『西郷どん完全版第壱集Blu-ray』/wikipediaより引用

西郷どん感想あらすじ

『西郷どん』感想あらすじ第3回「子どもは国の宝」


「許せ、薩摩も日本国も進まねばならぬ」

江戸では、老中阿部に呼び出された調所が責められていました。
ここで調所は、斉興をのぞくための陰謀で黒幕がいると言い出します。

調所広郷(竜雷太さん)

役者さんの熱演でなんとなく重厚感が出ていますけど、そういう藩内幕のドロドロを、みんなして幕府老中にバラすってどうなんですか。
セキュリティに厳しいことに定評のある薩摩藩なのに、ガバガバや~ん!

そしてここで斉彬が登場。
「許せ、薩摩も日本国も進まねばならぬ」
おっとっと~。

島津斉彬(渡辺謙さん)

いますよね。
『X-MEN』のマグニートーとか、『ジョジョの奇妙な冒険』のラスボスとか、こういうこと言い出すキャラ、おりますよね。
俺様の計画に従えば、人類が一段とグレードアップするとか言い出して、なんか悪いことやってしまうタイプ。

どうして天下の英邁・島津斉彬が、こんな危ない人になってしまったのでしょう。

しかも同じ口で「薩摩のことを教えて欲しい」とか言い出して、ますますヤバイ感じ。
薩摩のこと知らんまま、陰謀で突っ走って、自分が藩主になれば日本も進むとか考えていたらなお怖い。

全力で斉興・調所コンビを応援したくなりました。この斉彬は、藩主にしたらイカン斉彬ですわ。

 


久光も単なるアホではないハズで

しかし、この流れを受けて、調所は覚悟の自殺を遂げます。

報告を受けた斉彬。襖をがらっと開けて庭を見て、酒を飲みながら言うわけです。

「死なせとうはなかった」
いやいや、いやいや。
さすがに、それは白々しい。
密貿易等を持ち出して、追い込んだのはご自身ではないですか。

一方鹿児島では、調所の死を受け、アホっぽい所作で島津久光が、由羅を侍らせた斉興のもとに、ドタドタと走ってきます。

あーorz
いやな予感をしておりましたが、やはり久光をアホの子にしてしまうんですね。
斉彬も信頼していた優秀な人(弟)なのに。

島津久光(青木崇高さん)/小久ヒロ

斉興はこの件で激怒。

そりゃそうでしょ。
密貿易をバラすなんて、一歩間違えれば改易ものです。

幕府がいろいろと手一杯でそれどころじゃなかったからよいようなものを。
今後、密貿易ができなくなったら、藩の財政は赤字に陥ります。

 


赤山靱負が切腹!? で来週へ

「あらぬ疑いをかけられ、このままではあの者どもに斬られてしまう……」
由羅は呪詛の疑いをかけられているの、と身をくねくねさせます。

この言動は視聴者に対し、
「呪詛をしているくせに! 無実のふりをして!」
とアピールするためでしょうか。

史実でも由羅は無実ですからねえ……。
そもそも昔は、乳幼児死亡率は高いものでして。斉彬の子供が次々と夭折したことは不幸ですが、ありえない話でもないでしょう。
久光は、「母上はおいがお守りいたします」と張り切ります。

西郷の郷中仲間は、
「ないごでこげなひどかこつになっちょっか!」
そう激怒します。

いやいや、もうほとんど全部が斉彬のせいだよ、としか思えない杜撰な展開です。

そのうえ、由羅を腹黒い妾呼ばわりして、殺してやるとまで息巻く始末。
こういう薄暗い家で若者が謀殺密議をしていると、2015年『花燃ゆ』を思い出すのでそろそろ勘弁して欲しいのです。

ここで吉兵衛が、暗い顔をして帰って来ます。

赤山靱負切腹に立ち会い、介錯することになった――。

 

総評

今週は、一番力を入れているはずの斉彬の言動が、踏み越えてはいけない何かを踏み越えた気がします。

一歩間違えれば改易につながりかねない、一か八かの密貿易の一件を、スタイリッシュ密告。
自分が調所を殺したようなものなのに、調所を死なせたくはなかったと言ってかっこつける。

どうして、こんな危険な人になっとるんや……?

もちろんケン・ワタナベ効果は大きく、おそらく危険な本質はかなり誤魔化されているとは思います。

ただ、今回の彼は
◆2016年『真田丸』の草刈正雄さん、◆2017年『おんな城主政次』の高橋一生さん
ルートではなく
◆2015年『花燃ゆ』の伊勢谷友介さん
ルートにさまよい込んでしまった気がするのです。

彼の熱演は、役柄に熱い息吹を吹き込んでいます。
それゆえに、脚本に危険な言動が描かれてしまうと、嫌な説得力を持ってしまいます。本当に危険人物に見えてくるのです。

初回からうすうす感じていましたけど、本作の斉彬はヤバイですよ。

島津斉彬(渡辺謙さん)

「この素晴らしい俺様が、愚昧な人類を一段引き揚げてやる」
この手の、超能力漫画ラスボス系の言動をされています。
日頃から勉強熱心だとか、何か根拠があればいいのですが、これから処断待ったなし状態の調所に「薩摩のことを教えてくれ!」とか言っちゃうレベルなので……。

だからこそ「斉彬様が藩主になれば薩摩はバラ色に!」とか言ってしまう西郷以下も痛くなる。

なんかこう、ファナティックな集団に見えてしまうんですね。だってそんな根拠はないんですもん。

斉彬は、根拠が特にないまま先を読んでいるのが気持ち悪い、大変残念な人物になりました。
カッコイイ理想の人物のつもりでこれを書いているのだとしたら、問題があるんではないかと。

歴史ドラマで賢い人物を描こうとすると、結果を知っているから、先を予見させることをさせればよいと思い込みがちなんです。

しかし、そういうものでもなく、
・一歩先を読めば賢い
・二歩先を読めば大天才
・三歩先を読めば占い師
とまぁ、行き過ぎになると、それはもう、ただのご都合主義なんです。斉彬は、まさにご都合主義の塊です。

一昨年と昨年は、作品が異なりますが、とても賢い人物として本多正信が出てきました。
どちらの作品でも、正信は一歩先を読み、絶妙な手段を使います。

正信の賢さは、
「誰が何時頃出てくるか読んで、草履を出す」
そういったものでした。それでも十分なのです。実際にそんなことをできる人は賢いのですから。

本作の斉彬みたいに、
「俺が密貿易を密告する→
密告してもどうせ改易にはならんし、たいしたことない→
結果的に俺が藩主になる→
俺が取り立てた連中が明治維新を起こす→
日本が変わる=俺が藩主になれば日本が前に進むのだ」
ここまで理解しているとしか思えないような言動をしてしまうのは、もはや違和感しか残りません……。

西郷の性格も、短絡的で器が小さいのです。
フキの失敗についてまるで反省なく、安請け合いして結局他人に頼ってなんとかしようとする。

システムを変えること、具体的な理想もなさそうで、ただ目の前の人が可哀相と訴えるだけという印象。
そんな青臭い考えで調所を批判するだなんて、さすがにおこがましいです。

借金で子供や使用人に米を与えて、それで満足しているって、本当に短絡的で器の小さい奴だな、とあきれてしまいました。

立場は異なりますけど、直虎とは行動が逆なのです。
直虎は徳政令をとりあえず出せば人助けできると安請け合いしてしまい、そのことで苦しんでいました。

目の前の人を助けるだけでは不十分で、システムそのものの改修が必要だと悟り、産業を興すところまでいきました。
そりゃ主人公の立場は違いますよ。ただ、それ以上に、主人公の思考回路が違うのです。これが大きい。

話運びに関して言えば、困っている子供を救い、コネで何とかするという繰り返しを、二週連続やるのは、ネタ切れガス欠の兆候ではないかと不安になってきます。

まだ三回目なのに、政治的なことを極力描きたくないから、ホームドラマに逃げている感が漂っているのです。
主人公が小さな人助けをする人情路線や、ラブコメで時間を稼ぐのは危険です。

西郷の人助けをダラダラと流す一方で、お由羅騒動をものすごくあっさりと短時間で片付けてしまいました。
ペース配分が逆でしょうに……。

本作の調所の扱いについて考えると、哀しさだけがこみあげきます。

彼は『おんな城主 直虎』の井伊家における、小野政次のような立場でもあります。
家のために尽くし、奸臣の汚名を着て、命を捨てた立場の人物です。
ただ、再評価は進んでいて、今回のドラマ放送は彼の真価を世間に知らしめるとても大きなチャンスでした。

それを……。
本編でさんざん罵倒され、紀行でチラッと触れて終わりって、あまりに切なくありませんか?

斉興、久光、由羅も残念すぎます。
斉興と調所は、幕末における薩摩藩躍動の地ならしをした人物です。西郷も大久保も、この2人がいなければ維新三傑になれるハズもなかった。
そもそも薩摩が地方の一借金藩で終わっていた可能性すらあります。

それなのにこの扱いって……。
『おんな城主直虎』は、小野政次、瀬名、今川氏真らの評価をひっくり返していく展開が見事でしたが、今年はそういう再評価は期待できないようです。

 


蛇足

本作の薄っぺらいジェンダー感について。
こんな記事があります。

◆NHK大河ドラマ「西郷どん」現代の視点から幕末を照らし出す(→link

◆大河ドラマの異変「西郷どん」大胆脚色 納得の理由 (→link

私が第一回でけなした、糸郷中侵入事件と、西郷の女装について高評価されております。

史実通りに描いては、女性の生きづらさが見えてこない。
だから、ああいう大胆な脚色がありだと。

しかし、本作はあまりに浅い。
かえって「流行っているから入れてみた」感が見えてしまっていて、私は評価できませんでした。

いきなり出てきた10歳前後の女の子が、妙に大人びた口調で語る。
同じ年頃の男の子が、せいぜい数時間女装して歩いただけ実感する「女として生きる辛さ」。
そんな薄っぺらい実感でジェンダー感を語った気になってどうするんだと。

過去の大河は、史実から逸脱しない範囲で、女性が置かれた苦境とそこからの脱出を描いて来ました。

以下に、振り返ってみたいと思います。

◆2013年『八重の桜』の八重
幼い頃から鉄砲禁止、漢字が読めず、同年代の藩校通いの男子に聞いてまで、独学で学ぶ
独学勉強の成果を知った兄が驚き、鉄砲の稽古をつけてもらう。あとは独学で学ぶ
女性向け裁縫教室の合間に鉄砲自主稽古。女が鉄砲を習っても仕方ないと言われる
周囲からは「鉄砲好きの変な女」扱いをされる
故郷が戦火に巻き込まれ、女は引っ込んでいろと言われたので、この非常時に男も女もないと主張。認められ、狙撃兵に。断髪して夜襲にも参加
明治になってからは、女性の学習のために尽力する
生意気な男子学生から、「夫を尻に敷く悪妻」とバッシングされる

◆2017年『おんな城主 直虎』の直虎
母の代から「井伊家当主の家に生まれた唯一の子なのに女子とは」という目線を浴びて育つ
ピンチヒッターで井伊家当主となるも、「女のくせに!」「これだから女は!」とバッシングされまくる
敵とはいえ、女でありながら辣腕をふるう寿桂尼を、当主として励みにする
同性からも「子供を産んでもいないくせに、子育てに口出しするな」と嫌味を言われる
周りでともかく人が死にまくる
苦労に苦労を重ね、人生後半戦になってやっと「女で、この立場だからこそ見えたものがある」と達観に至る

◆2018年『西郷どん』の糸
気になる男の子を見かけて、一緒に行動したいから男装して同行
判明して怒られた。キレて「女の辛さは女にしかわからない!」と怒鳴る
周囲は同情するし、気になる男の子の西郷はたちまち理解してくれる

※『直虎』に関しては、こちらの記事が秀逸です。

◆『おんな城主 直虎』がこれまでの大河と違った「大きな一点」(→link

さて……。

八重や直虎は、幼い頃から周囲に理解されにくい人生を突き進みました。
異性からは「所詮女」とのけ者にされ。
同性からすら「変わり者」だの「妻でもなければ母でもない」とやっぱり文句を言われ(よき理解者もいましたが)。
そうしてのけ者にされても歯を食いしばり、自己実現のために転びよろめきながら歩いてきたわけです。

彼女らの原動力は、自己実現。自分の限界に挑むことであり、大切なことを守ることでした。

一方で糸の郷中侵入は、気になる男の子である西郷に接近するために思えます。
八重みたいに自分でも武士のような生き方をしてみたいと思う変人タイプなら、別の行動を取っていたことでしょう。
史実の糸も良妻賢母タイプであり、負けず嫌いでいろいろなことをやってみて変人扱いされていた八重とは違います。

西郷にせよ、たかが数時間程度女装して「女は辛いんだ!」と初回で理解するって早すぎでしょうに。

八重の兄・覚馬は、妹の強い覚悟、西洋から学んだ概念、プロテスタントの教えによって、女性にも教育が必要だと悟るようになりました。

直虎の家臣であった中野直之は、女性当主の直虎に「所詮女だ!」と悪罵を投げつけました。
それが彼女に仕え、その生き様に感化され、ついには、
「俺はその女子に一生ついて行くつもりだったんだ!」
とまで叫ぶほどに変わったのです。

周囲の男性が、ヒロインの姿を見て、理解を深めていく。
理由も、歳月もあってこその変貌です。

第一回での糸の言動に反発するものの、だんだんと自分の中の男尊女卑感情が変わっていって、やがて恋に落ちる……そういう展開ではナゼ駄目なんですか?

本作は、浅い。

八重や直虎におけるそれが何年間もかけて熟成した酒ならば、本作のジェンダー論なんて、一晩冷蔵庫に入れて寝かした漬け物みたいなもんです。
そんなものを「史実をねじ曲げてでも入れるべき!」とか言われても、全然わかりませんわ。

どうしても本作は、浅く、適当にジェンダー感を入れてみただけに思えるのです。
2016年『真田丸』だって、女性が主役の二作品ほどではありませんが、きりや淀を通して、女性の生き方についての洞察がありましたよ。

今年からいきなり出てきた、画期的と言い張るのは、苦しいのではないでしょうか?

世界的に高評価を受けており、2016年『真田丸』のスタッフが意識していたドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』では、シーズン7の軍議の場面において、軍の司令官がほぼ女性であったことがありました。
ついでに言うと、彼女らが攻め込む相手も女王率いる国。
このことをスタッフ自身も「誇りに思う」と述べ、革新的だと高い評価を得ました。

ここで軍議に参加していた女性たちの人生は、凄絶な凸凹道。
愛する人を惨殺され、故郷を追われ、生きている間ずーっとボコボコにされてきた、歴戦の戦士たちです。

こういうドラマと比較すると、好きな男の子の側にいた女の子が、ちょっと叱られたくらいで人生の辛さを訴えても、「だから何?」としか思えないのです。

比較対象がベリーハードですみません。
でも、西郷どんも、もっと真面目に、ちゃんと考えて、深くやりましょうよ。
テーマが深いんだから。
ジェンダーと大河を評価するのであれば、『八重』や『おんな城主 直虎』が再評価されるべきではないでしょうか。

そもそも偽善的なんですよね。
本作は、由羅という女性をテンプレート通りのありがちな悪女として描いて、罪を押しつける展開をしているわけです。
『真田丸』では淀を、『直虎』では瀬名を、押しつけられた悪名から解放しました。

そういう芸当すらできていない。
着飾った悪女が毒々しい演技をすれば、それだけで面白いと言いたいような、酷い描き方です。

本作では、不倫した女優が降板に至りました。
一方で、同じように不倫した男優は、降板どころか序盤を盛り上げるキャストとして大々的に宣伝しているのです。

糸の言葉を借りるならば、
「ないごて不倫した女子だけが降板しなければいかんのですか!」
でしょうに。

この手の安易な偽善にはウンザリです。


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著:武者震之助
絵:小久ヒロ

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【参考】
西郷どん感想あらすじ
NHK西郷どん公式サイト(→link)等

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