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その日、歴史が動いた ロシア

インペリアル・イースター・エッグを作ったロシア人宝石商カール 革命に奪われた究極美

更新日:

人生「細く長く」「太く短く」のどちらに魅力を感じるかは人それぞれですよね。
が、あまりにも浮き沈みが激しいと、本人も辛いですし、見ている側としてもハラハラするものです。歴史に名を残した人には、そういうことも珍しくありませんが……。
本日は、実力で我が世の春を勝ち得たにもかかわらず、上がった分以上の絶望も味わったであろう、とある商人のお話です。

1846年(日本では江戸時代・弘化三年)5月30日は、ピーター・カール・ファベルジェという宝石商が誕生した日です。

これだけだと何をした人なのかサッパリですが、「一個10億円するモノを作った人」です。
一体何をどうすれば、そんなものが作れるのでしょうか。

ピーター・カール・ファベルジェ/wikipediaより引用

【TOP画像】インペリアル・イースター・エッグ(1912年、皇后アレクサンドラへ)/wikipediaより引用

 

皇帝アレクサンドル3世に気に入られロシア宮中へ

彼は、サンクトペテルブルクの宝石商の家に生まれました。ロシア語だと「カルル・グスタヴォヴィチ・ファベルジェ」という名前になるからか、英語読みでも「カール・ファベルジェ」と書かれていることが多いようです。
この記事でも、彼のことは以下「カール」で統一しますね。

カールの父・グスタフは自分で会社を動かすよりも、貴族のような悠々自適な生活がしたかったらしく、カールが幼い頃にドイツへ移住していました。
そのため、カールも兄弟も、ドイツで育ったようです。ドイツ・イギリス・フランスで職人としての技術や審美眼、経営などを学びました。

母国ロシアに戻ったのは、26歳のときのことです。結婚もし、父の代からの優秀な職人にも恵まれて、まさに順風満帆。
弟のアガトンが非常に優秀なデザイナーで、兄弟で作った作品がロシア国内の博覧会で非常に高い評価を受けます。そのひとつがエルミタージュ美術館にある紀元前4世紀ごろの金の腕輪のレプリカでした。

これがときの皇帝アレクサンドル3世に「どちらが本物か見分けがつかないほどだ」と大絶賛され、カールたちの工房であるファベルジェ工房の作品がロシアの宮中専売となります。
ものすごく単純に言うと、「国内で一番お金を持っている人たちだけが顧客」という工房になったわけです。
この時点で儲からないわけがありませんよね。

 

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最初のインペリアル・イースター・エッグは1885年に作られた

ファベルジェ工房は従業員500人を抱える大会社となり、パリ万博(【関連記事】徳川昭武 徳川慶喜の弟はパリ万博へ行ってる間に幕府が消える波乱万丈)にも出品されてさらに顧客を獲得するなど、まさに絶頂期でした。
宝飾品の他に銀食器なども作っていたそうですが、一番有名なのは「インペリアル・イースターエッグ」というものです。

最初のインペリアル・イースターエッグは、1885年に作られました。
アレクサンドル3世が妻である皇后マリア・フョードロヴナへ、「結婚20周年記念に何かすごいプレゼントをしたい」(意訳)ということで、カールに注文を入れたのです。
皇帝の結婚記念ということで、彼は大いに気合とお金をかけたことでしょう。

そして出来上がったのは、幾重にも驚きが詰まったものでした。

艶消しをした黄金で出来た卵黄を割ると、中から色味の異なる金を数種類使い分けためんどり像が出てきて、ダイヤの小さな帝冠とルビーのペンダントが添えてあった……というものだったそうです。現存しないこともあり、文字だけだともはやスゴすぎて何がなんだかわかりませんが、皇帝にしか用意できないプレゼントである事は間違いないですね。
このプレゼントを皇后はとても気に入ったそうで。ここまでお金をかけて、気に入ってもらえなかったら皇帝涙目ですよね。内心ハラハラしたりしたんでしょうか。

 

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「何か仕掛けして、宝物を入れておく」 

20周年という大きな記念日の贈り物が成功したことで、アレクサンドル3世はカールを大層気に入ったようです。それ以降、毎年一つずつインペリアル・イースターエッグの注文が入るようになりました。

カールは自由にデザインする許可を与えられていたようで、「何か仕掛けして、宝物を入れておくこと」という点以外は、アレクサンドル3世ですら当日までどんなものが届くのか知らなかったといいます。
アレクサンドル3世は普段は倹約家だったり、若い頃には親族の男性とともにおちゃめな写真を撮ったりしているので、インペリアル・イースターエッグは皇帝のそういった性格が現れているのかもしれません。

アレクサンドル3世の死後は、息子のニコライ2世が皇后アレクサンドラと母后マリアのために注文し続けたそうです。ニコライ2世はお父さんよりもかなり真面目な印象がありますけれども、一年に一回のお楽しみという感覚だったんですかね。

冒頭で述べた「一個10億円以上のモノ」というのは、このインペリアル・イースターエッグのことです。
……そのお金を使って庶民救済なり政治のテコ入れなりしていれば、ロシア革命やロマノフ家の運命はもうちょっとマシになったんじゃないでしょうか……と思ってしまうのは、やはり後世の視点ですかね。
カールはあくまで顧客の要望に応えただけですし。

モスクワのクレムリン宮殿 (ニコライ2世皇后アレクサンドラへ、1906年)/wikipediaより引用

 

ロシア革命後に工房は国有化され……

そんなわけで「皇帝家がお得意先」という絶大な立場を得たカールでしたが、時代はいつまでもそれを許してくれませんでした。
ロシア革命の後、カールの工房は強引に国有化され、私企業としては消滅同然になってしまいました。
身の危険を感じたカールは、家族と散り散りになりながら亡命。最初はラトビアの首都・リガに行ったものの、すぐに革命の余波がラトビアにもやって来たため、今度はドイツの町を転々としました。
この間妻子はそりや徒歩でフィンランドへ向かったそうですから、取るものもとりあえず逃げたのでしょう。

運良くスイスで一族の再会が叶ったものの、革命のショックは大きく、カールは亡命から二年後にスイスで亡くなりました。
晩年は「もう生きている価値がない」とまで言っていたそうですから、会社や生活の基盤を失ったことの他に、ロマノフ家の人々への好感も大きかったのかもしれません。

皇帝一家もカールも亡くなった後、インペリアル・イースターエッグのほとんどは、その価値を知ったスターリンによってオークションに出品されたといわれています。
国の宝として残すより、外貨獲得源として認識したようです。さすが共産主義。

 

所在が判明しているのは44点

10点以上まとめて買った人もいたようですが、ほとんどは散り散りになってしまいました。所在がわかるのは44点だけで、今まで一番多く集められたのは、1989年にアメリカのサンディエゴ美術館で26点展示されたときだそうです。
まあ、全部一か所に集めたとしたら警備や保険金がえらいことになりそうですし、全てが一堂に会することはないでしょうね。57点のうち、分解されて売られてしまったものもありそうです。
国宝レベルのものが別の国に保管されているという例は珍しくはありませんから、原型をとどめていれば御の字でしょうか。

ナショナルジオグラフィックあたりで写真集でも出してくれませんかね。さすがにインペリアル・イースターエッグだけだとニッチすぎますが、ホープダイヤなどと一緒に「数奇な運命をたどった宝飾品」といったテーマであれば、いい感じの本ができそうですけれども。

そういうものが作れたら、無残な死に方をしたニコライ2世一家や、失意と疲労の中で亡くなったカールへのせめてもの供養になるのではないでしょうか。

インペリアル・イースターエッグは超ぜいたく品ではありますが、同時にアレクサンドル3世やニコライ2世が妻や母にかけた愛情の証左であり、カールの技術と誠意の結晶でもあるわけですから。

長月 七紀・記

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参考:ピーター・カール・ファベルジェ/wikipedia インペリアル・イースター・エッグ/wikipedia

 





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