「俺と同じ名字を名乗ってくれ」
このセリフから、どんなシチュエーションを想像されます?
おそらく多くの方が
【男性が女性に対してプロポーズするところ】
とお答えになられるでしょう。
しかし、この台詞が全く違う意味を持っていた時代がかつてありました。
人権史上の暗黒時代【奴隷制】がごく当然とされていた頃のことです。
彼らの名字は本人の素性を明らかにするものではなく、
【持ち主が誰か?】
を示すためのものでした。
あまりに理不尽で怒りを覚えたくなるような状況ですよね。
実際、こうした状況が積もりに積もってあるとき爆発します。
1831年(日本では文政十三年)8月21日、米国で、黒人奴隷の一人であるナット・ターナーが反乱を起こしました。
実はこの「ターナー」も持ち主の名字ですからやってられない。
「神が白人に対し蜂起せよと言っている!」
ナットは奴隷達の中でも優れた頭脳を持っておりました。
読み書きを学ぶ機会を得て、やがて聖書を読みこなして仲間達へ説教をするようになります。
奴隷の身分で文字を学ぶチャンスがあった状況は不明ながら、彼が暮らしていたバージニア州では白人よりも黒人が多く住んでいたので、他のエリアより少しは理解が進んでいたのかもしれません。
エセルレッド・T・ブラントリーという白人相手に口論をし、説き伏せたこともあるそうですから、ホントに頭の良い人だったのでしょう。
そこまでは良かったのですが、ナットはその後
「神の啓示」
を受けたとして少しずつアヤシイ方向に進み始めてしまいます。
そして1831年に度々起きた日食を
「神が白人に対し蜂起せよと言っている!」
と解釈し、仲間と共に反乱を起こしたのでした。
神の啓示を受けて立ち上がる
それまでの経緯が経緯ですから、黒人たちがまとまって白人に対抗しようとするのは至極当然ではあります。
しかし、まとまった後にやったことが非常にマズイ。
政治家に訴えるとか権利を主張してデモをしたとかではなくて、いきなり手当たり次第に白人をブッコロし始めてしまったのです。
老若男女誰彼構わずコロしまくるその様は、被害者と加害者が入れ替わっただけ。
とても「神の啓示」でやっていいことではありません。
まぁ、その神様も聖書の中で人間コロしまくってますけどゲフンゴホン。
そしてこれまた当然のことながら、この反乱は鎮圧されます。
ナットは二ヶ月ほど逃亡し続けましたが、あえねく捕まり絞首刑になってしまいました。
遺体も散々な目に遭っており、R18Gレベルなので描写は割愛します。
さらにこの余波を受けて無関係の黒人が暴行の上に殺害されてしまい、ナットの願った同胞の解放は、南北戦争で北軍が勝つまで待たれることになりました。
それでも彼は
「黒人奴隷制に対抗した英雄」
として今も黒人系の人々から尊敬されているそうです。
長月七紀・記
「黒人奴隷少女は恐怖と淫らさの中で育つ」ハリエット 地獄の体験記はノンフィクション
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【参考】
ナット・ターナー/wikipedia