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【タイプライターの歴史】
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実際に商業生産されたものは、なんとも奇妙なカタチで……
一方、初めて商業生産されたタイプライターは、全く違う形をしていました。
1865年にデンマークのラスムス・マリング=ハンセンという人が作った「ハンセン・ライティングボール」です。
その名の通りボール状の本体の表面にキーが配置されています。
トラックボールの表面にキーがある、と表現したほうがわかりやすいでしょうか。
裏側に紙を配置して印字するそうですが、この時代のことなのでさすがに動作時の動画はないようです。
探しきれてないだけだったらスミマセン。
出来上がった文書を見ると、他のタイプライターで作ったものとほとんど変わらないみたいですね。
ハンセン・ライティングボールは1873年のウィーン万博と、1878年のパリ万博、その他の博覧会に出品され、いくつかの賞を獲得したとされています。
この二つの万博には日本も参加していますし、特にウィーン万博のほうは岩倉使節団が見学していますから、もしかしたらハンセン・ライティングボールを見たかもしれません。
文字の種類が多い日本語はカンタンではなく
こうして「タイプライターは手書きよりもはるかに早く文書を作成できる」ことが知られ、評価されるようになっていきます。
大々的な生産が始まったのは、当時ミシン製造の会社だったE・レミントン・アンド・サンズが製造を請け負うようになってから。
しかし、同社のタイプライターは使用者から印字面を見ることができませんでした。
おそらく、当時はときどき文章が合っているかどうかを確認しなければならなかったのでしょうね。
このタイプは20世紀前半まで作られていたようですが、やはり利便性から印字面が見えるタイプのほうが人気になり、取って代わられます。
かように欧米で広まったタイプライター。
「西洋に追いつけ追い越せ」だった当時の日本が興味を持たないわけがありません。
ただし、導入には巨大な問題が立ちはだかりますした。
日本語では文字の種類も数も膨大すぎたことです。
ひらがなだけのタイプライターならすぐに作れたかもしれませんが、それではただ読みづらい文書ができるだけで、実用性が皆無。
いちぎょうにぎょうならともかく、もしもひらがなだけのぶんしょうをえーよんいちまいよまされるとしたら、ほとんどのひとはいらいらするでしょう。
……私は一行打つだけでも(#^ω^)します。F6キー万歳。
しかし、漢字一文字につきキーを一つ用意するとしたら、これまた実用性に書けるものになってしまいます。
そこで、実用性と利便性を兼ね備えたタイプライターを作ろうとしたのが杉本京太です。
ワープロの登場で一気に消滅
杉本は大阪活版印刷研究所の主任を務めており、設計や製図もできる人でした。
タイプライターとの出会いについては不明ながら、
「新しいもの」
+
「そのままでは日本で実用化が難しい」
=
「実用的なものを作れれば第一人者になれる!」
という状況ですから、杉本の技術者魂に火がつくには充分だったでしょう。
杉本は明治四十五年(1912年)、研究所の移転に伴い東京にやってきて、その二年後には邦文タイプライター製作のため独立するのでした。
まずは、日本語から使用頻度の高い文字を2,400字を抽出。
なんとなく常用漢字と同じくらいの数のように思えますが、日本語は漢字だけでは書けませんから、ひらがなやカタカナも入っています。
これらの文字をまず活字にして箱の中に配置しておき、キーを検索装置として使うことによって、邦文タイプライターの実現を可能にしたのです。
欧米のタイプライターが「ハンコを並べて直接押すもの」ならば、邦文タイプライターは「ハンコを検索してから押すもの」という感じでしょうか。
一手間多いんですね。
2400字もの文字配列を覚えて使うのは、相当に大変なことだったでしょう。
杉本が発明してから10年も経たないうちに、邦文タイプライターは官公庁や一般企業・教育機関で使われるようになっていったといいます。
ただし、持ち運びの不便さや動作音、そして何より「間違えた文字を訂正できない」などの欠点はありました。
そのため1980年代にワープロが低価格化されるようになってから、邦文タイプライターは一気に姿を消します。
変換システムによってより多くの文字を入力可能になったこと。
打ち間違えた際の修正が容易であることがワープロ最大の利点でした。
逆に、タイプライターで用が足りる欧米圏では、ワープロはあまり普及せず、直接コンピュータに移行するケースが多かったそうです。そりゃそうだ。
コンピュータにもタイプライターの名残がありますね。
キーボードの配列って少しずつずれていますが、パソコンに触り始めた頃、「文字部分がずれているのってヘンだな」と思いませんでしたか?10キーやファンクション(F)キーは直線配列なのに。
実はこれ、タイプライターのキー配列がずれていたからなんだそうです。
文字配列を含め、その理由は定かではないものの、人間の使いやすい形状はそうそう変わらない……ということでしょう。
最近は腱鞘炎になりにくいとされるキーボードで、かなり独特なキー配置のものも増えてきましたから、今後変わるかもしれませんけれどね。
長月 七紀・記
【参考】
杉本京太/Wikipedia
和文タイプライター/Wikipedia
タイプライター/Wikipedia
ワードプロセッサ/Wikipedia