。これはいけるかもしれんなあ」

正信の狙いはまさにそこでした。不気味なまでに目をらんらんと輝かせた家康は、ついに天下を取るべく決意を固めます。「生き延びられたら十分じゃ」と語っていた男(第2回)が、ついに天下にふさわしい存在へと変貌を遂げたのです。

義を守るため戦を起こすと誓う三成たち。
天下を取ると決めた家康。
天下分け目の大いくさが、迫っています。

真田丸徳川家康霜月けい

 

MVP:大谷吉継と石田三成

本作を視聴していてよかったなとしみじみ思えることが数回に一度ありますが、今週のこの二人の場面もそうでした。

本作における吉継は。存在感こそあったものの途中で病にかかるという事情もあってか、今まで出番が多かったとは言えません。ハマリ役で素晴らしい役であるのも関わらず、そこまで目立てない……このうえなく美味であるのに、箱の中にはほんの数粒しかない、高級チョコレートを思い出します。もっと食べたい、鼻血が出て気持ち悪くなるまで食べ尽くしたいと思うのに、もう箱は空っぽなんです!

その不満を補ってなお余りあるのが今週の熱演です。

病に苦しみ、友の暴走にも苦しむ吉継。三成を誰よりも理解しているからこそ、突き放さねばならぬ、そんな苦悩を演じきっておりました。徳川屋敷でもこれみよがしに手を握って親しげにしてきた家康を突き放し、自分はあくまで秀頼の忠臣だと言い切ったあの見事さ。まさに忠臣の鑑そのものです。演じる片岡愛之助さんの台詞回しは上は病で苦しんでいる演技であるにも関わらず、聞き取りにくさがありません。

さらに本業である歌舞伎の口上をも思わせる格調高さもにじみ出ていて、まさに片岡吉継の演技はここで頂点に達したと言えるでしょう。堂々たる忠臣・大谷刑部吉継。お見事です。

そして平静を装いつつ、空回りして追い詰められていく三成。細川屋敷での渋柿を断られたあと、何が悪いのかわからないのか、あるいは自分の愚かさに気づいたのか。目を見開き潤ませたあの姿は、まさしく絶望そのものです。道ばたで震える仔猫のように哀れで、そりゃ信繁も放っておけないなあ、としみじみ感じさせました。

感情を抑えているにも関わらず動揺がにじみ出る、山本耕史さんの演技は本当に見事だと思います。三成は視聴者にとっては嫌いになれない好意的に描かれている部分も多い人物ですが、これでは絶対に勝てないとも同時に思わせます。理想的な石田三成像です。2010年代以降の石田三成は、今年を越えられるかどうかで判断されることになるでしょう。それほど素晴らしい出来です。

そして次点は本多正信です。壊れやすく薄いガラスのような三成と比べると、水のように柔軟に動き回り、絶対に勝てる気がしないこの男の智謀。主君を本気にさせた、煮ても焼いても食えないこの「キングメーカー」こそ、作中最強の謀将であることは間違いないでしょう。この男を演じる近藤正臣さんの演技は邪悪で、吸い込まれそうで、円熟の技巧に気がつけばすっかり酔わされてしまいます。

真田丸本多正信霜月けい

 

総評

文字通りずっと三成が涙目の週です。そして相変わらず信繁はあまり役に立っていません。追い詰められる辛い展開とはいえ、秀吉晩年の展開よりはるかに面白くなっています。停滞期を抜け、信繁青春編のテンポのよさに、大坂編から登場したキャラが立った人物像がからみあうという、かなり理想的な出来ではないでしょうか。

それにしても今回が驚異的なのは、作中の時系列では一日しか経過していないところです。

それなのに、三成の問題点、それぞれの人物の立ち位置、対立構造、意識の醸成、そういった流れがみっちりと詰まっているせいで、関ヶ原前夜へ向かう流れがきっちりと描けています。

しかも登場人物一人一人の魅力が際立っています。豪華な松花堂弁当のような味わいです。今回一番目立っていたのは石田三成ですが、その他の人物も俺はここにいるんだぞ、と自己主張しています。伊達政宗や細川忠興の出番は多くはありません。それでも印象的で、この人物らしさがあふれているとわくわくしてきます。今週の出来に文句はありません。人物の個性をうまく際立たせる例として、脚本家志願者の教科書に載せてもよいほどだと思います。

そしてもうひとつ見事なのは、先週から募っていた閉塞感をラストの数分で吹き飛ばしたことです。

追い詰められる三成、役に立たない信繁、怯えるばかりの景勝。こうした視聴者の眉間に皺を寄せさせてきた人物が最後に義のもとに誓い合ったことで、雲がすっと晴れるような気持ちになりました。あまりに青臭く、陳腐にすら見えかねない場面です。しかも、結果を考えれば彼らは負けます。
だがそれがいい……いや、それがいいんじゃないですか!

真田丸石田三成

家康に比べれば脇が甘くて、失敗することはわかっています。でも、ハッピーエンドではないからと、劉備・関羽・張飛の「桃園の誓い」は無意味であるとか。あるいは『三銃士』でダルタニャンと三銃士がレイピアを掲げて「一人は皆の為に、皆は一人の為に」と誓うのはばかばかしいとか、そんなことを言ったら哀しいですよ。

損得勘定だけではない美しさや生きる意義というものが、きっとどこかにあると思いたい。敗れて無念の死を迎えるとしても、あの瞬間を思い出して自分は間違っていなかった、そう思える義がどこかにある。そういうロマンを追い求めるからこそ、私たちは歴史作品を愛好するんではないでしょうか。

真田信繁や石田三成を好きになる理由とは、まさしくそこにあると思うわけです。「負ける側の話なんて不景気だから見たくない」という人にこそ、今週を突きつけたいんですよ。

石田三成は負けます。真田信繁は負けます。でもそれが何でしょうか。

彼らの人生には、信念のためにこんなにも輝いた、濃密な瞬間があったんです。それこそ劇中の信繁が言うような私欲だけに生きる人間には味わえない瞬間です。彼らは敗者かもしれませんが、この上なく美しい敗者です。それを知らしめる本作は、やはり愛があり、信念があります。

意地が悪くひねくれた部分もある作品ですが、根底にはあたたかみがあるのです。

第34回「挙兵」 家康を激怒させたこの煽り、この直江状、絶品なり

こんばんは。前回は久々に視聴率18パーセントをキープし、とりあえず一安心でしょう。

◆「真田丸」第33話は18・0% “形勢不利”三成に予想外の提案 ― スポニチ Sponichi Annex 芸能

しかしそんな中、こんな事件がありました。本作にも影響がありました。

◆【高畑裕太容疑者逮捕】高畑容疑者、NHK「真田丸」に出演予定だった…“親子共演”かなわず 淳子さんは引き続き出演 – 産経ニュース

 

信繁の妻も思い込みがキツい!

さて、本編です。

徳川家康襲撃を企画するも、かえって家康を天下人として覚醒させてしまった石田三成。しかも謹慎処分となってしまい、踏んだり蹴ったりです。

真田信繁は、それでも自宅で黙々と書類仕事に励む三成の元を訪れ激励します。三成の妻・うたは、夫と屋敷で過ごせることが嬉しそうな様子です。この人も出番は少ないものの、その少ない出番で夫婦の情愛をしっとりと表現しています。
そこで信繁は、心の隅に引っかかっていたあることを聞き出しました。信繁の妻である春(大谷吉継の娘)には苦労するぞ、と三成が評しましたが、あれはどういうことですか、と。この会話を聞いて、うたは席をはずします。

霜月けい真田丸真田信繁

昔、三成は大谷屋敷を訪れた折、軽い気持ちで筆を春に贈りました。すると春は三成が自分を好きなのだと勘違いして、惚れてしまいます。暴走し、うたに離縁まで迫る春。三成は、それは思い違いだと春の思いを拒否したのです。

「いやあああああああああッ!!」

大河ヒロインらしからぬ絶叫を見せる春……いいぞ、これを待っていた! これぞ松岡茉優さんです。可愛いだけでは物足りなかった!
それにしても本作の主要女性キャラには見事なまでにまともな性格がいないという。まさに個性の殴り合い状態のヒロインですが、私としては好きです。一昨年かなり愚痴った記憶があるのですが、良妻賢母キラキラヒロインだけだとつまらないんですよね。
欲を言えば、ヒロインのお召し物をもうちょっと増やして欲しいな、と。薫は流石に衣装持ちですが、春や稲あたりは未婚時代から結婚後まで、同じ明るい色の着た切り雀状態なので、ここは改善して欲しいところです。

そんな春の秘密を知ってしまった信繁は、顔がかすかにひきつります。信繁はそういう思い込みの激しいタイプをよく知っています。

そう、元祖暴走ヒロイン「きり」です。櫛をあげてしまったばっかりに、しかもその櫛は安物で梅にあげたものよりはるかにランクが下だったにも関わらず、暴走してついてくるあの「きり」ですよ。「きり」を避けてきたのに、気がつけば同じタイプが妻になっていたのですから、これはもう驚愕です。蟄居後はどうなることやら。

 

豊臣恩顧の武将に睨まれ四面楚歌の三成

慶長四年二月二十九日、前田利家は徳川家康に三成の謹慎解除を依頼します(ちなみにこの蟄居措置はドラマ上の創作だそうです)。

これを受け、三成は晴れて政務に復帰。しかし三成は四面楚歌状態です。
ついに反三成派の急先鋒である七将(加藤清正、福島正則、細川忠興、浅野幸長、黒田長政蜂須賀家政藤堂高虎)が、三成を征伐しようとします。利家のとりなしでいったんは収まった彼らですが、まさしく一触即発の状態に……。

三成は寧に政務復帰の挨拶をします。寧は我が子のように可愛がってきた秀吉子飼いの将たちが対立する状況に心を痛めています。彼女はフィクションにおいてかなり解釈が変わってくる人物で、作品によっては茶々憎しのあまり反三成に暗躍する動きを見せることもあります。
本作の場合、茶々とは対立しておらず、子飼いの将が対立することそのものを嫌っています。心情としては理解できるのですが、どうにもその行動はマイナスに働いてしまうようです。三成もたまには寧に甘える可愛げがあればよいのですが、彼にはそれができません。

また寧は、三成が死の床にある秀吉に無理矢理遺言状を書かせた場面を見たことにより(第三十一回)、三成への不信感が芽生えているようです。うまくそれを隠している寧ではありますが、三成への不信が行動や判断を鈍らせています。

寧は秀頼の結婚後に出家する決意を固め、身辺整理を進めます。その一環で、寧の侍女であったきりもリストラ対象になったのでした。

真田丸石田三成

 

きりの役目は「死者を見送る生者」なのか

そのきりは、なんと今後は細川屋敷に勤めることに。
細川家といえば、奥方の玉(ガラシャ)は熱心な切支丹です。お前も切支丹になるつもりかと信繁は不安になってきりに尋ねますが、きり本人は能天気です。信繁はきりを心配し、これから不穏な事態が起こりかねないから上田に戻れと言うのですが。

「不穏だ~い好き! また一緒に乗り越えましょ!」
と、一向に気にしないきりでした。吊り橋効果狙いかもしれませんが、彼女は彼女なりに信繁の役に立ちたいのでしょう。鬱陶しい性格ながら、可愛げはあるんですよね。

それにしてもきりはナゼ、切支丹に傾倒しているのか――物語上の装置としての彼女を考えると、意図がわかる気がします。

きりはフランシスコ吉蔵が殉教へと突き進む姿を止めようとしたが、できませんでした(第三十回)。そして彼女はその後も、信念のために命を捨てる人を見送ることになります。きりは自らの危機は回避しますが、命を賭けて信念を貫こうとする者を止めることとなると、まったくの無力なのです。

梅を送り出した上田時代(第十三回)、秀次に気に入られた豊臣時代、そしてこれから彼女が歩むであろう人生を考慮すると、彼女に割り振られた役目は「死者を見送る生者」ではないかと思えるのです。

 

前田利家が死ぬとついに反三成派は立ち上がる

三成は政務復帰報告と同時に、縁起物である桃の木を秀頼に進呈します。

茶々に接触する機会を逃すまいと、三成は茶々に家康を警戒せよと直訴します。大蔵卿局はむっとして、三成を制します。大蔵卿局は数奇な人生を送ってきた茶々を、なるべく厄介ごとに近づけたくないようです。
しかし茶々を政局から遠ざけるこのアプローチは、果たして正しいのでしょうか。危難や情勢から遠ざけられることで、茶々は鈍感になってゆきます。生来愚かなわけではありません。周囲のあやまった気遣いが彼女の判断力を奪います。そんな彼女が秀頼の養育においても影響を持つのですから、これは深刻な事態です。
なまじ悪意ではなく善意由来の気遣いだけに厄介です。

そして閏三月三日、前田利家が死去しました。
利家の出番もまたほんの少しではありますが、重鎮という雰囲気があったと思います。

かくして歯止めの利かなくなった反三成派の武将たちが結集し、三成襲撃を実行に移すことに。このうち実行犯の一人である細川忠興は、その妻である玉に計画を漏らします。忠興は他の武将の前では食えない仏頂面ですが、妻に対してはちょっと甘い顔を見せるのがよい味を出しています。きりの思い人が石田屋敷にいると知っている玉は、早速きりに伝えます。

きりから計画を聞いた信繁は、石田屋敷へ急行。このとききりはいじらしくも「私って役に立ってる?」と信繁に聞くわけです。信繁は「たまに!」とぞんざいに返します。いやいや、きりは役立っているじゃないかと擁護したくなります。

襲撃を受けたら、石田屋敷が火事になることも考えられます。信繁は三成の書類を守るため、信幸に応援を要請します。兄弟が三成の書類を片付けていると、武装した七将が屋敷に突入して来てしまいます。兄弟は強硬に迫る者たちを前に、涼しい顔で崩し将棋をしています。この兄弟の崩し将棋の場面は、第一回の再現のようです。

信幸は、
「石田三成との争いは身内のもめ事ですむが、真田と争うならばもはや国と国の合戦ですぞ。覚悟があるなら受けますが」
と相手に啖呵を切ります。
信幸もなかなか風格が出てきました。いきり立つ襲撃側が立ち去ったあとで、一人の男が将棋の駒の山を崩します。黒田家臣であり、のちに大坂の陣で活躍する後藤基次又兵衛の顔見せです。

それにしても実はこの襲撃側の思いが一つではないようです。
オラオラ系チンピラと化した福島正則とちがって、加藤清正は表情が冴えず、迷いがあります。この二人はペアで描かれることが多いのですが、本作は性格の違いがわかります。

 

加藤清正に漂う微かな迷い 調停役は家康に

このころ、宇喜多秀家の屋敷に潜伏した三成は、伏見城の治部少輔丸に移動します。ここで三成の送迎役として、宇喜多家臣の明石全登もまた顔見せ登場です。

このときの三成は、長いこと徳川家康のもとへと逃げ込んだことになっていました。今度公開される映画『関ヶ原』でも、原作を再現するならばその設定になると思います。しかし、2000年頃から徳川家康のもとではなく、伏見城内の治部少輔丸に逃げたのだという説が有力となりました。本作はそれを反映しています。

信繁は「三成を出せ」といきりたつ七将と対峙することに。福島正則は激昂していますが、やはり加藤清正にはどこか迷いがあるようです。寧の力添えを乞う信繁は侍女のわくさに断られ、茶々にお願いしていた三成についても同様に大蔵卿局が断ろうとします。
が、コチラでは茶々本人がハッキリと「秀頼のためになりますか? そうでないならお帰り下さい」と反応が異なります。

八方塞りの三成&信繁に対し、両者と関係の深い大谷吉継は、病に苦しみながらも解決策を提案します。

吉継の策とは、家康に調停を依頼することでした。
屋敷で家康に対面した信繁でしたがのらりくらりと交わされ、家康は正信といったん相談。「ことを起こした七将ごと始末してしまえばよい」と正信は提案しますが、家康は「清正や正則はまだ使い道がある」とほくそ笑みます。もはや完璧な悪役と化しました。最高です。

ついでに本多正信について言いますと、この一見好々爺的な佇まいが絶妙です。

視聴者は彼の謀略の数々を知っていますから油断がならないと思うわけですが、そうした一面を知らなければ彼は上品で穏やかな、好感が持てる人物です。例えばあの正信とマンションのゴミ捨て場で顔を合わせる程度の仲であれば、好印象を受けるか、あるいはまったく印象に残らないかでしょう。

これこそが本物の「軍師」の風貌だと思います。

一昨年の『軍師官兵衛』終盤の岡田准一さんの腹黒い演技は評判がよかったのですが、あれは彼自身の責任というより脚本と演出のせいで、実に陳腐になっていたと個人的には思います。あの官兵衛とマンションのゴミ置き場で出くわしたら、警戒するし印象にも残ると思います。そういう見るからに腹黒い人が策をめぐらせたら、相手は警戒するんです。わかりやすい軍師は、リアリティに欠けていると私は思うわけです。まあ大河はあくまでドラマですから、そういうわかりやすさも必要ではあると思いますが。

真田丸本多正信霜月けい

 

佐和山蟄居処分で政治生命を絶たれ……

話を戻します。

七将は徳川屋敷でも三成を倒してやると意気軒昂ですが、本多忠勝がそこへ入ってくるとしんと静まります。

なんという猛将の説得力。そこへ家康が登場し、いかにも大人(たいじん)の悠揚とした風格で、三成への処分を語り出します。

真田丸本多忠勝霜月けい

三成の声は、高めのトーンで、一気にまくしたてるようにやや早口です。特に緊張し感情が高まると、その特徴がより一層強くなります。

それに対して、家康はその逆です。低めのトーン、ゆっくりと話します。さらに家康は、この場面のように大名や武将相手となると、この特徴が強くなります。これだけでもう、勝敗がある程度わかると思います。家康は豊臣にとって信頼できない性格ですが、仕草はいかにも信頼できそうなのです。そして三成はその真逆です。

三成は彼の領地である佐和山での蟄居処分となりました。これはもう、政治生命は絶たれたも同然です。

この知らせを正信から聞いた信繁は、苦しみながら三成に伝えます。三成は秀吉に全てを捧げ、その亡き後は豊臣家のため全てをなげうってきたのに、なぜ伏見を追われるのか、と無念の涙を見せます。信繁は「太閤殿下は三成様の献身をわかっています、見ておられます」と励ましますが、もう何もかもが虚しい言葉なのです。
冷静に考えれば、そんなスピリチュアルな慰めなんか何の意味もないんです。気休めです。ただしこれを太閤=視聴者・後世の人間と考えるとなかなか感動的です。作品を通して、三成の汚名はそそがれています。

このとき三成は、最後に「虎之助」に会いたいと信繁に伝えます。ずっと官職名で呼んできた三成が幼い頃の名を使ったのです。

長束正家から蟄居処分を正式に受け取る三成。正家は三成に同情的です。

三成は清正を「虎之助」と呼び、耳元で何かをささやきます。このささやきは、視聴者にはわかりません。三成は「今生の別れだ」と信繁に残すと、伏見を出立するのでした。

家康をキッパリ断る、痛快なれど破滅の道

その三日後、家康は伏見城に入ります。ドヤ顔で高笑いし、勝利宣言。視聴者だけに見える家康真の姿は、ふてぶてしく完成された悪役です。

ただし、この姿はドラマ内で動いている人々にはわかりません。わかっているのは、三成や信繁といったごく一部の彼の敵か、あるいは腹心の本多正信くらいです。だからこそ皆、家康の仮の姿に騙されるのです。

得意の絶頂となった家康。信繁の実力を認めたのか、あるいは三成と志を同じくする信繁を得ることで、さらなる勝利の実感を得たいのか。直々に彼をスカウトします。

しかし信繁は、「三成と違って豊臣を裏切る者に仕えるわけにはいきません」ときっぱり断ります。

痛快です。まさにこれぞ、快男児です。しかし、この時信繁は破滅の道をまたも選びました。何度も彼には正解ルートが示されますが、ことごとく彼はその道を選ばないのです。そう考えると、信繁の啖呵もまた苦いものに見えてくるのです。もっとも、家康にも信繁をムリにでも配下に加えなかったことを、後悔する日が来るわけですが。

信繁はお役御免、これからは真田のために兄とともに生きるのだと語ります。

しかし運命は既に信繁をのみ込んでいます。信繁は片桐且元と茶々に呼ばれ、三成が秀頼に贈った桃の木の世話を頼まれます。信繁は「桃は水が多すぎると根が腐る」と植え替えを提案します。この会話、ただの桃の木の話とは、思えないんですよね。桃の木を贈られた秀頼も、水はけの悪い土地に飢えられ、根が腐るのではないか、と。

 

この煽り、この直江状、絶品なり

一年後、慶長五年(1600)五月。家康は大坂城に入り、ついに天下に王手をかけたかに見えます。

そんな家康に対して、待ったを掛ける声ははるか北から聞こえて来ました。会津の上杉景勝が上洛命令を再三無視し、さらに歴史を変える煽り文書「直江状」を届けてきます。

家康は長い長い「直江状」を破り捨て激怒。上杉討伐が決まります。

それにしてもこの「直江状」の場面が絶品なのです。ドヤ顔で書をしたため、いきいきとした美声で読み上げる直江兼続。「直江状」の痛快さに思わず破顔する景勝。この場面には多くの視聴者が大興奮です。この反応を見ていると、何故上杉主従をメインとした2009年の大河ドラマ『天地人』が評価的に大失敗とみなされるかわかる気がします。直江主従のファンは、見た目が綺麗だけの義や愛ではなく、こういう煽りが見たかったんですよ。

さてこの「直江状」ですが、偽作説もあります。しかし近年の研究では、江戸時代に写しを作成する際に様々な文言が追加されてしまったものの、そのものはあったという説が有力となっているようです。

真田丸直江兼続霜月けい

真田丸上杉景勝霜月けい

 

信玄の背中を追い求め続ける純粋な昌幸

上杉討伐の前、真田昌幸のもとにも密書が届きました。家康を迎え撃つため、協力して欲しいという内容です。昌幸はそれに乗ることにしました。父の決意を聞く二人の息子の顔は、複雑な表情を帯びています。昌幸は乱世に飢えています。乱れた世で、旧武田領奪回を目指しているのです。この昌幸の思考については、草刈正雄さんのインタビューが参考になります。

◆草刈正雄が語る『真田丸』と俳優人生「三谷さんに出会って変わった」

あっちこっちチョロチョロして義がないと言われていますが、昌幸は素直なんですよ。結局、一番義があるのは昌幸だと思っています。彼はずっと御屋形様(武田信玄公)への義を貫いているんですよ

三成然り、死者の思いに振り回されるあまり損な役回りを引き受ける人が本作には存在します。真田昌幸こそ、その一人でありました。「表裏比興」と言われながら、昌幸が追い続けたのは武田信玄の背中だったわけです。なんとも哀しいではありませんか。

真田丸真田昌幸霜月けい

協力して欲しいと頭を下げる父に、信繁は父に従うと返します。信幸もまた迷いつつも、真田家の嫡男として父に従うと返します。昌幸は感激し、「よい息子を持った!」と息子たちの手を取ります。

別れの時が迫っているせいか、将棋崩しに続いて序盤の繰り返しとなる演出があります。昌幸が「よき息子だ」を連呼するのは、第六回でもあった場面です。

息子を前にして父が決断を問うというのは、やはり第二回を思い出します。

しかし、あの時とはまるで違うのです。状況ではなく、息子たちが違うのです。この場面の昌幸は小さく見えます。序盤ではあれほど大きく見えた背中の小ささにハッとします。実のところ昌幸はさほど変わっていない。むしろ変わらなすぎて時代の流れについて行けないのです。一方で息子たちは、父とは別の己が進む道を見いだしているのです。

 

主人公の才知は色褪せ兄には以前のような嫉妬はなく

兄弟は二人きりになると、信幸は「やはり父上は戦がなければ生きていけないのだな」と漏らします。

兄弟は他の大名たちとしのぎを削っていた頃を思い出します。信幸は、舅である本多忠勝と対立すること、そして妻の稲を思いやりつつも、仕方ないのだと自らに言い聞かせます。信幸は打倒家康後の天下情勢はどうなるか、と信繁に問います。

実のところ、信繁は昌幸のように乱世に戻そうという気はありません。乱世を作るためではなく、ただ豊臣の敵である家康を倒すため、父の野心に乗っかると決めているのです。そう語る信繁に、信幸は豊臣政権の展望をさらに尋ねます。

「宇喜多殿はまだ若いが立派な大名になります。大谷吉継殿もいます。秀頼様は幼いながらも聡明です。成人したら、父を上回る立派な天下人になるでしょう」

そう語る信繁。信幸は一見弟の言葉を感心したようで、口では弟を褒めていますが、どこか冷たく突き放した目です。

理由は何故かわかります。信繁の見通しはあまりに楽観的で、見通しというよりはただの願望です。宇喜多秀家が頼りなく、成長性もあまりないことはドラマ内で証明済みですし、大谷吉継は回復の見込みのない病に罹り、半引退状態です。そして秀頼が大人になるまで先はまだまだ長い。信繁の言う根拠なんて何の意味もありません。

信繁は豊臣に入れ込むあまり、客観性を失いました。真田のために動くという原則も通じなくなりました。そして大局を見る目や先見性は、最初から信幸の方が上でした。少年時代は弟のあふれる才知に対して感心しつつも、嫉妬していた信幸ですが、もうその必要がなくなったと理解したのでしょう。
「ふたりでひとつ」とことあるごとに言われていたこの兄弟ですが、もうその必要はなくなったのです。兄弟ではあっても、互いを補う存在ではなくなってしまったのです。主人公の才知が色褪せ、兄弟の絆がほころびる瞬間をこうも残酷に描くとは、本当に本作は意地が悪いと思います。

霜月けい真田丸真田信幸

家康は、徳川VS上杉ではなく、豊臣VS上杉という名分にしようと策をめぐらします。

ところが、いつもは頼りない片桐且元が粘り、断固としていったんはこの策を断ります。家康は、次の手を打ち茶々に交渉します。茶々を籠絡する上で厄介なのは大蔵卿局。家康は厄介なこの婦人を首尾良く追い払うと、茶々本人から豊臣の旗と幟の使用許可を得ます。最善ではありませんが、ほぼそれに近い次善の結果を得たわけです。家康の意図を見抜けない茶々は浅はかで愚かに見えますが、彼女の才知を潰したのは周囲のあやまった気遣いなのです。

豊臣の幟を掲げた徳川家康の軍勢は、コーエーCGマップ上を北へと向かってゆきます。

家康の軍勢が全て出立したあと、大坂では宇喜多秀家、小早川秀秋、片桐且元らがある決意を固めました。家康の横暴を止めるべく、彼らは決起したのです。そして彼らの背後にいたのは、佐和山から戻った石田三成でした。

天下分け目の戦が、いよいよ始まります。

 

MVP:直江兼続

家康と正信はセットでもはや殿堂入り、三成もほぼその域に入る主役ぶり。加藤清正もよい味を出していますが、後半の「直江状」ですべてこの人が持っていきました。

公式サイトで彼の顔写真を見たときから、この顔で「直江状」を読むなんて最高だなと思っていましたが、もう実際に見たら最高オブ最高といいますか。理想通りの場面で感動のあまり笑いながら涙すらにじんできました。想像以上でした。

顔も素晴らしいのですが、声がね、もう、最高。イラっと煽るように軽くため息をつくようだったり、声音に侮蔑をこめていたり、煽り方が絶品でした。公式サイトで音声ファイルを配布して欲しいほどです。

真田丸直江兼続霜月けい

 

総評

秀頼は、石田三成の贈り物である桃の木を植えました。三成が残した木は、きっとこれだけではありません。

清正、寧、茶々……。彼の思いや警告を受け止められなかった者たちは、今後、三成こそが正しかったと信じ、苦悩することでしょう。四百年の時を経て、三成が己の汚名をそそいでいるような、そんな思いを感じる回でした。

本作のユニークな点はいくつもあります。

主人公がどんどんスポイルされて、若い頃持っていた宝石のようにきらめく才知を失ってゆく点もそうだと思います。豊臣家への楽観的過ぎる見通しは、本作序盤の信繁ならば言わなかったと思うんですよ。これは信繁一人に限ったことではなく、茶々もそうです。茶々もまた、鋭敏な感性を失ってゆきます。今、聡明さを見せている秀頼も、そうなるかもしれません。人の根を腐らせる水のようなものが、豊臣家周辺には流れているように思えます。

これもまた、秀次の鬱や秀吉の老衰同様、残酷なリアリズムではないでしょうか。

十代のころ、輝くような才能と可能性にあふれていた人物が、歳をとるに従って世間の風にくたびれて摩耗してしまうなんて、よくある話です。最終回に近づけば近づくほど、主人公が出世して老成してゆく――そんな話のほうがむしろ夢物語なんですよと、つらい現実を突きつけて来ます。

しかも、本作では信繁の才能はどんどん摩耗していくのに対して、敵である家康と兄である信幸はその逆なんですね。信繁が主役なのに、その兄やその敵の方が実は優れていると描くのだから、本作はとことんひねくれています。このひりつくような痛みと苦さが、本作を忘れられないドラマにするのだと思います。

と、ここまでしんみりと書いて来て何ですが、今週は様々な伏線を吹っ飛ばしてあまりある「直江状」がともかく素晴らしくて、今週はそれに尽きると思うわけですよ。45分延々と「直江状」でもよかったくらいです。村上新悟さんが直江兼続を演じる、それを見る幸せというものが、2016年の今確かに存在します。もう感謝しかありません。ありがとう、最高の「直江状」を、ありがとう。

第35回「犬伏」 兄・信幸が旗を振り、船頭となるとき

こんばんは。
前回は裏番組にくわれて、視聴率が最低記録となりました。今週は見せ場ですので、盛り返して欲しいところです。

◆〈速報〉NHK「真田丸」24時間テレビで自己最低13・2%

 

上杉討伐のため会津へ向かう徳川家康一行。この機に石田三成は挙兵しました。さて真田はどう出るのでしょうか。

真田は上杉につく、昌幸の言葉を借りれば「徳川を裏切るのではなく表返る」道を選びます。昌幸たちは、妻子たちが徳川方の人質になることをおそれて、上田と沼田へ戻るように伝えます。
ここで女同士のバトルが勃発。
薫を守ると張り切るきりに、春が対抗心を燃やします。きりは細川屋敷の仕事はサボると堂々と宣言。私も「きりだから仕方ない」とこの手の発言をすっかりスルーできるようになりました。

稲は、父の本多忠勝から届いた「真田が徳川を裏切る気配を見せたら伝えよ」という内容の書状を昌幸に見せ、自分は真田信幸の妻であるから徳川に内通などしない、と断言します。あの嫁いだばかりのツンツンした態度から、よくぞここまで変わったものです。そしてここで伏線となるのは、舅や家そのものではなく、あくまで「信幸の」妻として忠誠を誓っている点でしょう。

信繁は上田に出立する前日、大坂城の片桐且元の元へ向かいます。且元は石田三成が豊臣秀頼に贈った桃の木を世話しているのでした。

そこで寧に出会った信繁は、世の中が落ち着いたら気立てのよいきりと一緒に顔を出しなさい、と言います。視聴者からはブーイングを受けるきりですが、職場での人あたりはよかったようですね。
信繁は大坂城の壮麗な天守閣を見上げ、秀吉が健在だったころや、茶々がまだ秀吉の側室となる前だったころを思い出します。信繁は、あと何度こうしてこの城を見上げるのでしょうか。

今作における秀吉の妻たちは、関ヶ原では重要な役回りを果たさないようです。女同士の対立という視点から展開されることも多い関ヶ原ですが、寧は戦そのものに心をいため、茶々は無関心というわけです。
寧のような戦を嫌うヒロインは大河のテンプレではあります。が、今作の寧の場合は、夫である秀吉が築いた「戦のない世」を守ることこそ正しいと彼女が考えているとわかるため、あまり違和感はありません。

 

会津では、上杉景勝と直江兼続が戦の支度をしております。
領内から身分を問わず男子を取り立てるべきと進言する兼続ですが、景勝は「嫌がる者は見逃せ」と甘い言葉を言います。ここで兼続、渋い顔。
この調子ですと、主君を裏切って心苦しいとは思いつつ、容赦なく兵を集めるように見えます。

江戸城の家康は、出陣する嫡子・秀忠に本多正信を後見役としてつけることに。
秀忠は自室に戻ると、「父に信じられていないんだ、気持ちが萎えるわ」と愚痴ります。それを励ますのが目を爛々と輝かせた妻・江です。

男キャラの暑苦しさナンバーワンが宇喜多秀家なら、女キャラではこの人が暑苦しさ筆頭にあげられそうです。
僅かな出番ながら、江からは推しの強さと気の強さがみなぎっています。秀忠がのほほんとしていてクールであるのに対して、この妻はそうではない様子。長姉である茶々とも、かなり性格が違いそうですね。

この短い出番でここまでキャラクターの方向性がわかるのは、かなりの名演だと思います。
江も過去作で曰く言いがたいイメージがついた人物なので、今作で上書きした欲しいところです。

イラスト・霜月けい

 

その頃、上方では、会津へ向かう大谷吉継の陣に石田三成が訪れます。

勝算はあるのかと尋ねる吉継。三成は「わかりませぬ。やらねばやらぬのです。お命、私に預けてはいただけぬか」と決意を語るのですが、吉継は複雑そうな顔で挙兵の誘いには返事をしません。ただ、三成に今夜は泊まってゆけ、と言うのみです。

その晩、吉継は三成を呼び出すと突如ハッパをかけました。
「勝てるかどうかわからぬと申したな。そのような男に命を預けるわけにはいかぬ。そのような弱音を吐くな、兵を起こすならば必ず勝つ! その気概がなくしてどうする!」
三成は目を潤ませ、吉継の言葉に聞き入ります。事務裏方には向いていてもいまひとつ戦略を練れない三成に、吉継は「秀頼を味方につけ、家康弾劾状を書く」と策を授けます。

上田城で昌幸は、高梨内記とともに乱世をめざして野心をギラつかせます。しかし、刀狩り以来武装解除されていた与八ら兵士たちの心境は複雑なようです。

大坂の真田屋敷では、薫が大量の衣装を前にああだこうだ言いながら荷造りをしております。薫の行動はばかばかしくも思えますが、一枚一枚の衣装に夫との思い出が詰まっていて、あとで泣かせる伏線かもしれません。もしかして、ですが。

そこへ佐助が、大坂城に石田三成・大谷吉継が入ったと報告しに現れます。佐助は忍術がレベルアップしたのか、高速移動すると「風の音」SEが入るようになりました。

 

 

三成の西軍、いよいよ始動です。諸大名に家康弾劾状を突きつけ、諸大名の妻子を人質にとり、宇喜多秀家・小早川秀秋に伏見城攻めを命令。

しかし小早川秀秋は、どうにもやる気がない様子。秀秋のこのやる気のない演技がいい。秀秋の態度は腹立たしくもあるのですが、彼は秀次らの破滅を目にしてきたわけです。同情の余地はあります。
秀秋は、腹心の板部岡江雪斎にやる気がないと憤懣をぶちまけます。すると江雪斎は徳川のスパイだという自らの正体を明かすのでした。
えっ、もう!?

 

春は父・吉継を訪れ、元気を回復した姿に喜びます。春たちは吉継の庇護があるからとりあえず安心であるということになります。家康の側室である阿茶局は、混乱に乗じて城を脱出。さすが抜け目がありません。

真田屋敷で薫やきりが荷造りをしていると、細川屋敷の方角から煙があがっています。
職務放棄をしていたきりは、慌てて細川屋敷へ。すると玉が、ロザリオを手にして恍惚とした表情で祈りを捧げていました。玉は夫の細川忠興から、人質に取られるくらいなら自害するように命じられていたのです。

きりは「ならさっさと自害すればいいじゃん!」ととんでもない発言。しかし玉は「切支丹は自害できないから」と答えます。きりは困惑し「切支丹、わけわからない!」と本音を言います。

きりは玉の言葉には構わず、ひきずり救出しようとします。「結構重たい!」と更なるとんでもない発言つきで。
ここで玉はハッとして、洗脳がとけたように生きる望みを顔に出します。そこへタイミング悪く、玉の家臣が駆けつけます。もう少しきりが早ければ、玉は助かったかもしれません。
玉はまた笑みを浮かべ、元居た場所に戻ってしまいます。すると家臣の槍先が障子越しに玉の胸を貫き通し、絶命します。

この場面、きりがドタバタしていて、ちょっと変なんですよ。ただ、悪い意味ばかりではなく、なかなか興味深いとは思います。
玉の死は本当に自害だったのか? 実は夫の忠興による強制殺害ではないか、という説もあるそうです。確かに「自害は駄目だけど、誰かに命じて殺されるならセーフ」とは妙な気がしませんか。それはどのみち本人の意志で死ぬことには変わりがないのではないでしょうか。その説の折衷案を本作は採用しているように思えました。

この場面で一番辛いのは、玉がきりに助けられようとして一瞬生きる気力を取り戻したことです。従容として死に向かったわけではなく、一瞬でも生きる意志を取り戻したわけです。本当に一瞬ですが……これがとても残酷に思えました。玉が洗脳されていたように見えてしまったわけです。

きりが玉の死に唖然としていると、三成配下の兵士が乗り込んできます。きりは、助けに来た佐助とともに祭壇の下に隠れます。

 

ちょっとここで、きりについて。おそらく玉の死を邪魔して鬱陶しいと言われそうなので、擁護しておきます。

そもそもなぜ、きりは切支丹にあこがれたのでしょうか。これが結構唐突に思われているようです。
殉教の覚悟があるわけでもなく、信仰心もありそうでもなく、ミーハーなだけに思えますが、話の流れを追っていくとわかる気がします。きりが初めて切支丹の教えに接したのは秀次の形見の聖母子像を見たからです(第二十八回)。

はじめは、なぜこれを秀次が残したか知るために、玉に話を聞いたわけです。そしてきりは、玉との問答でこう教えられます。

「あなたに思う心があれば、既にゼウスによって救われるのです」

それこそがもっとも気に入った点だと、きりは信繁に言いました(第三十四回)。実のところきりは、切支丹の教えをあまり知りません。ただ、

「私が思えば、相手にも届いて両思いになれる!」

という点が気に入ったのだと考えれば、納得できるのではないでしょうか。
いつまでも相手を思っているのに、通じないきり。そんな彼女にとって、「片思い=両思い」であるという切支丹の教えはきっと救いであり、魅力的なのでしょう。そんなふうに無邪気に思っていたのに、玉から自害は駄目だのなんだの聞いて、「えっ、意味わかんないし、切支丹怖すぎ」と引いてしまったわけです。

そんなきりがあの場にいたことは、ちょっとした救いだったと思います。
きりは「もっと教えて欲しいことがあるんです」と玉に言いました。そのとき、玉は、死をさだめられた忠興の不幸な妻としてだけではなく、一瞬でも玉は博識で優しい、生きるべき女性として存在できた気がします。

それと、これはあまり気遣う人がいない気がするので書いておきますが。こう何度も何度も、身近な人をトラウマになりそうな亡くし方をするきりの精神が心配です。図太いので乗り越えられるのでしょうけれども。
きりは無神経だの何だの言われるアンチヒロインですが、そのくらいでないと精神的地雷を何度も踏み抜いても笑顔でいることなんてできないと思います。

 

細川屋敷の異変を見た稲は、徳川に近い自らの立場をあやぶみ、沼田へ逃げることを決意。こうと子供たちを連れて脱出することにします。

稲の見せ場は来週あるかと思いますが、関ヶ原での彼女はどこにいたのかは、考証担当者の間でも意見が異なるようです。人質として大坂にとどまったか、信幸の配慮によって脱出していたか。本作では脱出説を採用しています。

玉の死は、三成にとっても手痛い失敗でした。
捕縛したきりと佐助から玉の死を聞いた三成と吉継は、作戦が裏目に出たことを瞬時で悟ります。吉継は佐助に密書を託し、真田に送ることにします。いつも密書を送る際に締め切りを縮められる佐助ですが、吉継はそうしませんでした。優しいですね。

この頃、江戸にいる家康の元まで、三成挙兵の知らせが届いています。

吉継はもはや病が進み、戦場では采配を振るえないと悟っていました。人前に出る時は頭巾で顔を覆うようにもなっています。
彼は筆と頭脳で三成を支えると決意を固め、まだどちらへつくかわからぬ諸大名を西軍につけるため、書状を書くことにします。三成は吉継を気遣い祐筆を使わないかと聞きますが、吉継の決意は堅いのです。
しかし流石に筆すらとれぬため、吉継の言葉を三成が書き留めてゆきます。夜通し書状を書き続けた二人。夜が明けたとき、吉継の体力は限界でした。倒れ込む吉継を三成が支えます。

ちなみにこのとき書状を一斉に書いていたのは、彼らだけではありません。家康も書状を大量に発給し、諸大名にこまめに送っています。このとき、日本中は大量の書状が行き交っていたことでしょう。

それにしても吉継は、本当に自らの筆で三成を勝たせることができると思っていたのでしょうか?
三成よりも彼の方が、むしろ確信がなく動いていたのかもしれません。ただ彼には、どのみち後はありません。見えぬ目と衰えゆく肉体を、最期に完全燃焼するため、奮闘しているのかもしれません。

 

 

七月二十一日、いよいよ江戸からは家康の三万が北上し、宇喜多・小早川が伏見攻めへと向かいます。

同日、真田昌幸・信幸・信繁は犬伏に着陣しました。そこへ佐助が吉継からの密書を届けに来ます。昌幸は三成の挙兵を知り、怒ります。上杉攻めで昌幸が家康の首を取った後、三成が挙兵すべきだったと、昌幸は判断していたからです。

父子三人は堂に籠もり、今後について語り合います。
昌幸は、これから上田に戻り籠城すると宣言。誰にも加勢せず、守りを固め、攻めて来た敵を撃破すると豪語します。というのも彼は、このあと乱世に戻ると読んでいたからです。あと十年で世が乱れる。その間に旧武田領を復する――という策です。

この言葉を聞いて、昌幸にあきれた人もいるかと思います。ただ彼を擁護しますと、昌幸の考えていることはそこまで無茶苦茶ではありません。むしろ当時としては主流派といえるのではないでしょうか。

関ヶ原の戦いといえば東軍西軍と分類するわけですが、どちらかの姻戚であるとか、あるいは強烈な思い入れがあるわけでもなければ、割とどっちつかずなんですね。
「この戦いが長引いたらまた乱世に逆戻りしそうだから、今のうちに領土を拡大しておこう」
そう思った勢力が、むしろ主流ではないかと思います。一昨年の軍師官兵衛でも描かれておりましたが、官兵衛は九州でいきいきと暴れておりました。

本作において目立った勢力の中では、伊達政宗もこの「乱世に期待派」です。
奥羽の大名は家康がUターンしたあと、上杉勢と対峙することとなります。この時の政宗の行動は、実に描写が難しいのです。自領が直江兼続に侵攻された最上義光に消極的な援軍を送る一方、一揆を煽動させていたりするのです。
政宗の行動は一応「東軍」といえるものではありますが、長引くと思われる戦乱の合間に奥羽をできるだけひっかき回し、火事場泥棒的に領土拡張を狙っていたと思われます。

 

しかし昌幸の乱世期待発言に対し、信繁は大反対!
今や敵味方の力が大きくなり、一度の合戦で一気に世が動きます。つまり、乱世は到来しない、夢物語はもう終わりにしてくれ、というわけです。父に対して珍しく声を荒げる信繁。長期戦略において、信繁は父を完全に上回りました。

外では家臣たちが中で何を話しているのか気にしています。河原綱家が気になってのぞき見すると、怒った信幸が何か(竹筒?)を投げつけ、綱家は歯が欠けてしまいました。史実では彼は大坂に居留守役として滞在していますが、この後世の創作逸話はあまりに有名であるため、付け加えたそうです。ちなみに元の逸話では、昌幸が下駄を投げたことになっています。

信繁はもはや乱世は訪れない、今後は豊臣の勝ちとなると読みました。しかし信幸は、徳川家康の力は強大で侮れないと言い出します。

ここで昌幸は、こよりを作り、どちらにつくかくじ引きで選ぼうと言い出します。信幸はさっとくじを引き抜き「こういうことはもうやめましょう」と父の意見を一蹴します。
このくじは両方とも朱=豊臣に塗られていました。昌幸は徳川につく気はないということです。

「私は決めました……私は決めた!」
突如、信幸は叫びます。
くじ引きからこの台詞への流れは、第二回の昌幸と同じです。変わったのは、武田滅亡時には真田の命運を決したのが昌幸であったのに、ここでは信幸になっていることです。

信幸の策はこうでした。
昌幸と信繁は豊臣につき、信幸自身は徳川につく。
敵味方に分かれると驚く信繁に、信幸はそうではないと言い返します。もし豊臣が勝ったら、信繁がどんな手を使ってでも兄を助ける。徳川が勝ったら、信幸がどんな手を使ってでも、父と弟を助ける。この策こそ、三人がまだ集まって手を取るための策だと。たとえ豊臣と徳川に別れても、真田は一つだと宣言する信幸。彼こそが、真田精神の継承者となった瞬間でした。

兄弟で二人きりになったとき、信繁は「兄上には迷惑をかけっぱなしです」とつぶやきます。信幸は「我ら三人でもう一度、徳川の大軍相手に大暴れしたかったがなあ」と言います。

兄弟は、これが最後の戦いになると悟っています。
この先どうなるのか。これからは我等が真田を背負っていかねばならないと決意を新たにします。二人は父の大きな背を超えました。

信幸は、死を前にした祖母・とりの言葉(第26回)を思い出します。

「我等はこのときのためにうまれてきたのかもしれない、いずれまた三人で飲める日が来ることを祈ろう」

そう語る信幸。二人でひとつという言葉は、別れることによって実現されようとしています。
ただ、信幸はもう一人でも家を守ることはできるくらい成長しているんですよね。それと比べると信繁は感極まって泣き出してしまっていて、その様子が子供返りしたように幼く見えたのです。

嫡男とそうでない者の差が見えた気がしました。よい兄弟です。彼らのように真田の兄弟たちは、これまでも協力して家を守ってきたわけです。

三人は再度堂に籠もり、酒盛りをします。
信幸は名将である韓信は父に似ていると語り出します。「背水の陣」や戦について父子は語り合います。この三人の雑談は随分と久しぶりの気がします。信幸は父への敬愛をにじませ、「父上は日の本の韓信だと思っている」と語ります。心の底から愉快そうに笑う三人。これを最後にして、三者は別れてゆきます。

 

MVP:真田信幸

今週は絶対に迷うと思っていました。が、蓋を開けてみると全く迷うことなく、信幸だと思いました。台詞も彼がおそらく一番長かったですね。

考えてみれば、「真田丸」というタイトルですから、その名の船が沈んだらおしまいであるわけです。そしてこの浮沈を決する場において、信幸が舵取りをしたわけですから、彼こそ作品全体のMVPであったとしても過言ではないでしょう。
死者への恩義にひきずられて「生存」という判断力が鈍った父と弟に対して、信念を貫き生き延びるための決断をした信幸。今週こそ、彼のひとつの到達点であり、ドラマとしてもまさに頂点でした。

信幸も振り返ってみれば、父の突拍子もない策に翻弄され、弟には劣等感を味わい、ずっとどこか冴えない日々が続いていました。それが今、父と弟を超え、心の底から笑うようになりました。父の才知に戸惑っていた頃は、父を韓信にたとえて笑顔で称えるということはできなかったでしょう。

今週は真田信幸の才能が花開き、父を超えた回でした。

 

総評

すべては「犬伏」を計算して、八ヶ月間ドラマを紡いできたのだとわかった回でした。これは紛れもなく、今まで放送した中でもベストの回でしょう。そして様々な人々が叡智を絞りうごめく中で、真田の三人が最も輝いている回でもありました。

本作にはいくつもの大きな「先代の背中」が出てきました。偉大な父を超えることができず、あるいは超えようとしている途中で、力尽きる者たちがたくさん出てきました。武田勝頼織田信忠、春日信達、北条氏直、豊臣秀次……しかし真田兄弟は、見事に昌幸を超えて花開きました。

そしてこの父と兄弟は、笑顔で腹を割って話し合っています。もし同じように、氏直や秀次ができていたならば。自分の意見を素直に相手に伝え、それを認められていたなら。道はもっと違ったものになったかもしれません。

真田の父子は幸せです。

彼らが幸せになった秘訣は、シンプルで力強い「信頼」です。真田一族は天下を取るわけではありません。ただ、力強く、この乱世を渡りきるだけです。その姿がなんと幸福で、なんと力強いことか。

信頼すること、生きること、そんな小さいようで、とても大切なことを大事にする。本作は時に珍妙で、時に思い切り意地が悪いのですが、根底にそんな熱い血潮が流れていることを感じます。今回はまさにそんな「互いを信じて生き抜く」熱さが頂点に達した回でした。

本作序盤の謀略を見て「どこが愛と勇気の旗を掲げているんだ?」と思った方も多いでしょう。しかし今回でわかったのではないでしょうか。本作はちゃんと、家族への愛と、信じる勇気の旗を掲げていますよ。

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