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【手を洗わずに手術&出産の時代】
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1881年、チャールズ・ギトーという男の放った銃弾が、ジェームズ・ガーフィールド大統領に命中。弾丸のうち一発は腕をかすめただけですが、もう一発は背中から体内に入りました。
大統領は倒れ、不潔な床に寝かされました。そして10名の医師がやって来て、かわるがわるに大統領を診察しました。
「10名も医師が診察するなんて、さすが大統領だなあ、VIP待遇だなあ」
なんて思いたくもなりますが、この場合は逆効果。駆けつけた医師たちは、洗浄していない指を患部に突っ込んで弾丸を探し始めます。
そこへ名医と評判のブリスが到着しました。
「キミぃ、汚い指を突っ込むとはやめたまえ!」
ここで名医に期待される台詞はこれでしょうが、実際は違いました。ブリスは消毒していない管を探針として患部に突っ込み、弾丸を探し始めたのです。
「ちゃんと消毒した管を入れないと、余計悪化するのでは……」
そう指摘した医師もいたのですが、ブリスはやめませんでした。
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大統領の胸の中には3リットルの膿の海
ホワイトハウスに移送された大統領は、さらに医師たちから患部に不潔な指を突っ込まれます。
それを見た医師はこう書き残しています。
「これ以上、医師たちに傷を探ることを許可しないでください。探針は弾丸より有害です。ああ、可哀相な大統領……」
名医(とされた)ブリスよりもこうした医師の方が有能で正しい判断を下しているのですが、何故か診察は改善されませんでした。
どうして、よりにもよって大統領の患部を、よってたかって不潔な指や管でつつき回すのか。
医者だって大統領の治療に呼ばれた手前、何もしないわけにはいかなかったのでしょうが、何とかならなかったのかと思わざるを得ません。
傷は致命的ではなく、当初、絶望的とみられた大統領の容態は回復し始めます。
しかし夏の酷暑は病人には厳しいものでした。
金属探知機で弾丸を探るといった、わけのわからない治療法が患者にストレスを与えたこともあるでしょう。回復した病状は数週間後にはまた悪化しだします。
そこで医師たちは治療として、また不潔な指を患部につっこみ、弾丸を探ろうとします。
治療どころか傷はますます悪化。大統領の胸の中には不潔な指で掘り進められたトンネルが出来、3リットルもの膿が溜まっていたそうです。
9月19日、大統領は敗血症と様々な感染症の結果、死亡しました。
「医師がもっと有能であれば。いや、そもそも患者が大統領でなければ死なずに済んだだろう。一般人なら傷口を縫合して自然治癒、それで終わっていたはずだ」
大統領の死後、ある医師はこう語ったそうです。10人の医師が患部を不潔な指でつつき回した結果がこの悲劇でした。
それでも主治医のブリスは、自分は愛国的な治療を施したとして、議会に二万五千ドルという多額の治療費を請求。この請求は拒否されました。
先進的なことを言い出したために精神病院に監禁されたセンメルヴェイスに、不潔な指で大統領をつつき回したのに高額な請求書を送り付けたブリス。
いろいろと考えさせられる事例です。とりあえず私は手を綺麗に洗おう、と改めて思うのでした。
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小檜山青・記
【参考文献】
『「最悪」の医療の歴史』(→amazon)