イギリス

『クイーン・メアリー 愛と欲望の王宮』日本の少女漫画ワールド作品化が凄い!

【編集部より】

当記事は9/28よりNHKBSプレミアムで放映されます海外歴史ドラマ『クイーン・メアリー 愛と欲望の王宮』のレビュー記事となります。

時代背景が少々複雑でありまして、先に以下の記事をご覧頂いてから、当レビューをお読みいただければ幸いです。

 

『クイーン・メアリー 愛と欲望の王宮』波乱と悲劇、恋に生きた女王 「ハイランドクイーン」の伝説が甦る!?

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【以下、本文へ】

NHKの公式サイトを見て、『なんじゃこりゃ!』とのけぞった方はおられると思います(TOP画像・NHK公式サイトより)。

本作は、既にワーナーよりソフト化されています。

日本版公式サイトのキャッチコピーを確認してみますと。

ゴージャス!
もっとスタイリッシュ!な王室の“ゴシップガール”

頭の中に疑問符を浮かべつつ、本作のコンセプトをおさらいしますと……。

日本の少女漫画からインスピレーションを得た、大幅脚色をしたメアリー・ステュアートのドラマ」
だそうです。ここでさらに疑問がよぎると思います。

「メアリーが劇的な生涯を送り、物語のヒロインになることが多いという。だけどこんな、夫に二度も先立たれ、幽閉斬首された悲劇の女王を、どうやってキラキラ少女漫画コメディにするの?」

はい。それは皆さん突っ込むところですよね。
とりあえず本作は、メアリーの人生でも最もキラキラしたフランス宮廷時代から始まります。ちなみにメアリー生涯の宿敵にして、煽り続けた相手であるエリザベスは、悪の戦隊もの幹部風メイクと衣装で、シーズン2から登場します。

それでは早速、本作そのものの紹介です!

 


王子二人がイケメンなんて困っちゃう~!!

シーズン1のメインは、イケメン王子フランソワとその異母兄バッシュの間で揺れ動くメアリーの心が見物です。
フランソワは実在しますし、メアリーの夫になるのでよいでしょう。史実の彼はマザコンで病弱、ドラマは補正が入っているのはさておき……。

問題は異母兄バッシュ。誰だおまえは。

フランス国王アンリ2世と愛人である母ディアーヌ・ド・ポワチエの間に生まれた息子で、フランソワの異母兄。

ディアーヌはアンリ2世との間に子どもはおらず、夫との間にも娘2人しかおらず、また愛人の子である庶子が宮廷に出入りして弟の婚約者と親しくするなんてありえないだろ!
と、全力で突っ込んでおいて気づきます。
もしこれが少女漫画なら、誰も突っ込まないのでは? はっ! これが少女漫画テイストか!

 


 ガールズドラマならオシャレテクが見たいよね!

女心をくすぐるのはオシャレな衣装! というわけで。
本作のビジュアルを見ると気づくのは、衣装や髪型が変、ということです。あれ……時代考証は? そんなものはない(たぶん)。

いかにもヘアスプレーを使っていますと言わんばかりにセットされたロングヘア、オーバーテクノロジーとしか言いようのない素材のドレス。16世紀フランスではなくて21世紀アメリカとしか思えない衣装がてんこもりです。

それもそのはず、アレクサンダーマックイーン、ドルチェ&ガッバーナ、シャネル、アナスイ、ヴェラ・ウォン等など、女子に大人気デザイナーのドレスが見所だそうです。もう何がなんだかわかんねーよ!

時代物の衣装やメイクにも制作年代が反映されることはありますし、多少のアレンジもいいでしょう。でもこれはそんなレベルを超越している! そしてだからこそ今時のオシャレ女子も参考にできる!!

しかし本作は、メインの登場人物以外は一応時代考証にのっとった衣装なんですね。統一感がありません。考証無視のユニークな衣装でも、全員統一感があればまだましなのですが、違和感があって仕方有りませんでした。

しかし、ふと考えました。
これってマンガやゲームではよくあることでは? メインキャラクターは考証無視のアレンジ衣装、モブは時代にそった衣装というのはありなんですよね。
そう考えるとこれはこれでアリでは、と思えてきたから不思議です。

 

おっさんとかいらないよね~ 中年男女はいりません

本作ではカトリーヌのあとを、ちょっと情け無いイケメンがうろうろしています。

誰だこいつ?と思っていると、なんとノストラダムスではありませんか!
これがどう見ても30前後なのですね。当時60前後だったはずで、史実とは親子ほどの差があるわけです。それにどうしても不吉な預言者というイメージがありますから、長い髭のあやしいおじいさんと思い込んでおりました。それがこんな若造だなんてびっくりだよ!

もう一人若過ぎると言えば、ディアーヌです。

アンリ2世の愛妾である彼女は、実は王より20歳年上。となれば本作では60過ぎ、メアリーにとっては祖母のような年頃のはずです。ところが彼女もどう見たところで30前後……史実でも信じられないほど若い外見だったそうですが、美魔女とかそういうレベルではありません。

このように、史実では老人の部類に入る人物をやたらと若くするのが本作。メインキャラクターで中年以上であるのは、せいぜいアンリ2世とカトリーヌくらいです。

しかし、これでよいのではないでしょうか。

本作のターゲット層は、史実より華やかな見た目が好きなはずです。おっさんおばさんなんていらないよね~、なのですよ! イケメンドラマならこのくらいしないと!

ところでふと思ったんですが、本作が好きなティーンって、「1999年7の月に人類は滅亡する」というノストラダムスの大予言なんて、きっとはるか昔のことで知らないんじゃないかと思うんですよね……自分の老いを感じちまうよ……このドラマにお呼びじゃねえな。

 


壁ドンにドキドキしちゃう! だって女の子だもん

昨年の大河では壁ドンならぬ河原ドンが唐突に出てきて失笑を買っておりました。

一方で本作は。壁ドン、柱ドン、床ドン、とりあえず平面であればとりあえずドンするとのこと。ドンのデフレにならないか心配になってきますね。

さらに舞踏会もスゴイ。ボーカル入りポップミュージックが流れ、羽根が天井から降ってきます。ミュージックビデオかよ! 一体どこの誰が天井から羽根を撒いているんだっ!!
そんな舞踏会では、女王に対してため口を叩く侍女が「彼、結構イケメンじゃない?」なんてことをささやくわけです。なんだこれは、
アメリカの学園ドラマか!? そうか、プロムか、プロムなんだな!

本作の三段論法はこんな感じです。
女王なら舞踏会いっぱい!

舞踏会って今で言うところのプロム!?

メアリーはプロムばっかりの楽しい生活

……うん、まぁ、日本の少女漫画とアメリカの学園ドラマのハイブリッド(ちょっぴり歴史入り)みたいな内容ですね。メアリーはじめ友達みたいな侍女たちが、みんな気のいい子たちで楽しそうなところも、そんな感じです。

さらにティーンの乙女心を刺激するのは、ちょっと過激な性描写。過激といっても『ROME(ローマ)』や『ゲーム・オブ・スローンズ』といった、HBOの18禁変態性欲裸祭りとは違います。
たいして脱がないし、モロに行為を見せ付けたりしません。あくまで乙女心に響く程度の過激さなんですね。羞じらいがあると。

しかもメアリーは「結婚前にバージンを失ったら国の未来に響く!」設定なので、ドンからそのまま一線は越えないため、ドキドキしても安心感はあるのです。ベールの向こうにある大人の世界をチラ見せする、たまらないさじ加減ですね。

 

女王の恋は命がけ……どんな危険が待っているの!?

現代的と言っても、やはり16世紀の女王様がヒロインですからね。行動制限がゆるくともないわけではありません。前述の通り「結婚するまではバージンよ!」という己の貞操に国家がかかっている点もそうです。

それにメアリーを狙う黒い魔手もあるわけ。メアリーをなぜか守る謎の存在もいます。学園ものではないハラハラドキドキサスペンスもあるんですよ。イングランドが戦隊ものの悪組織みたいでちょっとどうかと思いますが、こうした危険のおかげで「ドン!」も増えます。

悪い人「メアリーめ、覚悟!」
メアリー「きゃあああっ!」
イケメン「あぶないっ! くっ……」ドン!
メアリー「ありがとうバッシュ、私をかばってくれて。はっこれは血!?」
イケメン「かすり傷だ。気にすんな」
きゅんっ……
こんなかんじですね。これなら「ドン」も自然です。甘い恋のスパイスとして、刺激的な史実要素も入っています。たまりませんね。

シーズン1はまだフランス宮廷の話しですが、メアリーは今後母国スコットランドに戻ります。となると、DV夫との結婚と爆殺、自作自演疑惑の誘拐事件と三度目の結婚と波乱の展開になります。アメリカンドラマと日本の少女漫画ノリでどうこなすのか。なかなか気になるところではあります。そこからがむしろ正念場でしょう。

 

こう書いていてしみじみ思いましたね。こりゃとんでもないドラマだな、と。
本作のレビューを書いていて、改めて感じたことがいくつかあります。歴史劇と少女漫画的表現というのは実は相性がよいのではないか、ということです。

考えてみれば「歴女」なんて概念が存在しないころから、歴史好きの女性は大勢いました。

『ベルサイユのばら』の大ヒットはもう随分昔の話ですもんね。それを原作としてブームとなったのは、やはり女性に人気の宝塚歌劇の演劇です。宝塚は歴史ものの演目が多く、しかも舞台は古代から近代まで、洋の東西を問わず扱っています。古代エジプトからアル・カポネまで、幅広く歴史ものを味わう目線が宝塚の観客にはあるわけです。

男性が好きな歴史というと、ある程度時代や国が偏る気がしますが、女性はこの傾向が低いのではないか、という気もします。あまり女性独特のと言うのもどうかとは思いますが、遠いスコットランド女王のラブストーリーでもすんなりと受容できるのは、そうした観客の資質もあるのかもしれません。

また歴史劇と恋愛ものの相性も、悪くない。

現代劇で処女性を死守するヒロインはちょっと変人扱いされるかもしれませんし、結婚に国がかかっているということもありえないわけです。現代ならありえないほど高いハードルを超えて盛り上がるからこそ、見ている側は感動する……要するにマリー・アントワネットとフェルゼンですよね。
そう考えてゆくと、少女漫画的世界観をドラマにしようと思いついた本作のスタッフは目の付け所が冴えていると言えます。

そしていろいろと文句をつけましたが、本作は実のところ、極めてクオリティが高いのです。

ただし、そのターゲットに入らない視聴者にとっては厳しい作品と言えます。ピンポイントで若年女子を狙っているためそうでない人には受け入れがたい作品でしょうが、特定の層だけ狙うのであれば、有効な戦略です。
過去、日本の大河ドラマは露骨なキラキラ女子路線を狙い、失敗しました。『江 姫たちの戦国』、『花燃ゆ』です。そして2018年の『西郷どん』も、女性の視点を意識しています。

こうした作品はなぜヒットしなかったのでしょうか。

それは作り手の本気度の問題でしょう。

「女向けならイケメン出せばいいでしょ」「スイーツっぽくすればいいでしょ」と手抜きをしていては、視聴者にも伝わります。それに比べて本作は、「何がティーンエイジャー女子に受けるか真剣にリサーチして作った」ということです。本気でリサーチすれば、「おにぎりを握っているヒロインが女性にウケる」なんてマヌケな結論は出てこない。

『クイーン・メアリー』は一見とても軽薄です。でもその軽薄さの原因になるドン!とか、ゴージャスなドレスとか、舞い降りる羽根とか、実は計算されつくされているんですね。本気のリサーチ力を感じます。

それ以上に大事なのは「どうせ女子供向けなんだからくだらなくていい」という傲慢さがまったくない点です。例えば『花燃ゆ』は若い女性向けといいながら、そのメインターゲットが失笑するような宣伝をしてきました。ポスターを見ただけで見る気が失せた、ダサすぎ、という辛辣な若い女性の意見がありました。軽い気持ちで若い女性向けを考えてはならないんですよね。おっさんの考えた若い女性向けほどダサく、彼女らをあきれさせるものはないのですから。無知な若い女相手ならイケメン壁ドンを出せばいいやと見下していると、見下された側はそれを敏感に感じるでしょう。

「大河を女性向けにしたから失敗した」は、確かにその通りです。

時代劇枠が多く様々なターゲットに作れるのであれば、そういうドラマがあってもよいとは思います。しかし、大河枠ではそんな狭いターゲット向けに作るのは失敗のもと。素直に「老若男女広く支持される良作」にした方がよい結果が出来ます。

そしてこの「女性向けだから駄目」という結論には、ターゲット設定だけではない失敗の本質があります。

「女性向け=手抜きしていい、史実を中途半端に入れてもいい、ごまかしがきく」と舐めてかかるという部分があるのです。なめきった態度で作ったら、駄作になるのも無理はないでしょう。

本作は作品そのものとしても興味深いですし、ターゲットを絞った歴史ドラマの作り方としてもおもしろいと思います。かなり特殊な人を選ぶドラマではありますが、おすすめできるともできないとも言い切れない、不思議な作品です。

あったようで、実はあまりなかった「本気で作った女性向け歴史ドラマ」として、この秋ご覧になってみてはいかがでしょうか。

※BSプレミアム 9月28日(水)放送スタート 毎週水曜 午後11時15分


 



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