豊洲市場の移転問題や、東京五輪のドタバタはさておき、2016年に小池百合子氏が、初の女性都知事となりました。
となると気になるのは「女性首相の誕生」ではないでしょうか。
イギリスやドイツ、ニュージーランドなど、諸外国を見てみれば女性の首長は何ら珍しくなくなっています。
それは今に始まったことではなく、やはり一定の歴史が積み上がってきたからこそ誕生できた気がします。
1916年(大正五年)11月7日は、ジャネット・ランキンという人が女性初のアメリカ下院議員に選出された日です。
日本では、納税額による制限選挙を行っていた頃で、投票権があったのは男性だけ。
また、アメリカでも女性に参政権が認められていたのは一部の州だけ、という時代でした。
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モンタナ州から出馬して第一次世界大戦への不参加を訴える
ジャネットは、徹底した平和主義者でした。
ときは第一次世界大戦中。
まだアメリカは参戦していませんでしたが、教科書でもおなじみのルシタニア号事件(英国客船をドイツ潜水艦が攻撃→沈没させて死者約1,200名)によって、急激にドイツへの感情が悪化していた頃です。
彼女は地元のアメリカ中北部の州・モンタナ州から出馬し、当選。
賛同する55名の議員とともに、第一次世界大戦への不参加を訴えました。
その後、ツィンメルマン電報事件というもの一件によって、結局アメリカは参戦してしまうのですが。
これは簡単にいう「ドイツがメキシコに対して“同盟して一緒にアメリカを叩こうぜ”という話をもちかけた電報が、イギリス海軍の諜報部に盗み聞きされた」事件でした。
アメリカとメキシコの間も相当な因縁がありますので、ジャネットらがいかに反戦を訴えても、参戦の流れは止められませんでした。
そうした国際状況も影響してか。
1918年には一度落選し、20年もの間、個人的に平和主義活動を続けています。
彼女の考えがお飾りや一時的なものではなく、きちんと筋の通ったものだったことがわかりますね。
二度の大戦で終始一貫、参戦を否定したのは彼女だけ
そして、第二次世界大戦が始まった後、1940年、再び反戦を掲げて当選。
二度の世界大戦について、両方ともアメリカの不参加を訴えて当選・活動した議員はジャネットただ一人だといいます。
20年間の下野期間における活動を、投票者たちが知っていて、信頼されたんでしょうね。
真珠湾攻撃の後も唯一人、参戦ならびに日本への宣戦布告に反対していました。
その一方で、ヨーロッパ戦線については明言しなかったそうですが……これは彼女なりの落とし所だったんでしょうか。
アメリカの場合、イギリスの要請で動くことも多いですし、他国の意向や関係までは、一議員にすぎないジャネットは踏み込めないでしょうから。
その諦めからなのか。
次の選挙には出馬せず、亡くなるまで個人での平和活動を続けています。
マハトマ・ガンディーらと会談したり、ベトナム戦争反対のために5000人もの女性とともに、ホワイトハウスへのデモを行ったり。
世界的有名人ではないながら、アメリカ合衆国議会議事堂にある国立彫像ホール・コレクションには、ジャネットの銅像も加えられています。
君主以外で初の国家首長はトゥヴァ共和国で誕生
政界は、女性の社会進出が難しい世界の一つではあります。
それでも20世紀中には、多くの国で男女普通選挙が採用されるようになり、女性政治家も増えていきました。
1940年代以降は、女性の国家首長も登場しています。
調べた限りでは、君主以外で初めて国のトップに立った女性は、トゥヴァ人民共和国(現在はトゥヴァ共和国・ロシア連邦に加盟)のヘルテック・アンチマ=トカという人のようです。
この国はロシア(ソ連)の元で難しい立ち位置にありましたが、彼女は1973年まで首長として舵取りをし、文化・福祉・教育なども推し進めています。
亡くなったのも2008年で96歳のときだそうですから、いろいろな意味でエネルギッシュな人だったんでしょうね。
近年の女性首長で有名な人だと、元アイスランド首相のヨハンナ・シグルザルドッティル氏でしょうか。
2008年の世界的金融危機や、2010年のエイヤフィヤトラヨークトル噴火など、デカい人災・天災の時期に首相を務めていた人です。
彼女はその中で「世界で初めて同性のパートナーと結婚した首相」としても有名になりました。
アイスランドには元々同性カップルに対し、異性のカップルが結婚したときと同様の権利を認める法律があったため、これをさらに一歩進めた形になります。
その翌月、アイスランドでは同性結婚が合法化されました。
国内の同性カップルの中には、励まされた人も多かったでしょうね。
政治はやっぱり一票で動く 日本でも契機になれば
何でもかんでも「海外の基準に合わせろ」というのは、確かにうなずけません。
ただ、日本でも女性の首相が出てきたら、それはそれでうまくいくこともあるのではないかと思います。
少子化対策については特に、我が身のこととして実感が持てる部分も多いでしょうし、現実的な政策が出てくることを期待したいですね。
今の政治家世代の男性は、おそらくほとんどの人が「子育ては女性がやるもの」という価値観で生きてきていますから、有効な政策が思いつかない・採用されないのも仕方ないかもしれません。
とはいえ、今のところ女性議員の中で候補になれそうな人は……。
庶民の感覚で言うと「誰が首相をやったところで、ほとんど変わらない」と思っている人のほうが多そうです。
が、なんだかんだ言って政治は一人一人の一票で動くもの。
国を代表する首相に女性が就任すれば、日本でもみんなの意識に変化が出て、よりよい暮らしに根付いた政策が導入されるのではないでしょうか。
綺麗事かもしれませんが、その綺麗事が大切なのも、また政治のあり方な気がしてなりません。
長月 七紀・記
【参考】
ジャネット・ランキン/wikipedia
女性参政権/wikipedia
Khertek_Anchimaa-Toka/wikipedia
ヨハンナ・シグルザルドッティル/wikipedia