誰もが一度は理想を抱き、現実とのギャップに苛まされたりしますよね。
そこでほとんどの人が現実と折り合わせて生きていきますが、中には「究極の理想」を追い求めるタイプの人もおります。
本日はそんな理想主義の究極型ともいえそうな、とある“モノ”のお話です。
1838年(日本では江戸時代・天保九年)11月8日は、オーギュスト・ヴィリエ・ド・リラダンという作家が誕生した日です。
この人自体は「没落貴族(自業自得)」の一言で済んでしまうような人なのですが、彼の作品は世の中の一部の人を大きく惹きつけました。
彼の遺作である「未来のイヴ」という作品は、
【人造人間=アンドロイド】
という言葉のもとになった小説なのです。
めっちゃ好みの顔なんだけど性格が最悪
未来のイヴのあらすじは、割と一言で片付きます。
ネタバレしないように出だしだけ概要を書きますと、
「めっちゃ好みの顔の女性と付き合えることになったんだけど、性格がサイテーすぎて自殺したいくらいだよ! 何とかしてドラえもん!!」
みたいな感じです。
しかもドラえもん役のモデルは、あのトーマス・エジソン。
この小説が世に出たのはエジソン存命中なんですが、いったい本人はどう感じたんでしょうね。
それはともかく、作中のエ”ディ”ソン博士は青年の頼みを聞いて、件の女性にそっくりな人造人間を作り、主人公の溜飲を下げることに成功したのです。
この先は書籍でご覧くださいね。
出版社によっては旧字体だらけ&女性蔑視がひどい訳で読みにくいので、通販よりも実際に見て選ぶのが良いでしょう。
ちなみに「人造人間」もしくは「モノに心が宿る」という発想は、リラダンよりもずっと前からありました。
おそらく最古のものだと、ギリシア神話にそれっぽい話があります。
あるとき、王様がとても精巧な女性の彫刻を作らせました。
名前はピュグマリオン。
その出来があまりにも良かったので、毎日毎日眺めているうちに、彼はその彫刻に恋をしてしまいました……この時点でヤバいとか言わない言わない。
そしていわゆる恋煩いになってしまった王様。
美の女神アフロディテが哀れみ、彫刻に命を与えました。
そしてピュグマリオンは元彫像の女性を妻にした、という話です。
その後どうなったのか。
神話の中では語られていません。
なんでしょうか、このモヤモヤ感。
西行は死人の骨で作ろうとして失敗
実は、日本にもいくつか似たような話があります。
意外(?)にも、あの西行が
「死人の骨を集めて術を施し、人間を作ろうとした」
という伝説があるほどです。
できたものが
「血相が悪く、声も細く、魂が入っていないバケモノ」
だったそうなので、まあ失敗したということなのでしょう。
ともかくその後、高野山の奥に捨てたのはいただけません。空海も奥の院から飛び出してくるレベルですわ。
高野山にこの事に関する記録はあるんでしょうか。
ずっと時代を下りまして、20世紀初頭には日本人が「學天則(がくてんそく)」というアンドロイドに近いものを作ったこともありました。
江戸時代にはからくり人形が作られていましたし、その延長みたいな感じでしょうか。
昭和天皇の即位記念として催された博覧会に出品されていて、写真も残っています。
教壇に座ったような感じの台座とくっついていて、表情を動かすこともできたとか。
昭和天皇のコメントが気になりますね。記録されているかどうか怪しいですが、南方熊楠のキャラメル箱への感想が残っているくらいですから、どこかにありそうな気もします。
學天則の現物はドイツに渡った後、行方不明になってしまい、2008年から大阪市立科学館に復刻版が展示されています。
市立の施設に置いてあるところがスゴイですね。
理想の異性が作られ、人工授精も発達したら「愛」の概念は?
ヨーロッパにも、ありました。
18世紀ぐらいから音楽に合わせて動く「オートマタ」という人形です。
観賞用という目的だからなのか。
あまり人間に近づけるという発想はなかったようです。
一応、手紙を書くとかコーヒーを淹れるしぐさをするようなものはあります。
ただ、同じ動きを繰り返すので結構不気味。
ちなみに、アンドロイドとサイボーグは「全身が機械かどうか」という違いだそうで。人造人間と改造人間といえばわかりやすいでしょうか。もうちょっと厳密にいうと、アンドロイドは男性体のことで、女性体の場合はガイノイドというんだとか。まとめてアンドロイドと呼んでいるほうが多いような気がしますが。
もし将来、アンドロイドによって「理想の異性」が作れるようになり、さらに人工授精の技術が発達して体外でも胎児を育てることが可能になったら、繁殖と恋愛が完全に切り離されるようになるのかもしれません。
その場合、いずれ「愛」という概念がなくなりそうな気もしますが……まあ、実現するかどうかわからないことを心配するのは鬼が笑いそうな話ですかね。
長月 七紀・記
【参考】
オーギュスト・ヴィリエ・ド・リラダン/Wikipedia
人造人間/Wikipedia
未来のイヴ/Wikipedia
ピュグマリオーン/Wikipedia